やっぱりこれがしっくり来る 第28話

突然暗くなり私たちは窓から外をうかがった。
「来てしまいましたか。」
リンクリス女史は何か分かっている様子である。そんな彼女を見ると無表情で上を示す。私が上を見ると呆れた声で、
「窓の外です。」
といわれた。
「窓の外…おい。レイ、あれなんだ?」
[CBBY01 BB401。CSY-01 NECS401。彼女の国の属国が有する超戦艦。大和です。]
「や、やまと?だが、大和は横須賀に。」
泉さん若干テンパっている。
「航宙戦艦を有する国家のそれを所管する官庁の大臣の反応とは思えませんねえ。」
結構なお言葉である。
「何故あの船がここを?」
「簡単に言えば、挨拶ですね。あの船が属している天の川連合艦隊は、我が国の蒼日連合艦隊の分隊です。さらに、その蒼日連合艦隊は我が国近衛軍の第二師団艦隊の麾下にあります。第二艦隊は全員女性で構成されているため、天の川連合艦隊も全員女性ですから。」
女史がそう言うと執務室の電話が鳴る。
「私だ。うん。今行く。」

「国名は言うな。」
国軍省の受付にいた青い詰め襟の女性用士官服を着た二人の女性。その二人が女史をにらむ。まあ、出会い頭にこう言われたら私だってにらむ。
「何?!…あ、失礼しました。」
二人は女史の左腕についている徽章を見て、居住まいを直した。
「天の川連合艦隊所属大和級一番艦大和艦長富田絵美大佐であります。」
「同副長華駄史野中佐です。」
「王国統合軍令部星軍参謀総長閣下に拝謁でき大変光栄であります。」
あちらの大和艦長を初めて見た。
「うん?そういえば、さっき電話が来る前に言っていたことが引っかかるな。確か艦隊に「属して」いるとか。旗艦では無いのか?」
「我が艦隊の旗艦は瑞穂級の一番艦です。」
「瑞穂級?」
確か我が国と富田大佐達の国との国交樹立記念で命名された艦だったはずである。
「まあ良い。あの三浦半島上空にいる船は何だ?」
泉さんが富田大佐に問う。
「分かりません。私も見たことがない船なので。ただ、識別上は味方です。」
当たり前だ。敵だったらとっくに一発貰っている。
それにしても美しい。
「狸がここまでよく連れてきたなあ。」
リンさんがつぶやいた内容が引っかかる。
「狸天狸といって、昔当該地域にいたザナルカント人が、魔法学の発展の過程で生み出した知生体です。まあ一言で言えば人並みに頭が良い狸です。よく化けますから。ねえ。富田大佐。」
「はい。同胞が来てくれて。あ。」
後で聞けば、富田大佐はこの狸さん達を母方の祖先に持つらしい。
「あ。そうでした。ところでその前に一つだけ聞かせていただきたいのですが。」
リンクリス女史、大臣室の窓から大和を写真に撮る一人の青年をにらむ。
「私の婚約者…だった馬鹿の友人で今の婚約者です。エド、彼女は私よりも立場は上なんだから。」
「レイさんよりは上ですが、陛下とは対等だと思いますが。まあ、お答えいただいたので、こちらからも答えねばなりませんね。あの艦はアクアマリン。スサノ ウ級の次級として建造されている戦艦です。アクアマリン、クイーンローズ、オレンジプリンセスの三隻からなる砲撃打撃戦隊の旗艦です。」
「艦隊では無く戦隊の旗艦なのですね。」
「はい。あの艦が属する艦隊はウンディーネ艦隊と呼ばれ、旗艦は空母スノーホワイトです。」
ウンディーネは、リンクリス女史の世界で導入された、観光用ゴンドラのこぎ手で、若い女性が担う。なぜ、重労働が予想されるゴンドラこぎに女性を充てるのかと言えば、簡単に言って、むっさい男よりもうら若き乙女の方が客も喜ぶかららしい。
「多分、もうすぐ、ウンディーネ艦隊が全艦具現するはずです。全艦具現の上で第五艦隊援護に向かうよう命じられてたはずです。それからこれを。」
「新規大型艦艇受領同意書?」
渡された封筒は泉さん宛。
「『我が王国は刻一刻と変化する貴世界情勢に鑑み同盟国としてかつ永久不滅の友好国として、貴国に対し、以下の大型艦艇を無償提供する。ついてはこれに同 意されたく本書を記す。記 10万トン級戦艦一級4隻、8万トン級航空戦艦1級6隻、15万トン級超大型正規空母2級12隻、7万トン級正規空母4級20 隻、4万トン級軽空母5級70隻 以上 追記:なお、本同意書への記名を確認語速やかに松本鎮守府に全艦を置く故、回航要員を松本へ集結されたし。ハル』… なんだって。10万トン級と言ったら、いや航空戦艦でさえ、大和級を軽々と超える。おい、レイ何やってる?」
[艦名考えてるんです。航空戦艦はやっぱり、名だたる神社仏閣がある地域の名ですかねえ。10万トン級の方は薩摩級か越後級。いや会津級も捨てがたいなあ。富田大佐はどれが良いと思いますか?]
「私は関西の生まれですし、国軍大臣の地元から、丹後級をおしたいです。」
何を呆れ顔になっているのか分からないが泉さんがため息をつく。
[盲点でした。そうです。我が国の憲政始まって以来の大偉人の地元を忘れるところでした。]
「あのなあ、まだ受領するとは決まってないんだぞ。」
[ただで大型艦をもらえるんですから良いじゃないですかこれだけの規模我が国だけでそろえようと思ったら国家予算5年分相当以上が飛びますし、建造期間も15年はかかりますよ。あーでも維持費馬鹿にならないか。]
「それを懸念してるんだ。」
2人でため息をつく。
「維持費は、LSNが全額持ちます。というか、LSNの財務担当が計算して、呆れた顔したくらいかからないんです。まず燃料代が浮きます。我が国自慢の航 宙エンジンですから。真水や用食、酒保の準備も、LSNが軍令部に寄付という形で納入したのを転送台に置けば、自動的に各艦へ転送されますから、かかるのは 人件費だけと考えてください。この人件費に関しても、我がLLCが8割提供します。ご安心ください。金は出しても口出すなの精神でいますので、貴軍の運用 などには一切介入しません。」
女史の話を詳しくかつわかりやすくまとめた物に臨時予算概算書を添付した物が財務省に送られ、10分後、『認可』の判が押されて帰ってきた。
「…あの財務省があっさりと。」
「まあ、予算を出さなくて良いってなれば国庫を管轄する財務省は大喜びだろうし。」
でもどうなんだろう。ハルさん曰く「機密とか秘密?そんなの指定してたら、これだけの規模の国なんですよ。そんなのすぐに行政業務滞るに決まってるじゃな いですか。軍事機密?あんだけの巨艦がめっちゃくちゃな速度と兵装持ってる時点で指定する意味ないですよ。ま、めちゃくちゃな理由だから何言ってるか僕自 身はっきり言って分かりませんけどねえ。あ、だから、我が国には機密とか一切ないっていう。」
あの国は、国家機密とか軍事機密指定を面倒がるというか、他の国がするレベルでも「機密指定してもどうせ漏れるし、面白い仕掛けしまくったからなあ。」というレベルで指定しない。
「でもここに書いてある事をそのまま受け取ると、『開発されたばかりの最新技術をふんだんに使って作りましたので、是非使いつぶしてください。』と言うことだよな。それって、普段は軍事機密指定されてる技術を、めちゃくちゃ使ってるって事だよな。」
[あ〜。あの国は「機密なんて指定したってどうせ漏れるし漏れたとしても、まねできるレベルの技術なんてないし、指定するから、スパイとか来る。そもそ も、いちいち指定してたらそれだけで行政止まる。というレベルの量だからめんどくさいしやらねえよ。」のスタンスなもんでして。多分、この世界では、この 技術を扱えるのは我が国と英国だけなので。]
「我が国には何も頂けないのかしら?」
ちょっとむくれ顔のエリザベス。
「そうですねえ。では私の権限で、戦艦、重巡をそれぞれ2,16で、来月お渡しするというのはいかがでしょうか?」
「すてきな申し出ね。欲を言うと戦艦、重巡、正規空母でそれぞれ2,8,4だと嬉しいのだけれど。」
「王に確認してみます。」
いたずらっ子のような笑みを浮かべてねだるエリザベスに対していつもの無表情の女史。
「それでは一旦失礼します。あ、富田大佐。」
「は、はい?!」
「以後の支持は特攻艦隊司令の将陽香奈惠忠康将長にこうように。」
そう言うと、女史は空間に溶け込むようにして消えた。
「そういえば、おまえまだ総理官邸には「通って」いるそうじゃないか。世界一の大国の首相が首相公邸に住まずに自身の邸宅から官邸に通うというのは安全保障から見ても感心しない。」
[落ち着かないんです。でかすぎて。私は世田谷の住宅地で隣近所と深いつきあいをしながら市井の情勢や世論を肌に感じる政治がしたいんです。それに、内閣府から、特段仕事ないよって言われたら公邸に住む意味も官邸にいる意味もないですって。]
まあ、一国の首相がせっかく公邸があるのにそこに住まないというのはおかしいとは思う。だが、私の姉も国務大臣なのだ。それに引っ越しめんどい。
「レイ、この船に乗れないかしら。」
[どうなの?リートさん。]
エリザベスの問いをそのまま在瑞大使に振る。
「そうですねえ。一応、総理は我が国の将官級軍籍を有していますが、エリザベス陛下は本国に問い合わせてみないと分からないです。」
そう言って、どこかに電話をかけ始めたリートさん。
「英国3軍最高司令官で有ることから、一切問題ないという解答でした。」