L.C-S 第25章 迷列車で行こうの見過ぎ

「どったの?いきなりそんなとこでたそがれてさ。」
「理事になれ言われた。」
「で?」
「涼子が入んなきゃ入んないって言ってやった。」
ふてくされた声を出す混神。
「それならね、私も同じ。混神が入んないんなら入る気ないってね。」
「「えへへへへへ。」」
「どこぞのお笑い芸人みたいな事してんじゃねえ。」
笑い合う二人に突っ込みをいれる正規。
「良いじゃないですか。で、二人とも決めてくれました?」
「「勅命なら。」」
どうやら判断に困って、遥夢に決定権を投げたようだ。
「じゃあ、勅命で。理事会には出なくて良いですよ。僕も出てませんから。
それ以前に今まで、僕以外の理事なんて居なかったんです。理事『会』の体裁を形だけでも整えるために、二人に入って貰ったんです。」
ここは教室棟と呼ばれる、校舎の屋上である。
「「じゃあ、がんばりますか。」」

蒼藍王家は基本子息の婚姻に関しては品行方正かつ、多少のユーモアがあり、冗談を解し、自分の身は自分で守れるものであれば関与しない。
これは当時の後継者遥夢の婚姻に関しても同じであった。現に、正規は今現在一番の常識人である。
しかし、旧家、貴族にとってはそんな事はお構い無い。勝手に当時の後継者を遥夢の婚姻相手にしようと談合を開いた貴族が半数である。
だが、そんな貴族は成金上がりの国外転入者であり、王国の本来の貴族は、きちんとそれを押しとどめている。
ちなみにリンは、ルネスティア大公という爵位を持っているが、もう一人、この大公の爵位を有する者が居る。
それが、綾小路家当主綾小路綾女である。
彼女を筆頭に旧来からの蒼藍王国貴族は大体が伯爵以上の爵位を有し、転入貴族との区別のため旧来貴族は子爵、男爵位を名乗ることは禁じられ、
また、転入貴族も伯爵以上の爵位を名乗ることは禁じられており転入貴族が伯爵以上の爵位を名乗った場合、即座に爵位剥奪の上、財産没収と、国外追放の刑が 待っている。
まあ、今回はそんなこたおいといてといった感じのお話なのだ。
とはいえ、今回も章題と内容は乖離している。
「結局なったのかい。」
ここは保健室。真朱彌の城である。そして、主師のたまり場の一つである。
「真朱彌さーん海行きましょうよ。うみ。」
甘えた声を出す涼子。いつもならこういうことを言いそうな混神はというと、イヤホンをしていた。どうやら蝉の声がいやらしい。
「まーすーみーさーん。うーみー。」
最近混神以上に真朱彌に懐いた涼子である。というよりは混神は別のものに気を取られていてそれどころではないようである。
それは真朱彌が描いた一枚の絵。
V.C.Pのホーム画面にもそのキャラを壁紙として設定するほど気に入っている。まあ混神より、リアの方がお気に入りなのだが。
というのも、混神が何か別のものにしてもいつの間にかそのキャラになっているという有様で次第に混神も気に入って行き今ではずっとその壁紙である。
「真朱彌さん。仕方ないから行きましょうよ。それ以前にリンがバテ気味ですし。」
そう。珍しくリンがバテ気味なのだ。
それを見た真朱彌は、渋々承諾した。
翌日、どうやら、電車に乗るまでの待ち時間で完全にバテたらしいリンが、真朱彌の膝の上に頭をのせている。
「リンさんの体少し暑くないか?」
「…あーあ。深部体温45℃超えてら。なして、こうなっ……あーあ。あーあーあーあー。そういうことかーそーなのかー。」
一人で納得する混神。
「窓は…開かないわな。」
「なにすれば良いの?」
「空間透過ゲートを窓に貼って、接続先は移動性大規模ブラックホールのどれか。りん、無砲身拡散神流砲を撃て。
ただし手はこのゲートに当てろ。」
軽く車体が揺れる。
「整流砲2発相当。エネルギー変換システムが相当弱ってるなぁ。真朱彌さん、お膝お借りして申し訳ありませんが、リンのエネルギー変換を手伝ってやってく れませんか。
主上だと、エネルギー性質上真逆の性質なもので、変換ができないんです。」
「しゃあないな。…ん?」
涼子が木刀を真朱彌に渡す。
「涼子の木刀はエネルギーキャパシタになるんです。ですからそこにエネルギーを圧縮して流し込むことも可能ですよ。」
そう言い終わると個室を出る混神。
「リンは大丈夫ですか?」
「おそらく明日の朝、蒼明に付く頃にはぴんぴんしてると思います。」
遥夢達が乗った列車はリンクリス26号。長京から、フローラへ向かう列車だ。

紅蒼国最大にして神応鉄道の全ての起点。それが蒼明駅。
「変わりましたねぇ。」
遥夢が感嘆の声を上げる。
「どこに行く?璃深、麒冥、龍臥、富士吉、青葉から選んで。」
「そう言われても…。」
「どうせ乗る路線が違うとか言うんでしょ。」
呆れたこれで涼子がつぶやく。
「それもあるけどどれも一応新幹線が通ってるからそれに乗ろうと思って。」
「そもそも何で紅蒼なんだよ。」
それはもっともだ。
「藍蒼に行くには時間がかかりすぎる。それに連邦の海は総じて汚い。まあベネツィアとアクアアルタは除くけどさ。そいで持って手軽にいけるとなったらここ かなって。」
「決めました龍臥です。」
「……どうしよう。」
時刻表を見ながらうなる混神。
「まさか遥夢のよう…。」
「ちったあだまれや。龍臥行くに3系統有るかてどれ乗るか考えとるんや。」
関西弁と博多弁と信州方言の一部が混ざるのが混神の話し方。
「3階行くべ。」
『18番線に停車中の電車は、8時32分発、蒼明東方横断特急線特急鑑22号、御魂ヶ原行きです。途中停車駅は…。』
「これが南臥までの特急券でこれが南臥から龍臥までの特急券。」
乗車し、席に着いたいっこうになにやらチップを配る混神。
『本日は神応鉄道をご利用頂きまして誠にありがとうございます。この列車は南蒼発、蒼明、南神三、三好、南臥、牧丘経由御魂ヶ原行き蒼明東方横断特急線特 急鑑22号です。
途中停車駅は、玉露神宮温泉郷、春日台、神応、南神三(なしみ)、東宇美(あずまうみ)、三好、浅原、信濃原、南臥(みなふせ)、真賀原、湾奥(わん む)、牧丘、古代ヶ丘、終点御魂ヶ原です。』
「真朱彌さんと涼子には、新しいデバイスを渡しておく。これはV.C.Pと結合すると自動的に全体形状を変化させ、総合的に稼働しやすい形に持って行く。
ただし、ユーザーが保存したデータやソフト、A.Iの設定を除いてファームレベルで初期化されるから最セットアップになるけどそこは我慢して。」
混神が、紫と水色の透明なガラス玉のようなものを対応する色を象徴色に持つ2人に手渡した。
『システムセットアップを開始します。』
「真朱彌さん早速つけましたか。…特別車だから良いかな。」
『セットアップを開始する前に準備を行います。
ユーザーの前方1mに高さ50cm以上の突起物がないこと、ユーザーが利き手を最大限肩の高さで振ってなにも当たらない位置にいることを確認して下さい。
確認が終了したら、一切の起伏のない平滑で水平な平面に肩幅に足を開き起立して下さい。以上のことが完了したのを検知し…確認しました。

ユーザー登録を行います。まず、端末を肩の高さに持ち上げ、手を最大限伸ばし、体の正中線の正面に据えて下さい。
以降セットアップが完了するまで端末はその位置を維持します。
なお、異種上位端末と融合した場合は、先ほどの位置に端末が存在するものとしてセットアップを行って下さい。
ユーザーセットアップを開始します。
端末正面で小さく円を描いて下さい。このとき人差し指の太さより一回り大きな円を描くようにして下さい。
描いた円の中に人差し指を入れて下さい。指をいれたらそのまま次の指示があるまでその状態を維持して下さい。

ユーザー登録が完了しました。
現時点での最適化を行います。
端末再起動のためしばらくお待ち下さい。』
指示に従っていた真朱彌と涼子が一息つく。
『お待たせいたしました。インカムセットアップを開始します。
耳に地面と垂直に手を当て、そのまま、口の端までスライドさせて下さい。
テストコールを開始します。
まもなくテストコールセンターから着信が入ります。
承認、受話の場合は体の正中線に沿い顔の前でまっすぐ縦に一本、人差し指で線を引いて下さい。
拒否などの場合は肩の高さで水平に一本、人差し指で線を引いて下さい。
訂正を行う場合は、水平に2本線を引き=の記号を作成して下さい。
テストコールでは必ず承認を行って下さい。拒否をした場合、セットアップは中止され、以後いかなる操作も受け付けませんのでご注意願います。
この場合メーカー及びキャリアは一切責任を負いませんのでご了承下さい。
また、キャリアショップでの当該端末の引き取りを拒絶させて頂きます。
…(テストコール)…
テストが終了しました。
お客様に行って頂くセットアップ操作は全て完了いたしました。ただいまより全情報の最適化を開始します。
この処理は数分かかりますのでご了承下さい。

お待たせいたしました。セットアップが完了しました。
お客様の情報に基づき旧端末との全設定の同期が完了しました。
今後旧端末と同じ間隔でお使い頂けます。今後もどうぞよろしくお願いします。』
『大佐。』『マスターリウレウス。』
「だから、その呼び方で呼ぶなって、言ったばかりやないか。」
真朱彌が吠える。
『申し訳ございません。『下位別種端末の本端末への統合を確認しました。既に統合のための最適化は完了しているようです。本端末における使用最適化を実行 しましょうか?』』
「そうせなあかんて。」「全部やっといて。混神自販機どこ。のど渇いた。」
そう言う涼子に対して、何故かスーツの懐からペット缶を取り出した混神。何故そこから取り出した。
「あー冷たーい。」
そんな涼子を見て席を立つ混神。
「どこいくの!」
これにはすぐ反応するんだよね。
「補充。それと、亜空間ポケットの場所移動しないと。」
「飲み物もう出てこないんだ。」
「いや。間違えて、海用の亜空間ポケットから出しちまったもんでさ。飲み物は大量に用意してあるんだよ。
ほら、端から水着にくっつけとくとリュックの中で外れる可能性があってさ。」

「げ。」
「どったの?」「どうしました?」
「龍臥川増水につき、龍臥海水浴場閉鎖だって。…古代ヶ丘に行こう。て事で特急券と乗車券変更してくる。」
混神の手続きが済み、そのまま古代ヶ丘に向かう一行。
そして。
「あいっ変わらず好きだねぇ。ビキニパンツ。」
「るせー。それにこれはな、下地だ、上にこうしてトランクスタイプを履けば問題はねぇだろうが。」
「無いだろうけどさ。正規らしさがないよなぁりょうこ…。」
「「う゛ぇ?」」
正規と混神がうなったのには理由がある。どう見ても、奇抜なデザインの水着を涼子と遥夢が着ていたからだ。
前から見れば普通のチューブビキニとチョーカーをつけ、半透明の紗のようなパレオをつけているだけに見える。
涼子はといえば、一見すれば、ぼろ切れをまとっているように見えるが、よく見ればそう見えるように丁寧に裁断され、縁縫いが施された丁寧な仕事の水着。
さて、相変わらず、真朱彌はかなり独特な髪型をして出てきた。これには男性陣が一斉にうなる。
そして、
「リンおまえがすると反射きつくてかなわんからもっとほかの髪型にせい。」
リンも同じ髪型にしてきた。

泳ぎの情景は次章で。

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