第21章 新たなる方針


なぜあの二人は結ばれたのか。それを語るにはかなり昔のことを語らねばならない。
今の世界とは大規模な戦闘の有無と、緩やかな連合体の有無を除けば今の世界となんら変わりない。そんな、ひとつ前の世代の世界それをわれわれは『前界』と 呼ぶ。
そんな世界の話。

西暦25,652,016年
蒼藍王国首都ポルトマーレ
国立青玉大門中央高等学校1-B
「で、私が何したから責任を取れと頭の固い教師連中は言っているわけだ?」
一人の長い髪を一本に束ねたつり目気味の少女が同級生の男子をにらみながらいう。
「おいおい。そんな目で見るなよ。」
「仕方がないだろう。その前に何を理由に会長職を辞させようとしているのか突き止めろ。さもないと蜂雷球を浴びせるぞ。」
男子生徒はあわてて駆け出していく。
「ふう。…もしもし?ああ父様か。…それは恥ずかしいからやめろと言ったはずだ。私に譲るのは勝手だが、学校での会見は何が何でも阻止するぞ。
…な!そんなお爺様が?そんな。あんなに反対されていたのに、何で。…混神?そういえばE組にそういう奴がいたな。それがどうした?…従兄?私の?
それで彼がお爺様の心を変えた?そんな莫迦な。じゃあその混神が新たな長相となるのか?」
「お呼びですか?会長。」
「しるか。」

怒りつつ翌日
5月7日
「で?何であんたは私の足元に膝まづいているわけ?」
「殿下のお父様から婚約者となって欲しいと言われまして効して挨拶に。」
「私のいるところでその呼び方は、やめろ。それから顔を上げろ自分の席にもどれ転校生。」
先ほどの少女の足元に一人の男子生徒が自発的にひざまづいていた。そして少女の言葉に顔を上げ彼女の後ろに座る。どうやら彼は転校生らしい。
「そんな端正な顔してなんで父様の頼みなんて聞く?」
「殿下のお姿があまりにきれいだから。」
「…私のことは遥夢とよべ。呼び捨てでいい。それから敬語はやめろ。」
さてここまで呼んで気づいて者もいるとは思うがこの遥夢、今のとは話し方が違う。
「明日会見があるそれに出席する意思はあるか?」
「何の会見かにもよるがでる。」
「私の即位会見だ。」
『ドメイン以外が同一のアドレスよりそれぞれ2件のメールを受信いたしました。』
「どういう意味だ。」
『一つ目はluna.kingdom.rounya@laplace.co.ra 二つ目は、luna.kingdom.rounya@3c-llc.net.raです。なお、後者は時空変換衛星をいくつか経由しています』
「なら後者を出せ。」
表示されたメールは次のようなものだった。
『初めまして。蒼藍星間連邦王国第3代国主国王、ハルナ・リールシェル・ランゲルハンスともうします。
混神さんには次界の存在であると言えば理解していただけると思いますので説明してもらいますよう宜しく御願いします。
ですが簡潔ではありますが自己紹介をさせていただきます。私は世界は違いますがあなたと同じ存在であります。
ですがあなたがこれから経験するであろうことは私が生きるこの世界では起きません。
それ以外はあなたのいるその世界と同じで
す。いつかあなたにすべてを明かすときが来るはずです。』
「涼子〜タッチペン貸してくれ。」
「また?いつもいつも忘れすぎだよ。」
教室の後ろで話す二人を見て首をかしげる遥夢。
「あれが?まあいい。おい御山とかいったな。ちょっと聞きたいことがある。」
「ほいなんでしょう?」
混神は何時もどおりだ。
「次界の人間で私と同じという者からメールが来た。これを読んだ上で私に何か教えてくれ。」
「もしかしてもう1通来てませんか。おそらくそれがうち宛かと。」
「…ならはやくよめ。」
『蒼藍王国第25代長相御山混神
貴殿に対し玉京を通しての貴殿の国王への情報開示を命ずる。情報公開キーを付属しこの書簡を送付す。
蒼藍星間連邦王国第3代国王ハルナ・リールシェル・ランゲルハンス 連名:同国第3代王相補瑠美乃正規 同国第35代長相御山混神 同国第35代長相直 属特務機関室長フェドレウス・リン・コンコルド・リンクリス
追記
前界情報集積条約に基づきA.Iを同封しているが気にするな。気に入ったら使ってもいい。』
「どういう意味だ?」
遥夢がとうが混神は、遥夢の額に手を当てて一言転送と言っただけだった。
「ありがとう。」

今界
蒼藍星間連邦王国首都州ルネスティアラ項ベイリア県惑星中枢都市藍蒼市第1特別区蒼天宮
「主上。いきなりA.I造れって。」
「仕方ないじゃないですか。あのときのあなたは何か報酬がないと動かないんですから。」
「けっ。」

翌日
「何で学校で会見するかな〜。」
「まあまあ。」
昨日のよる家に帰った遥夢は、父親から即位会見のときに一緒に婚約会見も行うと言われ父親に頭突きを食らわしたのだった。
「で、決めたのか?長相ってのをどうするかは。」
「既に法律で当国籍の従兄弟と決まっている。よくわからんがどうやらE組の御山になりそうだ。まさか判夢おば様の子供だったとは。」
今界の話となるが現在遥夢には60人以上の従兄弟がいるがその約半数は御山家の人間だ。これは遥夢の父親の姉の子供であるわけだ。
遥夢の父親には1人の姉が居り母親には12人の兄弟がいる。そして遥夢の母のすぐ上の兄の子供が現在の蒼藍王国の真西の隣国、ラルト王国の国王なわけだ。
ああそうそう会見はあまり関係ないのではぶく。
青暦5年
「結婚?」
「そうだ。相補は王の『配偶者』じゃなきゃいけないんだろう。それに…ええいまどろっこしい!とにかく結婚しよう。」
だが遥夢は怯えた感じである。
「す、少し考えさせてくれないか。もうすぐ講義が始まる。それから三日後には返事を返そう。それから1ヶ月の間に凍結していた権限に関する講義を行う。」
「なあ涼子…涼子?少し暗くないか?」
「混神が行方不明なんだ。」
正規の質問に暗い口調で涼子が答える。
三日後
「改めて私から申し込む。結婚してくれ。頼む。」
遥夢が頭を下げて、あのポニーテールが大きく揺れて遥夢の前に居た正規の顔に当たる。
「俺はもうお前以外の人間とは結婚しないと決めていたから嬉しいぞ。」
「そうか。なら口調を少し変えないとな。そうだな…こんな感じで如何でしょうか…正規さん!」
「な。何だいきなり。」
「あなたが好きだから。あなたが一番好きな口調に変えただけですがいけませんか?」
これでいつも通りの遥夢になった。

以上が簡潔であるが馴れ初めだ。

蒼藍星間連邦王国軍総合旗艦用第12世代高等戦闘可変可能機動大型空母併用戦艦リールシェル級第壱番艦リールシェル主艦橋
「主上たちの馴れ初めをご本人の口から聞くのは新鮮ですね。」
混神の奥でフォルダを抱えた状態で艦長席の遥夢に話しかけると、彼女はコーヒーの入ったマグカップを台に置き、むせた。
そんな時大急ぎでピュアが駆け込んできて、リンのスカートにしがみついた。椅子の背もたれから遥夢がかおをだしている。
「こ、怖いですぅ。」
ピュアがリンの顔を見上げて涙を浮かべながら言う。
「な、何でそんなに逃げるのさ。」
そんな声に混神が後ろに椅子を傾けて顔を出し、声の主を見たとたん主っきり盛大にひっくり返り、後ろに背中合わせ(通路を挟んで)で座っていた涼子の背中 を蹴飛ばした後、腰をさすりながら起き上がり、
「と、塔潤。太ったな〜。にしてもお前まだそのロリコン治ってないの?」
「ロリコンはステータスだ希少価値だ。」
「な〜に訳解んない事言ってんのよ。」
塔潤こと冬騎の言葉に涼子が後ろに隙を作る。
「隙を作るとは武をつかさどる神としていかがなものかな?」
「え?」
涼子が頭に手を回すと一本に纏め上げていた髪が下ろされている。
「わ。ねぇ、ねぇ、返してよ。」
「何で?偶には良いじゃん。」
「それが集束帯の役目果たしてるんだから。」
集束帯とはそのものの力の流れを整え、束ね、安定させる道具である。そして、涼子やリン、ラファエルに遥夢はその髪型自体が集束帯にあたるわけだ。
そのためポニーテールを解かれるともう自棄になって解いた相手を討つ。
「そういえばリン、お前何時からポニーテールだっけ?」
正規が問う。
「7週間前です。」
確かに今までリンは首の付け根辺りでまとめていたが今わ少し跳ねのあるポニーテールだ。
「うぐっ、こ、怖いです。」
「…姉さん、泣くと余計悦びますよ…ほら。」
リンのスカートにしがみついて顔を出しているピュアに話しかけるリン。その頃艦長席の遥夢とその横に控える正規は別のことを話している。
「重力加速レンズ?」
「ハイ。リンは今翼を展開してますよね?」
「ああ。」
「われわれの中ではリンが一番重力強制操作能力に長けています。ゆえに彼女は自らの飛行時にいくつもの重力場を自らの前方に作り出し自らを加速していきま す。
これを応用したものが重力加速レンズなんです。理屈はこうです。まずは、対象物の進行方向上に、円形の重力場を作成します。これは対象物の進行方向側へ陥 没しており速度を30倍に増幅します。
また之が二つ連続していた場合二つ目を通過した際の速度は第一レンズ通過時の2乗速となります。例えば30km/h進行する物体があるとします。
前方には2連の重力加速レンズがあります。一枚目を通過すると、物体の速度は900km/h、そして二枚目を通過すると物体の速度は 810,000km/hとなります。
では此の艦の主砲の弾丸射出時の速度はどのくらいですか?」
「350km/hだよな。」
「そうです。そして展開するレンズの数は5枚。レンズ間の距離は130mです。ここから分かることは?」
「…光速はもろに超えるな。となると…おいおい。」
「そうですレーダーや目視する前に破壊されます。それも貫通と言う形で動力部を破壊されて。
この艦はこの重力加速レンズを使うことによって速度を350km/hから、146,614,363,875,000,000km/h(146京6143兆 6387億5000万―)即ち146,614,363,875gm/h(1466億1436万3875―)ぐらいになると言うわけで、
元速の418,898,182.5倍になると言うわけですね。之がリールの3大不可視の1の不可視攻撃です。ちなみに、弾丸自体が持つエネルギーは低いで す。
再発射までの時間を短くするために。」
「速過ぎて見えないっちゅう訳な。」
おいおい正規そんな説明で分かるのかと言うわけであるが簡潔にいえば(350×3)2×5と言うわけだ。
「次に外面のカラーリングです。これと艦自体の形状により、可視光確認、反射電波確認、流動エネルギー誘導磁場依存型常温エンジンによる艦全体の温度一定 化からなる、赤外線カメラによる確認の難化。
以上が3大不可視の2確認の不可視化です。
「一つ良いか?」
「何ですか?」
「温度一定化って何度に?」
「外部は-270℃、内部は25℃です。中壁に断熱版がありますから、内部温度が外部に伝わる心配はありません。それから最後に、透過シールドの存在で す。
このシールドは大変強固で、大体の兵器は通用しません。そして透明ですから、存在も気付かれません。これが3大不可視の最後、不可視防御です。
そしてこのシールドが此の間が不沈艦といわれる由縁です。」
「なるほどね。」
「お嬢様、主砲整備完了いたしました。尚第三メインエンジンに関しましてはもう十分ほどお待ち下さい。」
「鳴滝、あなたはソルト庁所属ではないのですから。」
「ですが一度メイド長をやってしまうとこの呼称が体に染み付いてしまいまして。」
その言葉に押し黙る遥夢。
「あ、…お嬢様、艦内全整備完了との報告です。」
「…そうですか。リー、速力開放30。初期固定。リン、重力開放レンズ、間隔145(m)にて連(続)14(枚)展開。」
「了解。速力開放30初期固定完了。重力干渉型加速レンズ展開後10秒後に出ます。」
そのときリンの言葉が艦内全体に響く。
『重力干渉加速レンズを展開開始。連14展開のため艦内にも多少の重力干渉の可能性有り。艦内移動中搭乗員、及びエンジン関係のものは重力干渉による、発 動異常に注意せよ。』
そのときゆっくりと前方の情景が奥に向かって大きく凹む様に歪み出した。
「重力加速レンズ指定数展開を確認。初速指定解除、速度固定。」
ゆっくりと進みだしていた巨体がいきなり光を圧倒的に越える速度で宇宙のかなたへ飛び去る。
さてとここでリールシェルのエンジンの解説を少々。この艦はメインエンジンが8、補助エンジンが12ある。ただし使用したエネルギーは艦内再使用、燃料不 要と言うわけで、スラスター式のエンジンではない。
というのも、まずエンジン内に大量の電気エネルギーを流す。ここで磁場を発生させる。そしてこの磁場発生部の周りに整磁機構と呼ばれる部品がある。
これは発生させた磁場をどの部分から放出するかを定めるものでこの装置が壊れると、艦は爆散することになる。
さて発生した磁場は惑星重力との反発や推進に使用されるが砲撃の際はリンの重力加速レンズや弾丸収束にも転用されるそしてこの磁場は新たな磁場をも生み出 す。
と言うのも補助エンジンは発電機の別名だったりするのだ。メインエンジンで生まれた磁場は補助エンジン内で電磁誘導による発電を行い65%がメインエンジ ンに、35%が艦内の各部に供給されていると言うわけだ。
またこのメインエンジンはエアコン一台分の電力で始動し、一台が始動すれば次々とほかのエンジンも動き出す。また始動用の電気は翼にあるソーラーパネルの 太陽光発電でまかなわれる。
ゆえに燃料がいらない。いるのは乗組員の食料と水だけ。
「ところでさ、混神がむかつくのは?」
「うそこいて押しかけてくる借金取り。鼻に指かけて放り投げて、それをリンが、けって、ビスがトスして、ラルが踵落しで高度300mから打ち落とす。今 頃はクコに切り刻まれているだろうな。」
うんざりした様子で話す混神。
さてとここら辺で終わりにしよう。