やっぱりこれがしっくり来る

第二話

遊園地から家の最寄り駅までは、30分強。
「すごい。鉄輪式の鉄道は、独特のリズムがあるって聞いていたけどこんなに綺麗なリズムなんて聴いたことがない。」
「リールさんも、鉄道に興味がおありですか?」
「はい。私どもの世界では、鉄道が最も確実かつ、高速な交通手段であり、世界中にそれこそ、この空に見える、様々な惑星に延びる星間鉄道は、通勤、通学の 足として、また、国家間、惑星間の物流の大動脈として、活躍しています。」
「えっと、さっき、鉄輪式の鉄道は、聞いたことがあると言ってましたが、そちらの世界は、鉄輪式ではないのですか?」
「非案内軌道型浮上式非鉄輪式リニアモータ駆動です。現在、鉄輪式は、とある国にある、私鉄が、使用している以外は全てこの方式です。」
姉と、リールフェルトさんは共通の趣味の鉄道のことで盛り上がっている。
リトエルスさんは半ば馬魅の生ける人形と化していた。
「思ったよりも、リールさん饒舌だな。」
先生が、私に話しかける。まああぶれた者同士ちょうどいいかもしれない。
「なあレイ、いつも生徒会の仕事を片付けた上で、おまえに私の仕事を手伝ってもらって悪いな。少し、成績甘めに付けるから許してくれ。」
「そんな償いよりも、4人で、畳でお茶のみが良いです。成績は全く心配していません。
私は、伝説の生徒会長、ア原夏海の妹です。姉の恥にならないよう、勉 学と体力には常に気を遣っています。
それにその気になれば、もう、博士号を取得できると、技術班の主任に言われました。」
「そうか。それじゃあ、おまえが気に入るような、古民家を探さないとな。
それとだ、成績のことだが、おまえの成績は、どんなに辛口で付けても今のところ申 し分ない成績だと全教員が、一致した意見でいてな。
おまえと言い、サキカと言いすごいな。」
先生が私をほめる。
「そんなにすごい成績なのですか?」
リトエルスさんが、私に問いかける。
「ああ。現時点で、最高評価なのは、この姉妹だけだ。」

「じゃあね〜。」
私の家の前で解散して、私たちは家に入った。
「改めて紹介するね。リトエルス・ラングロフォルト・アグリフニオリアートさん。それで、こちらが、私の両親と、従兄の。」
「谷地原統間です。」
「ま、玄関で立ち話もなんだからな。上がりなさい。」
そう言って、父が、リトエルスさんをリビングに案内して、話が進む。
「レイ。リトエルスさんとお風呂に入ってしまえ。おまえは、朝早いからな。」
父と姉に促されて、私とリトエルスさんは、入浴することになった。
「…自信なくなるなぁ。」
私は思わずつぶやいた。どうやら、リトエルスさんは着やせするタイプのようだ。
「ねえ、どうしたらそんなに大きくなるか聞かせてよ。」
「え?」
{これ以降は、青少年の精神衛生教育上非常によろしくない会話、状態が連続する描写となるため、省略させて頂きました。}
「「…。」」
元々、私のうちは、エンゲル係数が高い。まあ、摂取する栄養量を上回る使用量と運動量のため、必然的にエンゲル係数が高くなるのは仕方ない。
しかし、私の軍人としての給料と、両親の給料が、その高いエンゲル係数を補い、さらに、高額な趣味に関する費用を捻出している。
家は、私が3歳の頃、私が、商店街の福引きを廻したら、3等以上の賞が全部出てしまって困った商工会が、
わざわざ新築一戸建ての一家四人が済むにはあまりにも大きめな家をぶっ建てて、相殺を申し出、私の両親が、受け入れたため、関係費用は、税金だけだ。
服は、何故か父が、異様にファッションセンスに優れた人で、休日には、安くて、長持ちするセンスの良いコーディネートをしてくれる、そのわりには、
父の服装は、いつもネクタイ無しのスーツだ。国内最大手の商社に勤める父の仕事は、交通に関することらしく、姉の話にもある程度ついて行けている。
母は、世界にその名を知られた超有名デザイナーだが、名前しか世間にはしられていない。
私の軍人としての給料には、一切税金がかからないので、それを、家の税金に廻しているため、両親の給料にかかるのは各控除だけだ
私の場合は数年の間をおいて、いきなり数万から、十数万のお金を。
姉は、何故か全国のライナー運営会社からもらった全国共通フリーパス
(あまりにもしつこく各駅で、券売機で買うよりも安いボール紙タイプの切符(硬券と言うらしい)をねだるため、苦悩した、
各社が、ほかのライナーファンやライナーオタクの批判を覚悟で、社員の負担を最優先して、発行したという話を後に聞いた。
ちなみに自動改札対応(非接触型ICカードを内蔵)で、新幹線も乗車可能だが、姉は律儀に、特急券を買っているため、その分のお金はかかる。)
を持っているので乗車賃は不要で、かかるのは、食事代とお土産代だけだ。
が、毎回数万はかかるため、準備が出来る私の趣味よりも姉の趣味に苦悩する両親である。
ちなみに両親の趣味は、母が、各地の博物館巡り。父が、各地の風呂巡りなので、姉の趣味を使えば、旅行者のツアーよりもさらに格安でいけることを知ってい るため、そのためと割り切っている様子である。
統間にぃに関してはまたの機会に。
「よく食うな。」
「ごちそうさまでした。あ、お片付けお手伝いします。」
その後、私たちは、リトエルスさんの不思議なチカラを見ることになる。
何枚ものお皿を洗いながら、ゆすぎながら、自分でゆすいだお皿を温風を使って乾かし、元有った場所に戻していく。
「リトエルスさん、そのチカラって?」
「え?ああ。これは、我々に元々備わっている力です。それから、お世話になる間、私のことは、リートって呼んでください。」
「よびすてでいいの?」
「はい。」
洗い物を終え、その流れで、台所をぴかぴかに掃除したリートさん。
「ふう。さて、何からお話ししましょうか?」
「えっと。じゃあ、なんで、あんなかっこいい戦艦はあるのに戦わないの?」
「それはですね。…{以下L.C-S11章以下参照}。」
リートさんが語った戦わない理由、それは、とても優しい理由だった。でも、ある意味身勝手な理由だった。
だって、戦えば、結局人を殺すことになる。結局軍隊というのは、身勝手じゃなきゃつとまらないのかもしれない。私はそう思った。
「陛下は。主上は、いつもどうすれば、王国軍を本当のお飾り軍隊に出来るかを考えていらっしゃいます。」
「お飾り軍隊?」
「王国軍は、…世界の警察。もしくは、司法官と言われています。
これは、王国の法律が、罪に対して、厳格なためにそれが適用される王国軍が、事件に関与すると、
その事件は王国軍預かりとなり、王国の刑法に基づく司法判断がなされます。
これは、基軍を除く全王国軍所属者にも言えます。ですが、それは、真の平和が訪れていない証拠。
主上のお考えになる理想的な軍の姿は、警察と消防を併せ、そこに土木関係の技術者を併せたような物です。
つまり困っている、国民のために働く組織であるべきと言うのが、
主上の。国王陛下のお考えであり、それは、他国の常識で言えば、軍の意味がないため、飾りである。だからお飾り軍隊だと仰います。
確かに現在も王国軍はお飾り軍隊と言われています。
展開地域の防衛よりも、展開地域の災害や戦災の復興復旧に力を注いでいるためです。
ですが、私は、そういった仕事の方が大事だと思います。ですから、主上の仰る、真のお飾り軍隊で働きたいと思っているのです。」
無理だ。人という種族が、生命がこの世に存在し続ける限り、彼女の願いは、かなわない。
「ですが、その願いは、王国の中でしかかないません。ですから、私は、その仮のお飾り軍隊に尽くそうと考えたのです。この平和を守るために。」
「話変わるけど、学校どうするの?」
「そういえばそうだな。いくら、軍人とは言え、向こうじゃ学生なんだからな。」
そのとき、私の携帯に、羽魅先生から、電話がかかってきた。
『さっき、親父に聞いたんだが、逗留の間、2人は、私たちの学校の私のクラスに転入することになったらしい。』

「ということで、短い間だが、よろしく頼む。」
火曜日。羽魅先生は、真顔で立つ2人を見ながら、クラス全員に紹介する。
リートさんが私の、リールさんが馬魅の隣に座り、ホームルームが始まる。
「どうしたの?緊張してるの。」
席についてもにこりともしないリールさんに問いかけると、
「私と、リールに、勅命が下りました。間接勅命ではなく。直接、主上直筆の書状にて。御名御璽の印の入った紙を見たとき頭が真っ白になりました。
『右に対し3年間、当該世界における、情勢調査を命じる。御名御璽』
と言う簡潔な、しかし、重大な勅命の書かれた、国王専用のあの特殊な紙の下には同じ紙を使った、主上直筆の私と、リール当てに書かれた、便箋10枚分の手 紙が入っていました。」
「それって、もしかして。」
それは、今、彼女たちがいるこの高校にとどまり、卒業までを過ごせと言うことだった。
「ロムニスの皆と共に、王国に戻る。そう思っていました。でも、無理と分かった。
しかし、私は、主上に一生の忠誠を誓いました。主上は、手紙の中で、私たちをこの世界に残さざるを得ない決定を下すのは非常に胸が痛むと仰っていまし た。」
「とても優しい王様なんだね。」
真顔から一転、泣き顔になるリートさん。
「でも、…ロムニスの…皆と…離れるのは、…それでも…。」
それ以上彼女は言うことは出来なかった。ホームルームの時間の間ずっと教室にはリートさんの泣き声が、響き渡った。
クラスメイトの視線が痛かったが、それ以上に、リートさんがかわいそうだった。
「お見苦しいところをお見せいたしました。」
{これ以上王国の話題を出すと看板倒れになりますので、これにて、この話題はしばらく封印します。}

私は、学級委員をしている。
それは、少しでも姉に近づくため。
「失礼します。」
わたしが、生徒会長ア原夏海の妹というのは対面式の時にもう、全校中にばれた。正確にはばらされた。
姉が、ステージの上で、声高らかに私が、妹だと言うことをばらしてくれた。そのときの全校の視線はとても痛かった。
もう少し穏やかにばらす方法はなかったのだろうか。
そんなことはさておき、私は今、生徒会室の前にいる。
この学校では、生徒は必ず、何かしらの委員会に所属することが定められている。私は、生徒会本部直下の情報統括局という部署にいる。
序列で言うと第3位。 書記局長や会計局長と同等の地位である。まあ、書記局長は、私が兼務しているから良いのだけれど。
「本日当クラスに転入しました二名女子生徒の所属希望書をお持ちしました。」
「ふむ…風紀委員会と、警備委員会か。部活は、はは。彼女たちらしいな。」
姉が、渡された紙を見て、つぶやく
姉は、ライナー研究会の設立を拒否されたことで、非常に部長会との折り合いが悪いため、私がたいてい間を取り持つ。まあ、互いに互いの能力を認め合ってい るのだからよしとしよう。
「そういえば、朝のHRで、リートさんが泣いたそうじゃないか。なにがあったんだ?」
もう姉にこの話が伝わっていた。
「何でもないよ。ちょっとした個人の事情だもん。」
「そうか。」
そう言って、姉は、手元の書類に目を落とす。
「なんか元気ないね。」
「上との折り合いが悪いんだ。今、後期予算編成に追われているからな。」
この場合の上とは、理事会のことを指す。
「あ〜そればっかりは私にもどうしようもないや。」
「それから、転校生が明日来るって言うことで、それが+で若干てんぱってるようだぞ。」
「いまどきてんこうせい〜?」
まだ新学期が始まって半月程度しか経過していないのだ。その時期の転校生は誰でも驚くだろう。
「大阪といったかな?」
「大阪?何でまた大阪から、首都圏まで来るのさ。」
まあ、どうせ、転勤族とかの子供なのだろうということは何となく考えていた。
「失礼します。」
大声で、リートさんと、リールさんが入ってきた。
まあ、いきなり大声が響けば、当然びっくりするわけで。
姉は、漫画見たくいすから転げ落ちたわけで、つまりはみんなびっくりしたというわけだ。
「ど、どうしたんだいきなり。」
姉が問うと、
「学生組織の長たる生徒会に所属する以上、その一員としての自覚を改めるべく、生徒会長閣下並びに副会長閣下に挨拶をと思いまして。」
と答えたのはリールさんだった。
「あいにくだけど、挨拶はいいよ。生徒会長に対してはね。」
「なぜですか?」
姉の返答にまたリールさんが問い返す。
「だって、生徒会長はこの私だからね。」
「リートさんはもう知ってるね。谷地原統間。副会長だ。…まあ、挨拶したいと言うのなら、勝手にしたまえ。」
少し顔を見合わせた後、何とも堅苦しく長い挨拶が繰り広げられたため、ここでの紹介は割愛させていただく

「予算編成?」
「ああ。一応、必要に迫られて会計に関する基礎知識は手に入れたが、いかんせん基礎中の基礎で、使い物にならない。」
「厚かましいようではありますが、もしかしたらお手伝いできるかもしれません。予算要求表をお見せくださいませんか?」
そう言ったのはリールさんだった。
「すいません、この国には通貨は存在しますか?存在する場合は現物をお見せください。」
そう言うので、とりあえず手持ちの硬貨を見せると、
「ふむ。できる範囲で、誰もが納得がいき、現実的な範囲での予算編成を行います。」
事務的な口調になってきた。そして、ここから沈黙の時間が始まる。
−1時間後−
「こんな内容ではいかがでしょうか?可能な範囲で、要望を入れつつ、生徒会の現状と生徒の身の丈にあった配分と、学生らしい金銭感覚、理事会からの要求に 対しても、きちんと答えられる範囲で、3案ほど作成させていただきました。」
そういって、リールさんが、A4用紙2枚綴じ3組の手書きの予算案を持ってきた。姉の脇から覗くととてもきれいな字で、細かく、予算配分が書かれていた。
「リールさんは、会計の資格か何か持っているのか?」
姉が問うと、
「国際標準会計検定を1級と、国際簿記準1級、…。」
と、出るわ出るわ、リールさん、どうやら、普段無口な分話し出すと、かなり饒舌なようで、彼女の口から滑り出てきた資格名は、なんとなんと、200以上。 しかも、会計関係だけだそうだ。今まで取得した資格は優に5000を超えるという。
さすが、中学生で博士号をとる人は違う。
「とりあえず、理事長が、今校長室に来ているそうなので行ってくる。あ、統間と、二人も来なさい。あいさつだ。すまんがレイ、留守番を頼む。」
そういって、姉たちが出て行った。私は、今年度の書記局の産物を整理しようと思い、生徒会室の机にいくつかファイルを広げた。カップヌードルが一つできる ほどの時間がたって、羽魅先生が入ってきた。息を切らして。
「サキカ!…あれ?サキカは?」
「校長室です。もうすぐ戻ってくると思いますよ。」
「そうか、緊急なんだがな。」
羽魅先生が深刻な表情で考え込むと同時に姉たちが戻ってきた。
「ああ、サキカ。ここら辺で、脳と心臓の手術を同時にできる病院を紹介してくれ。心臓と脳を傷つけたやつがうちの部にいる。」
「えっと。そうですねえ。」
「リートさん達できないの?」
私は、何気なくそう問いかけた。すると二人は、こともなげに、
「できますけど?!」
という。
「さすがに一人で二つは無理ですけど、二人で同時なら、朝飯前です。部下のために医師免許も取得していますから。」
とリートさん。
そして、その生徒は、静かにしかし迅速に生徒会室に運び込まれた。
すでにその間に生徒会室は、臨時の手術室となっており、白衣に着替えたリートさんとリールさんが、担架を受け、その生徒を台に乗せた。無菌状態になった生 徒 会室。
私たちも除菌を受け、その場で見学をしていたが、まさにそれは異世界の技術そのものだった。
いくつもの投影型ウインドゥが浮かんでいた。
そこには、生徒の心拍数、脳波、呼吸数や、何らかの方法で投影された、患者の現状、手術開始からの経過時間、手術の状況と、使用した器具の名称と数など、 様々な情報が、事細かに記されていた。
さらに驚かされたのが、手術のだめに切開された、穴の大きさだった。いや。それは穴とはいえない大きさだった。
リートさんは脳の、リールさんは心臓の手術を担当したのだがその方法は、単に首の動脈と、鎖骨のあたりの静脈に一本の注射を打った後、手を軽く 動かすだけだった。
手術の所要時間は、わずか30分。世界最高峰と言われる、我が国の技術を持ってしても6時間はかかると言われる、脳挫傷と心筋挫傷の同時手術をわずか30 分で終えてしまったのだ。
リールさんによると、
「この若さで、大きな術創ができてしまうのもかわいそうですし、まして、対象は女性ですから、できるだけ小さな傷で済ませたかったんです。
それに生命維持に必要な臓器への傷ですから、手短に済ませる必要がありました。メスを使ったりドリルで骨を削ったりしていては、大きな傷も残りますし、さ らに時間もかかります。
ですので、最善の方法として、ナノマシンによる、強制細胞分裂制限解除による非分裂型細胞強制分裂術を施工し、心筋細胞と脳神経細胞を強制的に短時間で分 裂させ、元の状態を復元しました。
ナノマシン自体は術後20〜24時間で自動的に便や尿とともに排出されその瞬間に分解するシステムになっていますので安心してください。」
ということだった。
ガンの危険性はないのかと言われそうだが、そこは、厳格に管理されているそうなので、可能な限り、危険性は低減されているらしい。
そうは言われてもそういうのは疎いのだからわかるわけがない。

次の日の昼休み
私たちは、学食で昼食をとっていた。
「ん?サーバーエラー?」
「どうしたんだ?」
「ああ、羽魅先生。」
「ここ良いか?」
そう言って、座った先生は、トレイに乗せたお茶を一口すすって、口を開いた。
「ああ、またか。この時期は多いんだ。私がいた頃からな。」
羽魅先生は、この学校の卒業生だ。
「そうだ。午後一の授業は、私の授業だったな。」
「はい。」
「朝、転校生から連絡があってな、電車が遅れているそうで、11時頃こっちにつくという連絡があったからな。午後一の授業は、半分振り替えで、ホームルー ムにするって伝えといてくれ。」
「わかりました。」
そんな会話をしている横で姉はリールさんとパソコンの画面を見ながらうなっていた。
「おかしいなぁ。」
「どこも遅延や運休の通知は出てないですよ。出ているとしたら、たぶん更新が遅れているのでしょう。ちょっとみてみますね。」
リールさんが、ネットで、情報を収集しようとしたとき、姉が、持っているフリーパスを全部出して私に一言こういった。
「ググれ。」
要は、リールさんの負担を軽減したかったのだろうけど、もう少し軽い言葉はなかったのだろうか?
そんなとき、羽魅先生が、箸を置き、携帯を手に取る。見れば既に先生のトレイの上の食器は空だった。
「もしもし?尾束です。今どこにいるんだ?…そうか。じゃあ、校門についたら、電話を入れてくれ。」
先生が全話を終え、私たちに向き直る。
「サキカ、レイ、すまないが、一緒に校門まで来てくれ。」
先生について校門に行くと、一人の少女が、立っていた。
「遅れてすまんな。」
「お初にお目にかかります。網干敦雅(あぼし つるが)と言います。よろしくお願いします。」
大阪訛りの強い挨拶だ。気に入った。
「なるほど。敦雅か。いい名前だな。そうそう。紹介しよう。お前が入ることになるクラスの級長のア原レイとその姉で、生徒会長の夏海だ。
学校のことでわからないことがあればこの二人に聞けばいい。じゃあ、校長室に行こうか。2人も頼む。」
校長の長話に、新転校生も私たちもげんなりしつつ解放されたのは6限目も終わった4時だった。
「いやーまいった。校長があんなに長話するとは。皆帰ったかもしれないが、明日から通う教室を見ていってくれ。」
先生の一言で私たちは教室に向かった。
パンッ
クラッカーの音が響く。
「「ようこそ鈴ヶ森学園高校へ〜。」」
「驚いただろ?私も出会って一月なんだがな、こいつらは、仲間内での結束が非常に強いんだ。新しい仲間が来るとなると、授業そっちのけで歓迎の準備をする んだ。まあ、最低でも2時間は解放されないと思ってくれ。」
「校長の長話よりはいいじゃないですか。ようみんな。新しい仲間の歓迎会楽しそうだな。私も混ぜてくれ。」
このフレンドリーな性格が、彼女の人気の要因の一つでもある。
網干さんは最初は遠慮していたが次第に打ち解けていった。
時が過ぎるのも忘れて私たちは笑いあった。

つづく