L.C第十章 財産?
深紺暦42年7月8日19:23―東海道本線上寝台特急崑崙32号長京発東京、台北経由桂林行き18号車。座席タイプの夜行列車である。
「我々が同行してよろしいのですか?」
「みんなが居ないともちそうにないような感じだから。」
「あ〜遺産分配って何かと辛気臭いからね〜。」
母親の判夢が、勘違いから弘美が死んだものと思い込んだのは、混神が小5のときだが、かれは葬儀の当日の朝学校が休みだからというのと、
父親に前日にこの事実を伝え、ムービーメールで愚痴られたのが堪えたのか、12時までクースカ寝ていた。(葬儀は10時)その後代理で出ていた涼子に蹴ら
れて起きた。…ということがあった。
「あいつ、発掘に金かけすぎて、主上にうちが相談しなけりゃ、闇金に手だすきだったんだかんな!」
「混さんの話し訊いてると退屈しませんね。」
「でしょ、でしょ。酒が入るともっと楽しいよ。」
「めったによわねーのにか?」
涼子の言葉に正規がとう。
「おじいちゃんからの遺伝らしいよ。」
「それなら遥夢も…父方か。」
その通りだとばかりに涼子がうなずく。
大分駅
「見えなくなるまで見てたな。」
「ええじゃにゃーの。それよか次の阿蘇行きは?」
『8:32です。十二番線です。』
「ってむかい側じゃん。」
十二番線
「きたね。」
「ローカル線のわりに6両編成とは珍しい。」
混神の言葉にあきれる一同、そして乗車。最寄り駅で降り、歩くこと5分、清流のほとりに出る。そこから川沿いに10分璃茶の実家に着いた。家の前で嵩明が
待っていた。
「入ろう。」
玄関をあがると何故かリンが立ち止まる。実は潔癖症で乱雑に脱ぎ捨てられた靴を直したい衝動に駆られたが混神に引きずられていく。(挨拶したらいくらでも
揃えろと言われる)縁側を歩いていく。
座敷に入った一同。そこは葬式の後、死人の前とは思えない、異様に相手を警戒しあう空気が流れていたが30人以上の団体が現れるとさすがにみな一様に驚く
しかない様子であった。
混神が挨拶し。子供たちの面倒を見ると言うと子連れのものは我先にと混神の目の前に子供を置いていくが、彼は無表情でパルスに流す。
彼女も分かっていたようで、笑顔でスカートに抱きついてくる子供たちを目を細め見つめておりいっぱいになるとリンやジャグにも流していく。
リンは慣れた様子だがジャグは戸惑っている。そしてコイルシスターズに子供たちを任せ、自分たちは璃茶にお世話になっていると言うことにして(実際
になっているのだが)話し合いに参加する。
家の外。璃茶と遥夢がいる。
「すいませんこんな事に巻き込んでしまって。」
璃茶が謝る。遥夢は、珍しく遠慮もせずに家の塀の上に座っている。
「何で貴方が謝るんです?その前にお礼を言わなくては。蒼天宮では人間の死というものを実感することが出来ませんでしたからね。」
元々神族にある遥夢には「死」と言う概念がない。それもそのはず死なないのだから。神族は人間のように見えて人間ではない。
神族の分類は‐動物界・脊索動物門・哺乳綱・神人目・地神亜目・人型科・飛神属となるが、遥夢たちの場合、―飛神亜目・人型科・高神属となる。
また蒼藍王国の国民の95%を占める蒼藍族の分類は前者である。なお学名は存在しない。
これは、分類が極めて特殊であり、適当な文言が見つからないため仮称をつけるわけにも行かないためだ。ただし俗称的に前者は蒼藍族、後者は神と呼ばれてい
る。
元々神だから死んでも死ぬ意味がない。なら死ななけりゃ良い。単にそういうことだ。
「……混さんたちも巻き込んじゃったな。」
「巻き込んだって?」
「おばあちゃんは、他人とはあまり話さないんですけど、混さんとは仲がいいんです。ほら混さんなんか古いもの好きじゃないですか。」
「彼は、単にポニーテールに似合うものなら、何でも好きなだけですし、それがたまたま昔のほうに集中していたので、ついでにって知識吸収して行っただけで
す。」
「ま、まあとにかく混さんが来ると顔が穏やかになって。もちろん涼子とかとも仲いいですよ。でも私以上に混さんと仲良くて。リンの好きなものまで覚え
ちゃったんですよ。しかも然も自慢げに食べ方を報告するんです。」
「エクレアか…え!あの食べ方?」
リンのエクレアの食べ方はあの顔から想像できないほどに面白い。必ず三つ食べるのだが、一つ目は全く歯を立てずに一回で口の中に入れてしまう。
このときのリンの顔が実は混神の携帯の待ち受け画像になっている。そしてこの顔を混神はハムリンと呼ぶ。
ほっぺたがハムスターのように、膨れているのでハムスターのようなリンと言う意味らしい。可愛くもあり面白くもある顔だ。そして、ブラックコーヒーを一気
に飲み干す。
二つ目は味を堪能し、最後に巨大なエクレア(50cm)をこれまたハムスターのような挙動で20秒もかけずに平らげる。ちなみにこれは。藍蒼の
『A.I'sCAFE』でのことだ。
「魂の定義はなんだ?」
「魂に定義などない。人間は、何でも定義したがる。だから『世界一、偉い馬鹿』のうちを以って馬鹿と言わせて頂く。」
正規の言葉に対して自虐的な返答をする混神。
「定義は無いと。」
「そんなに定義が知りたいのか?」
「そういわれると困っちまうんだが。」
「強いて言えば、…語彙が少なすぎたわ。すまん。」
「いいけど、リンが呼んでんぞ?」
正規の指摘に振り向く混神。するとリンが手を振っていた。
「どした?」
「璃茶様がマスターにお渡しになられたものです。ご自分で持っていては紛失すると仰り私に渡されたのをお忘れですか。」
「遺言状か?」
混神が問う。
「シ・アイネリウス。レ・フェリオネリア・レンブリファリオヌス?」
「普通に言え。」
「さようです。それ以外にここでマスターにお返しする物が御座いますか?」
「ねえな。それにしてもあの紹介は参ったな。」
璃茶による混神の紹介は、彼女の顧問弁護士というものだった。
彼女の祖母は相続権の存在する生存が確認できた親族全員の住所を調べ遺言状を送ってきたがただ一人を除き、全員の紙面にはこう書かれていた。
『相続するに相応しき者の後見人にのみ真実を預ける。』と。そして、遺言状の届いた親族が一堂に会したが誰も本物を持っていなかった。そして混神が入って
きて一通の封筒を取り出した。
「ただいまより、本人の意向により本日まで未開封の閃河璃茶あての遺言状の開封とさせていただきます。…“おめでとう。これが本物である。
私、閃河家第26,745,673代当主、閃河御崎が死すにあたり、全財産のうち94.9923%を現本家総当主、閃河璃茶に相続させるものとし、残りを
3C社に寄付するものとする。
尚これは法律上有効であり、この書状が読み上げられしその時より、財産は上記のものとなる。”…以上ですね。」
「付則事項です。以上の文言は、蒼藍星間連邦王国長相、同国長相直属特務機関総合代表、及び、蒼藍星間連邦王国本国在日本連邦共和国全権大使立会いの下で
記したものであり、
一切の不正がなく、また譲渡一時間前まで、蒼藍王国総合最高裁判所にて、厳重に管理されていたことを、立会人を代表してここに宣言します。」
そこまで一気にしゃべり、りんの顔が青くなる。彼女の性質から行ってここまでしゃべったのはおそらく初めてではないだろうか。
「それはおかしいだろ。」
だが混神とリンはそれだけ言うと外に出て行った。
「終わったんですか?」
「まあね〜。」
「ところで私は一体どちらの大使なんでしょうか。」
それは気にするべきであろう。
「リンは、ああいいましたが、あれはリンが気を利かせたんですよ。」
「どっちなんですか?」
「貴方の国籍はどっちだっけ?」
「王国です。」
きっぱりと断言する璃茶。
「とどのつまり、璃茶さんは、王国の大使な訳。それも国王直属のね。」
「ちょっとまって下さい。国王直属大使ってことは、普通の大使は?」
「北官長司下、人型A.I用行動体。」
「今一意味が分かりません。」
璃茶の質問に遥夢と混神が答える。だが最後の遥夢の言葉でいっそうこんがらかったようだ。
「簡潔に言おう。璃茶以外の大使は全員A.I用の行動体でそれの保有者は北官長というわけ。
「…そうですか。それはそうと、この度はどうも有り難う御座いました。」
お礼を言うが皆ただただ笑うだけで言葉がない。だが皆ウザそうな彼女の親戚を黙らすことができほくほくしていることに代わりはなかった。
蒼天宮
「ますたー、ますたー。」
ホンが廊下を走っている。
「ホン姉、何度廊下を走るなと言ったら分かって下さいますか。」
「リンちゃん!ますたーは?」
「マスターには緊急の事象以外取り次ぐなと…。」
「緊急、緊急。緊急なの。…リンちゃん、伝言で、『璃茶さんが、京都を案内したいと言っていて今京都の支店のそばにある、高校時代の友人の家にいる
そうです。』と主上が。」
「はいはい。わかりました。」
「あー。今子ども扱いした。」
ホンは見た目12歳ぐらいなのでよく子ども扱いされる。
「マスター、よろしいですか?伝言で、『璃茶さんが、京都を案内したいと言っていて今京都の支店のそばにある、高校時代の友人の家にいるそうです。』と
主上が。」
「…ホンか。」
「はい。」
「リン、パレットトールで言いか?」
「はい?」
「リン酸パレット+トールでパレットトール。四人で3ユニット。」
「あ〜、はい。」
パレットトールの構成は不知火、リュイ、リン、パルスである。
「さてと行くかね。」
「はい。」
次回はねた晴らし。
