L.C-S第1章 目覚め

そ の列車は唐突に現れた。超過密路線である、特別特急線の中でも比較的空いている本線高速線を使用し、4複線の1番外側を雪を巻き上げながら、一本の列車 が、静かにホームに入ってきた。紺と白を基調とした、通常の編成と違い、紺と深い緑を基調とした、とても暗い色合いである。
『お客さまにご案内します。ただ今、1230番線に入線した列車は、蒼藍王国政府専用列車であり、お客さま方のご搭乗はお断りさせて頂いております。ご了承ください。』
その列車から降りてきたのは、わずか6人である。

いきなり、警報が鳴り響き改札口が閉鎖され、電話も不通。ネットワークは、一部を除きズタズタに寸断され、JRや私鉄各線、路線バスやタクシーも運転を見合わせ。そんな中、LSNグループの傘下の交通各社は何事もないように動いている。
『本日正午過ぎ中都長京第一都心を中心に発生した、通信障害は現在、日本半島全域に波及し、各地で、交通機関や、警察、消防無線に多大な影響が出ています。この状況に際し、総務省電波通信局長の村瀬氏は…』
『現 地時間の7月8日正午過ぎに日本連邦首都中枢地域で発生した通信障害は、現在、日本半島広域都市圏全域に波及し、各地で、様々な通信に影響を及ぼしていま す。この状況に際し日本連邦総務省電波通信局長、並びに、蒼藍王国北官時空管制省広域通信管制局長、3CTAから、声明が発表されています。…』
「教授、どうかしたんですか?」
「ん?ああ。ほら、これよ。まさか、自分の生まれ故郷で、こんなことが起きるなんて思ってへんもんね~。」
「ああ、日本の通信障害ですね。私も、親に電話つながんなくて困ってたんですよ。」
「そんなら、私の電話あげる。知り合いにもらったんやけど、通信障害にめっぽう強いのよ。」
「でも、教授は?」
「こう言ったらあれだけんね。その知り合いに新しいのもらったんやけど古いのどうしようかって、困ってたんや。壊れてへんし、下手な、携帯より物は良いしでな。リオナには、いつも世話成ってるさかい。そのお礼のつもりや。」
藍蒼大の一画、木々が生い茂る林の中にある普通の一戸建てぐらいの大きさの建物の中で、同大教授の摂津真朱彌と、ゼミ生のリオナが、話している。
「えっと?」
「イメージングコントロールが実装されてるから、相手の番号を思い浮かべるだけでええんよ。」
そのとき、真朱彌の携帯に電話がかかる。
「ん?誰や?」
長京の3大シンボルの一つ、善光寺本堂内のびんずる尊者像の前に、あの五人が居た。
「お久しぶりです。少々お聞きしたいのですが、真朱彌さんは確か、京都総合仏教大学のご出身でしたよね?…そうですか。ありがとうございます。」
何を聞きたいのかは別として、懐かしげに本堂の奥に視線を向ける女性。彼女こそ、この物語の主人公の遥夢である。
「空間裂孔開きます。」
「何懐かしげに見てるかって思えば、一番薄い空間探してたんか。」
空間に溶けるように、五人の姿が薄れていく。
中国地方の農村
「オイ、とし坊、そちがその気なら、わしにも考えがあるぞ。」
「その気ってどの気だよ。」
恥ずかしいところをお見せしました。L.Cでは、ちょくちょく番外編として私の生活が取り上げられていたので、ご存じかと思いますがそうでない方もおそらくいらっしゃるでしょうから、自己紹介をば。
私は神島敏明。神主です。幼いころから、神様に囲まれて育ったせいか、神様など居ないという人を見るとかわいそうで成りません。そして、今私が話しているのが神楽。私の妻であり、神様であり、狐であるわけで。
「今から、強制的にぬしの子種を頂く。反対は認めぬ。」
「あの龍神とやらか?」
「それもあるが、わしの意思もある。」
「とにかく、この神社の地下にミッドガルドシステムの上位端末が出来るまで待ってくれ。」
「分った。然し、必ず子供を作るぞ。」
最後の言葉に俊明ははなから飲んでいた麦茶を吹いた
『お電話です。』
その呼びかけに逃げるように社務所に入る俊明だったが。電話を終え、出てきたときの顔は、のちの神楽の言葉を借りれば、阿修羅だったそうだ。それ程までにひどい憎しみを彼に抱かせた相手が、この神島稲荷に逃込もうとしているらしかった。
「ど、どうしたのじゃ?い、いつもの、お、おぬしらしくないのう。」
恐怖を神楽に抱かせるほど彼の放つ気は、すさまじいものがあった。

「いやー暑いですねぇ。おや、巫女さんが軽装とは。珍しい神社ですな。」
「西 暦25,652,017年青歴2年、ある一人の少女が、家族と共にその16年という短い生涯に強引に幕を下ろされた。たった一人の軍事おたくのあまりにも 身勝手な行動によって、その少女のみ成らず、銀河団が丸々一つ吹き飛ぶほどの大惨事が引き起こされた。そしてその張本人はいまだにのうのうと生きてい る。」
「何の話をしておるのじゃ?」
「本来、この神社を次ぐはずだった、柏深有栖がこの世から消え去った事象さ。そして、その事象を引き起こした、たった一人の長命の猿、赤渕洋!もう、貴様の逃げ道はない。」
やってきた男に気をぶつける俊明。男は吹っ飛び、尻餅をつく。
『待て』
「何故だ。こいつを殺さねば、あいつとの誓いを果たせぬ。真に神楽の夫になることなど出来はしない。」
『誰も止めはしない。然し、おまえには、単に気をぶつけるだけしか出来ぬだろう。故に、我が母の力を暫し授けようぞ。」
境内に響く混神の声。そして、泣きの入った俊明の声。
「これを言えばいいのか。」
独り言のようにつぶやく俊明
「我、正神神楽が僕なり。創造主リンクリスの名の下に、彼の神に仕えるべき巫女を殺せし愚か者の成敗がために創造主の力暫し借り受けん。」
俊明が放つ気がうっすらと青白い光を帯びる。
「一体何なんだ。失礼な神社ですな。」
「馬鹿が騒いでるわな。」
そう言う混神の後ろから、何気なしに顔を覗かせた、真朱彌。男を見ると、飛びかかろうとした。
「お、押さえて押さえて。朱雀さん押さえて。」
「あいつのせいで、あいつのせいで。あいつのせいで、父は!」
「え?」
「当時、王国の新鋭艦の医務官だった父は、あの悲劇で首から下が麻痺して、まだ寝たきりに。」
「……こっちの方が能力…ん?…めっけ。」
そう言って、男に近寄る混神。
「大変だねえ。こんな奴に使われて。」
そう男の持つ携帯端末に話しかける。
「構造からして可能か。…オーラルマスターとして命じる。汝が使用者の末梢神経より、逆行信号を用い、汝が使用者の運動中枢を麻痺させよ。」
混神がそう言うと直ぐに男の動きが止まる。敏明は思いとどまった。しかし朱雀の顔は血に染まった。男の頭を自らが持つ力を解放し潰したのだ。
「お疲れ様です。」
その行動が当然とでも言うかのように男の血で出来た血溜まりの中に立つ遥夢。
「とし坊、湯の用意が出来たぞ。その子を入れて差し上げるのじゃ。」
「やっぱり、並の人間じゃないな。要は、単なる猿じゃないもとい、猿には該当しない。」
「どういう事?」
敏明と神楽につれられ社務所に向かう朱雀の後ろ姿を見つめ混神がつぶやく。
「総合生物事典第四十五巻328ページ展開!」
『指定ページ展開します。』
「………やっぱり。」
「何が?」
涼子が疑問を述べるが、そこにとしあきがもどってきた。
「メルディナ族だ。」
「メルディナ?」
「セルリア・メルディオール・ヒューニオンスという、DNA組成から、外観、臓器形状、骨格形状そしてそれらの配置に至まで、人間とほぼ100%同じ下神目の動物です。」
「人間よりも高等な生物だがな。」
遥夢と混神の言葉に涼子は、
「で、誰が?」
「スーさん。」
「そのメルディナ族の特徴は?」
涼子の問いに、
「ん~大体、名医って言われる人はメルディナ族であることが多いよな。」
「はい。」
「まあ、簡単に言って、薬品の錬成に長け、芸術に対して、高い感性を持つ。かな。」

「ルーリア?」
「は?涼子なんか言った?」
「んーん。」
そんな二人の後ろから、笑い声があがる。
「ルーリア・サーニャル・イーベル・フェース。」
「馬鹿それ以上言うな。」
「何で?」
「それ神級魔法の発動呪だぞ。」
「どんな魔法が発動する?」
敏明が訪ねると。
「…ルーリア・サーニャル・イーベル・フェース。フェル・ライヴィオ・エル・レル・フェンデリオル。シアーナ・リンクリス・サイドロヌクス・ベルグェストゥス。あ~…誰にする?」
「は?」
「いや、これ冥界者召喚呪文だからさ、死者を蘇らせる魔法な訳。」
「じゃあ、柏深有栖。」
「了解。エル・セイアル・ルナハ・エル・リンクリス・ベル・カシワミアリス・セル・アン・ゴーザレス・レイリアーナリア。」
「なんて言ったんだ?」
「創造主リンクリスの名において、柏深有栖の死を解除することを命ずる。じゃ。ところで有栖は、儂とぬしが結ばれておるのを知ったらなんと言うかのう。」
敏明と神楽が話している横では混神とリンが足下を見つめて何やらつぶやいている。
「我が名において対象とのパスを強化、冥界よりの道を明確化。」
「素体準備。」
元々、有栖は巫女の一族であり、敏明には、何の感情も抱いていなかった。そもそも、彼を男としてみていたのかさえ微妙であると言える。
蘇生が終り、服を着て、敏明をちらりと見て、社務所の中に入っていった有栖。しかし、悲鳴ともとれる奇声を上げて、出てきた。
「おい、敏明、あの人、何者だ?背中にすんごい模様があったぞ。」
「ああ。セントラルドグマ回路か。」
「セントラルなんだ?」
「セントラルドグマ回路。相手を見た瞬間に相手の弱点を即座に突くことの出来る武器を生成することが可能な回路さな。」
混神が笑いながら答える。
「混神が持ってるのはもっと複雑だよ?だって、左腕に刻印されてるからね。」
「丁度良いのが来たな。セントラルドグマ発動。対象殲滅用ゲノム生成、並びに転写因子生成。」
「何をどうするの?」
「セントラルドグマって知ってる?」
「DNAから、タンパク質を生成する過程を示す単語ですよね。かなり古い。」
混神が、ポケットから、紐と、いくつかの小さな物体を取り出し小物は放り上げた。
「速度六万、時間制限ただ今より二十秒後。」
『武器生成を開始。生成終了予定、ただ今より十秒後。』
きっかり十秒後、混神は、一本の大きな楕円形の物体を持っていた。
その後の話は、余り関係ないので一時間分飛ばす。

「ここ最近、ここがどんどん汚れていく。」
「ミッ ドガルドシステムのせいさ。ミッドガルドシステムは上位端末以上の端末は構築時に最低でも五人の人間の血を必要とする。今までに既に8人吸ってる。それに 99.36%構築が完了してる。後は、ミッドガルドCPUを使用してのテストを99.50%を超えた時点で行い問題がなければ100%にし、最終調整で、 1000%にする。人間の血が入っていると、システムに、神の意志が通りやすくなるからな。」
「完成まで後?」
「テストまで10分テスト成功から100%まで2時間そこから完成まで更に2時間。ただし、神楽の状態にもよるが。」
「は?」
「妊娠している、女性が、ミッドガルドシステムの上位端末以上の位階の端末の半径30m内に居たら、その放つ波動が悪影響を及ぼしかねないのだね。」
「それから、うちはこれで帰る。」
そう言って、混神が立ち去る。
A 「あいつ、蒼藍王族で一番人間嫌いだからな。たとえ、それが、近しいものであっても、相手が、人間だと分ってしまうとそれ以降はもう絶対に関わりを持とう とはしなかった。それまで仲良くしていたものでさえもな。元々、俺たち蒼藍族や、神族に比べて人間は、あまりにも短命すぎる。中には、長命種って言って、 長く生きるもの居るが、大体は詳しく調べれば人間じゃないことが分る。
朱雀さんのように人間でも、あいつが今まで、親しく接してきたものは、大体、99.99%人間である別の種族、人間にはない、特殊な能力を持つものだ。たかだか100年程度しか生きられない短命種は、恐らく、あいつの記憶には残っていないだろうな。
あいつの100年は、多分短命種の人間にしてみれば、1秒にも満たない。そんな短時間の思い出など、あいつの記憶に残っているとしたら、それは、俺たちか、俺たちに準じる親しい奴が絡んでるだろうな。
あいつが心を許しているのはリンか、涼子だけだろう。
そして、この中で唯一の純粋な人間、ホモ・サピエンスが。あえて言えば、俺も、この場を去りたい。しかしな。…柏深有栖、おまえが、単なる長命種なら良かった。」
「どういう事?」
「あいつの頭には、あらゆる、種族の特徴がインプットされている。当然長命種もな。
しかし、おまえはあまりにも、短命種臭いんだ。
俺たち、蒼藍族や、神族は短命種の人間を毛嫌いしている。理由は分るか?
分らないか。
あ まりにも傲慢なんだ。たかだか100~200年程度しか生きられないのに、永遠の命を持つ、神々と同等の立場を要求する。余りに自惚れが過ぎるんだ。だか ら、俺たちは、特に混神は、短命種の人間を薄毛の猿と呼んで毛嫌いしている。あいつが、対等と認める種族は最低平均寿命が1京を超えるものだけだ。それ以 下は、犬猫程度にしか考えていないだろう。そんな奴と同じにおいのするあんたから、あいつが一刻も早く離れたかったのも分る。もちろんあんたを貶す意思は ない。しかし、あんたを、あいつが嫌う理由は理解してくれ。」
「正規、あんた、今まで、一回もアルティニアーナ話したこと無いのにどったの?」
「ほっといてくれ、今すごい機嫌が斜めってるからな。」
それから4ヶ月後に話は飛ぶ

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新たにL.Cを仕切り直しました。4年前と比べて少しは文才が上がっていると信じたい。