L.C-S第18章 俗に言うあれ
「俗によく言うよね。人生は小説よりも奇なりって。」
「兄さんの場合は、ラノベ並みにあり得ないことばかりだよね。」
「人に言っても主師以外は信じてくれないのよ。」
リンと混神が話している。
「さてと。向かうか。」
リンクリスは、日進月歩の科学技術に対応できるよう、ある程度の先進冗長性を確保して設計されている。しかし、その、冗長性ですら吸収できないものなども
ある。エンジン、非質量性兵器の高出力化などである。
『総員作業中止。繰り返す。総員作業中止。これより第三代主師第35代太宰閣下、同第三十六代長相閣下視察開始である。』
そのため、大規模な設計変更などが行われ、このように、新規建造となる。もちろんリンクリスと常に結合し稼働する、機動戦艦のサクラUも同時に新たに設計
図を書き起こして建造される。
新規建造と、兵装、艤装が終了すると、旧艦から乗員の私物や、メインフレームなどを移動する。
「つ〜終いにゃ怒るぞ〜。」
「遥夢。まだ、起動しないの?」
建造ドックは攻撃を受けていた。
「サクラが来ません。」
「サクラ無くてもいけるんでしょ?」
「サクラが無くては最大出力の3割も出ません。」
この言葉に固まる涼子。
『第二ドックより連絡サクラUチェック完了。接続準備を済ませ、カタパルトに乗ったとのことです。』
『接続準備完了。接続まで残り500。』
「第一、第五原動機発動。奇数号エンジン起動しました。」
リーの言葉に艦内が慌ただしくなる。
『サクラ接続まで残り150。ドック後部ハッチ開放カタパルト内サクラ視認。』
「主砲第一砲塔発射用意。」
『システムリンク完了までお待ち下さい。現在サクラとの最終リンクエンス確認中です.』
艦内に衝撃が走る。サクラが、接続した衝撃である。
リンクが完了したことを伝えるアナウンスが流れ、設計が変更された5つの主砲が、一斉に照準を自動的に定めた。
ドックのハッチが開き、リンクリスが、ゆっくりと、浮かび上がる。
「神流砲用意。」
主砲、重力干渉砲と重力加速砲。重力場の位相を変化させ、攻撃を行うものだ。
つまり重力場にどれだけ相手が耐えられるか様子を見ようとしたが、相手が、総攻撃を仕掛け、その標的が、何の罪もない、一般市民と解ったとたん、遥夢の表
情は一変した。
「罪無き民を汚れし火の的となす事は許さぬ。」
『臨海限界点突破。神流砲発射用意完了です。』
「檄鉄起こせ。発射角4度修正。全エネルギー回路神流砲優先へ変更!」
「変更確認。コードブラック。総員耐衝撃姿勢へ移行。」
遥夢の手には赤いスイッチ。
「ぽちっと。」
この局面で何とも間抜けな発言であるが、
「発射します。」
神流砲の反動が、艦内を駆け巡る。
「にょほほ〜。」
ブリッジで騒いでいるのは、混神である。
リンクリスには2つの艦橋がある。
第一艦橋は、リンクリスで最も高い主砲重力加速砲の直後にある艦橋塔の一番上にある。でも、外部装甲の中にある。第二艦橋は、艦首神流砲の基部直下にあ
る。
遥夢たちがおり、艦の運航を司るのが、ブリッジと言われる第一艦橋である。
神流砲は、一言で言えば、何万倍にも強化された整流砲である。
「それにしてもかなり神流砲の威力高いような。」
「神流砲の砲身が少しだけ伸びたせいとか。」
遥夢の言葉にブリッジ内に?がいっぱい浮かぶ。
「出ました。リンクリスv8.0全長80,232mサクラU全長20,152m合計100,384mおよそ100kmです。」
「「……はぁ?」」
もちろん皆がこう言ったのには理由がある。
元々、リンクリスは60kmサクラUは10kmで、設計、建造されていた。それが、今になって、設計が変更されたのだ。
「…あ、もしかして…やっぱりか。」
「どったの?」
「藍蒼大で開発されたエンジンを使用した、高機動性戦艦の案をリンクリスに流用した際の設計図をうちなりに書いて、主上に提出したのよ。」
「そういえば、ありましたね。」
遥夢が同意する。
「そういえばどうしたんでしたっけ。」
「その後にLSNの担当者が来て、手元にあった設計図やら資料やら全部渡したんでしょうが。」
「まさかあれが採用されるとは。」
「仕方ないですよ。メインフレームに登録されているエンジンの情報を見るにつけ、内容的に言えることは、例の新開発のエンジンという事です。」
混神がそう言うと、遥夢が、自分の目の前の席にいる、一等航宙士に対して、指示を出す。
「加速度数先代比230%上昇。」
まあ、ここまで読んでもこの章のタイトルの意味がわからない人がほとんどだろう。
もちろん、上の話と章のタイトルは関係無い。行稼ぎだ。…ごめんなさい。
要は、人生は小説よりも奇なりという言葉と掛けているのだが、元々、こういうことが一番多いのが、混神だ。
「やぁ。みんな元気かい?」
「侑子先輩。」
「今日はね、みんなを誘いに来たのさ。」
「誘い?」
遥夢の問いに、笑いながら懐から、6通の封筒を取り出す侑子。
「来る日曜日、私の父が45歳の誕生日を迎えます。その際、かねてよりお世話になっている方々にお出で頂き、ささやかながら、父の誕生日を祝うパーティー
を催そうと計画しているのです。
よろしければ、皆様お越し下さいませ。」
そう言って、ドレスの裾をつまみ上げるような動作をする侑子。
「…混神、髪結い係を呼んでおいて下さい。」
現状、作者のイメージ内では、何故か、長野県の人口5万人ほどの地方都市にある商業高校の美術準備室が浮かんでいる。
「……は?」
「「はぁ〜?」」
「な、なんですか?僕が髪結い係を呼んだ事って、そんなに驚くようなことですか?」
混神がは?というのは、長いつきあいの中で、意外なずぼら性を知っていたから。
「遥夢、おまえ、ほかの髪型。」
「仕方ないでしょう。これだけの量の髪の重さを首の筋力だけで支えるのはいやですが、
僕が主催するパーティーではないのですから、招待客として、彼女の友人として恥ずかしくない格好をせねばなりませんしね。」
遥夢の髪の長さはポニーテールにした状態で膝とほぼ同じ高さにある。下ろせばくるぶしまで達してしまう。
そして、元々、量が多いため、ショートカットにしたとき試しに重さを量ったところ2.5kgあったという記録も残っている。
さて、今現在でも、蒼藍王国の言語と日本語は通じないと思っている日本人は多い。特に政財界はその量が突出している。
理由として、来日した要人が、からかいの意味を込めてアルティニアーナを使うためというのが一番であろう。
日曜日
「本日は、私の父の45歳の誕生日にお集まりいただきまして誠にありがとうございます。
父が、これほどたくさんの方に祝っていただけるほど愛されていることを娘として、大変うれしく思うとともに、
父の後を継ぐものとして、皆様に認めていただけるよう精進せねばと、気持ちを新たに気を引き締める覚悟でございます。
それでは、皆様、お手元のグラスをお取り下さい。では…かんぱーい!」
乾杯の音頭に、皆一斉にグラスをあおる。
まあ、大財閥の創業者一族が開くパーティーが狙われるのは定番で、今回もその天板に乗っ取って、会場にいた半分が、泡を吹いて倒れた。
しかもきっちりと線を引いたかのように遥夢たちが居る側だけである。これは、その側に乾杯の直前まで、侑子が居たためらしい。
そして、倒れた大勢の中で、きょとんとしたかのようにたっている6人。それもそのはず。
6人には、毒はおろか、アルコールや、風邪薬など、人工天然を問わず、本来の生命活動に何らかの変調を与える物質には、一切、反応しない。
「…そういや、なんか、味変だったな。」
「そりゃ、アグロミムトキシンが混じってれば、蒼藍族の舌には変な味として認識もされるはずや。」
「「あ、アグロミムトキシン?」ってなんだ?」
「アグロミムトキシンは、猛烈な苦しさと、ともに体の自由が一切利かなくなって、麻痺状態に陥った後しばらく動けなくなる神経系の微弱毒さね。にしても、
こんな所に、ガキンチョが集まってて、精神衛生にひっじょうによろしくない。」
混神が説明後にぼやく。
「あなた方のようね、この事件の犯人は。」
「は?なんぞこのがき。」
「ガキではないは。私は、警視総監の孫よ。」
男の癖して女々しい子供である。
「それと、アグロミムトキシンは、一人でも蒼藍族がエネルギー放出を行うと、一気にその効力をなくす。まあ、それよりも、遥夢さん、これ、打ち上げてくれ
へんか?」
真朱彌が取り出したのは、まがまがしい色の液体が入ったカプセル。遥夢がそれを受け取り、会場のど真ん中で打ち上げると天井付近で、そのカプセルは破裂、
中の液体が霧状に飛び散った。
「やだ。汚い。」
「なんなんだあいつ。」
子供たちは遥夢たち6人の正体が気になるようだ。
『ありがとうございます。紹介が遅れました。本日、わざわざ2日掛け、遠く蒼藍王国より、おいで下さいました、第三代主師の方々です。代表して、国主国王
遥夢陛下にお言葉を賜りたく願います。』
ここまで言われても所詮は子供。まだわからない様子だ。
遥夢が、会場のものに導かれて、壇上に上る。それに合わせたかのように一発の銃声が。しかし、誰も倒れない。
『空間相転移反動波を検知。空間相転移反動波を検知…。』
遥夢が袖から拳銃を手の中に滑り落とす。そして。軽く狙いを定めて、一発。
白い光の筋が、会場の天井付近の照明の脇へ走る。
黒ずくめのライフルを持った男が、落ちる。
『ただいま紹介にあずかりました。蒼藍星間連邦王国第三代主師国主国王、ハルナ・リールシェル・ランゲルハンスと申します。
目上、年上のものへの礼儀も知らぬような愚かなものにもわかりやすくゆうなれば、蒼藍王国の王です…。』
所詮子供。最初自分が犯人扱いした者が、自分よりも数十倍も高い存在であるとわかり、動揺の色は隠せない様子である。
そんな事はこういう子供が大嫌いな遥夢は無視して、挨拶を終える。さっきまで苦しんでいた者も今は何もなかったようにパーティーを楽しんでいる。
さて、先ほど蒼藍王国の言語と日本語は通じないと思っている連邦人は多いとかいたが、上記の挨拶も実はアルティニアーナだ。
『…最後に、日本語と蒼藍語は通じないと思っている頭の固い政治家や金持ちが多いようですが。
蒼藍語はそのままで日本語と互換性がありますので、我々が普通に話している言語はそのまま日本人にも通じますよ。
それなら、最初からそうしろと言うかもしれませんが、
王国内外において、業務上の機密事項などの保護のために、どうしてもアルティニアーナ。
蒼藍古語を使わざるを得ないことを今ここにいる方々には認識していただきたいのです。』
遥夢が、壇から降りると、大勢の男が寄ってきた。皆、世間知らずのぼんぼんばかり。遥夢を口説きにかかっているようである。
しかし当の遥夢の視線はその男たちの向こう、こちらを向く正規に向いていた。
目だけで会話ができるのは、それだけ心が通じているからだろう。
「混神は?」
「さっき取引先見つけて商談に。」
「正規さんは?」
「『遥夢が来ないから混神の秘書のふりして、勉強に行ってくる。』とか言って付いてちゃった。」
この言葉にあきれ、そしてげんなりする遥夢。というのもまだあのボンボンたちは口説いているのだ。
「大変だねぇ遥夢も。」
涼子はさも他人事のように言うが、次の瞬間にはリンや真朱彌と一緒に口説かれて、げんなりしていた。
「しょ・う・だ・ん・せ・い・り・つー!」
「落ち着け……。なあ、この場合って、どういう…ておい。」
正規の言葉が終わる前に混神はボンボンの固まりに突っ込んでいった。
そして。
「ばんざーい。」
涼子が、宙に舞っていた。
あきれながら、混神のマネをして、遥夢を胴上げする正規。
「…あ、あの。」
「私たちを胴上げするより。」
「門沢の親父さんだろ。これは練習と商談成立のお祝い〜。」
彼の言葉にあきれる涼子と遥夢。
「ま、いっか。」
「そうですね。」
放り上げられた空中で、体勢を立て直し、それぞれの好き者に飛びつくと、リンと真朱彌を交えて、門沢に突進。参加者全員を巻き込んで、大胴上げ大会が始
まった。
そうして、夜は更けていく。後の世を担うであろう子供の性格に影を落としかねない危険をはらみながら。
次回は別のお話
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