L.C-S 第35章 帰っても帰らなくても変わらない日常

「あのさ、何で、リンはあんなに強いの?」
「相性良いからじゃ無いの?」
「リンが持ってるのって、爆破属性のガンランでしょ。」
「リンは炎熱が関係する属性を極限まで向上させるから。そういえば主上は雷属性か。」
そう言って、何気なく混神が涼子の手に視線を移し固まる。
「どった?」
「なんで、ディオ太刀持ってんの?しかもホムラ。」
「ん?ああ。これね。作ってみた。」
青と緑に輝く太刀は大変神秘的な輝きを放っている。
本来ゲームの中の存在であるはずのこの太刀が、今涼子の手の上にあるのは、涼子の能力の一つが作用している。
彼女は、一度目にし、手にした武器は、構造、性能ともに精巧に複製することができる。
ただし、耐久性や、攻撃力は、武神としての彼女の使用に耐えられるよう非常に高くなっている。
「まあ、それはおいといて、リンの場合、ゲームのパラメータ値無視して上昇させるからなぁ。」
「怖いんだよねぇ。味方のうちは良いんだけど。」
「この前、涼子がいないときに、狩りにいったんよ。主上と正規と、リンと4人でさ。縛ったんだよ。使う武器の系統をね。
それで、何狩るかって話になって。」
ため息をつく混神。
「白海って話になったんだよ。言ったら行ったで、リンがいっこうに来ないんだわさ。どうしたのかと思ったら、返り血浴びた状態で、フルチャージのガンラン 持って砲口こっち向いてたんよ。
うちらがどんなにやったって、流石にうちと正規は水中の行動性能は下がるから、ほとんど主上任せだから、さしてダメージは入ってないんよ。
それで、とりあえず地上に誘い出した瞬間に、リンがうったんさ。そしたら、まあ一発で終わりさうちらの苦労は何だったんだって思ったね。
それで、返り血は何かってのと、さっきまで何してたか訊いたらさ、水竜が、目の前にいてしつこく食いついてきたから、ランス状態で水竜仕留めて、
それからフルチャージにして、やっと追いついたと思ったら、もう一匹水竜がいたから、そこでぷっつんしたんだとさ。フルチャージショット2回も使う羽目に なったって言ってたけど。
大剣でやっと7,8発分のダメージのところに、普通ガンランのショット1発で白海仕留められるか?」
「…無理でしょ。」
「それを砕竜銃槍のフルチャージショット一発で、ノーダメに等しい白海を仕留めてるからな。
あいつの炎熱系統属性強化能力は恐ろしいよ。」
「ところで何で混神は砕竜双剣使ってんの?」
「色合い。」
この答えにはさすがの涼子もずっこける。
「お。統一ギルドから、各ハンターに依頼が出てるな。何々。最終大決戦だって。」
「内容は?」
「黒竜5体の連続狩猟。いずれも観測史上最大級。危険度は最大につき参加条件はHR100以上。また、統一ギルドからの資料によると、この5体がいなくな ると黒竜が絶滅するらしい。
参加人数は危険度を鑑みて一体につき1024名。即ち全5120名が参加する大クエスト。」
息を呑む涼子。
「混神さん見たか?」
「はい。黒竜連続狩猟ですね。」
「それもそうやけどその続きや。ええか?
『なお、銃槍において他より抜きん出た性能と能力を持つHR185・HNリンクリスと、パーティを組む6名については、本件には強制的に参加を命ずる。
なお報酬は他よりも高位のものとなる故、万全の用意を願う。』
だそうや。」
駆け込んできた真朱彌が読み上げた文章に対して頭をかく混神。
「場所は?」
「海原や。」
「専用フィールドか。あ。墨さん。」
真朱彌が駆け込んできたことで開けっ放しになっている部屋の扉から見える廊下を通りかかった辰也に声をかける。混神。
「やあ。ヤミ君は受けるのかい?このクエスト。」
「墨さん。うちと涼子の状態見て解らん?」
そう言う混神と涼子の周りには、緑の液体が詰まった瓶や、黄色の液体が詰まった瓶が山と積まれ、そのほかに、様々なものが置かれていた。
「混神。俺と遥夢は準備ができたぞ。おまえ達は?」
「まだなんだけど。その前に墨さん申し込んだ?」
「僕はこれからだ。」
そう言って、携帯端末を操作し、クエストを受注する辰也。
「僕は君たちのサポートに回されたみたいだ。そういえば、受注したときにsukfpgtreiってIDが先頭にある4人組を見かけたんだけどまさかね。」
「まさかじゃないわさ。」
そう言って、部屋の入り口に立つ遥夢と正規の後ろを指さす混神。一同が振り向くと、
「何じゃ。混神はまだなのか。」
トゥーラル、レイ、リンバス、ヴェルフェストの4人がいた。
「せっかくの孫達と楽しめる戦いじゃ。参加しないわけが無かろう。」
そう言ってる間に準備を終える混神と涼子。
「姉御達は準備は良いんですか?」
「どうせ向こうでできるやろ?」
「今回のクエストは最緊急クエストです。支給品は存在しませんし、接続とともにそれぞれギルドから割り振られた黒竜の前に転送されます。
ですから、出発前に準備するのは今しかできないんです。」
それを訊いて急いで準備する真朱彌と彌蘭陀。
「では説明します。今回のクエストは、16人一チームです。…(説明中)…。」
説明が終わり、旅館のエントランスホールに防具のこすれる音が響く。
「今回はリアが全ての接続設定を行います。」

「「「でか!」」」
歴戦のハンター達が集まるこのチームの一同が口をそろえてそう言うほど巨大な黒竜が、すでにあまたのハンターと戦っていた。
遥夢達に気づいたハンター達の声がいっそう大きくなる。まるで、遥夢達が現れたことで回復が行われたかのようだ。
それぞれが武器を構える。
遥夢、トゥーラル、辰也の大剣部隊と、涼子、レイの太刀コンビ。正規と混神の息ぴったりな親友同士もハンマーと双剣を構える。
槍術に秀でた覇月は、夫のヴェーリアが双剣を構えるのに合わせて、槍を構える。リンバスとヴェルフェストはそれぞれ、軽重のボウガンを構える。
真朱彌と彌蘭陀は、まさに姉妹の息を合わせた見事な、動作で弓を構える。
大型よりも小型の一掃にその威力を発揮する、片手剣使いの如月姉妹。
それぞれ、遠距離攻撃型と、近接攻撃型に分かれた。
ボウガン、弓を使う4人は、仲間に迫る小型のモンスターを一掃し、道を作る。
図体がでかいという事はその分弱点へ至る装甲も分厚いという事。
まず、正規が、その重厚なハンマーで甲殻を何度も打つ。
ほんの少し浮き上がった甲殻と肉との間に双剣使いの2人が乱舞を撃ち込み、甲殻の一部を剥がす。
ここでものを言うのが、この16人の中で一番黒竜と相まみえてきた真朱彌、彌蘭陀と、近接戦闘部隊の中で一番狩猟歴の長い辰也の経験と、判断に基づく指示 である。
的確に与えられる指示に従って、たたき込まれる、近接攻撃と、回復のためにできる近接部隊の攻撃の合間を縫って降り注ぐ、ボウガンや弓の攻撃。
これにはさしもの巨大黒竜もひとたまりも無い。
「ところでリンは?」
「あっこ。」
混神が指した先にいたのは、力尽きたハンターを食らおうと忍び寄るほかのモンスターを駆逐するリン
「何してんの?」
「体内の神流砲のエネルギーを銃槍の拡散弾となじませてるのよ。」
そんな中黒竜が咆哮を上げる。
黒竜の右側にいたハンター達がついに黒竜の右翼を破壊したのだ。その場にいたハンター達から歓声が上がる。
しかし、状況は、黒竜達の独壇場となりつつあった。ハンター有利なのは、遥夢達が混ざったハンター群と戦う黒竜のみ。
後はいずれも、ぴんぴんしているというのだ。
何体もの古竜をいとも容易く素材に変えてきた強者どもが、こうも苦戦する中、生身で、古竜と戦っても無傷でいられるという体を持つ、チートそのものな存在 7人を含む16人が、確実に黒竜の体力を奪っていった。
しかし、そこに残りの4体が現れる。ハンター達に絶望の表情がにじむ。
そんな中、遥夢達は恐れもせずただ単に頭をかくだけだった。
「一番でかいのはリンに任すとして、残りの4体やるかね。」
この言葉でチートそのものな7人が散る。
チートそのものと言っても、単に瞬間自動回復能力の持ち込みを運営側から許可されたと言うだけなのだが。
「お?緊急通達?」
「何々?『サーバ内、古竜種プログラム郡内の黒竜系統プログラムの暴走を確認。
クエスト名最終大決戦に出現中の黒竜5体の活動が、サイバーネット内に悪影響を及ぼしていることを確認しました。
ただいまより、全ハンターランクの参加を承認するとともに、サイバーキーパー…。」
この通達で、半ば自棄になった混神が突っ込んだことにより、一頭撃墜。
竜属性、雷属性は一切無効という特異な属性の遥夢の斬首で、これまた一頭撃墜。残り三頭となった。
真朱彌達ガンナー部隊の猛攻により降り注ぐ矢に、翼をぼろぼろにされ高高度からオチ自滅し瀕死状態のところを、涼子達太刀部隊が、フルぼっこ。
残り2頭のうち、空を飛んでいる方は、、混神が何気なしに当たるかなーと投げた双剣の片方が、のどに刺さり墜落。正規のハンマーで、その剣をさらに深く撃 ち込まれ、それが脳に達し、絶命。
ついに最後の一体となった。現れたのは、深い青を基調とした装備をまとったリンだった。
リンと黒竜が対峙する。
それを見守る、参加ハンター達。
リンが左手に持つ銃槍から白煙が上がる。
準備が整ったようだ。黒竜は落ち着かない様子で、首を振ったり意味も無く吠えている。
これまで数多の名の売れた強者狩人を冥土に送ってきた、黒竜が、たった一人の女ハンターにおびえているようだった。
それは黒竜だけで無くハンター達も同じであった。リンの放つ、厚く重いオーラから少しでも遠ざかろうと後退りする者。
その場にへたり込み失禁する者。一目散に逃げ出す者など、様々な反応だった。
そんな中、平気でゴザを敷いてお茶をもとい回復薬を飲んでいる一団がいた。
遥夢達である。彼女らはリンのオーラには慣れっこであるため、こんな場所でこんな状況で呑気にお茶会ができるのだった。
いつまで経っても仕掛けてこず、また、銃槍を構えたまま動こうとしないリンにしびれを切らした黒竜がリンに向かい吠えかかる。
その大きく開いた口めがけて、リンが一発。
その銃弾は、あまりにも強い光を放っていた。目がつぶれるかと思うほど赤い光を。
「何撃ったの?」
「多分拡散弾。」
リンが撃った弾丸は黒竜の体を貫いた。その直後、黒竜の口から、尻尾の先まで一直線に爆発が起き、見事に直径30cmほどの穴が黒竜の体に空いた。
「砕竜の粘菌の爆発エネルギーとリンの神流砲のエネルギーのダブルコンボだな。」

統一ギルドの本部がある大都市に最後の黒竜5体の屍と即席の御輿に担ぎ上げられたリンが上陸した。
街はお祭り一色であり、街の中心の広場で、御輿から降ろされたリンは、市民とハンターに胴上げされ、天高く舞い上がった。
相棒であり愛機である、銃創をまるでぬいぐるみのように抱え宙を舞うリン。
そこにギルドの首領と、運営のトップがやってきた。
ギルドの首領はプログラムに乗っ取り、黒竜五体の狩猟に対する労いと感謝を。
運営のトップは、労いを行った後、プログラムの暴走とそれに巻き込んだことへの謝罪。そして修正への協力に対する感謝を述べた。
そして、今回のクエストに参加したハンター全員にそれぞれが使っていた武器の系統で、最強となる武器と防具が与えられた。
またリンには、リンの属性強化に対応した、新たな武器への強化が提案されそれを了承。さらに、普段のリンの服装を防具のデザインに取り入れた防具が渡され た。
今回のクエスト以降このゲームは大規模メンテナンスを行うことを発表した。
また、LSNと3Cは、このゲームとサイバーネットをリンクさせる用意がありゲームの運営会社からの要請があればすぐに接続できるよう既に準備してあると 発表した。
運営会社に対し、個別のサイバーシティ空間の提供を宣言し、運営側も、これに2つ返事をした。
お祭りは、いつまでも続いたという。
という。としたのは、遥夢達16人はある程度で、接続を切ったためだった。
ホテルのエントランスに戻ってきた一行を出迎えたのは、同じクエストに参加していたハンター達だった。
熱気さめやらぬ彼らは、一刀のもとに黒竜の一体を斬り墜とした遥夢と今回の英雄であるリンを担ぎ上げ、温泉街を練り歩きだした。
それを見たほかの観光客もなにやら楽しそうな一行に合流。一体何の祭りなのか解らないけどとにかくはしゃげとばかりにいよいよ、一団はボウト市の市街地に 練りだした。
夜まで続いたお祭り騒ぎと大宴会。
遥夢が早々に高座の上で寝てしまい、リンは、酒豪ぶりを遺憾なく発揮していた。
「ねえ混神。サイバーシティって確か、一般企業が開設するには凄い厳しい制限があったよね。
「ああ。提供サービスが同時接続型多人数参加方式オンラインゲームなどの同一電脳空間に最低1万人が常時接続している形のものであること。
地方自治体並みの行政機能を持つ拠点を最低でも一つ構えていること。
一時間以内の同時接続人数が10万人を超えるときが毎日あること。
NPCが、最低でも1000人プレイヤーと関わらないものも含め5000人程度、拠点となる都市に設定していること。
まあ大まかにあげるとこれくらいの条件がある。
あのゲームは常時一京人が接続しているし。拠点の一つには常に五千億のプレイヤーとそれを補佐する七百万のNPCがいる。
行政機能も、住民登録から保健衛生。警察消防など実際の地方自治体と遜色ない機能が、統一ギルドという形で提供されている。
だから、時空管制省の許可が出たことを確認して3C電脳管理局とLSN電脳企画局が空間提供を決定したというわけ。」
翌日
温泉につかっている、主師達。
そこに前日の狩りには参加しなかったと言うよりも既に別の狩り(リアルな狩り)で参加できなかった俊之と令子がやってくる
狩りに行こうと誘いに来たようだ。
「3,3,3で行きまひょ。」
「その前に皆の武器を見せてはくれぬかの?」
玲子の呼びかけにそれぞれが、武器を取り出す。
ただ、4人が同じ属性のしかも、同じモンスターからとれる素材を使用した武器であった。
片っ端から紹介していくと、遥夢は冥海大剣。
正規は煉獄槌を好んで使うが、銀火槌を使用することもある。
混神、涼子、リン、真朱彌は砕竜素材から作られる武器を使用している。
混神が双剣、リンが銃槍、涼子が太刀、真朱彌が弓である。
彌蘭陀は皇海弓を使用している。
俊之は、月迅槍を使用する。
玲子は桜火大剣を使用している。
温泉で、刃物などを出してさびないのかという疑問はあるが、まあ、金属部品が使用されている部分は見受けられないようなのでスルーするとしよう。

9人の狩りは次回に回させていただく。

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