陽南威秋子と墨田辰也という、一組の男女が居る。
二人は、幼なじみである。大学卒業後、精霊界の精霊省に入省。その手腕を遺憾なく発揮している。
二人は共通の能力を持っており、さらに、まるで、夫婦のように息の合ったその仕事ぶりと連携に周りから、おしどり夫婦と言われている。
だが、当の本人達にとって、互いは恋愛対象ではない。
「おい。仕事しろ仕事!」
『い・や・だ!今日の分は終わったんだ好きな絵描かせろ。』
精霊界界外交務省
蒼藍王国での神政省、宗国での他界交流監督省にあたる行政機関であり、辰也と秋子の仕事場である。
その界外交務省の廊下を、秋子と辰也が駆けている。
「まだ就業時間中だろうが。」
またおしどり夫婦とからかわれるエピソードができあがる。
『明日の分も終わってるよー。おわぁ。」
秋子が廊下の角を曲がった瞬間大きなマシュマロもとい涼子の胸に突っ込んだ。
「やっと追いついた。」
「墨さん久しぶりやねぇ。」
混神である。
「あーしゃんも。」
「おう。で、何かようか?」
決闘でも挑まれると思ったのかそれとも決闘がしたかったのか。身構える秋子。
「カラオケ行こうぜ!」
「「はぁ?」」
いきなり、久しぶりに会った友人にこんなことを言われれば誰だって、こう言うに決まっている。
「おまえは少し黙っていろ。
いや何。もうすぐ二人の誕生日だろ。大学の時の仲間に声かけたら珍しく全員の予定がオフだったからさ、明日、飲み会しようって話になってよ。
界交相に聞いたら、良いって言うから、明日強引に出張扱いで休みにして貰って、ひっぱってこうと来たんだよ。」
正規が説明する。
「そういえば、遥夢は静かだな。」
「そうかな。僕はいつも通りだけど。」
「「…何食った?」」
思わず二人でハモる。
「む!失礼な。何も食べてないよ。そりゃ確かに混神に貰ったバタール半分食べたけどさ。それ以外に何も食べてないよ。」
「主上、そろそろ、いつも通りにしないと。本気で頭おかしくなったと思われますから。」
混神がなだめる。
「遥夢さんになんも悪いところはあらへんよ。私が保証する。」
「朱雀さんが言うなら本当なんだろうな。」
辰也は真朱彌のことをハンドルネームの朱雀と呼ぶ。
「やっぱり?そう思ったんだよね。じゃなかった。まあ、話しにくいったらありゃしない。」
「じゃあやんなきゃ良いのに。」
「いやですよ。僕がすることはたとえ常識離れしたことでも『遥夢ならしょうが無いか』で片付けられてしまうのですから。
インパクトの大きなことをして一生
忘れることのできない誕生日にしてあげたいじゃないですか。」
「はぁ。でもそれだけが目的じゃないだろ?やっちのことだ、また馬鹿騒ぎを考えてるんだろ。」
少しの沈黙のあといきなり混神がだらける。
「どっか自販機のある休憩場所って無いの?」
「精霊省からの要請?」
「界外公務省、精霊省、生命運命省の3省に居る守旧派強保身体質の官僚を更迭した上で後任を見繕う手伝いをして欲しいという要請だぁな。」
遥夢は魔導界総主と創造界統主という地位にいる。
創造界、魔導界、精霊界は互いに隣接しており、また一部が重なっている。
ただし、互いの世界を行き来するには所定の手続きを踏まないと世界の間にある虚無空間を安全に抜けることはできない。
まあ、そんな事はこの話には一切関係ないから割愛しよう。それにこの話の主役は秋子と辰也なのだ。
「「界外協議議事記録局?」」
「精霊省と界交相の首脳会談で決まった一斉更迭のあとの組織再編の結果できる局。」
「秋子さんはそこの局長に、内定したんや。おめでとうな。」
「ちっとも嬉しくねぇ。」
真朱彌の笑顔にぶすっとした表情で応える秋子。
「副局長に一人任命できるんだけど。」
「それじゃあ、こいつにしてくれ。」
そういって辰也を指さす秋子。その言動に一同はやっぱりという表情であった。
「ところで、一人任命できると言ったが?」
「新しい局では局長補佐としての副局長と実務担当の副局長がいるんだって。それで局長が任命できるのは、そのうちの補佐副長なんだってさ。」
遥夢は、みながこの話を聞いていたとき、精霊相に、お茶飲みに誘われお茶を飲んでいたので、あさっての方向を向こうとしたが、混神に話しかけられていた。
正規はリンと、幹事となった飲み会のことについて話していた。
「まあ、伯爵をどう変換しようかっていうのもあってきたんよ。」
「どういう意味だ。」
この後混神が、秋子に説明するが、それがあまりに分かりにくかったため、涼子が混神から渡された資料をもとに説明する。
しかし、
「で、それがどうなるんだ?」
この反応に説明を理解していた辰也を含めリン以外がこけた。
「あ、あのなあ。」
「すまん。まったくわからん。」
「困ったなあ。リンの強制書き込みも使えないし。」
混神が本当に困った顔をし、それを見た涼子が後ずさる。
「い、石が降る。」
「は?」
「な、何でもない。それより、リンの強制書き込みが使えないって?」
「リンの強制書き込みは対象者にある程度の基礎知識がないと意味がないのよ。だから秋子には今回使えない。」
そう言って顔をしかめる混神。
「何をぐだぐだ申して居る。要はその魔界のに基礎知識があればよいのじゃろ?それならわしに任せい。」
そう言って、一行の後ろに仁王立ちしていたトゥーラル。
「おばあさま!こちらで一体何を。」
「相変わらず、おばあさまって言葉が失礼なほどおきれいですね。」
これは正規。
「論点がずれておらぬか?それに遥夢達が儂をこう呼んでおるのは儂が呼ばせておるからじゃ。」
「…悩むのはまた今度。神宮総合行きの列車の時間が近いからね。いくよ。」
「そういえば、おじいさまは何故、あんなにお酒に詳しいのでしょうか?」
「簡単に言えば、親戚に蔵本があるからというのが答えかな。おじいさまの父方の従兄弟のお父上の弟さんのお孫さんが酒蔵に嫁いでご自身も杜氏となって、毎
年新酒を献上されているそうだし。」
そう言って、鞄から、一升瓶を取り出す混神。
個室であるし、降りる前にぴかぴかに磨いてしまうので鉄道会社にしてみれば、この客なら酒盛りしても良いかもと思うかもしれないが如何せんそこはモラルと
いうものがあるだろ。
そう思った正規だが、
「でその新酒がこれ。毎年毎年、おじいさまに10石分、主上に30石分。うちに25石分一升瓶で送ってくるからね。流石に貯まって来ちゃって。今回は6斗
持ってきた。」
こう、混神が言ったもんだから呆れてもう声が出ない。それ以前に辰也と一緒に転けてしまった。
「お、おまえなぁ。一升瓶60本持ってきたのかよ。」
「おう。そのうち2斗はリンゴジュース。」
この言葉には常識組(正規、涼子、真朱彌、辰也)の四人がずっこける。
「だって、最近酒の味にあきちゃって。」
「そりゃあんだけ呑めば飽きるやろなぁ。」
起き上がりつつあきれ顔で突っ込む真朱彌
「呑む?」
そう言って、涼子に一升瓶を差し出す混神
「あのなあ。これで呑めって言うのははしたなくない?」
その言葉に対して、秋子とリンを指さす混神。二人はそのまま一升瓶を煽りそして一息で飲み干してしまった。
「……!そうだ。ただの…。」
「いうな。いい?一気のみ大会とかいうんじゃないよ。」
「いわんて。うちは単にリンが、次のをいったい何秒で飲み干すか賭けて買った人にリンゴジュース5升贈呈って言おうとしたんよ。」
「ならよし。」
いいのか?そう思った真朱彌だが、ブレーキ役の涼子が、半ばあきらめ調子なのを見てもうなにを言っても止まらないと感じた。
「動かないねぇ。」
遥夢達が酒盛りをしているのは、異界間連絡次元トンネルの精霊界側の入り口前にある信号所で列車が止まったままだったためだ。
「メール来た。…はぁ〜ん。原因解った。」
そう言って混神が、メールを投影する。
『交第10-335号
多界間連絡鉄道管轄各部局各位
拝啓 長い残暑もようやく収まり過ごしやすい季節となって参りました。
先ほど時空管制省多界間渡航総合監督局より精霊界に特別観察対象が向かったとの連絡があり、本省にて、その観察対象の特定並ぶに精霊界精霊省への連絡を行
うため、
現在、対精霊界の異界間連絡次元トンネルを全面封鎖しています。既に、各鉄道会社には連絡済みではありますが、
業務に支障が出る可能性もありますので、ご了承いただきますようお願い申し上げます。
地官国土交通総務省鉄道庁多界間交通総合監督局鉄道観察室』
「…LTRからの報告内の?遥夢。」
「時管省からどこにいるかって聞かれてるんですよ。精霊界っていったらどうなるでしょうね。」
遥夢の言葉に呆れる涼子。
「はぁ。…そういえば教育庁の担当官が嘆いてた。
マーライヤーナに最近転入してきた高校生の学力とモラルがあまりに低すぎるんだってさ。
おそらく彼らが就職活動をしても採用する企業は労働基準に関する特別例外認定を受けた企業だけだろうって。」
蒼藍王国は『働かざる者食うべからず』という言葉の通り、ありとあらゆるものにマイクロチップが埋め込まれ就学、もしくは就労事実が無い物が使用できない
ように処理がなされている。
さらに成績、学習態度など、その者の学生生活時のほとんど全ての公の時間の情報は教育庁のサーバーで一元管理され企業担当者は自由にそれを閲覧することが
できる。
そのことは、各段階に進学するごとにまた各学期が始まるごとにまさに耳にたこができるのではないかと言うほどに言い聞かせられるため、王国の学生はほとん
どがまじめに授業に取り組む。
まあ、授業中の居眠りは学生生活の醍醐味であるととらえている企業も多く、厳格かつ格式高い企業体である、LSNの就職試験では必ず次のような質問がなさ
れる。
『あなたは学生生活ちゅうに最低1週間に一度、授業中居眠りをしましたか?』
ハイと応えれば、ポイントが加算される。逆にイイエと応えるとそれまでの心証がいくら良くても、不合格の対象となる。
何故こんな事になっているかとわれてもそこは応えようがないらしい。
「飲み会って誰が来ることになってるんだ?」
「癒雨はなんか上司の命令で参加らしくて、そんで大森さん連れてくるって言ってたし、深谷くん来るから、ふっちーさんも来るって言ってたな。
それにオワタさんと夏帆さんも来るって言ってたな。ほかにもねぇ…。」
「え、ふーち来るのか?」
「くるよ。」
ふっちーやらフーちと呼ばれているこの人物、名を淵谷拓人という。秋子と辰也とは高校時代からのつきあいだが、今は連邦にいるらしい。
混神曰く近づきがたいが是非友人になりたい。らしい。
「明日ってどっちの明日だ?」
「精霊界標準時で明日。創造界藍蒼標準時だと明後日だな。」
「私も居てええんやろか?」
真朱彌が首をかしげる。
「真朱彌さん、主師は幹事として全員出席です。」
その後観察対象が捕捉され抑止が解除され、列車が動き出した。
翌日カラオケで0次会、オシャレなレストランで1次会、ファミレスで2次会、そして居酒屋で朝まで3次会となった。
この後主師はカラオケに行くがそれは次の章で。
次は
また北浜学園のお話
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