L.C-S 第30章 こんなもので釣られないクマーって、釣られてるじゃないか

「うにょうにょうみょーん。ん〜まんだむ。」
これは混神。
ここは、藍蒼港の一番南の埠頭。ここからさらに500m歩けば、そこはもう藍蒼大付属病院の港湾窓口なので、万が一毒魚に指されたとか転んでけがしたなど があっても大丈夫である。
「なにが釣れるんや?」
「蒼月鮪に藍蒼蛸、あと、大小貴賤玉石混淆様々な魚が釣れますけど、姉御はこれ触れますか?」
そう言って、涼子がつまみ上げたのは太さ3mm、長さ30cmにもなる大きなミミズである。
「え。もしかして、これ餌なんか?」
「はい。混神はこれに迷路解かしてますが。」
そう言う遥夢の目線の先、それが冒頭の混神の発言である。
「やけに大きい釣り竿やな。」
「釣り好きの執事からアドバイスを貰いながら最適な竿を選びました。
ルアーの巻き上げの際の細かい挙動はV.C.Pで制御する設定になってます。」
「なるほど。それなら初心者ででも安心やね。」
真朱彌が感心してた声を上げる。
「真朱彌さん、これつけておいて下さい。」
「なんや?」
「アンカーです。」
「アンカー?」
遥夢が差し出した金具の付いたワイヤーを見て、真朱彌が問う。
「つけるゆうてもどこにや。」
「腰椎コネクタです。本当は頸椎コネクタと胸椎コネクタにもつけておいて欲しいんですが。」
「…ガルドコネクト。」
「ガルドコネクト・エル・マハトラー・ベリアスズィーガイア。イェリアンコネリト・セイアンバーグロム。アンカークロミス。」
遥夢の言葉に、合わせるかのように真朱彌の腰の部分に金具が現れる
「ところでな、遥夢さん。なんやろうなこの音。」
「ん?ああ。敵の侵攻に対する交戦音ですね。」
「そんな呑気にしていて良いんか?」
「仕方ないんですよ。リールシェル級もリンクリス級もルーラで整備中ですから。どうにかしたくてもガルドが、出撃認証を降ろさないので動けないんです。」
ガルドコネクタを持つ、4人全員が飛行能力を失っている状態であり、全員のネットワーク接続も制限がかかってしまっている状態である。
「あーねーごー。」
混神が真朱彌を呼ぶ。
「なんや。今この国がたいへ…なんやこれ。」
混神が真朱彌に渡したのは、かなり物々しいライフル銃だった。
ファミ通の愛読者や、モンスターハンターシリーズのプレイヤーの方にはモンハン3Gのボウガンと酷似したシルエットといえば想像できるのでは無かろうか?
「これも梵字が浮き出るのか。」
「LSN単体では実装できなかった機能なども実装済みです。また、この銃単体でミッドガルドネットワークにアクセスすることも可能です。」
「混神。もしかして、今回の一斉整備を仕掛けたのは混神ですか?」
「うんにゃうちは、リンクリスに専用銃座をつけてと、宙軍のエデン工廠に依頼しただけです。」
無言が支配していたが。
「姉御、一発撃って下さい。方向はリンが指示しますよって。」
混神が試射を促した。
「主上の分もありますよ。」
「ありがとうございます…って、これ、対艦ライフルじゃないですか。」
「遥夢、なんだって良いからとにかく今は試射して見ろ。」
リンの指示によって、方向出力などが定められた。放たれた光線はもう、見えない。
「出撃認証取得。いつでもいけますし、リンクリスはアルトマリアにいますよ。…ん?…け。おもしろくねえ。」
混神が悪態をつく。
「どったの?」
「リンクリス級とリールシェル級が戻ってきて主砲を試し打ちして護衛艦1艦ずつ吹き飛ばしたら慌てて逃げ帰ったよ。
簡単に落とせると高をくくってたんだろうねぇ。
ばかめ。ルナハ級は小さめの銀河群なら一発で消し去る程度の威力の主砲積んでんだぞ。
艦隊が100個艦隊から半個艦隊になっても逃げなかったのに主砲試射で7隻沈んだだけで逃げやがった。」
「宙軍側の被害は?」
「無いよ。低出力な上に、照準はでたらめ。むしろ相手の自爆の方が多いね。」
「でさ、混神のそれは何?」
涼子が、混神に問う。
「ん?ああ。臥せ竿。寝釣り専用の竿www。」
「芝を生やすな芝を。」
「良いじゃん。ここ船があんま来ないから実際に芝生えてんだって。」
そう言ってる間に混神の竿がしなる。
「曳いてるんじゃ無いの?」
「食いついたねぇ。」
しなりからして、呑気な混神。しかし。
「涼子、そこのさクーラーボックスに立てかけてある竿をリールの位置をそろえてぴったりこの竿に横付けしてくれない?」
混神の言葉に応え、涼子が竿をつける。
「どったの?」
「巻き上げ転線。」
どうするのか注目していた一同は驚いた。いや。これは言葉がおかしいだろう。
リンと遥夢を除く全員と言うべきか。
とにかく、驚いた。
横付けされた竿のリールが一体化したかと思えば、竿の上を走る糸がどんどんと寝釣り竿から太くしっかりとした竿に移っていった。
「にやっはっはっはっはっは。初っぱなから、蒼月鮪だってよ―。」
「小物ですけどね。」
「そうは言っても100kg超だぞ。成体のさらに大物となれば1200は軽く超えるんだからさ。」
そんな混神達の陰で陽子と京子はというと。
「ぎゃー。うにょってなったうにょって。」
「お姉ちゃん。ミミズはうにょうにょうごく物だよ。」
瀕死の怪我から回復して以来、元々落ち着いたかなり大人びた性格の京子はさらに落ち着いたかなり達観した性格になっていた。
「「ぎゃーー。」」
混神と遥夢の悲鳴が響く。
京子が振り向くと、へたり込み腰を抜かして動けなくなった遥夢と、埠頭の付け根で、震える混神。
震えながらも確実に得物をたぐり 寄せる涼子と、遥夢に駆け寄る正規がいた。
真朱彌とリンは、我関せずと釣りをしている。
「言い忘れていましたが、この埠頭に船舶が停泊しなくなった理由は、
側面にフナムシが原因不明の大量発生を起こして、接岸するたびに船体に死骸がくっつく からなんです。」
「だから、ここに来るときに一個手前の埠頭にしよう言ったんか。」
「はい。只。洞窟書庫で藍蒼港に関する書物をお読みになっていましたので、何らかの対策をなさっている物と思いました。」
「んな記述どこにもねえぞ。」
混神が怒鳴る。
「……マスター、一帯の焼却処理の許可をお願い致します。」
「大いに許可する。」
混神がこういうのに合わせリンの足下から炎が吹き出し、周囲のフナムシを一斉に燃やし尽くした。
「もう安心です。釣り場としては申し分有りませんから、楽しみましょう。」
そう言いながら、もう釣り糸を垂らすリン。海の上では飛行が可能なシスターズが埠頭ではほかのシスターズや遥夢達が糸を垂らしている。
ベチャ。
普通釣りをしてると耳にすることの無い大きな音に全員がその方向を向く。
そこは本来遥夢が居たはずの場所。今は大きなタコがヌーンと居座っている。
「う゛ぁ。総員そのタコから離れろ。」
正規が触ろうとしたときに混神が大声で命令をする。
それに合わせるかのように、稲妻がタコの表面を走る。
おとなしくなったタコに近づき一気に焼き上げたリン。
「あ−。驚きました。…食べて良いですか?」
タコの下から這い出してきた遥夢。
自分にのしかかったタコがこんがり焼き上がった姿を見て、よだれを垂らしながら正規に尋ねる。
「あ。ああ。えっと。ソースとマヨネーズと青のりいるか?」
「いえ。混神、塩コショウ。」
一体どこから用意してきたと言わんばかりに、青い大きなポリバケツから大量の塩コショウをいつの間にか皿にのせられたタコの丸焼きにかける混神。
もきゅもきゅ。
遥夢が丸焼きになったタコの足にかぶりついている。
もちろん、切り取ったりなんてことは一切していない。丸ごとでーんと皿に載っているのだ。
それに嬉しそうにかぶりつく遥夢。ぱっと見可愛く見えるのだが、そのスピードは恐ろしい物である。
食べ始めてからものの10分もしないうちに体長5mは優に超えるであろう大ダコをもう、足を3本残すのみとなっていたからだ。
「相変わらず良い食べっぷりだなぁ。それなら、この藍蒼水蛸も本望だろう。なあ、遥夢君。」
「ん?ああ。父さんでしたか。」
「あれ?ここら辺に生きの良いフナムシがうようよ居たはずなんだがな。」
現れたのは、遥夢の父親である、バル。
為政者としてはだめだめだが、それ以外の面では完璧な見た感じ30代半ばのナイスミドルである。
「「う゛ぇ?!」」
遥夢と混神が脱力した声を上げる。
「フナムシならリンがさっき全部燃やしましたけど。」
「…そうか。じゃあいいや。今日はこれ居るし。」
そう言ってバルが取り出して見せたのは何とも巨大なミミズであった。
遥夢達が餌に使っているのよりも巨大なミミズである。
「ぎゃー。あのおっさんなんかキモイの持ってる。」
「ちょっとお姉ちゃん。」
こんなやりとりをしている如月姉妹を見て豪快に笑う遥夢達親子。
「遥夢君。君の新しい友人は非常に愉快かつ実に複雑で愉快な味の性格をしているな。」
「はい。今まで様々な学校調査をして参りましたがその中でも最も一緒に居て面白い友人です。」
遥夢が満面の笑みでこたえる。
かつて、父親のことを内心見下していたというか毛嫌いしていた遥夢だが、今では頼れる父親として見ているようだ。
これは少し出番を見つくろわないといけないな。
「そうだ。これで釣りが終わったらボウトの温泉に行こうと思っているんだが、どうだ?」
「母さんも行くのですか?」
「そうだけど何か問題でもあるの…あるな。真朱彌君か。」
親子で、鋭い目つきなものだから、いきなり視線を向けられると、おお、怖い。怖い。
「姉御なら大丈夫ですよ。今度姉御に仕掛けたらリンけしかけるって言ってありますから。」
「それなら安心だな。…あ。そうだ遥夢君。魔界にいる意味の友達を誘いなさい。」
「僕はまだ行くとは言ってないのですけどねぇ。まあいいでしょう。
…秋子と辰也ですか?確かに今日明日と休みで暇だと言ってましたけど。」
「よし決まりだ。お嬢さん方、このおっさんが釣りについて少しはお世話できるがどうだね?」
バルが話しかけたのは、如月姉妹。
京子は深々とお辞儀したのに対し、陽子は、涙目でみみずがうにょうにょ蠢くプラスチック製の小さな水槽を差し出す。
「っはっはっは。ミミズがつけられないのかい?」
バルの問いにうなずく陽子。
「つけることができるのも個性。つけられないのも個性だよ。」
「父さん。それ違うと思います。」
「そうか。ん?それをつり上げたのは誰だね?」
そう言って、水流水槽の中で游ぐ蒼月鮪を指すバル。
「引っかけたのは混神だけど釣り上げたのは涼子です。」
「そうか。…寝釣り竿か。なら引っかけられるな。釣ったときの針を貸してくれ。今なら1,000オーバーが釣れる。」
「どういうことですか?」
「寝釣り竿は、元々、蒼月鮪を漁師単体で釣り上げるために作られた竿だ。」
「これ、バル。だらしない格好をしている出ない。遥夢がマネをしたら。」
声は若いが、話し方は非常に尊大だ。
「結局、親子3代そろい踏みやんなあ。」
「母上。これはこうやって使う竿なんです。」
「「上原港一泊。」」
「黙れ。男ども。水曜どうでしょうの見過ぎだ。」
混神に次いで水曜どうでしょうにはまった正規。
2人で行った言葉は、出演者の一人が、スタッフの人間の生理的行動(どうにも我慢できずコンクリートの上に寝てしまう)に対して、言った言葉である。
「「深夜です。おかけ間違えの…。」」
「だーかーら、今はまだ昼間だって。」
このやりとりを見て、大笑いする国王三代。
「なかなか面白そうな番組のようじゃの。その上原港一泊とやらは。」
「おばあさま、それは出演者の言葉です。番組名は涼子が言った方です。」
「水筒どうでしょうじゃったか?」
「水曜どうでしょうです。」
遥夢の呆れ声にたじろぐトゥーラル。
「さてと。幹竿を貸してくれるか?」
涼子に渡された太い竿に糸を移し、先ほどの10倍は優にあろうかという巨大な魚を釣り上げたバル。
「そうそう。バル。いや。ヴェーリア。」
「へ?」
「そういえばお婆さま書類提出時に綴り間違えたんですよね。」
「余計なお世話じゃ。」
遥夢は毒はきとまでは行かないが、よく毒を吐く。
「さて、いくか。」
この言葉に全員が立ち上がり、バル、もとい、ヴェーリアについて行く。
温泉ネタ好きだなあ、この作者。
まあ、温泉好きですから。

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