『そうか。ゆくか。』
『はい。ウズメ様にお仕えし、後世に伝えるが我が役目ですから。』
『つらくなったらいつでも戻っておいで。ウズメ様もきっと聞き届けてくれるはずだ。』
『ありがとう…御座います。…お父さん。それじゃあ。私行きます。』

神主敏明のぼやき日記

神楽神社
「戻ってきてそうそう巫女の仕事させて悪いな。有栖。」
「これが私の本来の役目なのだから気にするな。」
雲一つ無い4月のうららかな晴天の下で、この神社の神主である、俺と巫女の有栖は話していた。
俺は神島敏明。大学を出、長年勤め上げた会社が突然倒産し、途方に暮れて実家に戻って気がついたら、この神社の神様と結婚する羽目になった。
『~~~~っ!』
「おはよう。神楽。」
神楽は、俺の奥さんで、この神社に祀られた、火と、豊穣の神だ。してその正体は、強大な力を持つ、狐である。
有栖は、俺の幼なじみだがとある事情で、今まで、この世界を離れていた。
その3人が、何気なく空を見上げて目に入ったのは、雲でも鳥でもなく飛行機でも、例の神様でもない。女の子のパンツだった。俺は急いでうずくまった。それ 以上見たら、あの二人に殺されかねないからだ。
でもそれがいけなかった。そのパンツの持ち主はまっすぐに俺の上に落ちできて俺はその女の子の下敷きになってしまった。
「おい。敏明大丈夫か。?」
有栖が俺の心配をしてくれるなんて、何年ぶりだろうか?そんなことを考えながら、腰を押さえて立ち上がるとその女の子も腰をさすりながら立ち上がった。
「ずいぶんと、おもしろい訪問の仕方だな。神主の上におっこってくるとは。」
「え?ここ日本語通じるの?」
「なに寝ぼけてんだよ。ここは日本連邦だぞ日本語通じなくてどうする。俺は神主の神島敏明。これが巫女頭の柏深(かしわみ)有栖。そいで、これがこの神社 の神様の神 楽。あんたは?」
「えっと。」
まさか落ちたショックで記憶が飛んだのか、それとも混乱しているのかとじっと俺たち3人が彼女を見守る。
「気室神社界守の東雲澪と言います。巫女のような物です。」

「つまり、こことは別の世界の日本にある、神社の娘さんだったけど、参拝客が減ってきて、神様のチカラと存在が弱くなってくるのを恐れてこの世界にやって き たと。」
「この日本は西暦何年ですか。」
「答えられない。でも西暦はとっくの昔にフルカウントを起こして終わったよ。」
「一応、ここには電気も水道もある。でも、そこ…。」
俺が話しているときに澪が話を割ってきた。
「あの。ガスは?」
「ガス?無いよ。何それ。」
この言葉に澪はショックを受けたようだった。
その後つらくなったらいつでも相談においでと言って、神楽の式に送らせたのが去年の今頃だった。
そして。
「巫女としては仕える神の手を煩わせるようなことは…。」
「分かってます!でも今私の家族で、相談に乗ってくれるのはウズメ様しか居なかったんです。]
澪が仕えてきた、神様の気配が消えたというのだ。
「…あれ呼ぶしかないのかな?」
「呼んだ?」
こう唐突に現れるのが、俺の友人で、一国の高官であるあいつの得意技だ。
「…なーほど~。話はだいたい分かった。でもなあ。解決までには早くて三日はかかるぞ。」
この言葉にまるで、でっかいクエスチョンマークが浮いているような空気が流れていた。
「許可の処理がが長引いててな。管制省から、あいつに時空間渡航許可が下りるのが早くて3日後なのよ。で、うちは、目印でここに来たって訳。麦茶くれ。」
「どうぞ。」
3日後
「結局ね、神様が消えたって事は玉京に登録されてない神な訳ね。でも、正式な神様だから問題ないよ。イメージがあれば、100%復活可能。」
「お願いします。」
澪が頭を下げたが、それ以外は何も変化がない情景が5分くらい流れて、俺がしびれを切らした。
「なんもおきねぇじゃねーか。」
「米が空間超えるのにてこずってっからしゃあないよ。未登録神のリカバリは、開始前に、ライセンスの登録が必要だから。それを米に命じたんだけど、あいつ の尻尾はめっちゃくちゃふっさふっさしてっから、空間のどっかに引っかかってんじゃないの。」
『遅れてもーしわけございませーん。でも、助けてくださーい。』
その声に上を向いた俺たちは呆れる者と、驚く者に分かれた。神社の50mくらい上空に女性が一人浮いていたのだ。
「あれなんだ?」
「米。うちの式で、3大狐の一人。」
「あれが3大狐じゃと?尻尾がないではないか。」
「どっかの空間に尻尾の一本が引っ掛かってんだろうな。あいつの尻尾は九本に見えて、五十本有るから、渡航時はそれを思いっきり広げんだよ。さて。と。リ ン広げてやれ。」
不意に飛んだリンが、米と呼ばれた女性の周りを木刀で丸く円を描いた。
ズベチャ!
そんな音がして、米が地面の上に蛙のように落ちる。
「ラ、ライセンス登録完了いたしました。」
「うし。リン、MGCPU発動。ミッドガルドシステム上位端末を介しシステムとのリンクエンス開始。イメージを元に、対象の復元を行え。」
あいつの言葉に呼応し、リンの足下に魔方陣のような幾何学模様が浮き上がり、うっすらと二人の女性の姿が浮かび始めた。
「神には五つのランクがある。下神、低神、中神、上神、高神だ。ちなみにうちらはさらに上の最神というランクに属している。
中神以下は玉京の神霊庁に登録していなくても神様として振る舞えるが、存在にはある程度の信仰。つまりは参拝客の願いを必要とするわけ。
上神以上は、神霊庁への登録と魔導界総主による認識が必要になるが、信仰が無くとも確固たる存在と強大な力を得ることができる。
神様が消えた。そういう場合、その神様が中神以下のランクに属していたことを示すのな。
こうゆう場合、ライセンス登録といって、上神として、神霊庁に一度登録した後中神に戻すというまどろっこしいことをするのよ。でもねぇ、これで消えること はな くなるな。」
「「え?」」
「創造主の片割れが認識するんだ。並みの信仰とは比べものにならない俗界固定の作用がうまれんだぞ。
信仰が少なくても、ミッドガルド教徒から得られる信仰 をそのまま登録した中神、低神に振り分けるから、膨大な量の信仰が必要になるが、まだまだ、余りまくってる状態だもん。」
あいつの言葉にその場の空気がまたもや疑問符で埋まる。
「澪、なんて顔してんだ?」
「そうだよ。香屋子が困ってんじゃん。」
この声に今度は澪以外が、固まった。
「アマメ様?じゃなかった。早苗様!」
すでに、澪の目には、涙が浮かんでいた。
「はい、これ。」
あいつが取り出した、一枚の紙には、なにやら、アドレスのような物が書かれていた。
「時空間コード。これを連絡と撮りたい相手が居る場合にその相手のメールアドレスの前に付ければ、いくらでも連絡が取れる。」

「何じゃったんじゃろうか?」
「さあな。」