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青歴二年
蒼藍王国立青玉大門中央高等学校二年L組
「転校生?進級早々?」「そう。ラブナスからだって。」
「え、何でまたそんな地方から?」
「さあ?」
涼子と混神が話し合う。
「ヤッホーこんちー!」
がたた!
「い?」「何で?」「はあっ?」「あらら!」
いつもの四人が、椅子から落ちる。
「こんちーって、僕が混神って言いにくいから付けたあだ名だよね?」
「まね!最近はヤミの方がポピュラーだから忘れてた」
「何で転校生が知ってるの?」
「…よくよく見たらあれラブナスのトンチンカンな皇女様だ。」
「トンチンカン?何で。」
「人のことよく調べもせずに、結婚挑んできたから。」
「あ~。」
「…話変わるけど、のっかる時なんか穿いててくれ。」
「いーや。」
「羞恥心ちゅうもんがあんさんには無いのか。」
「無いかもね。混神の側だと。」
転校生をほっぽいて大騒ぎする遥夢達。
―サーバー室
「まさか昔のあだ名で呼ばれるなんてさすがに予想してなかったんじゃないの?」
涼子が混神に訊く。
「確かに昔のあだ名は予想外だな。だけんまだウチば追っかけとうのば嫌と!」
「混神、博多弁もどきはやめて下さい。どうせやるなら完璧にして下さい。」
混神の言葉に抗議する遥夢。
「…そだね、またリグゥに教わんないと!」
リグゥは璃茶のハンドルネームであることは、以前お伝えした。
そして遥夢達は彼女の本名は知っているがあえてハンドルネームで呼んでいた。
「…しかしお土産に蜂蜜練り込んだ生地のあんパンはきついや。」
「あ~。お前の苦手な物しか入ってないからな。」
混神はあんこ、蜂蜜の他に何故かイナゴの佃煮が嫌いだった。混神の実家でイナゴの佃煮がおかずにでてきたとき、誰がなんと言おうと絶対に手を付けな かった。(遥夢はおかれた瞬間後ず去り)
「…リン、ラブナスの名産何だ?」
「ねえねえ。私のお土産美味しかった?」
いきなり転校生が入ってきた。
「蜂蜜アレルギーなんだよ!(嘘)殺す気か馬鹿野郎。」
「申し訳御座いませんが、ここには国高官と生徒会役員を兼任する生徒のみ入室可能でして、いかに転校生と言えど、未許可の入室は禁止させていただい ておりまして。ご退室を。」
それでは次回に続く
「それで、理由になると思ってるの?」
「実際のことを述べた訳でありまして。ドアにも注意書きがあるはずです。」
「問題に答えられたら入ってもよろしいですよ。」
「主上!」
遥夢の提案にリンが抗議の声を上げる。
「答えられなければリンに追い出して頂きます。」
その言葉に混神の頭の上のしかかっていた、涼子が賛同する。混神は机の上に突っ伏して寝ている。
…ところでよく考えると実はまだ三時限目の途中なのだ。だが以前書いたように、彼らは一週間に1日(水曜日)しか授業を受けない。既にそれだけの力 を持っているという事なのだ。
この高校では幾らノートを採ろうといくらまじめに授業を受けようと成績にはあんまり影響しない。テストの点数が良ければ良い訳だ。だがテストが無い 場合は積極性が評価の対象となる。
「あれは無理だよ。」
答えられたら叩き出すつもりだったという遥夢の言葉に驚く詩織。
「遥夢、助っ人お願いできる?」
「先輩、今、対ラルト外交対策を議論している最中なので、茶道部の話はまた後で。」
「一応地官長何だけど。」
地官長は国交総省などを統括する七官の一つで内務省に例えられる地官庁の長である。
「それは、重々承知しています。ですが国際的問題となるため、まもなく来る北官長と、空官長、国王、相補、長相の五人で協議する事に。」
北官長は外務省、時空管制省などの外交関係の官庁を統括する北官庁を、空官長はアメリカのCIAに相当する、国家情報管理院を統括する空官庁をそれ ぞれ統括する。
「それは判ったけど、何でリンが居るの?」
「だいたい動いて貰うのは、リンたちコイルシスターズですからね。」
「綾女しゃん茶道部の助っ人なら、クコ貸し出しますが。」
クコがいつも和服を着ているため茶道の雰囲気にぴったりと考えた混神の単なるお節介…の筈なのだが。
「本当に?じゃあ今週の土曜に、西部庭園に連れてきて。」
「今案内しちゃって下さい。」
混神の言葉に固まる綾女。
「クコ。」
その言葉に反応するかのように彼の影が蠢き出す。
「とりあえず話は聞いてたからわかるよな。それからアンとリン、当日付いていけ!」
その言葉にクコ、アン、リンが肯いた。
星間八犬伝はしばらく休止。現在六犬士
次回はサイバーネット
『昨年の法改正により、千年に一度の開催が義務づけられた、S.F.T.W Sファイト・トーナメント・ウィザードが本日より開催となります。これによって、今年度一年間の授業が免除され一年間お祭り騒ぎ。
今回特別ルールとして、試合場所を、サイバーネット内部限定とし、もしプラグアウトなどの手段を講じてサイバーネットから離脱した場合棄権と見な し、残留側の不戦勝としま~す。
尚優勝者には政府から50万サフィル、各教科担当から、最高評価を与えられます…何となく今年の優勝者がわかったように感じるのは、私だけでしょう か。
何はともあれ、今年の実況も昨年同様、実況命の2-I磯山玉城がお送りいたします。』
またスゴいことになっているが、みなさん御存知青大央名物、文化祭より有名なお祭り本物の屋台まで出てくる始末でもう知名度は100間違いなしのS ファイトトーナメント。その拡大版で、一年間授業もなくただ戦うだけ。ただし行事はしっかりやるという。
『という訳で第一試合は昨年の覇者、現生徒会長、2-Bハルナ・リールシェル・ランゲルハンス対1-K綾小路菫です。
両者定位置につきました。…今試合開始だ~。
お~っとさすがはサイバーネット、試合場所は、だだっ広い空間かと思っていたらとんでもない。瞬間的に幻想的な世界と相成りました~。先に仕掛けた のは、菫です。』
結局その後目測を誤った菫が地面に激突し、遥夢が背負って出てきたのだった。
次回は修学旅行
藍蒼に梅雨はない。なぜか遥夢の好きなときに雨が降る。赤道直下のはずなのに雪まで降る。
は置いといて、青大央の修学旅行は二年の早い時期に一回、三年の夏に一回ある。今回はその修学旅行を…。
「それにしてもさふつうに神総集合は無いよね。」
涼子がボヤく。学校から自宅まで約半日かかるため、混神の家に下宿(同棲)している。で当の混神はベンチで寝ている。
学校側は遥夢が国王と言うことは把握していたが、もう一つの職業の関係で簡単に交通手段の確保ができたことは知らない。
「リン連れて行って良いのか?」
「僕たちのクラスの副担任ですから大丈夫です。」
「それにしても、姉さん、みんな来ないよ。」
正規の疑問に遥夢が答えていると遥香が口を挟む。
「航宙機の時間一便間違えた?」
「多分皆そうだと思う。このゲートから日本行く便なんて30分に一便だから。…来たよ。」
大声をあげながら質問している正規をなだめつつ、混神が答える。
神宮国際発長京国際行きLTA356便
『マスター。マスタールナハ。どこに行くんですか?』
不知火が遥夢に質問している。
「何でか福岡から桂林あたりです。」
遥夢の言葉に考え込む不知火。
「ええと、今までサーバー室に詰めていたので、皆さんとはあまり面識がありませんが、一応2-Bの副担任のリン・コンコルドです。今後は逢う機会が 増えると良いですね。」
今まで見たことの無い女性に色めき立つ一同。
「申し訳御座いません。マスターコイル。でしゃばった真似をして。」
「謝ってどうする気だ。お前がクラス一の問題児のウチを見張るのが体裁だからこれでよいのだ。」
そこに三人組の男子生徒がやってくる。
「ですが、おかしいとは思われないのですか。」「おい、反対視ろ。」
混神の言葉に後ろを向いたリンは対して驚かなかったが、三人組はいきなり振り向かれて、腰を抜かした。
「少し直接うちに話しかけるのは止せ。」
『こういうことでしょうか?』
「流石だな。」
しばし驚いた様子の混神であった。
長京国際空港
「だーれも知ろうとせんのな。全て学校側の仕業と信じ込んでやがら。」
混神の言葉に、
「本当は?」
と涼子。
「主上が首を縦に振らなきゃ、片道5日はかかったな。」
「…あー。どゆ事?」
混神が答えても他の疑問が湧く良子。
「LTR。まあルナハだがな。これが一等編成で片道二日かかるのは空間相転移性時空連結航法。…ワープだけど、コレを使わないから…夜行列車もかねてる
ちゅうのも有るがな。使ったら片道何時間になるか解るか?」
「10時間ぐらいかな?」
「…四時間。」
「四時間?!」
「声がでかい!バカ。」
「バ、馬鹿とはなによ。」
「あー。話戻すな。航宙機…とはいえ、LTAのLS-368-XX-39-BYだな…は今乗って来たやつの型番か。リア、あれ何だっけ。」
『LSA-339です。』
「そうそう、それが空間相転移性時空連結航法の発展型に当たる藍蒼航法を適用した唯一の航宙機なわけ。だから、二時間で、ここまで来れる訳。」
作者でさえ空間相転移性時空連結航法の意味はワープぐらいしか理解してません。
「混神、涼子、行きましょう。」
遥夢が大声で話す。
「なんで先生は、ヤミ、じゃなくて、御山君の事マスター、と呼ぶんだ?」
「サーバー室の主は、彼です。サーバー室では彼には何人も逆らえませんから。」
今一理解していない様子だ。
長京駅
「次の便は?」
『5分後です。』
涼子とリンバスの会話である。
「只今戻りました。」
その声に振り向いた一同言葉を失う。
「は~。髪切ったけ。」
「ハイ。」
そこにいつものポニーテールの遥夢は居らず代わりにショートカットの遥夢がいた。
「あ~一ついって良い?」
「何です。」
「その長さは似合わない。」
そんな混神の言葉にリン、涼子、正規が同意する。全知全能の女神の号を冠し、更にそれに見合うだけの素質と美貌と能力を兼ね備えた、遥夢に対し大体 は畏怖の念を抱く。だがここまで彼女に対し混神達が横柄な態度をとれるのには、それぞれ違った理由がある。正規は夫であるという自負から。混神は通界判定 者と言う、全知全能の女神さえも裁くことのできる存在であるから。涼子は、遥夢が認めた存在だから。リンは遥夢を凌ぐ能力を持ち、本来その座に就くべき存 在で、勝手に遥夢が畏敬の念を抱いているから。
「にゅぅぅぅ。」
膨れっ面で反抗の意を示す遥夢だが、嫌々ながら、自らの体を光に包む。シルエットが変わっていき膝まであるロングヘアーになる。そして、それを一本 の真っ白いリボンで束ねてポニーテールにする。
丁度来た新幹線で、博多へ向かう一行であった。
次回は八犬士登場。
博多駅
「……あの時は御迷惑………。」
「馬鹿言わないで下さい。いくら先輩だからといって、容赦しませんからね。この不祥事の落とし前、地官長としてどうつけるつもりなんですか?」
「水着持ってきた?」
「持ってきたけど泳がないよ。うち。」
「意味ねぇじゃん。」
「マスター、まさか泳がずに波間に漂っておられる気では?」
「そうだよ。」
信乃を無視しているのではなく、声が小さいため気づいていないだけのようだ。
「すいません!」
信乃が大声を上げる。それに、リンが反応し、近づいてくる。丁度お互いにお辞儀できる距離に近づいた時、リンが口を開く。
「あの時は騙す形になってしまい申し訳御座いませんでした。当時、主上は青大央の生徒会長。」
ガジッ
遥夢がリンの頭をつかむ。
「余計な事は言わなくて良いんです。」
「い、痛い、痛いです。やめてください。主上!…!ふにー。ミャ、ミャヒュヒャー、ふぁおふぉ、ひょほひほばふほほ、ひゃめへふらはい。(マ、マス ター、顔を、横にのばすのをやめてください。)」
キュポ!
「え、あ、おやめ下さい。わ、わ、わ~。」
遥夢に頭を掴まれ、身動きがとれない状況で涼子に不水要洗顔とタオルを渡されて、水性の赤マジックで顔に落書きされるリン。
自由行動になりいつものメンバー+遥夢を含めた一卵性の六子(L.C本編には一卵性の七つ子が登場します。)で波打ち際を水着で行動していた。
「あれ?混神泳げた?」「あ~息継ぎ出来ないから長くは無理だ。」
「でも、プールは…。」「潜水だから。」
「どれくらい?」
「たかだか1300mさな。」
すかさず、それは世界記録大幅更新だよ。と心でツッコむ涼子だった。
「涼子様、十七歳のお誕生日おめでとうございます。粗品ではありますが、御祝いとしてお納め下さい。」
いきなりリンが細長く、また、リボンが付いた白い箱を手渡す。
青歴二年5月19日 桂林市
「…いきなり何言ってんの?」
リンから渡された箱を手に、呆ける涼子。
「お気に召しませんか?」
さて何時だっただろう?L.C本編のどこかに、刀の鍔を加工した眼帯を左目に付けている。と言ったが、実はこの眼帯、涼子愛用の日本刀が折れたため に、供養のため、綺麗に研いで、鞘に収め押し入れに閉まっていたものを大掃除の時にリンが見つけて、クコの指導のもと、加工したものだった。
「…眼帯にしては長いよね。」
「奏飛煌です。」
「だから…もしかしてもしかすると刀?」
「もしかしなくても玉鋼製の日本刀です。」
涼子が丁寧に箱を開ける。そして眼帯を付け刀を左手に持つ。
「軽いねぇ。どったの?」
「玉鋼加工業者の方にインゴットを分けていただきました。それから精錬時に香鋼を混ぜました。堅さに問題はありません。試し切りなさいますか?」
「誰が造ったの?」
「私ですが。」
「なら、信頼できるから。」
涼子の言葉にしばし笑っていたが、
「マスター遅いですね。」
と呟く。
「ふう。帰ったら記録頼むと主上が。」
戻って来た混神がボヤく。
「はぁ。」
キョトンとした顔で涼子が呟く。殆どが男女別だが特定の書類を生徒会に提出すればカップルで部屋が取れる。だから、混神と涼子が同じ部屋なのはうな ずける。その時
『サーバー室当直より役員各位
二年B組に転入生
性別:女性
処遇を検討されたし
クコ』
メールであった。すかさず混神が転送命令を送り部屋をかけだした。
「主上、クコが。」
「知っています。既に全校に箝口令が敷かれています。」
青大央に置ける箝口令は生徒会役員に対し不利益となりうる可能性のある者が転入した場合、その役員に関する情報を、転入者が知覚しうる範囲で隠蔽す ることを指す。また期間はその関係者が箝口令解除を申請するまで続く。遥夢に関する箝口令の期間は本編第20章に記載してある尚混神に関する箝口令の期間 は最大一週間。最短半日である。どちらも自分でばらしている。
まこれくらい
「クコには改めて転送命令を。一人増えようが二人増えようが変わりません。天下の青大央の修学旅行ですから。」
青大央は4つの学部があり、全日制普通学部三千人、実業学部及び保健学部各千五百人、高等情報技術学部千人、通信制普通学部千人という巨大さであ る。そのうち全学部の二学年が参加している。
「そういえばお爺様が居ますね。沖縄には。」
その混神の言葉にビクリとする遥夢だが正規は、
「泡盛でも買いにきたのか。」
という。
「混神がお爺様と呼ぶ相手は、1人だけです。」その言葉に疑問符を浮かべる正規と涼子。するとリンが
「まさかとは思いますがヴェルフェスト殿下ですか。」
と言い遥夢がまた跳ねる。
「主上はお爺様には逆らえませんからね。」
混神の言葉に
「ど、どうでも良いことではありませんか。」
「ところで混神の言葉からヴェルフェスト殿下が遥夢のお爺さんなのは予測できるが、何で混神もそういうんだ?」
「正規さん、混神は僕の何でしたっけ?」
「従兄。」
「そう。そして20人以上居る孫の中で唯一お爺様と対等な口調で話せる存在です。そして男の孫の中で一番お爺様に好かれているんです。」
「なんで。」
「酒に強く好きなものと嫌いな物が同じで、はなしを理解し明確な意見交換ができるからだそうです。」
「なら女は。」
「僕です。酒に弱いですが、それを除けば混神と同じなので。」
遥夢は明らかに挙動不審だった。キョロキョロと周りを見回し、話すからだ。
那覇空港
「よく来たな。ま呑め。」
「未成年です。」
だが混神は一気に飲み干す。その光景に降りてきた生徒が驚く。
「お爺様、一体。」
そこにいたのは、正規と混神を足してにで割った感じの青年だった。
「いまなんつった?」
「お爺様です。」
「言い忘れてたけんな、ここに泊まることになってな、で爺様からしょうたいしてもらった。」
本編更新に熱が入ってしまい、遅れてしまいました。
「…一体どっちで覚えてんだか」
「なにがです?」
「例の転校生。主上の名前。」
「リールですね。」
「なら御屋野ですね。」
「はい?」
「いや、箝口令です。」
遥夢と混神の会話である。
「名前なんて言いましたっけね。」
「さあ。」
「どなたのお名前ですか。」
ここはホテルの一室遥夢たちいつもの五人が集まっていた。だがもとは混神と涼子の部屋だ。
「おおぃ遥ちゃん、こっちに来て飲もう。」
そういって混神が持ち込んだ三畳ばかりの畳のスペースで、酒を飲んでいるのは遥夢と混神の祖父、初代相補のベルフェストである。
「まさか御爺様が御経営なされてるホテルだとは。」
「でもLSNににた感じですぐ取れて良かったじゃねーか。」「でもなあのじ様、うちか主上のどちらかが酒の相手せにゃ部屋を割り当ててくん無かった からな。。」
「まあまあ。」
「で、誰の名前だっけ」
「例の転校生。」
図書館の主
普通科の巨大図書館に居るという謎の存在。図書館内のマナーを守らない者を締め出してしまう、存在として有名である。
しかしその正体が、一人の生徒であるという事はあまり知られていない。
「あれ、ねえ、リン、混神知らない?」涼子が教室に入ってきて、混神が居ないことに気づき、リンに問うと、
「また主では?」
と返された。
それを聴いた涼子は、教室を飛び出して行ったがまた直ぐに戻ってきて、
「ねぇ。大図ってどこだっけ?」
と訪ねる。
「国図異界本館のことですか。」
リンが尋ね返すと、頷いた。
「普通科図書館の五階の一番奥の書架の階段から見て、奥から二番目、下から二番目の棚にある、本をすべて、押し込めば、開きます。」
リンの言葉に礼を述べ駆けていく涼子。
その頃、例の大図書館では、
「混神、電脳物理学に関する書物はどこです?」
その遥夢の質問に
「ちょっと待ってな」
と言って、一枚の紙をカウンターに置いて立ち上がる混神。
「混神…いない。どこに…電脳物理学書架?ということは三階ね。」
この普通科巨大図書館は、一階にしか入り口がない。
その入り口から入ってすぐのカウンターにおかれた紙に気づいた涼子。
実は情報収集能力に長けた涼子は、記憶力も以外にいい。
三階貸借カウンター
『本館に行く。休憩所で待て。』
これにはちょっとカチンと来た涼子は、顔をひきつらせながら乾いた笑いを浮かべていた。
しかしその紙の端に小さく、『主上の資料収集につきあっている。』とあった
仕方無く、研究室に行きリンに話しかける。
「だからそこ教えてもらおうと思ってたわけ。」
「…マスターは人に教えるのが苦手ですから。…………ですが、だからと言って、私は教えられません。」
いきなりリンが独り言を言い出す。
「………はい。そうお伝えします。……ですが、マスター、あのような書き置きでは、いくら涼子様であったとしても、簡潔過ぎやしませんか?」
どうやら混神と電話しているようだ。
「あと十分でこちらに来るそうです。」
「ねえリン、僕の戦う理由は僕の役割に叶っているのかな。」
「守るべき者、愛する者を守るが為に戦うのなら、いかなる理由が有ろうと、推奨する。いつもマスターはそう仰います。」
再び二人の間に沈黙が流れる。
「リ~ン、おまえ次授業だべ。うちらのクラスの。」
そう言って混神が入ってくる。
「結局良い意味で時間にルーズなんだよね混神は。」
そう涼子が言ったときチャイムが鳴った。今日ものんきな三人である。
七月のある日の午後、藍蒼のとある喫茶店。
大きな池のある広々とした公園に面した窓のすぐ側の席に四人は陣取った。
数週間前に発生した、爆発事件。後の捜査で一人の女生徒の遺体が確認された。
サーバー室では、混神が学校のデータベースから大量のデータを読み出していた。
「おかしい。データベースのエラーなんて有り得ない。」
「只今データベースの再構築の真っ最中ですから、エラーなのは当たり前です。それよりも混神、セントラルヒルズ行きますよ。」
そういって遥夢に引っ張られ冒頭の喫茶店にやってきたというわけだ。
「西暦25652015年度入学生?なら今は三年か。」
「綾小路先輩の証言によりますと、3-Gの女生徒が一人行方不明だそうです。」
余りに庶民的な風体なため、観光客は喫茶店に居る四人がこの国の総てのトップであると言うことに気づいて居ないようだ。無論、地元藍蒼市民にとって は、これが日常なので、何とも感じてないようだ。
「そういえば、見つかった遺体はへそから下、要は下半身だけで、上半身は?」
「先程校庭の隅にある杉の巨木の根元から若い女性の上半身が見つかったそうです。」
遥夢が答える。
「DNA照合の結果同一人物のものだそうです。」
リンが混神の後ろから語る。
「なら、今は殺人で立件しろ。」
女性の上半身が見つかった、普通科の校庭の北東の角に植えられた杉の巨木。
「何でまた学校に入らないかんのよ。」
混神が四本に見える位置で、リンにぼやく。遥夢と涼子は一本に見える位置にいた。
「結局、その遺体はどこにあるんだか。」
そう正規が言っているとき、
「どうする。ここの妖気半端じゃなかね。」
「流石、お化け杉と言われるだけあるね。」
リンと涼子が入れ替わり、混神が涼子を肩車している。
強力な能力、強大な権力、国家権力にリンクした生徒会活動によりある程度の情報が収集され、藍蒼学院全体におよぶ捜査で、藍蒼大のとある学生が被害 者と恋愛関係にあったと言うことがわかった。
遥夢は警備委員会を総動員してその学生を統括生徒会室に連行した。
「どうしよっか。」
「殺す。俺に殺らせろ。」
涼子の言葉に、正規がこう答えたため、部屋の空気が凍りつく。
「いや…それは…。」
「仕方ないですよ。見付かった遺体は成美さんですから。」
「はぁ…?」
困惑する涼子に語った遥夢の言葉は机に突っ伏して眠る混神とリンを除くその場の全員を固まらせた。
「そういや、こいつあれだわ。皐神社の神主の息子だわ。」
混神が、机に突っ伏したまま話す。
「でもさ、瑠美乃神社ってミッドガルド教系神道だよね?でさ、皐神社は日本神道だよね。それって簡単に考えて、神道規定に違反するよね。」
神道規定は王国内の神道神社に関する法律である。
「…あ~。言われてみたら。そうだねぇ。」
涼子の言葉に起き抜けの混神が頷く
「でもな、成美さんを殺したのはこいつじゃないさな。まあ間接殺人罪の適用ができるけんな。」
どういうことだと正規が問う。
事件の詳しい経緯などは推理小説では無いため省く。
「強大な霊力を持つはずの巫女がな。信じられねぇ。」
「あのお化け杉は神力でなきゃ抑えらんねえかんな。」
『青玉大門中央高等学校七不思議年鑑
第二 お化け杉
それは当時の国王の愚行として、広く知られている。
藍蒼市建都の折、犠牲となったあまたの霊魂を沈め、その英知を未来の頭脳となる者たちに伝えていきたい。そんな当時の国王の考えから、中央に鎮魂殿 を備える、我が藍蒼学院が開校した。
しかし高等学校開校記念として植えられた一本の杉の樹に犠牲者の怨念が集約され、妖怪と化した。以後この杉が十年に一度同時に四本と五本に見える日 は、この杉に必ず十人が殺されている。
だが青暦二年度以降、犠牲の報告は一切無い。』
翌日、遥夢の手により、成美は蘇生された。
その後杉は遥夢達の手によって、全く別のものに植え替えられ、処分された
「…混神、スーさんから電話だよ~。」
廊下に涼子の声がこだまする。
ここは布施にある混神の実家である。
時間は、L.C本編でいう現在(L.C-Sの11章と12章の間)。つまり、このHSMからみれば未来に当たる。
「もしもし。」
混神が電話に出る。
『急に電話してすいません。』
いまだに大阪の訛りが強く残る蒼藍語でスーさんこと真朱彌が画面に映る。一通りの話を終えて、
「ハルモンたちに声かけてくれ。あの時のメンバーであの時と同じように旅する。」
青暦二年7月31日
地下鉄蒼天宮駅
「切符買い頼んだ人が行けなくなるって寂しいね。」
涼子がポツリとこぼす。太飛こと、混神の友人である塚上翔太が家の都合で行けなくなってしまったのだ。
「致し方ない。行きますか。」
時計の針は朝の七時を少し回ったところ。大阪まで50時間の旅路である。
真朱彌はこのとき大学三年生である。最初に出会ったときに、混神に受けさせられた試験によって送られてきた国際医師免許。
これが自分の進路を決めることになるとはまだ知るよしもない。
大阪は難波の日本橋についた一行。千雨と時雨は手近なゲームセンターに行って、いない。
待ち合わせは10時。それ以前は真朱彌の都合がつかない。
時計の針があと少しで、10時を指すとき、リンが混神をつついた。
「お久しぶりです。」
混神が頭を下げる。もちろんリンや涼子も頭を下げる。
「あれ?確か五人いらっしゃるとお聞きしてましたが?」
真朱彌が頭を傾げる。
「ちょっと待って下さいね。いたずらに音量最大にしちゃる。」
ゲームセンターに行ったがために混神の悪戯の標的にされてしまった、春本姉妹。
「な、何で、こんな目に会わなきゃならねんだ。」
「時間までに戻ってこないから。」
「時間て、まだ一時間もあるだろ。」
千雨と時雨は集合時刻を11時と思い込んでいた。しかし、実際には、前述の通り、10時が待ち合わせである。
「うちはちゃんと10時って何度も言ったど。なぁリン。」
混神の言葉に頷くリン。
「ま、まあええやないですか。こっちに車止めてあるんで。」
そう言って、真朱彌が、一行を促す。
「荷物どうします?トランクに入れますか?」
真朱彌が相当が、混神達は、おのおのの荷物から、真朱彌に対してのお土産を取り出すと、何もない空中に放り込んだ。
が、そんな便利な能力は、春本姉妹にはないので、仕方なしに彼女たちは、自分たちの膝に置くことにした。
出発から数分、
「チッ。」
真朱彌が舌を拍つ。
「えっと朱雀さん?」
この頃まだ、混神達は真朱彌のことを、ネット上で知り合ったときのハンドルネームである朱雀と呼んでいた。