注;この章ではほぼ真朱彌と遥夢以外は、主師は出てきませんので悪しからず。
「斉藤も田中もきちんとやってくれているようですね。」
遥夢が、報告書を見てつぶやく。
「誰なんや?その斉藤さんと田中さんて。」
「斉藤丈治。宙軍大佐。相手を油断させる独特の話術と、多くの隠れ蓑とする職を持ち諜報活動を行う、宙軍情報局のエースです。
田中は田射中良治。宙軍大佐。士官学校で、席が隣同士だったことがきっかけで斉藤と親友となります。現在は斉藤の右腕として、斉藤の補佐をしています。
只、変装のセンスは独特で、必ず、田中と書かれた何か不透明なものをかぶると言うだけのものです。
そのためか知りませんが、現在は本名の田井中ではなく田中として通ってしまっているため公文書に唯一あだ名の記載が許されている人物です。
ブガルでのパーティにいたリトエルスとリールフェルトのサポートを彼女たちに気付かれないようにしてほしいといっておいたんです。
しかし、まさかジョナサン斉藤と名乗るとは…。」
遥夢が苦笑する
「へぇ。面白い人がおるもんなんやなぁ。」
「真朱彌さんは何してるんですか?さっきから、僕の後ろ行ったり来たりしてますけど。」
「ん?ああ。すまんなぁ。ほら、この前、遥夢さんが依頼してきた、星軍宙軍両軍の軍服の新デザインな、いろいろ盛り込みたいものとか有るんやけど。
やっぱりい
ろいろ参考にしよ思ってな
そしたらまだラフで悩んでる状態なんや。」
そう言って、なにやらいろいろ線が書き込まれた紙を見せる真朱彌。
「そうでしたね。…真朱彌さん、コーヒーいかがですか?」
「ん?そうやな。頂くわ。」
遥夢が席を立つ。
「ん?メイドに入れさせたらええやんか。」
「そうですが、この部屋には掃除以外ではメイド長しか入れないので。それにメイドの手を煩わせることでもありませんしね。」
そう言うと、コーヒーをいれた、カップを二つ持って、真朱彌の向かいに座る。
「砂糖とミルクはお好みで入れて下さいね。」
「…なあ、遥夢さん?」
「なんですか?」
「珍しい格好しとるなあ。ノースリーブのタートルネックにロングスカートて。」
「替えの服も合わせていつも着てる服の全面交換の期間ですからね。たまには別の服を着てみようと思って、涼子の服を借りてるんです。」
遥夢がほほえむ。
「似合ってると思うで。遥夢さんもう少し服のバリエーション増やせばええのに。」
「ああ。一応和服とノースリーブタートルネックは何種類か有るんです。この2種類は何となく着易くて。」
「遥夢さん着付けできるんか?」
「ええ。」
真朱彌の目の色が変わる。
「お願いが有るんや。」
「はい?」
「いとこの子供が友達の結婚式でな着物を着るって言い出して聞かないんや。
仕方ないからな、多少着崩れしてもええんならやるゆうたら、私もゆうのがたくさ
んきてもうてなあ。あれ?遥夢さん?」
当の遥夢は真朱彌の話そっちのけでどこかに電話をかけている。
「ええ。…さようでございますか。では、お手数ですが、お帰りになりましたらお電話頂けますでしょうか?…え?解りました。-の-ですね。…なるほどあり
がとうございます。…ふう。
あ、真朱彌さん少し待って下さいね。
今着物についての強い味方を呼ぶところですから。…あ。お忙しいところ申し訳ありません。」
「強い味方てだれなんや。」
真朱彌がそうつぶやくと、遥夢は自分の執務用の机に置いてあったメモ用紙を取り、何かを書き始めた。
「なんや?」
『混神の一番上のお姉様の旦那様』
とだけ書かれたメモ用紙。
「…混神さんに訊いてみよかな。」
真朱彌が混神に電話をかけようとしたとき
「真朱彌さん、日付は?」
「-月の-日や。」
「………そうですか。ありがとうございます。ではどうぞよろしくお願いします。」
何故、遥夢が日付は?と聴いたときそれが結婚式の日付と思ったのか当の真朱彌にも解らなかった。
「話が付きましたよ。受けて下さるそうです。」
「ほんまか?良かったわ〜。」
安堵したため息と同時に真朱彌の腹が鳴る。顔を赤くする真朱彌だが、遥夢が、
「あーお腹すきますよね〜。僕なんてもう、たこ焼き1万パックはいけそうです。」
何個入りのどこのたこ焼きを1万パックなのか解らないがとにかく今度大阪に帰ったとき、行きつけの店でたこ焼きを買ってこようと思う真朱彌であった。
「なあ、遥夢さんは軍服は着るん?」
「軍服ですか?まあ、宙軍のは専用のがありますから着ますけど星軍は着ませんねぇ。
それはそうと、しっかりとデザインしないとそのデザインの服が、真朱彌
さんのところにも届きますよ。」
「なんやて?」
真朱彌が驚く顔を見て遥夢が笑う。
「混神が着てるスーツも正規さんが着てるスーツもおとなしめの現行デザインの男性用宙軍制服ですし、涼子は家にいるときは結構着てる見たいですよ。
リン
は、能力の関係であの形状しか着られませんから。」
「失礼いたします。遥夢お嬢様お食事をお持ちしました。真朱彌様もご一緒にどうぞ。」
「えっと、鳴滝さんは、遥夢さんとはどういう関係でここにきたんや?」
遥夢と鳴滝が顔を見合わせる。
「「高校の同級生です。」」
「その後私が大学を出たときに、内定を貰っていた会社が、入社式の日に倒産してしまって、途方に暮れていたとき、お嬢…。」
「ここではお嬢様でなくてかまいませんよ。」
「では。遥夢…様から頂いた名刺のこと思い出して、相談したら、国王枠を使用して、宮内省の職員として急遽採用して頂いたことがきっかけです。」
遥夢は苦笑している。
「だって、自分の世話をしてくれる人には何でも話せる人が良いじゃないですか。主師以外だと鳴滝が一番仲が良かったんです。
ですから、鳴滝が入ってすぐ僕
専属のメイドにして貰いました。」
「採用して頂いたご恩を一刻も早く返さなければとできる限り一生懸命働きました。」
「僕も驚きました。いつの間にか省内の規則が変わっていて国王専属=蒼天宮統括メイド長になっていたんですから。
ですから、人事院の方でも悩んだそうです。
結局、それまでの働きは、メイド長になるにふさわしく、また国王は彼女以外のメイド長は絶対受け入れないと考え
て鳴滝をメイド長にしたんです。」
「見透かされていたんやねぇ。」
全員が苦笑する。
「あ。お食事の内容をお伝えするのを忘れていました。現在藍蒼は、蒼月洋からの夏の海風によって、猛暑日が続いております。
冷房術で多少はしのげますが、やはり冷たいもので中からも体を冷やしていただきたいと思い、お嬢様の行きつけのつけ麺屋のご主人のご協力の下、
味ものどごしもそのままにタレも、麺もキンと冷たい冷やしつけ麺をご用意いたしました。」
「鳴滝!」
「はい。」
「あなたもここでお食べなさい。」
「ですが。」
「勅命です。」
勅命の使いすぎじゃないかと真朱彌は思うが、何か言うと、絶対に自分の味方になれと遥夢から迫られそうだったのであきらめた。
「誠に申し訳ございません。たとえ勅命といえどもお嬢様と同じ部屋で食事をすることは私の誇りに反します。メイドは主人の陰に。それが私がかたくな
に…。」
「勅命というのは冗談で、メイドとしてではなく僕の親友として、ともに食事をなさいと言っているんです。」
「……はぁ。それなら仕方ないか。解った。それなら一緒に食事をさせて貰うよ。」
遥夢の高校時代の同級生はどうやらこの様に公私の切り替えが非常に速いらしい
「真朱彌さんと混神が知り合ったきっかけってなんなんですか?」
「ん〜。昔。私がまだ高校生やった時にな、混神さんが当時の私のサイトに来て、2回目でリンクさせてくれゆうてきたんがきっかけやな。
そのあと3年くらい
してちょくちょく合うようになったんよ。
そのせいか解らんけど、今の職にも就けたし。たぶんあのとき会ってへんかったら、今の私はあらへんなぁ。」
「混神は気に入ってもなかなか懐きませんが一度懐けば、その人をものすごい高みに引き上げますからね。
まあ、混神が真朱彌さんに懐いたのは、二人とも創造主の御子であるという事もあると思いますよ。」
創造主の御子とは創造主が、最初に世界を造ったときに自らのチカラの内の一部を分け与え生み出した、最初の神であり、本当の意味で創造主が産んだ子供のこ
とを言う。
創造主の御子は一人につき7人計14人居るが、うち、創造主の下に集まっているのは8人だけである。
「そうかぁ。」
『マスター。マスター朱雀。』
「なんや。雷電。」
『リオナ様よりメールが届いています。またワープロファイルが添付されています。
ウイルスの感染は確認されませんでした。念のためマクロファージを通しま
したが以上はありませんでした。』
雷電は真朱彌が使用しているA.Aである。内容はA.Iだが見た目が獣人なので、アシスタントアニマルと呼称される。
「そか。概要はなんなんや?」
雷電が、メールと添付ファイルを読み上げる。
真朱彌はそれに対し、返信を行い、再び遥夢と向き合った。
「時差が13日もあるのはきつくないか?」
「時差というか日差ですね。時差は20分あるかないか程度ですから。それに我々は体内時計と実際の時差を無意識下で修正同期する習性がありますから。」
遥夢が、あっけらかんとした表情で言い放つ。
真朱彌はそれを見て、納得したようなでも、まだ疑問を持っているような、あきれたような表情だった。
「そうか。そういえば、話変わるんやけど。この前、姪っ子の家いったらすごいもんがおったんよ。」
「何なんですかねぇ。」
真朱彌が若干興奮気味のところに、遥夢が、興味があるのかないのかわからないような声で返事をする。
「でっかい白い犬や。それも真っ黒な大きな眼をしたな。」
「どうせ、モノアクセスにしたら見えなくなったとか、目のところが眼窩しか無かったとかいう落ちでしょ。」
「なんで、しっとるんや。」
真朱彌が驚いて問いかけるも、当の遥夢はジト目で、消しゴムのかすをこねまわしながら、
「有名ですよ。そのウイルス。ただ、対処法はまだ見つかって…もしかして、真朱彌さん、そのウイルス、蹴散らしたんじゃないでしょうね。」
「そのまさかや。姪っ子が困って、泣きそうになってる横でまるで嬉しそうにおったもんやからな、ちとムカついて、薬ねってやるゆうてな、可能な限り調合し
て投与したんよ。
そしたら、悶絶しながら消えてしもてなぁ。いやぁ。あれは気持ち悪かったでぇ。」
真朱彌の言葉に、遥夢はため息をついて、
まさか対処法が全く見つかっていないウイルスをたった一人で蹴散らすなんて、真朱彌さんの能力には良い意味であきれます。」
もちろん、遥夢はほめているのだが、言われた本人にとってはそんな気は一切しないのもまた事実。
「今度、その薬の調合、混神に伝えておいてくださいね。マクロファージでさえ破れないって、泣きそうでしたから。」
もちろん嘘である。混神が、マクロファージでさえ破れないと言ったのは事実だが、そのあと、炭酸をがぶ飲みして風呂に閉じこもった挙句、そのまま寝てし
まったのが正しい。
要はふて寝である。
まあ、翌日にはけろりとして、捕獲するといいながら、ネットをあさりまくっているのだが。
「なぁ、遥夢さん。」
「はい?」
「それ遥夢さんから言って貰ってもかまへんか?」
「はい。」
遥夢が穏やかな顔で頷く。真朱彌はおそらくこの軍服デザインから手が離せないのだろう。
「雷電。不知火さんに例の犬散らしのデータ渡しとけ。」
真朱彌の横に浮くウインドウの中で、雷電が深々とお辞儀をして消える。
「私な、遥夢さん。自分が、この主師に入ることになるなんて思ってへんかった。ましてや、自分が次の創造主だなんて創造したこともなかったんや。
それが、今じゃこの主師にいて次の創造主であることが当たり前なんやから、おそろしいわぁ。」
「はい。」
「これからもよろしゅうな。」
「はい。」
二人の顔には穏やかな笑顔が浮かんでいた。
「少し休ませて貰うわ。」
そう言って、横になった真朱彌。
小さい眼鏡をかけていた遥夢が眼鏡を外しふと顔を上げると、静かに寝息をたてて眠る真朱彌が居た。
遥夢はまるで我が子を見るかのような優しい微笑みとともに虚空から大きなタオルケットを取り出して、真朱彌にかけると、また眼鏡をかけて書類を読み始めた
数時間後、真朱彌が起きると、彼女が寝たときと変わらず、優しい笑顔で遥夢が微笑んだので、真朱彌も微笑み返した。
嵐の前の静けさとはこのことだったのかとあとで二人は互いに苦笑し合う。
Next Chapter