L.C-S第14章 新米の王と宰相と夫婦漫才

「殺す気ですか?」
遥夢の問いは彼女の体質を少しでも知っている物からしたら至極当然なものであった。
彼女たちが訪れたのはバイキング形式で食べ放題の焼肉屋。そして、遥夢は先天性の特定動物性タンパク質拒絶症。
たこや、いか以外の動物性タンパク質を摂取することが出来ない。しかし焼肉屋はその通り牛や、豚や、鳥の肉を焼いて食べるところである。
「でも、タコの姿焼きとかお寿司とか有りますから。」
そう言う混神。
「さあ、はよ席つこ。私腹減ってしゃあないわ。」
真朱彌に促されて席に着く一行。
さて、真っ先に焼くものを取りに行った混神が持ってきたのは、明らかにタンの比重が大きい5種類の肉と山盛りのタコと、野菜。これには、全員ずっこける。
「涼子〜追加で後持ってきて〜。タンとタコ忘れないでね〜。」
そう言って、混神はまた席を立つ。
「ちょ、混神は何しに行くのよ。」
「何って特製だれさね。」
数十秒後混神が持ってきた、皿の中身に対する反応はそれぞれだった。
見ただけでげんなりするもの、においを嗅いで、鼻をつまむもの、少し舐めて顔を輝かせるもの。
まあ、顔を輝かせたのは遥夢とリンであり、やはり血がつながっているから好きなものは似るのだろうか。
何でもかんでも、肉や魚介類ならそのたれで食べる3人。
「なんで、平気で食えるンや。それ以前に何が入ってるんや。」
「レモン汁と、大根おろしとニンニクですけど?」
「すごい組み合わせやね。ん?リンさん何所に行くんや?」
「たれの作り置きと、薬味の取り置きを。」
「わたしもいってええか?」
頷くリン。
「なんだろうねぇ。リンも真朱彌さんには心を許してる感があるねえ。」
「一番昔の自分に似てるからだよ。三創器を作る前の自分に。数少ない慈悲の心とかを許しの錫杖に詰め込んじまったからなぁ。」
混神が遠い目をしてつぶやく。
「なんか楽しいですね。」
アレルが正規に話しかける。
「アイルーンではこんな事は?」
「俺は生まれたときから、リオナの夫となることが決まっていました。とはいえ、俺がリオナに初めてあったのは14か15の頃です。一目惚れでした。
俺は、俗に言うヘタレでしたが、凛として、民のための王であろうとするリオナを見て、彼女にふさわしい男になって彼女に告白しようと決めました。
今でもヘタレ名部分はありますけど、それもこれから直していこうと思っています。
まあそんなことは置いておいて、アイルーンでは俺は、完全な管理社会の中にいて、こんな同年代の友人と食事をするなんて事は絶対にありませんでした。」
「そうか。俺は、一般の出だし、遥夢は、大人達を逆に管理してたうえに、こういうことを企画するやつが、いつもそばでバカ騒ぎしてたからなぁ。これがいつ もだったから、そうか。これは確かに楽しいのかもしれない。
よし、アレル。俺たちも肉取りに行くぞ。それから、敬語やめろ。俺とおまえはもう仲間だ。友達だ。友達で敬語使うのはおかしいだろ。」
正規の言葉に少し考えて、
「でもはるなさんは?」
と問うアレル。
「ああ遥夢はもう別枠だから。おい遥夢、なんか飲み物持ってくるか?」
「に〜?」
「おい。誰だよこいつにコーラ飲ませたの。」
完全に酔っ払っている遥夢を見て正規が叫ぶ。
「ああ、それは、そこの人〜。」
メロンソーダを飲みながら、答える混神が指したのは真朱彌である。
「あ〜そういえば、希望を言わなかったやつの分は、真朱彌さんが適当に見繕って…何で気づかなかったんだよ。おい。」
「真朱彌さんの手元にある間は発泡が極端に抑えられていたからね。単にブラックのアイスコーヒーとでも思ったんじゃないの?」
「へへ〜。あれ〜正規さ〜ん、何たってるんですか〜?」
酔った状態で遥夢が問う。
「あ?なんか取り行こうと思ってな。」
「そ、それなら、ピーマンお願いします〜。」
何故、ピーマンを希望したのかは分からないが、とりあえず行こうとすると、
「これ持って来といた方が良いぞ。」
と、混神が一枚の紙を渡してきた。
「タコとイカの寿司とイイダコ一皿?」
首をかしげながら歩いて行く二人と入れ替わりで戻ってきたリンと真朱彌。
「リンさん、もっといろいろお話ししてーな。」
真朱彌の言葉には応えず、じっと、真朱彌を見つめるリン。
「な、何や。…えっと、これって、あの時間的にはこれ話せないからだまっとったゆうことなん?」
こくりと肯定するリン。
「うぇ〜。」
遥夢がうなる。
「主上、そば茶飲みます?」
「いただきます。……う〜。やっと落ち着きました〜。」
そういって、飯蛸の丸焼きを口に放り込む。わざとか偶然かはわからないが、八本の足が、口の外に飛び出す。戻ってきた正規がそれを見て噴出した。
「そういえばな、この前、うどん屋行ったんよ。そしたら、神楽が居てな。なにしてんのって聞いたらさ、バイトしてるんだと。問題は給料なんだけど時給 750+特製油揚10枚だって」
「何その給料。」
神楽を知る6人が大笑いする。もちろんリンもである。
「そういえばさ、リンて、笑う以外の感情を表すときは、ほんとに無表情だよね。まあ、笑うのも、声だけだけど。」

翌日
また、正規の補習につきあい登校した、一行。
「あれ?教授がいらっしゃいませんね。」
リオナは、真朱彌のことを教授と呼ぶ。
「真朱彌さんなら、昨日の夜に、緊急便で、連邦に向かったよ。何かすごい焦ってたな。」
そう言いながら、ものすごい低いテンションを見せる混神。この後、涼子が、上に乗り、いつものテンションに戻るのだが、それは省く。
「あ〜あ。なあ、俺たちって、神様なんだよなぁ?」
「いきなり何を言い出すのかと思えば、そんな戯れ言かいね。うちらは正真正銘本物の神さね。それも、創造主から生み出された、最も初期の最も強大な力を持 つね。」
「でも、混神は間抜けだから、あんまりその力使おうとしないんだよね。」
「そうそう。」
ここまであっけらかんとしているのも珍しい。
「おまえはどうして、そんなに悪口を目の前で言われて平気なんだよ。それに、涼子も、何で、本人の目の前で言うんだよ。」
正規の言葉に対して、二人は、
「だって、涼子だもん。」「混神じゃなきゃ言わないよ。」
と、認めているからなのか、蔑んでいるからなのか分からない、言葉を返した。
「それにしても游げないのな。」「游げないねぇ。」
二人から言われて、へこむ正規。
「で、でも、10mは游げるようになったんだぜ。」
自己弁護をする正規だが、
「嫌々、せめて、25mは游げるようになろうよ。バタ足で。」
「それは混神だけ。そっか。10m游げるんだ。」
「じゃああと2.5m頑張ろうぜ?」
「2.5m?なんでだ?」
「後2.5m、游げるようになれば12.5m。つまり、25mプールのあの中央の線まで游げるようになるというわけ。たった2.5mだけど、10mと 12.5mじゃ全然違うよ。10mじゃ中途半端な位置だけど12.5mだとプールの半分だもんな。」
混神が語るが、自分も、実際あまり游げないのだから威張れたことではない。
「そうか。そういうことか。」
「いや、納得するなって。」「なんで納得するの?」
ここまで息のあった異句の突っ込みも珍しいのではないだろうか。
「そういえばさ、秋子のデータ照会してたらさ、面白いモノがあったから今度秋子の了解得て、A.I化しようかなってさ、そういう風に思ってるんだよね。」
『許可ならいただいてありますが?』
(実際にモデルの闇R@DIO様より後述のキャラクターの使用許可を頂いております。闇R@DIO様ありがとう御座いました。)
リアの言葉に転ける混神。
「あいっかわらず仕事早〜。」
「面白いモノって何?」
涼子が寄る。
「ああ。あーさんの人格。それも隔離人格。」
「や、闇?」
「闇伯爵。簡単に言うと、神楽のしゃべり方を正規風にした性格のあーさん。」
「えっと?性格は、神楽で、話し方は俺で、容姿は秋子と言うことか?」
正規の問いにうなずく混神。
「隔離人格ってどういうこと?」
「不知火みたいな感じかな。主上は今は3重人格者だけど、それ以前は7重人格者だったしょ。その中で最も力の強かった、つまり、創造主としての気質を持っ ていたのが旧第6人格。つまり今の第3人格の不知火。今の主上のA.Iよ。」
さて、そう話していたが、さりげなく、その間に混神と涼子は正規から少しずつ離れていた。と、いうのも、
「まーさーきーさーん?いい加減に泳ぐ練習しないと、このまま水の底に沈めますよ。」
話している最中から、殺気を纏った笑みを貼り付けた遥夢が、正規の後ろに立っていたからだ。
「あれ?もうお話いいんですか?」
「う、うん。だって、ほら、遥夢も、長い間水の中にいるのもつらいだろうし、正規の練習の邪魔になるしね。」
「女性に冷えは禁物だからなぁ。主上もご無理なさらぬよう。なんならお手伝いしますが?」
「そうですか?それじゃあ、昨日のあの板貸して頂けますか?」
遥夢の要請に、無言で、そして、怯えながらも、あの高い浮力を持つ白い板を差し出す混神。
「さて、続きをやりましょうか。」
「ま〜だ10時にもなってねぇんだぁなぁ。」
「「はぁ〜?」」
確かに時計の針が指し示すのは、9と10の間。長針はやっと7にかかったところだった。
「9時34分40秒を過ぎました。」
「ところで何でリンさんがおるのや?」
「リンは、学年主任と、理事会との連絡役も兼ねますからね。ここは、学園のちょうど中央部。
どこに行くにしても同じ移動距離ですから自分の研究室よりも、 機動性が高まるというわけです。」
『改称手続きの完了を報告します。リールシェル級第三番艦、長門を、大和へと改称しました。』
「やっと終わりましたか。」
そう言って、遥夢が止まる。
「わぶ。い、いきなり止まるんじゃねぇ。」
「正規さん、大和と聞いて何か分かりますか?」
「やまと?…西都の大和か?」
「僕が言いたいのは、旧大日本帝国海軍大和型戦艦第一番艦の大和のことです。」
「一週間ほど前、かねてより、主上が命じていた、リールシェル級三番艦長門に関する、命名妥当評価調査の結果が主上に届けられました。
結果は不当。その理由として、モデルとされる、長門は、確かに建造当時世界最大級であったが、
それもすぐに奪われ、また、長門の装備を参考に艤装した、三番艦の装備はすでにそれを大きく上回る物に換装されており。長門の命名は不当と思われる。とい う物です。
そこで主上は、軍の、艦船命名総合判定会議に長門の改称を申請。許可を取り付けたことで、妥当なる艦船名の選定に入りました。
過程の説明は省かせて頂きますが、最終的な決定では、旧大日本帝国海軍大和型が、日本人の心に最も強く残る戦艦であり、
大和という勿来、日本人の心に最も 響く艦名である故、新艦名を、大和とすることを決定。
会議に掛けられたのが一昨日です。」
リンが遥夢に代わって説明する。
「全長5万143m、最大幅2万43m。最高速度430TPckt/m(テラパーセクノット毎分)、回頭半径25.36km。最短標準規模艦隊殲滅時間 73分46秒。この際に使用する、戦力最大56%。
リールシェル級の中で2番目の戦力だね。
それだけじゃなくて、戦艦として、航宙船舶として、リンクリス級ネームシップに次ぐ美しさを持ってるの。」
涼子の説明に真朱彌が恍惚の表情を浮かべる。
「大和は分かったから、泳ぎの練習続けてくれ。この状態すごい恥ずかしいから。」
「ところで、いつまで、これやる気なのかな?」
「10時半まででしょうか。」
考えながら、遥夢が、つぶやく。
「ま、まじかよ。」
そう言って、正規がうなだれるが、そこは水の中すぐに顔を上げる。
「あぶね〜。」
これには、遥夢とリンを除く関係者全員が大笑いする。
「「バカ。」」
意図せずハモる創造主コンビ。
「「ばっかみて〜。」」
これは御山夫婦。
「うるせ〜。そういえば遥夢、あ?ああ。やるから、答えてくれ。何で、王国宙軍には強力な戦艦があるのに攻撃を受けても戦わないんだ?」
正規が顔をひきつらせながら問う。
「戦う必要性が感じられないからです。王国軍は基本的に一定以上の戦力、攻撃を感知しない限り応戦しません。
そしてその一定値以上の攻撃耐えるために非常に強力な戦艦を構築しているんです。
それと、必要以上の命を奪わないために戦わないというのもあります。
強力強固な戦艦は、王国の強大な国力を国外に示し、国威発揚に利用されています。
ですが、その反面、奪わなくても済んだはずの命まで、奪う羽目になってしまっているという現実が存在しているため、王国の戦艦は、無駄な戦闘をしないよう にしているんです。
平和のため、民の安寧のために創られた王国軍が、何の罪もない人たちを、殺している。
そんな、結果にならないために出来る限り、戦闘を減らしたい。無駄な戦闘は。しなくて良い戦闘はせず、攻撃は必要最低限。それが、王国軍の応戦の基本で す。」
何とも長くて説明くさいセリフである。
「じゃあ、何で、あんな大きな戦艦が必要なんだよ小回りのきく小型戦艦で、強力な攻撃一発撃ち込めば良い話だろ?」
そう正規が言ったところで、遥夢の顔が曇る。
「そうは言っていられないのです。リールシェル級といい、リンクリス級といい他国にはまねの出来ない、超巨大艦が存在し配備されている。そして、その艦の 装備がひとたび火を噴けば、小国はおろか、中規模の国でさえ、一夜にして、無に帰すほどの威力を持つ。そんな国を相手に戦えるはずがない。そう、他国が思 い、実際にそうできるほどの実力が存在する。そう。抑止力として、王国軍のシンボルとして、王の乗艦として、あの二級は創られたのです。」
『緊急警告。LMTより、『リールシェル級第三番艦の改称に断固反対する。』との書簡が。』
「「…あ〜!」」
大声を上げる遥夢と混神。
「そういや。建造中の二番艦の名称が大和に決定してんだっけ。」
「そうですよ。リンクリス級二番艦大和。すっかり忘れていました。」
いきなりシリアスな雰囲気を間抜けな空気に換えるとはなかなかLMTもやると混神は考えていた。
LMT、リオニス・ミリタリオン・テクニカ。王国軍に納入される、機材の一切の最終制作企業である。LSC(リオニス・シップアンドボート・コンストラク ション)によって、基体が制作された戦艦は、ここで兵装を施され、戦艦として世に出る。
「リ、リールシェル級よりもリンクリス級の方が確かに大和の名にふさわしいな。」
「でも、後、日本ぽい名前と言ったら。」
「扶桑。扶桑があるじゃん遥夢!」
興奮した様子で提案する涼子。
「あ、あのよう、そう言う話、プールから出てやってくれねえかな。俺、何か寒くなってきた。」
正規が、半ば呆れた様子で、皆に語りかける。
「それもそうですね。正規さんの泳ぎもだいぶらしくなってきましたし、後は、泳ぎ込みだけですね。」
この遥夢の一言で、5人は、プールサイドに上がる。
「この生暖かさが、学校のプールサイドの醍醐味だなぁ。」
そう思うのは、混神だけだと皆感じていた。しかし。
「ああ。おれ、いま、何となくそれ分かる。」
と正規が言ったものだから、言い出しっぺの混神も含めて、一斉に正規から離れる一同。
「な、なんで、離れた!」
「離れたくもなるわ。そういうこと言っていいのはうちだけぞ。」
この言葉にうなずく一同。
『リン先生、至急、事務室にお越しください。』
呼び出しがかかり、リンが居なくなる。
「競泳水着というか学校指定の水着は、体のラインがぴっちり出るから、うかつに太れへんねぇ。」
「とはいえ、蒼藍族系統は脂肪の吸収量や蓄積量、蓄積場所を細かく任意に指定できますし、第一録に太りません。正規が良い例です。」
「それがどないしたんや?」
「あの〜真朱彌さん自分の種族思い出してくださいよ。」
「わかった上でゆうとるんや。」
真顔で言う真朱彌に対して、混神は、あきれた顔をする。
「な、なあ、もう十時だぞ。おわりにしようぜ。」
「そうですね。じゃあ、最後みんなで競争しましょう。」
げんなりする正規をよそに、混神が音頭をとって、水泳大会が始まる。

結局真朱彌、涼子、遥夢、リオナ、混神、リオル、正規の順となり、着替えた後、どこに行くかという話となった。
「お?みんなこんなとこでなにやってんの?」
「ああ、侑子先輩。これの補習してたんです。」
「うん、図書館で調べ物してたらさ、気になったことがあったから、君か、遥夢君に聞こうと思って探してたんだ。」
「へえ。」

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