L.C第22章 なんだか大騒ぎ
県立大門高校校長室
白いブレザーに黒のネクタイ、青地に赤のチェックが入ったひざまでのスカート、ツリ上がり気味の目に鼻筋の通った顔、床につく長さのポニーテール。胸に
は、来校者の名札の少女。その横には緑のブレザーに白いネクタイ、めがねをかけたなかなかの顔の青年。向かい側にはこの学校の校長と生徒
指導。
「国立藍蒼学院附属青玉大門中央高等学校、総合生徒会会長、御屋乃遥夢です。こちらは総合生徒会情報管理局総合サーバー室室長の御山混神です。
本日はお忙しい中押しかける形になってしまい申し訳ありません。本日は、当校総合生徒会警備委員会実動部長の、巫剣涼子に関してです。
昨日彼に命じて、文化省(文部文化省)のサーバーにて彼女の情報を確認いたしましたところ、貴校との二重在籍になっておりました。
貴校に置きましては既に原級残留処分の対象となっていることは確認済みです。当行に於ける彼女の役割は大変重要なものであります。
そのため早急に原級残留処分を撤回し、当校への移籍処分と言う扱いに変更願いたく参りました。
本来かような用件は担当の教諭の職務ではありますが、生徒のこととなると熱い当校ですので、生徒会会長の出向にてお許し下さい。」
いきなり遥夢は何を言い出すのだろうか。というのも、担当官のミスで、涼子の在籍が2校にある状態になっているわけだ。大門高校では欠席が続いている状態
で、既に留年が決定しているのだ。
そこに遥夢が在籍記録を青大央に統合したいと言ってきたのだ。だが校長たちは困惑している。無理も無い。
青大央の生徒会は、各科の会長はクリームのブレザーに藍色のネクタイ、副会長は、藍色のブレザーに朱色のネクタイ、
総合会長は、純白のブレザーに、蒼藍色のネクタイと決まっているのだがこの総合生徒会、職員会の決定にも口を出すことができるほどの権力がある。
「そ、そんな急に言われても困りますよ。」
「蒼藍王国空官長の籍を学生国官情報共有法にもとずいて移動しようとする事の何所がいけないんですか?」
「…だから?」
急にぎらっとした目つきになる校長。
「そちらがなさらないのでしたら、こちらで強制的に執行しますがよろしいですね?」
現代
蒼天宮
「非人類総合擬人化機構?」
「簡単に言えば、人間以外の全ての物を擬人化し、さらに、話すこともできるソフトだ。」
「今なんつった?」
「う〜、主上、これを見てくれ。」
正規との話の途中にいきなり遥夢に話しかける混神。
「混神、いったい何でそんな少女、逆さづりに?」
「やっぱりそんな風に見えますか。それじゃ、不知火、フィルターを外しゃ。」
『畏まりました。非人類総合擬人化フィルター解除、ゴーグルモニター解除。』
そんな声がした10秒後、甲高い悲鳴が蒼天宮を包んだのは無理もない。混神がゴム手袋と防菌スーツを着て持っていたのはアゲハチョウの雌の成体だったのだ
から。
「いや、いや〜。近寄らないでください。鱗紛だけでも無理です。いったいなんですかもう。混神も不知火も僕を実験台にして。」
「でよ、昨日、お前が俺に暮れたこのチケットだけど…。」
正規と混神は、遥夢の抗議を無視している。
「ふたりとも!」
まだ無視を続けている。
「それでだ。明日の件だが、どうする。」
「あんさんのことやがね。うちに訊かれたかて困らさな。」
そこに一人の女性が入ってきた。背格好や顔立ち、容姿などは遥夢にそっくりだが、髪の長さと服装が違っている。
「姉さん何騒いでるの?」
「ティオですか。…なんでもありません。」
「ティオ?」
「ん?ああ、涼子は滅多に会わないから知らないか。主上を含めた一卵性の六子の五番目のティオ殿下だ。」
まあ普通の人間の場合多卵性の六児などはあるかもしれない。だが一卵性はさすがにない。だがそこは神と呼ばれる種属である。現に遥夢もすでに七児の出産経
験を持つのだから。
「リンバス、ティオに関する資料を。」
『主上の御兄弟に関する情報は、王父の許可がないため、閲覧することができません。』
『警
告!警告!ファーストエリアとのリンクが切断されました。このため、A.Iコード、Lenuq-a-0001-002の動作安定が保証できなくなります。
リンクの回復まで対象の休止を行います。なお、これに伴い、Lunaha-8673-124-001-Eilの強制起動を行います。』
いきなり女性の声でアナウンスが起こる。リアの声ではない。
「どういう意味だ。」
「リアは、ファーストエリアとリンクしている。だから、涼子の真正意識を捜索する際に必ず動員された。
大海嘯から唯一自力で戻ってきた者だからな。でそのときに、時空管制省と3Cによって、現在の仕様に変更されているんだな。」
「ならなぜ、ファーストエリアが?」
「ファーストエリアは消えないさ。3Cが所有しているからな。日本連邦にマークスウイルスっつう企業があるが、これがリンクディメンションに介入してきて
さ。
いきなり許可してないのに10.6以前の空間を消去しようとしているわけさ。」
「政府は何も言わないのですか?」
「まあ。」
「おかしいじゃないですか。」
「はは。…じゃあセキュリティボールの使用を許可してください。」
セキュリティボールはサイバーネットの情報値を基底値に保つためのソフトである
「リアがなければ現在のネットワークシステムは維持できませんからね。
…わかりました。LLCサイバーネット特別関連法に基づき、時空管制省管轄のセキュリティボールの1/4を3C管轄とし、事象解決まで自由に使用していた
だいてかまいません。」
『セ
キュリティボール、バージョン13.65.04.87.90、総数1456億2457万3269機、所属変更完了。
及びバージョン
26.73.00.239.487.695、総数129万4532機所属変更完了。所属変更完了機から随時、ファーストエリアの情報値修復開始。
A.I
コード、Lenuq-a-0001-002の動作安定確認まであと10分。』
『動作安定が確認されました。A.Iコード、Lenuq-a-
0001-002を休止状態より復帰いたします。
……。大変お待たせいたしました。Lenuq-a-0001-002フェドレウス・リア・コンコル
ド・リクヌアリウスの休止状態よりの復帰が完了いたしました。』
リアの声が響く
「リア、早速で悪いがお前にセキュリティボールを付与するぞ。お前のサイバークリーナーシステムを強化するからな。」
「…。ところでさ、そのマークウイルス社がどうかしたのか?」
「本省への許可申請無しに進入禁止ドメインであるはずのファーストエリアを不正にフォーマットしたというわけだ。」
「なんでだ。ファーストエリアはフォーマットされたら、消滅しちまうしファーストエリアが消滅したら、リンクディメンションも、サイバーネットも、イン
ターネットも全部…。」
「おん。そしてそれに接続している端末のシステムもすべて、崩壊していく。」
「それじゃあ、マークウイルス社の商売も成り立たなくなるんじゃ。 」
「まあ、V.C.P専用のリオニスネットワークだけは消滅しないからね。」
「リアは?」
「動作が不安定になるだけで捜索用の改造部分を外せば元にもどりますから。」
『マスター、Lv.0で捜索を許可してください。』
「いったい誰を捜索する気だ?」
『巫剣、巫剣誠司博士です。』
「だれ?」
正規が同じ名字だった涼子に聞くと、
「ねえ、リア、もしかして僕のおじいちゃん?」
『さようでございます。巫剣憲蔵氏のお父上。涼子さまのおじい様であらせられます、藍蒼大学電脳学部医療応用学科教授の巫剣誠司博士です。』
「なんでお爺ちゃんが?」
「先
の大海嘯の折、一時的な意識不明になった貴方の状態をいちばん最初に疑い自分一人で助けに向かったんです。
そして、昨年ファーストエリアの最奥に反応が確
認されました。
ファーストエリアの最奥にあるエンファンストガーデンのさらに奥にある山の頂上の建造物の中なんです…。
混神、独立行動体をリアに。」
その言葉に、その場に他全員が素早く動き出す。ただ一人事情をつかめていない涼子を除いて。
周りの喧騒から一人浮いた感がする。もとより甘えん坊であり、さみしがり屋の涼子である。
これに耐えられるかどうかと混神は考えていた。
案の定涼子の目に涙が浮かんできた。そっと声をかけようかと思っていると涼子の肩に白い手が置かれる。
「涼子さま、泣くなら隅で。」
リンである。以外に冷たい。
「…それ早くいえっつーの。」
払いながら涙をぬぐう涼子。
「ほないくで。」
混神の言葉に全員がこぶしを突き上げるが、当の混神はほっぺたを人差し指で書きながら、苦笑いをしている。
サイバーネット/リンクディメンション
空間バージョン1.0.0.00.0.01
ファーストエリア
「水平座標は蒼天宮と同じにいたしましたが、垂直座標は、蒼天宮のいちばん上、後宮のあたりですね。」
「久しぶりだな。」
「…おいおい、自分の存在を孫に偽ってどうすんの。」
いきなり後ろから声をかけられ振り向くと、壮年の男性が白衣に手をっ突っ込んで立っていた。
混神があきれた顔で彼に話しかける。
「だれ?」
ポカーンとする涼子にため息をつく男と混神と遥夢の3人。
「巫剣誠司博士です。」
「いや〜再放送のらきすたは面白かったねえ。」
「しかし、君にとってはみゆきさんの眼鏡は許せないのでは?」
「でもポニテじゃないからどうでもいいねえ。それに岩崎の感じがどことなくこいつ(リン)ににているんだよね。」
「いわれてみればそうだねえ。…ということは必ず2話は録画したのか?」
「おん!」
「おいおいおい。」
「こいつは昔っからそうだから。」
「そういえば、混神は大体そういうの見ますねえ。」
「はは。主上だって電脳コイル夢中になって半日以上見てたじゃないですか。」
「う…。っそ、それは。」
遥夢、巫剣、混神のはなしはもっと複雑なのだがある程度はしょってある。
「おれたちについてこいとは言わないよな。話に。」
「話についてこいとは言わん。で今日は何故きた。」
「お貸ししていたA.Iの返却と、こちらにお帰りいただきたく。」
「それはできない。」
「いえ。すでに更新のためのデータが劣化しており、3Cでもいつまでこの空間を維持できるかわかりません。
ぼくはできるだけこの空間は保存していくつもりです。ですが先のマークウイルス社のような輩がいつ現れるかもわかりません。おねがいです。お孫さんのため
にも。」
「ここにいちゃコミケにもいけんだろうに。」
「そそれは。」
いちばん混神の言葉が聞いているようだが。
「コミケだけでなく、ようやく復興し終えた秋葉原に中野や42区にも行けませんし、新刊も買えませんよ?」
「……じゃ帰る。」
簡単な男である。
「あははは。ほな、リア、ここにいる全員を現行の蒼天宮の独立サイバーへ。」
「畏まりました。空間バージョン67.33.05.008.923、現行サイバーに移行します。
移行時にデータの欠損等が発生する可能性が若干存在いたしますので移行開始までに修正データをご用意ください。」
現行サイバー
「話は変わるが、鉄道車両って大量生産だろ?だから、事故にあったやつなんてすぐに解体なんじゃないか?」
「ええ。大体LTR以外の会社はそうだとお聞きしております。」
正規の質問に遥夢が答える。
「どういう意味だ?」
「LTRはほとんどの場合正規運用の車両と予備運用車しか作りません。ですから事故にあってもなおします。特にA.Iが入った列車は…。」
「もしかして動かすのがめんどくさいんじゃないのか?」
「おそらくね〜。あははははははははは。」
遥夢はほとんど大声で笑うことはないといえる。
「だがLTR以外の会社が使い捨てなのは確かだ。」
「それにしても、混神は何か信念はあるのか?」
「あるお!」
満面の笑みでこたえる混神。
「ポニテの人に心の曲がった人はいない。」
「それ信念言うのかあ?」
「違うんじゃないんでしょうか。」
「なるほどね。まあいいんじゃない?ここに居る限り、あながち間違いじゃなさそうだし。…ってこら混神、抱きつくな。」
顔を赤らめる涼子。混神は彼女に抱きついた後かたまっている。
「そういえば、混神、この前、リンに長相を譲るって言ってましたよね。ですから新しく国王補佐官と、国王代理を作っときました。どうせ混神のことですから
両方両方やりますよね。」
「にゃっはははは。アンパンマンはなしだよ。」
「ア、アンパンマン?」
「そう。混神がアンパンマンのパロディっつうかアンパンマンを擬人化してさ。これがまた、今まで見てきたアンパンマンの擬人化とはまた違った面白さが
さ。」
「はあ。」
涼子と遥夢の会話の途中でリンがいつもの声を出す。
「りん?」
「われは裁定者。判定者が名のもとに裁きを下さん。わが名においてくだされし裁き甘んじて受けよ!」
何もない虚空を見据えリンが叫ぶ。
「リン?」
「まさか電脳空間にも出っ張ってくるとは思わんかったな。通界判定者の名に置いて、われに仕えし全ての式を召喚せん。」
その言葉ののち、周辺にたくさんの何かの気配が出現した。混神が何やらつぶやく。そしてその何かが実体化していく。
「我名において、かの世の秩序乱せし者を捕え纏めよ。」
「我、焔の眷属をここに召喚し判定者の式を補佐せり。」
黒い光をためたリンとその背後に控える赤い炎の数々。コイルシスターズも駆け付け、それぞれ構えている。
「なんなんだ?」
「我々、神と敵対する種属。端的に言えば悪魔だよ。正確にいえば理不尽な理由ですべての世界の領有権を主張し続けている人間たち。」
「人間?」
「そうなんの力も持たずにただ単に科学に頼っている。そんな人間たちの集団。」
「R.G.S.Mスタンバイ、重力加速レンズ15連、間0.02にて展開確認。空間相転位開始。」
「空間相転位に対する反動波を確認。波動先端の銃底部への接触を確認。空間相転位反動波エネルギー変換開始。」
結
局、パルスからハリセンを借りた涼子が、リンと混神から式神を借りて相手に突っ込み、
死屍累々の情景を作り出し後日悪魔側から玉京にたいし蒼天宮経由で抗
議文が来たが、
ことごとく無視し続け、軍に命じ国内(属国含む)の悪魔の拠点をことごとく消滅させ、
これに対する抗議にはさらなる強烈なインパクトの返答
で黙らせてしまった。