授業中の居眠りで生まれました。
遥夢が登場したのでL.C本編に組み込みます。
惑星アクアアルタ
日本連邦南部、蒼藍王国マーライヤーナ州国境にほど近い、宙域にあるアクエリアス星系の第4惑星である。
そんなアクアアルタの緯度38度付近に有る多島海通称アドリアアルタ。
その中でももっとも大きな島、ヴェリア島を中心にアドリアアルタ全域に展開しているのがこの星の首都、惑星名と同名のアクアアルタである。
アクアアルタ宇宙港に地球から一人の少女が降り立った。
「えーと。4番ゲートを抜けたらグランカナルにあたるからそこのゴンドラ標識で待ち合わせ…多すぎ!」
少女が悪態をつくほどゴンドラ用の標識が林立していた。ここはグランカナル。
現代日本で言えば東京駅の南か新宿駅周辺のJRの列車の行き交う頻度をそのまま当てはめた様なゴンドラの通行頻度だ。
故に多い。
「ほかには…あ、TLID。かけてみよう。」
少女が、携帯をとりだし、紙に書かれたコードを入力する。
「…げ、グラストークIDじゃん。」
『なんじゃい。…嬢ちゃんか、玉汽車の機関士になりたいって来たのは。今は、42番信号か。まっとれ今行くから。』
「あのおじさんが案内人か。」
このアクアアルタの地表面の9割以上を覆う、広大な海に溶け込んだ様々な物質が化学反応を起こし綺麗な球状に結晶化したものは『玉』と呼ばれ、
これに穴を 開けたりして造られたアクセサリーは、アクアアルタ土産として定着しつつある。
しかし問題もあり、潮流の関係で惑星中の玉がこのヴェリア島に集まってくる。グランカナルを流れている分にはよいのだが、そのうち、袋小路に
なった水路な どに貯まりゴンドラの運航を邪魔する。
これを防ぐために造られたのが玉汽車である。玉汽車はSL様の前部下面に開口部を持つ機関車と5両の貨車から構成されている。
アクアアルタのゴンドラアライアンスと連邦政府が定めた法律に基づきゴンドラを運用する各水先案内店が寺社のゴンドラ運航を確保するという名
目上、ゴンド ラアライアンスの監督下で、この玉汽車を有し運行を行っている。
玉汽車を運行するには特定の波長の霊力が必要であり、この波長を有するのは女性のみであることから、玉汽車の機関士は女性の仕事である。
運河の縁をまるで、滑る様に、飛ぶ様に軽快に走りながらも大型の航宙船舶が安全に着水できるほどの深さで玉を回収するには熟練した腕が必要である。
また、この玉汽車の機関士はマエストロと呼ばれ、そのうち、トゥリアヴァルキュリス(鉄の三大軍乙女)と呼ばれるマエストロは、卓越した、職
人としての腕 をもちなおかつ、類い希なる美貌を持つ。
さて先ほど出てきた少女が師事したのはこのトゥリアヴァルキュリスの一人である。
「ああ。おったおった。すまんなぁ。アリエスコーポレーションのマルコじゃ。」
「アスミです。」
「アレサさんがの、連れてくる前にテストしてこいというのでな、君の腕を試させて貰う。」
マルコと名乗った老人が少女を、アスミを、つれてグランカナルを離れる。
グランカナルに次ぐ幅を持つ少し寂れた雰囲気の運河。その運河とアドリアアルタがつながる位置にあるぼろアパート。
ぼろアパートの横に固く閉ざされた、木の扉があった。
「この先に、試験用の古い機関車がある。この水路はこの様に木戸で閉じられておるから、玉は貯まっておらぬがな。」
そう言ってマルコが、木戸を開ける。
私がこのアクアアルタに来たのは玉汽車の機関士という、たくましく、かつ美しい職業に憧れたからだ。
アクアアルタ市は町並みは古くさいが、情報インフラは最新だから私にとって、安心だと思う。
「こっちじゃ。」
こっちと言われても困るよ。だって。木戸が閉まるとかなり暗い。光が上からしか差し込まず、かなり見にくいのだから。
「あの先公何考えてんだ?リーシェの理論をこき下ろすなんて。」
「おちつけ。」
通路の暗がりと言うより、例のぼろアパートの入り口にたむろする4人の少年少女。
「ん?あれは。…おいつけるぞ。」
アスミとマルコの2人のあとをつける4人。
通路の曲がり角から2人の様子をうかがっている様だ。
「これが、技能試験用の玉汽車じゃ。
現在の玉汽車は見た目こそ古いが、中身は最新技術の塊じゃが、玉汽車の機関士たるもの、機械を制することかできなくてはならぬからの。
この、オールアナログマニュアルロコモーティブを使うんじゃ。」
マルコが語る、アスミは真剣にそれを訊いている。
そしてそれを伺う4人組は見た。
水路の陰に光る二つの光を。
少し時間を巻き戻し、アクアアルタ宇宙港
「おい。良いのか?こんな所に来て。」
こういうのは言わずとしれた世話旦那。正規である。そんな正規の心配をよそに、遥夢はグランカナルへと飛び立った。
遥夢は飛行速度と高度をどんどん引き上げ、アクアアルタの成層圏を光速の50%で周回し始めた。
「何がしたいんだあいつは。」
正規の気持ちしかわからない。
一回惑星の円周上を旋回するごとに、少しずつ通過する方向を変えている。
「…こうなりゃ癪だがあいつに訊くか。」
そう言ってどこかに電話をかける正規。
『ん?…誰探してるん?』
電話に出た混神の第一声がこれだった。グラストークのため正規が見ているものはそのまま混神にも見えるのだ。
「探してる?」
『そうよ。主上の飛行高度の1m下にいた方が良いぞ。プルが送ってきた情報からするとあと2分ぐらいであの人着陸するから置いてかれる。』
そう言って電話が切れる。なんのこっちゃと思いつつも正規は混神の言うとおり、遥夢の軌道のすぐしたあたりに上がった。
キシャーー!
そんな鳴き声を上げて、巨大な蜘蛛の様な不気味な生き物が現れる。
「ぬ?玉蜘蛛じゃと?…しまった。こやつの住処になっておったか。嬢ちゃんよく見ておくのじゃ、こやつらは、玉汽車の機関士にとっての商売敵じゃ。」
そう言って、手近に何故か偶然落ちていた鉄パイプを拾い上げてその生き物に殴りかかるマルコ。
しかし、その生き物はまるで、顔に付いた露をはらうかのごとくマルコを払いのける。
「リ、リーシェどうするんだよ。」
「落ち着け。あの子とあのじいさんつれて逃げるしかないだろ。それ以外にはもうたたか…やはりあいつは弱虫だ。」
玉蜘蛛がアスミに迫る。
「ひゃぁぁぁぁあああああああ。」
悲鳴ともとれる素っ頓狂な声を上げて、遥夢が落ちてきて、玉蜘蛛をはじき飛ばす。
「は、遥夢大丈夫か?…く、暗いなぁおい。」
正規も納得の驚きの暗さ。じゃなくて、遥夢が落ちた理由がこの暗さにあった。
暗すぎて、上下前後左右が解らなくなったらしい。そして平衡感覚を失い、重力制御ができなくなって墜落したという事だ。
シャー!
はじき飛ばされた衝撃で足をいくつか失った玉蜘蛛が遥夢に標的を変える。
「ふう。…ん?ん?…。」
自分が狙われているというのに呑気に考え込む遥夢。
シャー!
玉蜘蛛が飛びかかる。
が。
「五月蠅い。」
そういって、指から光線を発する遥夢。
この向線は運悪く外れてしまい、これが玉蜘蛛の怒りを増大させた。
さらに怒りの声を大きくする玉蜘蛛だが。
「五月蠅いと言っているだろうが。下等生物の分際で神である私の思考を邪魔することは許さん。…ほう。そういうことか。貴様、下等生物のくせにこざかしい
マネをしてくれるじゃないか。礼をしてやらねばな。」
こちらも怒り心頭の様子。
袖から、一本の杖の様なものを取り出す。
「アルテミスバルクレイター、リミッターリリース、セーフティオフ。」
遥夢の言葉に会わせて杖の形がどんどん変わっていく。
「この場を黒に染めたその行い、頭を冷やして考えるが良い。それがいかに愚かであったかを。」
どうやらぷっつんしちゃったらしい。
「ゴルバライニスブラスター、ドライブ!」
「ゴルバライニスブラスター?」
『アルティニアーナで言う神流砲だぁなぁ。エルミスライニスブラスターが、整流砲だ。主上が持ってる杖はうちが設計して造った。』
いつの間にか、電話がつながっていた。
「…一気に潰すのは面白くないな。」
ドスッ!
杖を床に突き立てると、杖が一本の剣に変化する。
遥夢が、地面に突き立てた剣を軽く振り回すと、玉蜘蛛の足が、細切れになる。
さらに、足を全て細切れにすると、その足が玉に変わる。
「弱い。弱すぎる。」
「は、遥夢?」
遥夢の変化について行けない様子の正規。
『まあ、あれがあの人の地だからなぁいざとなればねぇ。それに、今ぷっつんしてるからなぁ。アクアアルタ消えても責任持てないわ。』
さらっとこわいことをいって、電話が切れた。
感情が完全に崩壊した笑みを貼り付けた顔で、玉蜘蛛を、黒い空間を切り刻んでいく。
「あ、あの〜。」
アスミが遥夢に声をかける。
遥夢は、腕をだらんと垂らし、前屈みになり、肩で息をしながらとてもきつい目線をアスミに投げかける。
「なん…だ。」
「あ、ありがとうございます。」
「礼をされる様な…ことを…した覚えは…無い…ですが。」
むせる遥夢。
そんな遥夢に水を渡す正規。
「…グルルルルルルルルルル。」
まだ、何かいるのかと全員が辺りを見回すが見当たらない。ふと正規が遥夢を見ると、先ほどの姿勢で、のどを鳴らしながら激しいうなり声を上げていた。
まだ興奮しているらしい。口調はいつも通りのですます調になっているが、精神状態は落ち着いてはいないらしい。
「助かったよ。あいつはかなりの風呂好きだから、とにかく風呂に入れば落ち着くし機嫌も良くなるからな。」
アクアアルタ市のとある大衆浴場。ここはリーシェ嬢の自宅である。
「なに。私にできることをしたまでさ。」
「意外と良い奴なんだな。」
正規とリーシェが笑い合う。
「そういえば、奥さん大丈夫なのか?うちの風呂はかなり温度高いけど。」
「俺たちはあれくらいが一番好きだよ。まあ、遥夢ともう一人熱めの風呂が好きな奴がいるけどな。」
二人が笑い合っているところに、全裸にタオルを巻いただけの遥夢が風呂から上がってきた。
「コーヒー牛乳一本。」
そう言って、番台からコーヒー牛乳を受け取り、腰に手を当て、威勢良く飲み干す。
「牛乳じゃないのか?」
「あいつは昔っから、只の牛乳が嫌いなんだ。」
このあと、瓶を片付けようとした遥夢が、滑って仰向けにこけ、その勢いで、タオルがはだけ、正規が慌てて、女湯の方に駆け込もうとしたのはお笑い話であ
る。
数年後、アスミは、玉汽車の機関士として、アクアヴァルキュリアの二つ名を持つに至るが、それは、別の話。
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