やっぱりこれがしっくり来る第21話

鈴ケ森学園は瑞穂において、東の鈴ケ森、西の灘といわれるほど帝大、京大への入学者が多 い。だが、それ以上に鈴ケ森学園高校の生徒はそのまま鈴ケ森大学に進学する。
姉もまた、帝大、京大、明大、早稲田、慶応、国学院に学習院といった、名だたる名門学府から学費など、在学中にかかる費用をすべて免除してもいいから、ぜ ひ本学にといわれている。そして、鈴ヶ森学園始まって以来初の快挙らしい。
そんな姉はひょうひょうとした物で、
「ここで1年過ごすだけでこの世界の最高学府の学位、修士、博士課程の全てを学べるなんて凄い幸せじゃ無いか!しかも 大学のキャンパス内の移動は工学部開発の鉄道。素晴らしい。」
とのたまう。ちなみに姉はこちらで言う鉄子だ。
「校長、お願いです。こちらの大学に留学させて下さい。」
こうなると姉はもう止められない。
翌日、あの人達もどうやら乗り気だったらしく、姉が、瑞穂のどの大学に行ってもこちらの最高学府の王立藍蒼学院付属藍蒼大学への留学が決まった。ついでに 私の留学も決まった。何故かと聞けば、私の能力を瑞穂では伸ばしきれないからだと、姉は笑う。


鈴ヶ森は、庶民の学習院と言われており、天皇陛下が臣民のためにと、直属の賢人元老会議に命じて作らせた学校法人だ。その学力は私立の帝大とまで言われて いる。だが、その鈴ヶ森で1番の成績を誇る姉でさえ苦戦した、青大央の編入試験。後で訊けば、瑞穂における偏差値50はこちらでは偏差値12にしかならな いという。つまり約4倍もの学力の差があるのだ。そして、姉とこちら生まれの二人を除く全員が在学と進級の判断点ぎりぎりの86。こちら生まれの二人はこ ちらでは当たり前の90。姉に至っては98をたたき出していた。
ところで、こちらの世界で驚いたのが、戦争も無いとても平和な世界だという事。とはいえそれは私たちが居る大国の軍事力が他に比べて圧倒的に大きいため だ。曰くこの平和は「パックスソウライマーナ 蒼藍族による平和」と言われているらしい。
そういえば、敦雅は暇さえ有れば、高校の敷地にほど近い医学部の校舎に入り浸っている。医者になるのかと聞いたところ、そうだと答えたがそれ以上に多分あ の関西弁の女医さんの妹さんの方に懐いたのだろう。

今私たちが留学している青大央こと、王立藍蒼学院付属青玉大門中央高等学校は普通科、実業科、高度学問研究科、体育科、高等士官科、医療科、運輸科の7科 に分 かれ、総勢一万三千人強が学ぶ。その1万3千人の頂点に立つのが、普通科生徒会を兼任する、統合生徒会の長である。時を遡ること幾億年。こちらの元号で陽 栄3年に卒業した会長は入学時から3年間生徒会長を務め、数々の施策を行いいくつもの校則を改正し、今では伝説の生徒会長と言われている。
そして高校には似つかわしくない120階建ての高層ビル。生徒会棟と呼ばれ各委員会が部屋を持っている。1万3千人が生徒会が始まると一斉にこのビルに 入っ ていく。いま統合生徒会長の座に居るのは我が姉である。
かつてこの学校に君臨し、その後大学の学生自治会長までも勤め、今はこの学校を含めた、大国を治める女性から直接任じられたという後ろ盾に姉の就任を快く 思わなかった者も黙るしかないようだった。

さて、今回は鈴ヶ森学園と、この青大央について話していこうと思います。
鈴ヶ森学園高校は姉を頂点とする生徒会と陛下を長とする賢人元老会議の2つの組織が協力しながら運営しています。
対して青大央は、王国主師と呼ばれる組織の中の長相と呼ばれる位に付く者の直下に藍蒼学院長の座が設けられ、さらにその下に各校の運営局が存在します。こ の運営局の権限は幼稚園を除き生徒には及びません。
生徒は、児童会、生徒会、統合生徒会、学生自治会のそれぞれの長の支配下に置かれます。そして、長は太宰と呼ばれる主師の一人の管轄直下となります。
各運営局長は、学院長からの任命。児童会、生徒会、統合生徒会、学生自治会の長は、原則在学中10歳以上の蒼藍王族が王によって任じられますが、偶に姉の ように王が直接任じる場合もあります。また、それ以外の場合は普通科生徒会が組織され、統合生徒会を兼任します。
鈴ヶ森学園高校の生徒会は、会長の直下に副会長が居り、その直下に書記局、会計局、情報統括局、部活動局、委員会室が有る。委員会室の下に、クラス長だけ の代表委員会を筆頭に、委員会の花形風紀委員会、清掃委員会、保健委員会、体育委員会、図書委員会、応援委員会、用具委員会、緑化委員会、新聞委員会、放 送委員会が有る。
対して青大央の生徒会は統合生徒会長の直下に副会長が居りその直下に、会計局、書記局、電脳局、施設局、学部生徒会管理局、委員会管理局、部活動局、直轄 委員会室、学内法廷、がある。 直轄委員会室の下に学内警察である警備委員会と総務委員会が置かれている。また電脳局管轄下で、図書委員会、電算委員会、報道委員会が置かれ、学部生徒会 管理 局の下に各科の生徒会が置かれている。警備員会、総務委員会、図書委員会、電算委員会、報道委員会は統合生徒会にしか存在しない。報道委員会が使用する機 材はFIBという報道機関が一括で購入し寄付しているらしい。
青大央では、大学相当学習をしている者は、基本4教科の授業については最高単位が与えられ出席が免除される。まあ、青大央でオール5を取ってても、藍蒼大 に入れるかというとこれまた難しいらしい。


「どう?慣れた?」
声をかけてくれたのは、この国で最大の私立学校法人綾小路学園の理事長で、高校時代、この国の元首と死闘を繰り広げ、最終的にこの青大央を終末戦争後と見 紛うばかりに壊滅させた過去を持つ、綾小路財閥総裁の綾小路綾女さんだ。
「あ、はい。」
「そっか。でも懐かしいなあ。私ね。高校入った最初の年はあまりにつまらなくて、すっごい嫌だった。周りがあまりに弱くてSFJの意味も無かったなあ。2 年生になったときに統合生徒会って言葉を実際に目にして、直系王族が入学したんだって判った。からかい半分、嘲り半分でちょっかいかけたら見事にスルーさ れて、逆に血が上っちゃってさ、勝負しかけたんだけどそん時はこてんぱんにされた。それでも綾小路家の次期当主としての意地もあったし、綾小路流槍術の当 主として負けられないと思って周りが心配するほどに修行して、それで、その年のSFJCTの決勝戦で、学校ぼろぼろにしてさ、当時の宮内省大臣と教育省大 臣に6時間くらい雷落とされて。それからだなあ、高校生活であの子も何かと私を頼ってくれたし、私もあの子に頼らせて貰った。まあ、あの子は、雷落とされ てもけろっとして、いとこと一緒に、雷落とした2人に対していたずらしかけて翌日雷落とされるためだけに欠席してたなあ。学校は当時のGRPと、綾小 路建設工業が責任を持って復元改良したよ。私ね、現在の内閣でたった一人だけ、周りより1歳年上なんだ。レイちゃんも、私やあの子みたいに青大央生活を謳 歌してね。」
ここからは学校施設の紹介。
まずは鈴ヶ森学園から。鈴ヶ森学園高校には教室棟、管理棟、講堂、体育館、武道館、部室棟の5つの建物がある。
教室棟には1年から3年までの全学年のHRと、理科室、美術室などの特別教室がある。特別教室が1階。2階に3年生の。3階が2年生。4階に1年生の教室 がある4階建て。管理棟には学校のメインサーバー、校長室、事務室、生徒会室、放送室、職員室と各教科教諭の研究室がある。400年前の建築様式をもして 作られた古風な外見と裏腹に、中身は超最先端な4階建てだ。講堂と武道館は言わずもがな部室棟には1階に男子運動部。2階が女子運動部。3階が文化部…の 倉庫となっている。
対する青大央は、私からすると非常に複雑だ。各科が、教室棟、管理棟、特別教室棟、昇降口兼部室棟、講堂を持つ。教室棟は8階建てで、1,2階に教材サー バが 置かれ、3,4階に3年。5,6階に2年。7,8階に1年の教室があり、一度に40人が乗れるエレベータが2基ずつ校舎の端に計4基取り付けられている。 なんでそれぞれの学年が2階ずつあるのかといえば、全学年A〜N組までの14クラスあるからだ。管理棟には各学科長室と、各科の職員室、事務室、放送室、 各教科教諭の研究室、メインサーバ室があり、大体6階建てで、普通科だけ10階建て。
特別教室棟はHR以外の教室が置かれている。普通科、体育科は3階建て。実業科と高等士官科は6階建て。後の3科は12階建てだ。部室棟は昇降口の上にあ る。すべて統一で4階建て。全部活が自由に使える大浴場まである。もちろん帰宅部も。私はここに入ってから帰るのが日課だった。(生徒会も部活扱いだから ね。)
講堂は言わずもがななので省略。そして各科はこのほかに2個ずつアリーナと呼ばれる大型スポーツ施設をもつ。アリーナはSFJCTや、SFJCTAFのメ イン大会の会場となる。各科の配置は時計回りに一番東の正門に近い側から普通科、実業科、高度学問研究科、運輸科、体育科、高等士官科、医療科の順だ。そ して普通科と医療科の間に20階建てのマンションが10棟。これが総合生徒寮。環状に囲まれた空間に30階建ての巨大な図書館と、120階建ての生徒会 棟。ちなみに生徒会棟の1階から5階までは学食で、吹き抜けになっている。
そして、これらの建物は2階3階部分にムービングウォークを持つ渡り廊下で結ばれている。また、医療科区画では町の南にある超大規模総合病院内で運行され ている運搬器具も運行されている。
それと綾小路学園。
ここは入ったことはないから外見だけ。4階建てのこっち来て見た、なんていったか忘れたが、キャッチコピーが「トンネルをでたら〜」とかいうアニメ映画に 出てきた神様専用の日帰り入浴宴会施設みたいな感じの作りっぽい大きな建物が20戸程度ある。ぐらいしかわからない。以上。
この国の国語の表記は基本的に活字であっても筆記体のような表記だ。学ぶ気さえあればいくらでも読めるといわれるが、未だに瑞穂語の対訳というか振り仮名 が欠かせない。それでも振ってある量は全体の1割程度になってきた。聞くだけなら瑞穂語と大して変わりないので、問題はない。教担もそれを理解してくれて いる人ばかりなので、私は文章題以外の問題しか当てられない。
私がいる普通科の教科は国語、日本語表記、英語の言語3科、数学、国際史、国内史、国際地理、国内地理、政治経済、行政学の社会6科、物理、生物、科 学、化学、地学の理科5科からなる基本4教科と体育、音楽、美術、家庭科、技術科の実技5教科、電脳学、司法学の論理2教科の11教科22科目からなりこ れを1日6時間週5日の時間割の中でこなす。なぜか、行政学と電脳学の人気は異常に高い。保健はどうするのかいうと、生物、家庭科、技術科、電脳学、司法 学に分散している。
この国の人口の99.99%を占める種族の能力上授業内容は国語などの言語以外は非常に薄い。そのため、自分で調べまとめ整理する能力を培い、日々その能 力を維持しなければ簡単に落ちこぼれる。最低偏差値の85を下回らないようにするのはかなり大変だ。
「あ、ところで、GRPって何ですか?」
さっきは説明優先でさくっと流してしまったが疑問はそのときに解決しておかないと。
「ん?あ、そういえば、レイちゃんまだこっちの言葉読めないんだっけ。まあ、ペルシャ語とアラビア語とラテン語を足して2で割ったような表記だからね。 GRPっていうのはねグランドサービスペンタゴングループっていって今のLSNの前身のこと。まあ。実際にはいまのLTRとLTA、LTSなんかが同盟組 ん でその上にGRPがあったって感じかな。」
「そうなんですか。」
「事実をねじ曲げないでください。綾女さん。」
入ってきたのはかなりイケメンの男性だった。
「あれ?」
「気づいた?この子左目がサファイアブルーで右目がルビーレッドなの。」
「両親の強引さには辟易なされたでしょう。すいません。どこか抜けてるので。」
あやめさんの紹介によると、彼はこの国の王と王配の末っ子らしい。
「で、ねじ曲げないでって何?」
「GRPとLSNに直接的な連続性はないです。」
「そうだっけ?」
あやめさんが首をかしげる。
「GRPは交通系の持ち株会社で、祖父が立ち上げた王国発祥の企業です。LSNは母が宗国から引っ張ってきた。母が立ち上げたコングロマリットです。規模 はLSNの方が大きいのでLSNがGRPを吸収した形になって今に至ります。」
「ふーん。あ、そうだ。レイちゃん、今週末何か予定ある?」
いきなりなのはこの国の偉い人に共通項なのだろうか。
「いえ。ありませんが。」
「じゃあさ、敦雅ちゃんも連れてうちの学校に遊びにおいでよ。ちょうど学園大学の開放日だから。あの子も呼ぶし。」
これで決まってしまったのだ。

[このお話はL.C-S第54章と第60章台の間のお話になります。なので、後述のキャラクターの容姿は第54章以降に準拠しています。]
-土曜日-
「全く。こっちも暇じゃないんですけどね。」
「今、SVM(セルファ・ヴァリス・メイリナの略)の次期車両の設計最終段階だっけ?」
綾女さんに呼ばれて綾小路学園の正門についた私と敦雅。
すでに綾女さんは来ていた。そしてもう一人、見たことない人がいた。
「ん?来ましたね。行(ぎょう)は進んでいますか?」
「ハル、いきなりそんなこと聞いてもだめだよ。その姿、私でさえ、一瞬戸惑うほどだもん。」
「そうですか?」
ハルと呼ばれた女性は私たちのことを知っているようだった。クラスメイトの家族かな?でも行(ぎょう)って?
「この子は瑞穂からあなたたちをこの国に連れてきた張本人。ハル、瑞穂に行ったときレイちゃん起きるまで顔ずっとのぞき込んでたんだって?」
「誰から聞きました?」
「ミコとマサミが話してるの聞いた。」
ため息をつくハルさん。…ん?瑞穂で私が起きるまで顔のぞき込んでたのって確か。
「もしかして。」
「やっと気づきましたか。綾女は僕のことをハルと呼ぶので気づくのに時間かかるかなと思いましたが。」
やっぱり瑞穂で私が起きるまで顔をのぞき込んで、自分のことを僕という人を私は一人しか知らない。私たちが今いるこの国の王だ。
「ん?呼ぶならハルと呼んで良いですよ。というか、その方が。ね。」
何なのか分からないが、とりあえず私たちもハルさんと呼ばせてもらうことになった。
「ハルさん、その格好。」
「ん?これですか?新しいデザインに服が切り替わるのでそのためのつなぎです。。」
藍色のノースリーブにクリーム色のフレアスカートが映える。
「久しぶりですねえ。ここに入るのは。前は、ここのサーバーを置き換える関係でいろいろと手伝ってほしいって言われてきたんですよねえ。」
「ああ、あったあった。30周期くらい前だっけ?あのときは回線とかのインフラやらおいてある建物まで建て替えなきゃいけないから学園を一時閉鎖して藍蒼 学院に生徒を預けたんだよね。あのときは粋だったなあ。綾小路学園と藍蒼学院のそれぞれの相当教育課程の卒業資格を両方とも授与してくれたんだから。」
元は綾小路学園の生徒でしたからねえ。藍蒼学院を出たとしても入ったのは綾小路学園でしたから、それじゃあって言うことで、リンと涼子が言い出したんで す。」
「うそ。ミーかと思ってた。」
「誰ですかミーって。」
「神介のこと。」
「神子ですか。」
神子さんはソラをこの世界でも最高性能を発揮できるようにチューニングしてくれた女性で今は生物学上も戸籍上も女性だけど少し前は戸籍上男性でさらに前 は、混神さんという生物学上も男性だった。この混神さんのこちらの世界の瑞穂での戸籍名が神介さんだ。
「じゃあ入ろっか。」
正門をくぐるとどこからか雅な調べが聞こえてくる。
「今日も和楽部は元気ですね。」
ハルさんのつぶやきにうなずく綾女さん。
「来週全国合同高校和楽祭があるからね。毎回、青大央の和楽部には圧倒されるもの。」
「7学部の和楽部が総力を結集しますからねえ。来週は見物ですよ。何せ、高校生における音楽能力が世界最高の2校の和楽部の合同演技ですからね。今年は連 邦の西暦2010年代のアニメの中で評価が高かった10作品のメインテーマをメドレーアレンジにしたものもやるそうですから楽しみです。最高の席で、聴か ないといけませんね。」
ハルさん楽しそうだ。
「ここが学園広場で斜め左前方にあるのが、高校への入り口。今日はどこへも出入り自由だよ。どこ行きたい?」
「とりあえず一通り見てからにします。」
「そうだね。建物の外見しか分からないもんね。でもあれ大学と小学校の校舎。」
あの建物が小学校とは。
「そういえば、あの張り紙まだあるんでしょうか。」
「え?」
「『校舎内飛行移動禁止』と図書館内の『館内SFJ禁止』。」
あったのか?
「あったあった。もうさ、天井と壁に10mごとに貼ってあるもんだからもういい加減良いよってなってね。あ、こういう字。」
「えっと図書館でSFJやっちゃいました。」
「あれ図書館の外苑ロビーですから厳密に言えば図書館内ですがSFJは許可されてるんです。」
わけがわからない。
「この建物も結構立つよね補修に補修を重ねて2周期使ってますからそろそろですね。」
「今度はLOCTと綾小路建設の合同か。」
「いえLOCTは今回は藍蒼学院の全面建て替え工事の関係で関与できません。」
LOCTが建設会社。それも超大手のゼネコンなのはわかった。
「うそ。建て替えの間藍蒼学院に見てもらおうと思ってたのに。」
「いろいろあるんです。それから、両機関の生徒は、ミコが責任を持って受け入れ先を探してきたそうです。いかんせんあの子のことですからつてを最大限使用 してますが。」
「どこ?どこ?どこなの?」
「シンテツです。」
また新しい言葉が。シンテツというのはシンオウ鉄道という鉄道会社の略称でとある星間国家における超巨大2大コングロマリットの一つの中心企業らしい。
「ん?ああ。神鉄が学校を経営してるわけではなくてですね、国立の学校の管理運営を委託されているだけなんです。あの国では、鉄道施設の保守管理は国が行 う代わりに鉄道会社が国の施設の管理運営を行うという形になっています。」
両者にメリットがあるわけだ。
「夏海さんなら喜ぶでしょうねえ。」
「そんなにすごいんですか?」
「すごいですよ。気になるなら後でミコに訊いてみると良いでしょう。」
ハルさんが説明を投げると言うことはかなりすごいのだろう。
「さあついた。ここが、綾小路学園大学…の花形の理工学部。」
「藍蒼大の花形はもっと大きなくくりになってますからね。」
「え?」
「理数学区総合工学群です。昔どこかの偉い人が言ったそうですよ。『工学は国の発展の要であり、その工学を学ぶ者は将来国を動かす要となる。故に大学校の 教育においては、工学に力を入れ、教育を行わなくてはならない。工学の発展は国の発展に直結するのだから。』と。」
確かに工学系がなければ、建築が発展せず、諸外国と比べて見劣りした町並みとなっていただろう。
私が今居るこの大都市は東西南北の4辺が8000kmの方形都市だ。そして、その8割の土地に高さ300mを超える超高層ビルがそびえている。そんな中に ぽつんとあるこのような学園は、ちょっとした異空間だ。
「そろそろ、夏季文化祭ですか?」
「あー今年はさ、ほら、藍学と合同でやりたいんだ。私、財閥の方で手一杯でそういう相談できないからこういう機会にハルと話せてうれしいって言うのはある なあ。」
藍学とは私たち5人が留学している高校を運営している国立学校法人である、藍蒼学院の略称。
「僕はいっこうにかまいませんけど。ところで、レイさん、さっきから敦雅さんが僕のことをじーっと見ているのがすごい気になるんですが。」
「多分、まだ誰か分かってないんだと思います。名乗らなくて良いと思います。敦雅は下手に教えられると怒りますから。」
言われてみれば、校門でハルさんたちに会ってから敦雅の声聞いてない。
「敦雅、本当にわかんない?」
「じゃあ、逆に聞くけどレイは誰なのか分かってるんか?」
「そりゃあ。」
普通誰なのか分かってなければこんなに仲よさげに話せない。
「ヒントくれへん?」
「ヒントというか、綾女さんの大伯母の孫で私たちをこの世界に連れてきた張本人だよ。ほら、パーティで初めて知り合った。」
「レイさん、それではわかりにくいと思いますよ。あ。」
あ?あ。敦雅がなついている女医さんだ。
「なんや。レイちゃんたちもきとったんか。今日ここに一緒にいこおもて、声かけてもレイちゃんつれへんから、どないしたんやろおもっとったんよ。そかそか ハルちゃんに前に声かけられとったんか。あ。そや。レイちゃんがつれへんからリートちゃんたち連れてきたんよ。」
「おねえ。それひどすぎ。」
「あーねーごー…あれ、ハルも、先輩もおる。あ。先輩はおっても何ら不思議はなかね。ここの学長やもん。」
この何とも言いがたい話し方の女性が神子さん。それにしても、ハルさんが神子さんのことを黙っていればそれだけで男が寄ってくるというだけはある。けど、
「なんね。後まーと涼子たち来れば勢揃いやんか。これじゃいつも通りやんなあ。あははははは。あれ?つーちゃんなしてうちのこと睨んどーと?…うちなんか したかいや?…あ。そかそか。ごめんごめんそうやんなあ、そうやそうや。うちもハルも、私服のデザイン変更に合わせて髪型少し変えとーからだれかわからん ようなってもうたんやんなあ。」
こんな話し方なんだもん。これをハルさんたちは。
「神子、相変わらずレイさんたち相手の時は神子語はやめなさいといっているでしょう。」
神子語と呼ぶ。下地は長野県北部の方言+標準語。そこに関西弁と博多弁を少し交ぜた感じの物をさらにアレンジしている。
「そうやね。じゃあ改めて。うちもハルも、いつも着てる服がね、デザイン変更になったから、丁度いいやってことで髪型変えたんだよ。でもまあ、かなりがら りと印象変わっちゃったみたいだから誰なのか分からなくても仕方ないよね。いちおう、皆、敦雅君がハルが誰なのか分かるまで黙っていようって言う流れだか らうちも言わないけど、ヒントはねえ、そば食ったときに遠慮したら本気で殺すって言い放った人。」
神子語をやめるとかなり印象が変わる。そういえばハルさん、長野の駅前でそば食べたときに本気の殺気纏って遠慮したら殺すって言い放ってたなあ。まあそれ で旦那さんにどつかれてたんだけどね。
「…え、ほんまか?」
やっと敦雅も分かったみたい。
「面影ないもんねー。」
結構神子さん話しづらそうだ。
「少しは神子語混ぜても良いですよ。」
かわいそうになったようだ。
「ほんまにあのハルナさんなんか?」
疑問に思っても仕方ない。依然と全くといって良いほど共通点が見当たらないからね。
「たった2週間あわへんかっただけで全然違うなあ。」
「二週間?…そんなに経ったっけ?」
{ハルです。前回で一度交差が終わったばかりですが、本体と管理人が呼称するL.C統一世界観本編が、次回交差予定である第61章に近いため、やっぱりこ れがしっくりくる第22話は、L.C-S第61章となります。ご了承下さい。}

「ようこそ。陛下のお越しを生徒会一同心から歓迎いたします。」
工学部で嬉々として、学生や教授陣に質問をぶつけまくっていた姉と合流して、いよいよ高等部に入った私たち一行は、綾小路学園高校生徒会書記と名乗る女生 徒に逢い、生徒会室に招かれた。
「綾小路学園高等学校生徒会長の松任燕と申します。こちらは、書記の城崎と副会長の但馬です。」
「当期藍蒼学院付属青玉大門中央高等学校統合生徒会長の崎原夏海です。この子は私の妹で、同副会長兼電脳局長のレイ。それから…。」
「松任さん、夏海さん、週明けに各校の全生徒に対して、集会を開いて合同夏季文化祭後の紅蒼国への一斉留学について説明をお願いします。」
姉の紹介を遮る形でハルさんが2人に話す。
「いよいよ、LOCT、綾小路建設、神応建設、LEC、久川電設の合同事業である、藍蒼超広域総合学園都市定期再開発事業が始まります。」
LOCTはLionis Olare Construction Technica リオニス・オーラル・コンストラクション・テクニカのイニシャル。LECはLionis Electrical Construction リオニス・エレクトリカル・コンストラクションのイニシャル。必ずLOCTの建設工事にはLECが電設を担うらしい。
「そう言えば、時管省が何とか時間整合性を調整してくれるらしいから。最大2ヶ月の幅になるらしいよ。帰ったときの時間経過は。最短で一月だって。」
…そうなると私たちは高校卒業時には周りよりも一つ年上なのか。
「だかーな、帰る前に一度素体更新術受け手もらうでな。」
神子さん曰く知識、能力はそのまま、肉体と戸籍上の年齢の経過を10ヶ月分短縮するらしい。
「わかりました。では来週頭に全校集会を開き、全校に周知を行います。」
「藍蒼学院は、一斉メーリングリストや、その他諸々使える手段をすべて使って政府が周知しますので。」