L.C-S 第29章 PGW-VGV

「宗介、純君、凛坊。これあげる。」
「これ何?」
混神に呼び集められ、渡された物を見て凛が問う。
「人型汎用万能戦闘兵器。通称…リーンあと説明して。」
「「え?」」
「わーすれーたー。」
そう言って、畳にひっくり返る混神。端から見れば幼稚な大人にしか見えないが、御山家では日常茶飯事である。
第26章で結婚式を紹介した御山宗介、純夫妻。御山家と磯崎家の話し合いの元数日ごとに帰る場所が変わっている。というのも、御山家と、磯崎家が隣同士だ からできることだ。
そして、御山家が3階を増築したのに合わせ、磯崎家も3階を増築。エレベーターと連絡通路を作り一つの家としてしまった。
とまあ、ここまで書いて、ネタが無いので、これで話題を変える。
「ここが、理事長室か。」
一人の少女が、北浜の理事長室を訪ねた。彼女の名は如月陽子。きつめの顔つきと特徴で、スケバン的イメージを持たれがちだが、実際には心優しい少女であ る。
「いつも申し訳ありません。」
陽子は、北浜学園内の全ての場所に入る権限を持っている。これは、彼女が、理事長の連絡役として活躍しているためである。
「あれ?京子。」
「そこの廊下で転んで動けなくなっていたようですので治療もかねて、ここに運び込みました。」
理事長席に座っているのは、遥夢なのだがちょうど逆行で、陽子は女性としか解らない。というよりも陽子は理事長の顔を見たことが一度も無い。
理事長室のソファに仰向けに寝かされていたのは陽子の双子の妹、京子である。
遥夢が立ち上がり、京子の横に座った。そこで、陽子は初めて遥夢の顔を見た。
「何があったんでしょう?」
落ち着いた表情の遥夢を見て、危険な状態で無いと判断した陽子が問うと、
「今からいう事を聞いても落ち着いていて下さい。」
と遥夢が言う。
「脳、肺、心臓を除く主要な臓器が総じて30%損傷しています。」
『バイタルサイン60まで低下。危険です。』
「酸素濃度を上げなさい。心拍を強制的に30増加。一時的に脳幹を除く全ての演算を停止。」
不知火と遥夢の会話を只呆然とみるしかない陽子。
「京子はどうなるんですか?」
「すまんなぁ。本職…ん?副職か?まあええわ。学会が長引いてもうてな。」
「真朱彌さん。貴方の本職は藍蒼大教授。天医は副職ですよ。」
真朱彌の到着によって、息をつく遥夢。
「ダンダ、バイタルサインの監視。ピンガラ、演算の迂回代行を。」
『了解。』
雷電のデータが老朽化し、置き換えによる維持ができなくなったことをうけ、LLCと藍蒼大は、実験的な意味も込めたA.Iを2体制作し、使用者が作成した 2Dグラフィックを元に、
データを組み合わせ、名前は、連邦で使われていた言語の一つから太陽の使途という意味を持つらしい、「ダンダ」と「ピンガラ」となった。
最終的なコーディングは混神が行ったがそれ以外はリンが真朱彌と打ち合わせを行い行った物で、真朱彌から口止めされているのか、未だに2人以外はこの2体 がいったいなにに特化しているのか知らない。
『マスター、バイタルサイン40%。依然危険な状態です。』
『主、患者の脳が代行演算に返答しません。』
2体の言葉に少し考えたあと、立ち上がり、なにやらポケットをあさる真朱彌。
「こうなったら手術前に一発撃ち込むしか無いなぁ。」
そう言って真朱彌が取り出したのは一丁のショットガン。銃身の横に記されたのはダンダとピンガラの名前を記述する際に使用される言語だ。
「今から打ち込むのは医療用の生体機能強化弾や。」
真朱彌が話しながら、弾丸を装填する。すると、銃身の文字が変化する。
「生体強化ですか。装填された弾丸によって文字が変化するのですね?」
「そうや。最初の文字はサンスクリットでな、未装填と書かれとったんや。」
真朱彌が狙いを定める。そして引き金に指がかかった瞬間陽子は真朱彌に飛びかかろうとした。だが、体が動かない。
首だけは動いた。辺りを見回すと、おそらくこの世界で、最も冷たいであろう目つきと厳しい表情で遥夢が陽子を見つめていた。
「京子を助けたいのなら、医療部を呼んできなさい。今貴方にできることはそれだけです。
貴方が真朱彌さんに飛びかかったら京子は死んでしまうのですよ?
それが解ったら早く呼んできなさい。おそらく混神の馬鹿騒ぎにつきあってる者がまだ十数名居るはずです。」
陽子が部屋を出たあと、真朱彌が京子の体の四カ所に弾丸を撃ち込む。不思議なことに一滴も血は出ず、また、見た目は一切変化は無かった。
『バイタルサイン70まで回復しました。』
『演算代効率40%まで回復、スレッド600までを停止します。』
陽子が部屋を出ても険しい顔のままだった2人の顔に安堵の笑みがこぼれる。
そのうち、ぱたぱたと足音が聞こえ、理事長室に医療部が集結した。

「結局、原因はわかったけどな、呼ぶならうちも呼べって。」
笑いながらも怒る混神。
「犯人糾明はすっかり頭から抜けてました。」
「安心しい。しっかり記録してある。」
そう言って真朱彌はあの従を取り出す。記された文字は、前の2つとも違うものだった。
「腕出しや。V.C.Pや。」
混神が腕を出し真朱彌が、V.C.Pに銃口を当て引き金を引く。
「へーべんりやねぇ。」
「はい。真朱彌さんの希望を聞いて、LSNが次世代の研究の一環として作り上げました。」
「しっかしなあ。しょっぱい攻撃しよんのう。」
混神の言葉に首をかしげる一同。
「小規模高出力重力場なんて、今時しょっぱすぎて、誰もつかわへんようなった技、よう使いよるわ。」
「真朱彌さん何してるんですか?」
涼子が尋ねる。
「うん?うん。混神さんにな、撃ち込まれた者がどんな者であれ最低4分の1日は動けへんような弾丸を作って、装填しておけ言われたものでな。
調合と、力場の合成をしとったんよ。」
「あ〜真朱彌さん。」
混神が、気まずそうな表情をしている。
「姉御って呼んでも良いですか?」
「…え?…あ…ええよ。」
「真朱彌さん真朱彌さん、私も呼んで良いですか?」
「ええけど。何で?私姉御って呼ばれるほど立派な…。」
「「立派な方です!」」
強い口調でこういう御山夫妻。
「…ええわ。好きにしぃ。」
「「姉御ー。」」
「あーうっとうしい。」
このやりとりに遥夢が笑い出し、部屋中が笑いに包まれる。
「リン。笑いが薄いよー。」
リンは基本感情に乏しい。最近笑うようになったが、怒ったり機嫌が悪くなったり、とにかく笑う以外の感情はあまり顔に出さない。
「せやけど、なんで小規模高出力重力場っちゅうもんが原因て判ったんや?」
「応えますから、姉御、その格好やめて下さい。」
「ん?ええやん。暑いんやし。」
真朱彌の格好は、見ようによっては非常に扇情的だった。スポーツブラと、長めのスパッツの上から白衣を着ているだけだから。
「まあ、高速演算状態のリンの真後ろに立ってりゃそりゃ暑いやな。廃熱ものすごいから。」
「え?うわ!」
「それに姉御。冷房術使えば良いじゃ無いですか。」
「え?あっははははは。そぉやん。そぉやんなぁ。何で気ぃつかへんかったんやろ?」
小首をかしげる真朱彌に対して、
「そりゃ、気候安定した藍蒼にずっと居りゃ鈍るって。」
とつぶやいたのは正規であった。
「ん?真朱彌さん、何か光ってますよ?」
「ん。整流弾装填?」
真朱彌が持つショットガンは持ち手の部分に5発の弾を装填しておくことができる。
その中の一番奥側に整流弾という、整流砲10発分のエネルギーを封入した弾丸が装填されたと銃身に表示されたのだ。
このショットガンは片手打ちができかつサンスクリットでの情報表示を行えるようになっており、長い銃身ながら、驚くほど軽いという特徴を持つ。
「整流弾はうまくいけば、対象の動きを封じられるからな。」

「結局、侑子先輩の力を借りる羽目になりましたか。」
「学校の裏社会は御山君。
表社会は遥夢君だろ。
でもそのどちらにも属したくないという者が居る。
そう言う者を束ねるのはこう言うと汚いが金の力なのさ。」
「僕も混神も金の力は余り使いたくない質ですからね。」
「わ、わらっとるのはええねんけどな、どれに撃ち込めばええか指示してーな。」
ワイシャツタイトスカート白衣ともろ女医さんのイメージそのままの格好な真朱彌ががなる。
「そこの暗そうな男。」
混神の言葉で目標を定めた真朱彌が引き金を引く。
中庭を、ぶつぶつと何かつぶやきながら歩いていたくらい雰囲気をまとう少年が、崩れ落ちる。
このあと、言葉で抵抗を続ける少年に真朱彌が何発も銃弾を撃ち込み抵抗の意思を完全にそいだ。
少年が、京子に瀕死の重傷を負わせた犯人だった。
理由はとてもじゃないが、あほくさいものだった。
少年は入学以来ずっといじめられていた。
しかしそれはいじめでは無く、少年を仲間に迎えようとするクラスメイトの厚意だった。
それをいじめと取ったのは少年の心がどうしようも無いほどにねじ曲 がっていたからであった。
ここで、あまりの自己中発言に切れた陽子が殴りかかろうとしたが、それより速くリンが動いたように見えた。
だが、その前に、真朱彌が、けりを入れ弾丸を撃ち込んでいた。
「ふざけンなや。全て己が蒔いた種が花開いて実ぃ結んだだけちゃうんか。
それを、さも周りが悪いかのように話しねじ曲げ腐りおって。
来ないな性根のねじ曲がったどあほ見たこと無いわ。
それで、友達がでけへん?は!当たり前のことちゃうんかい。
そんなんで友達ができんねンなら、いじめっ子は今頃友達100人作れとぉわ。
え?どないやねん。それで、友達ぎょーさんおる京子さんに逆恨みしておそったんかい。
かー。己は屑や。いや屑にも失礼やな。屑以下や。
もう一度何でこんなことになったのか考えてみぃ。」
これを静かな低いドスの利いた口調で言われたら、冷酷非道な殺人鬼の金玉も縮み上がるだろう。
と混神が言うほど、濃縮されたこく重く、冷たく、そして圧迫感と威圧感たっぷりのオーラがあたりを支配していた。
そして、そんなオーラに負けたのか、少年は失禁しながら、気絶した。
だが、それを完全にぷっつんした真朱彌が許すはずが無かった。
そしてその光景を見て大笑いする混神。
彼は基本Sである。
混神が笑いながら真朱彌に渡したのは太さ1ミリほどの竹の円柱の根元を束ね、太さ5cmほどにしたもの。
「気絶したからって逃げられるわ思ったら大間違いやで。
これから、毎日、保健室で貴様のその腐った性根たたき直したるさかい、覚悟しぃや。
万が一、逃げようとサボったりしたら、引きずりだして、シバキ回したるかんな。」
この言葉に少年は教育委員会や親が黙ってないと言ったところ、
「上等や。役人でも親でも連れてくりゃあえぇわ。おまえと一緒に鍛えたるわ。
それともなんや?そいつらMなんか?」
これには、正規が飲みかけのお茶を吹き出し、むせた。
「真朱彌さん、それM違う。体罰だと抗議しに来てる。」
「なんや。モンスターペアレントとか言う奴か。
ちょうどええわ。新規調合のこの退魔弾を試しとうてうずうずしとったところなんや。」
これには今度は混神と涼子が吹き出した。涼子の場合ラムネ飲みながらだったので、咽せる咽せる。
「あ、姉御そのモンスターちゃう。」
「わーってるって。只のギャグやんか。もう本気にせんときてーな。かわいらしーな混神さんも正規さんも。」
これが冗談だとしても、混神と涼子は真に受けてしまうからこの二人は質が悪い。
「まあ、退魔弾の試射の的にはなるかも知れませんな。」
「私もこれ試してみたいんだ。劉老師がこの前の鍛え直しの時にくれた退魔剣。」
「おまえなぁ。」
「良いんじゃ無いか?なんか遥夢もうずうずしてるから思いっきり使わせるというのも。」
珍しく正規がいつもは混神が言うような台詞を言う。

「失礼します。」
「陽子、来週の土曜日空いてますか?」
「へ?あ、空いてますけど。」
「京子は?」
「暇だって言ってました。」
相も変わらず、陽子が理事長室に入るときは決まって遥夢の顔は、逆光で見えない。
「じゃあ、金曜日は着替えを2日分用意して、19時までに夕食を食べておいて下さいね。しっかりお風呂にも入っておいて下さい。釣りに行きます。」
「う゛ぇ?え〜〜?!」
「そんなに驚く事かいな。」
「せ、摂津先生?!」
ソファに座っていた真朱彌に気づかなかった陽子。
「暇ならちょうどええやないか。宿題もできるし、生物の成績も上がるしで、一石二鳥にはなるで。」
「そうじゃなくて、何で摂津先生が理事長室に?」
「ん?ああ。保健室にあるコーヒーがな不味くてかなわんのや。
だから、コーヒーはここ、お茶類はリンさんとこで飲むってのが私らの風習というか暗黙の了解的なな。
遥夢さんは、豆を自分で選りすぐって拘りの比率でブレンドした上に、煎り方にも相当こだわっとるんや。
そして天使の羽と言われるこの粉をかけると豆に秘められた旨味と甘みを引き出せるんや。
飲みたくないか?」
「はあ。」
いまいち理解できているのか居ないのか判らない表情で返答する陽子を見ながら笑顔でコーヒーをいれる遥夢。
「どうぞ。あまり砂糖を入れない方が良いですよ。入れなくても十分甘いですから。」
「…え?甘い。これ、砂糖入ってないんですよね?」
「そうや。アルティアボルフラングって言う品種なんやけどな。周りに高原ブドウが生えてへんと育たへんのや。」
まるで愛しい我が子を眺める母親のような笑顔で陽子を見つめる2人。まあ1人は実際に9児の母なのだが。
「あ。京子は行く気満々なので、参加という事で。」
「決まりやね。」
はてさて、いったいどんな釣りになることやら。

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