ALC-1

何がつらいって、今までろくに親子らしことをせずに大人になってしまったことである。そ もそも母のことをママとか母さんなんて呼べないのが一番悲しいとおもう。
まあこの決まりを作ったのは、何を隠そう私の祖父なのだから仕方がない。
私? 私は晶。これだけなら日本人に聞こえるかもしれないけど、本名はフェドレウス・アースキートン・ホルト・アキ・アルベルク・ランゲルハンス・コル ベットニルス・ラーニャラムージャ・キーナ・ソウラ・エル・ラルストムージャというんだ。…女だよ。母はかの高名なる蒼藍王国の三代目国王のハル ナ・リールシェル・ランゲルハンス。覚えるのがめんどくさいからって本名の一部しか覚えてないの。本名は、フェドレウス・ハードルナース・ホルト・ ハルナ・リールシェル・ランゲルハンス・ラーニャラムージャ・テルス・キーク・ソウラ・ラルストムージャ…確かに覚えるのが面倒だ。
ちょうど昼食の席だ。今食卓についているのは、上座から時計まわりに、母、父、母の従兄夫婦と妹、伯母、私、祖父、祖母(でもどう見ても二人とも30代前 半)だ。
「そう言えば、晶、これから買い物に行きませんか?」
え?…ちょっと姐さんの執務室で調べ物したいんですけど。
「…じゃあLSNにいますから。…あ、そうそう忘れるところでした。巨乳フェチの乳揉魔に注意してください。」
そう言って視線を祖母に流す母。祖母は全く気付いてない。…どうすればあの天然からこんなしっかり者が生まれるのか。
何かをはたく音がしたのでそちらを見ると、長相のリンさんが兄にあたる混神さんの顔面をはたいたようだった。あの人はとにかく、何をするにも無表情だから 困る。それに何か恥ずかしいという感情が欠落しているようで、あまり人目をはばかることをしない。
そうそう。姐さんが言っていた、「巨乳フェチの乳揉魔」は祖母のことだ。いつも背後から胸を揉んでいるけど、姐さん不感症だからもうすぐその矛先が私に向 くらしい。

今私がいるのは蒼天宮仁寿殿と言って、父の王国王相補の仕事場だ。前述の出来事が起きた。いつもの仕事部屋で仕事を片付けて一息つこうと思い読書用の本を 選んでいたら、いきなり胸をつかまれた。
「晶ちゃんも胸大きいねぇ。」
自分で言うのもなんだが私らしからぬ悲鳴をあげて、ここまで逃げてきたのだ。しかし今この部屋に父はいない。
代わりにいたのは母たちが悪魔と呼ぶものらしかった。自分の力を出せる限りだしたつもりだったが、男は最後にこう言って私を捕まえた。
「対処にてこずる王と聞いていたが何のことはない。他愛もないものだ。」
…どれくらいの時間がたっただろうか。男の悲鳴と女性の怒声で目が覚めた。
「貴様のその目は節穴か。わが娘と我を間違えるなどとは悪魔の元締めが聞いて呆れる。…にしても自分の体調を気にせずに戦おうとするとは。」
そう言って戦っていた女性が私のほうに歩いてきて、私の額に手をあてた。すると、今までと打って変わって体が軽くなる。
「晶、闘えますか?」
姐さんか。もちろん。
「き、貴様らは一体。」
王とその娘だが。
「…もうかたをつけたいとこですが我々の技ではこの部屋が…。そでした。」
そう言って姉さんが部屋の外に駆け出していくと。
「貴様だけなら。」
そういって男が近づいてくるが、さっきとは違う私の動きに翻弄されている様子である。それにしても本当に科学に頼るしかない様子だ。人間自体はあまりにも 弱い。
「聖修道会の真理を知らぬものに負けられるか。」
派生キリスト教は布教が禁止されているんだけどねぇ。
「……玉京送致。」
その一言が決め手だった。一瞬で男は消えた。
「殿下、大丈夫ですか?」
あははどうやら風邪をひいていたみたい。
「そうですか。」
私に声をかけてきたのは長相のリンさん。必要と判断したことしかしゃべらないので官吏の間では固いと有名だ。
「…どなたとお話なされているのですか?」
なんでもないと言いたいがリンさんのことだ。もう見抜いているところだろう。
「…あれが悪魔の元締めですか。本当に情けないですね。」
何が情けないのだろうか。
「少しは自らの力に頼るということを覚えないものでしょうか。完全に科学力に頼りきりで。」
人間なんてそんなものだと思う。なんの力ももたずに高々5キロ弱の頭で考えたことしか作り上げられない。まあその5キロが今や世界を支える5キロになりえ ているのは認めよう。だが生身では宇宙空間に出れないのは難儀だと思う。そのせいか、ここまで時間がかかったのだろう
「確かにそうですね。でも生身で宇宙に出て平気な顔していられるのは我々、神族と蒼藍族だけです。それから、悪魔を捕まえているのはデブリの問題もあるん です。」
どういういみなんですか?
「星間デブリはご存知ですよね。」
ああ、航宙機や、星間鉄道から剥離した機材や、事故で爆散した、航宙船舶に、戦闘で爆散した、航宙戦艦の残骸のことですよね。
「ええ。その星間デブリの実に70%はあの悪魔たちが作り出したものなんです。」
そんなん聞いてませんよ。
「聞いてらっしゃらなくて当然です。私以外でこの事実を知っているのは空官長と主上、そしてマスターだけですから。それに口外できませんし。」
そうなんですか。
「では、戻りましょう。明後日の準備をせねば。」
2日後。
Congratulations on the birthday I. …一人はものすごい空しいものですよね。実は今日は私の誕生日なのだ。でも母よりお客が少ない。
「でもけっこういるなぁ。どうだ、晶、お前のためのパーティだ。主役が落ち込んでてどうするんだ。」
話しかけてきたのは父だ。父はもとは一般人だったらしい。だが中学の時に母の通う学校に転校してきた。母とはなぜか幼稚園、いや前界からの付き合いらし い。
「ニャハ、ニャハハ。ニャ~ハハハハハハハハハッハハハハ。」
いきなり変な笑い声が上がる。
「バカリン、あれほど牛肉を食うな言うとったに。」
いったいどうしたのだろうか。混神さんに聞いてみると、
「ああ、そっか。あーさんはしらんのな~。リンは肉類、特に牛肉を食べると悪酔いするんだよ。だからな~。」
あれはリンさんの責任ではなく、確か担当者が、豚と牛を間違えて書いただけだそうですが。
「誰が担当だ?」
「…おばあ様です。」
「あれで祖母だからなぁ。皇太后も大変だ。」
わざとだ。絶対わざとだ。昨日リンさんの胸を揉もうとして、蹴られた仕返ししてるんだ。
「蹴った?リンが?馬鹿ゆうな。リンは絶対に。」
昨日見たんだ。ばあさまがリンさんに抱きつこうとして腹に蹴りくらってるの。ところで混神さん、星間デブリが悪魔のせいっていったい。
「星 間デブリのほとんどはAPSの故障によるものだ。まあ。星間鉄道はAPSが壊れても、軌道保護シールドにぴっちり覆われてるから星間デブリになる確率は極 端に少ないけどね。でもこの軌道保護シールドが結構厄介なのなぁ。中からぶつかってもなんともないんだけど、外からぶつかるとダメージを受けるんだよ。時 々無人の探査機がこれにぶつかって壊れることがあるんだ。でそれでできたデブリを狙って、悪魔が付近を航行中の航宙機などのAPSを破壊する。するとそこ にさっきのデブリが当たってバーンさ。まあ、悪魔は軌道保護シールドの存在なんてわからない。単にそこにある星間デブリにぶつけるだけさ。」
なるほど。じゃあLTAの船も被害に?
「うんにゃ。APSはA.Iに依存しないものがほとんどだ。だがこれだといざというときの対処がしにくい。でもLSN系列の交通会社はAPSとMPの間に HAPSというものを入れている。」
HAPS?
「Half Auto Pilot Systemの略だ。APSのように機械が運転することに変わりはないが、このHAPSはAPSとMP両方の長所を持っている。」
いったいなにがなんなのやら。
「まあわかりやすく言うと、A.Iが運転するのが、HAPSだと覚えてくれ。」
まだ話がつかめない。
「LSN 系列の交通各社の便には必ずA.Iが付属している。A.IはAPSとHAPS両方を監視、起動している。APSが何らかの原因で故障するとHAPSが運航 のすべてを担う。ほとんどMPだが、運転してるのはA.Iだからハーフなんだな。で、HAPSを故障させるには、A.Iのマスターボックスとゴーストエリ アを同時に消滅させる必要がある。破壊じゃなくて、消滅だ。。あとOSもね。でこれできるのはリンか、うちか、主上だけなのさ。」

娘が相手をしてくれない。話しかけようとしても空気のように扱われてしまう。なぜなのか。そう思って、甥の混神君に聞くと、
「あんたの嫁さんのせいじゃないの?」
と言われてしまった。そういえば、妻が娘や姪の胸を揉んで遂には姪に蹴られたと聞いた。なぜなのか。聞けば私と同じ理由だという。
「父さん、お話があります。」
そう言って、娘が私の部屋に入ってきたのはつい一週間前のことだ。
「母さんは大丈夫ですか?」
なに、野菜を巻く肉を鶏肉から牛肉にすり替えて仕返しをしようとしているくらいだからな。
「それは絶対にやめてください。」
すごい勢いだ。でもなぜだ。
「リンが牛肉で酔うのはご存知と思いますが、リンは酔うと、もう涼子か混神以外は太刀打ちできません。」
取り返しがつかないことになりそうだという認識はある。
そして今日。
「父さん、少し付き合っていただけませんか?」
いつもは髪を一つに束ねている娘だが、今日は下している。それよりも、どこへ行こうというのだろう。
「連邦です。」
私たちは、日本のことを連邦と呼んでいる。
この連邦は、この国の首都から見て、俗に天の川銀河と言われる銀河とそれが属する銀河群を領有する、連邦体としては小さいほうだが、国力はかなり大きい。
また、我が国の各州都と、主要都市が姉妹都市関係にある。
「父さん、恥ずかしいから、いちいち説明口調はやめてください。」
おっと。もうついたのか?
…ライムソフトウェア・エンターテイメンツコーポレーション。ここに何の用なんだ?
「別にどうという用はないのですが。要は待ち合わせです。同級生がここにいるので。」
「またせたな。これ、例のやつ。」
「待ってはないです。それから、これ、前回渡し損ねましたので。」
遥夢が、女性に渡した一枚のチップカード。それを見た、女性は、後ずさりし、ビルの中に消えていった。
「何を渡した?」
「教えなければなりませんか?」
「いや。」
「では、父様。」
遥夢が、彼をこう呼ぶときは何か企んでいるときである。
「父様のご用をば、済ませましょう。」
「俺のようか?そういえば、もうすぐ。おまえの誕生日だな。」
遥夢が盛大にずっこける。
「僕の誕生日は、まだ先です。もうすぐ誕生日なのは母さんでしょう。」
「ああすまん。同じ名前なんで間違えちまった。」
「ザイフェイル・グドニウリウヌノス・ゼイフィルサグベルバヌールスカ・サイフォリウルス・キーク・サイグレウス(この低支持率男め、一 回毒でも持ってやろうか)。」
バルが、アルティニアーナが分らないことを良いことにひどいことを言う遥夢。
「それでだ、プレゼントを買いたいんだ。」
「サイヌルファ・ジェイノルーヴォ・デイギャニュディフォート・ティアノルイ。(もっとわかりやすい冗談はないのか。いい年して。)」
「さあいこう」

「これなんかどうだ?」
顔が熱い。とても恥ずかしい。なぜなら、私はいま、妻へのプレゼントを選ぶために、娘と、デパートの化粧品売り場に来ているのだ。しかし、娘もほ とんど化粧をしないため、どんなのが良いのか分らない様子である。
更に二人は数十分粘ったが、さして収穫はえられなかった。しかし、そこへ、あのどこにでも顔を出すものが現れた。
「何探してるん?主上なら、このいろ合いそうやね。」
そういって、娘の後ろから、口紅をとる一本の手。甥の混神君である。
娘から、事情を聞いた混神君は、
「…なーほーねー。じゃあ、主上、ちと、顔貸して、それから、王父はちと後ろ向いてください。良いって言うまで。」
数分後。
「…まだね。…だー、動くなゆーとーに…まーだー。」
更に数分後。
「えよー。」
私が振り向くと、元々美しかった娘の顔が更に美しくなっていた。
「ファンで塗って、まつげつけて、前髪整えて、口紅つけただけなんだけんね。えらーえくなったやないの。」
その言葉に私はうなずいていた。
「あいつには何を買えばいいのかわかるかね?混神君。」
「これと一緒。これに合えば奥様にも会いますよ。」
「これって何ですか、これって。」
娘が混神君に突っかかる。
「これあげる。」
そう言って、何やら一枚の紙を娘に握らせ去っていく混神君であった。
そして、当の娘はと言うと、
「……そんな。僕としたことが。…父様。」
あの紙を見て肩を震わせ私に声をかけてきた。
「これを見てください。」
娘が私に突きつけたその紙には『たこ焼き1個100g』の文字。
「御願いです。連れて行ってください。」
涙を目にいっぱいにためて、私にしがみつく娘。しかし、場所が場所だけにとてつもなく恥ずかしい。
「分った分った。」
あの目には敵わない。妻と良い、娘と言い王家の女は泣き顔が可愛い。
駐車場に何故か混神君が用意していた車に乗り込み、娘の案内で目的に場所にたどり着くと、娘は、私を引っ張っていった。
「10個入1,000個!」
娘のあまりの勢いに、店主も驚いた様子だが違った様である。
「あ、あのね、お客さん、ちゃんとチラシ見ました?1個で100g有るんですよ?つまり10個で1kgですよ?」
「分ってますから、御願いします1,000個。」
何もそこまで泣いて御願いせんでも。周りの客はそう思ったに違いない。明らかなあきれ顔で娘と店主のやり合いを見つめている。
「そもそも1,000個は時間掛かりまっせ?」
「構いません。」
店主が根負けして作り始め、最初の一皿を私が娘に手渡した。
他の客も前代未聞の1,000kgつまり1t分のたこ焼きを注文した美女の食べっぷりに興味津々である。
大きなたこ焼きを一口で口の中に放り込む。口はもう、ソースと青のりまみれだが、娘は幸せそうだ。周りの客は唖然としている。
そうこうしている間にとうとう最後の一つとなった。
「う~~~~。」
さっきまでの幸せそうな顔から一変して、恋人と別れるときのように目にいっぱいに涙をためて、最後の一つを見つめている。私はどうしても見ていられなく なった。
「御店主もう500御願いできないか?」
「あんなに幸せそうに、しかもあんなハイペースで食べてくれる姿を見せつけられた後のこれじゃあな。断ったら、男が廃るってもんよ。1,000でも、 2,000でもどんと来いよ。」
その言葉を覚悟を決めかねる娘に伝えると耳元で小さく驚くべき数字を述べた。
「きゅ、9000~?」
そう。娘は、合わせて一万個のたこ焼きを注文したのだ。
「ででで、でも安心しなよ。いますぐに。」
そう言って、たこ焼きを焼きながらどこかに電話をかける店主。
どうやら、同業の士を呼んだようだ。
数時間後
「9000パックお待ちどう。」
娘の幸せそうな顔を見て、喜びがこみ上げない父親はいないだろう。
そんな私の感慨も気にせずに、むすめは、次々とたこ焼きを頬張っていく。
「そんなに急がんでも、誰も取らないだろうに。」
「は、はほやひは、はふいふひひはへはいほほいひふはいんへふほ。(たこ焼きは、熱いうちに食べないとおいしくないんですよ。)」
「分かったから、とりあえず頬張った分は飲み込んでから何か言え。」
まるで小さな子どもだ。
そうこうしているうちに、娘は何か別の動きも始めだした。
屋台に掲げられた値札を見て、どうやら支払いの準備を始めたようだ。
「御店主、全部でおいくらかね。」
「あ、あ~普段は、一パック320円なんだけど、これだけの注文だしな…。」
なにやら考えているようだ。
「おい、須藤っち、一気に一パック300円とかにしたらどうだよ。」
「うるせぇ。よし、締めて250万円てところ…といいたいところだけど、240万円でどうだ。」
パンッ
「240だな?じゃあ、240万サフィル、で!」
そこまで言って私は倒れた、後で聞いた話だが、娘が、履いていたブーツを私の後頭部に投げつけたという話だ。
「ふ~ごちそうさまでした。で、240万円でしたね。あいにく急いできたモノで、日本円の手持ちが御座いません。申し訳ありませんが、人質に彼をおいてお きますので、用意が出来るまでお待ち…。」
「お嬢さんが持っている通貨で240万円相当ならなんだってかまわんさ。」
「それでは、こちらでお許し願えませんでしょうか?」
そう言って、目を覚ました私の目の前で娘が出したのは、1サフィル硬貨2枚だった。
「えっと?」
「2サフィル。元々お支払いしようと思っていた、金額です。1サフィルが統一為替レート166万ですので、2サフィルで日本円換算332万円です。…迷惑 料も兼ねまして、3サフィルと言うことではいかがでしょうか。」
「えっと。」
御店主が戸惑っている。
「…小切手使わんの?持ってるんだから使いなさいな。」
やっぱり彼は、何所にでも現れる。
「ここはうちが出し得から、後で返してな。」
そういって、320万の小切手を店主に渡して、近くの本屋に入っていった。
この後、このたこ焼き屋は大繁盛したと言うが、私も娘も言ってないので真偽は分からない。
妻への贈り物は、混神くんの言うとおりで、とても喜んでくれた。
私も少し、アルティニアーナとやらを学んだ方が良さそうだ。

続…かないよ。次は全く別の話