「あーのーさー。狩り行こうと思ったんだけどね―。あれー気になっちゃって。」
混神が指したのは上空に浮かぶ真っ黒な飛行機のような機影。
「あ。リンクリス。」
「…狩りはまたの機会ですね。」
「ならばのう。これで帰るじゃろ、その後、1週間は俊之の家に茶飲みにいくでな、そのときにせぬか?」
「解りました。して、主上上がったら、左袖もつけて下さい。」
混神の言葉に露骨に嫌な顔をする遥夢。
遥夢の左腕は、様々な技の発動のために常に高エネルギー状態であり、その関係から、常に体温を大幅に超える温度の空気の層をまとっている。
これを外気で冷却するため袖が無い。
「理由次第です。」
「双砲身…。」
「解りました。」
あっさりと承認した。
風呂をで、着替え廊下に出た一行。
何故か、現創造主コンビは猫耳のような髪のはねが付いている。
「…リン。ちょっといいか?」
そう言って、耳のあたりにかかっている髪をかき上げる混神。
「…それ耳か。」
リンの跳ねは、髪の毛の跳ねではなく、髪の色と同色の毛が生えた猫耳だった。
「ぼくもですけど。」
「飛びますよ―。」
「父さん、如月姉妹を送っていただけませんか?」
「うむ。任せたまえ。それにしても、旧藍蒼の建造は失策中の失策だったな。
ぼそっとヴェーリアがつぶやく。
「組み合わせが最悪だったんだな。第2代国王の在位期間=第34代長相の在任期間だもん。」
「あれ?あの御馬鹿は長相だけだったんだよね。34代太宰は?」
「太宰は、初代から11代がレイさんで12から22代がうちのじいちゃんで、23代から34代が凛坊のじいちゃん。」
「長相は、外部起用が臨時で認められていますが、太宰は、必ず3英雄の関係者と定められているんです。」
ここで正規と涼子に疑問がわく。真朱彌と彌蘭陀は、装備を確認していて、話が耳に届いていない。
「どういうことだ?」
「玲子さんは、リンバスさんの姉。磯崎隆一郎氏はレイさんの従兄弟。うちの爺ちゃんはお婆さまの兄。」
固まる正規をよそに、どこかに電話をかける混神。
「あの―、私帰ってもいいですか?」
「あ、敬語禁止です。」
「え、でも、お姉とか混神さんとか。」
「混神は好きでやっていることですし、僕とリンは元からの話し方です。真朱彌さんは、最初にあったときから何度言っても敬語のままですけど。」
そう言って、真朱彌を見つめる遥夢。身長が微妙に遥夢の方が高いので、真朱彌と目を合わせるときにどうしても軽く見下ろす形になる。
遥夢は性格の割にきつい顔をしている。
少し、引き気味の真朱彌。
「え、だって、国王陛下なんやし、こう、敬語で話すのが…。」
「話してたっけ?」
「姉御と遥夢の話の間に必ず誰か入ってたから覚えて無い。
涼子の言葉で固まる一行。
「さーていくか。」
結局、そのまま行動できるのは混神と涼子とリンの3人だけだった。
「あっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ。」
この笑いになれている真朱彌と涼子遥夢リン以外は盛大に転ける。
「さっきから、右下を特別特急線が併走してる気がするんだけど。」
「ああ。許可がまだ下りてないのと、時空管制関係官庁がない世界に、相手世界に与える影響を少なくして入るには、空間ソニックブームを作成して、入るのが
一番、効率的だからね。
リンクスに確認したら、創造界内の航路は、特別特急線に併走して、フローラと、本星でスイングバイして10往復するんだって。」
混神が、グラスウインドウを、涼子に渡す。
『速度単位を変更します。数値の変更はありません。変更に伴う加速時の衝撃にご注意下さい。』
「しばらくそれぞれの部屋で休みましょうか。」
各部のA.Iに運行を任せ、当直を残し引き上げるブリッジクルー。
数時間後。
「そういえば、前、姉御凄いこと言いましたよね。」
『ん?何のことや?』
「ほら、例のゴロゴロ姉御事件。」
この発言に真朱彌の後ろにいた彌蘭陀と混神のそばでお茶を飲んでいた涼子、リンが立ち上がる。とはいえ、おそらくリンは涼子が立ち上がったから立ったとい
う程度だろう。
「あはは。何か想像したらしく、涼子達が立ち上がってます。」
『こっちもミラが立ち上がって、何かゆっとるわ。』
真朱彌が笑う。
『まあ、想像されて減るような物やあらへんしな。今は、長袖の下着に、下はパンツ一丁や。あん時となまじ間違っちゃおらん。』
さらに豪快に笑う真朱彌。
「ほう。」
漫画などで、よくあるキラーンと目の端が光る。そんな感じの笑みを浮かべる混神。
「じゃあ、のぞかせていただこうと思いますので、これからそちらに」
「やめい。」「…。」
同時に二人からスリッパでどつかれた混神。その弁解はというと、
「んな、うちの姉御がらみの行動の大半は姉御の言葉に乗っかったノリやゆうのわかるべ?」
首を押さえながら、言う混神に対して、
「どうだろう。姉御は許してもミラの姉御に嫌われる可能性だって有るんだよ。」
『それはない。むしろそれを楽しむぐらいの余裕が出てきとるからばんばんやってもうてかまへんよ。』
「まあ、覗きに行くという洒落に聞こえない大呆けはおいておいて。
姉御!いくら完全調温だからって、リンとか主上じゃないんですから、TシャツにGパンでもいいので何か着て下さい。特にした!
乗員にまあ、リンクリスの乗員はそんな事しないですけど、襲われても知りません。」
弟分、かつ、上司に言われちゃかなわないとでも言うように渋々着替える真朱彌。
だが。
「姉御〜!タンクトップに着替えてどうするんですか。Tシャツを着て下さい。」
『持ってきてへん。』
『ところで、混神さん、『ゴロゴロ姉御事件』てなんですの?』
「姉御と以前通話してたら、話の流れから、姉御が「風呂上がりに床を全裸でごろごろしたい。」と仰ったのでノリで、想像したといったら、
その場にいた主師の女性陣にフルぼっこにされて姉御に手当てされて、3日間身動きがとれなくなったちうはなしです。」
『フルぼっこにしたのは今の創造主コンビやんか。』
これには彌蘭陀も呆れる。
『てか、お姉。昨日それやったばっかやんか。部屋風呂上がったら、すぐに浴衣着てゆったはずやろ。それなのに、10分ぐらいすっぽんぽんでごろごろして。
人来たらどうないするつもりだったんや?』
『ええやんか〜みられてへるもんやあらへんし。夢やったんやもん。一昨日、ミラがやってるの見てめちゃくちゃうらやましかったんやで。』
『私は浴衣の帯締めへんかっただけや。』
若干なすりつけあいの様相を呈してきた。
それにしても、清楚な大人な女性の雰囲気を感じるこの顔でもって、真朱彌のこの開けっぴろげ感は彌蘭陀の内気すぎる性格にちょうどいい薬になっているよう
だ。
その証拠に2人ともどこか笑顔だ。
「くそービデオ持って突入しとけば良かった〜。」
この混神という男、こういう、変態発言を酒も呑んでない弩素面でさらりと言う。
飲み会などで、酔っているときと素面の差が無いので、あまり酒を勧められないという、いいんだか悪いんだかよくわからない特典を得ている。
「呑んでる?」
「呑んでたらこんなこというか?」
そう。この混神という男、酒を呑むとくそまじめになり堅い発言ばかりする割合が高くなる。だが、元々笊でうわばみなか系であるため、素面との見分けが付く
ほど酔ったことは一度も無い。
『総員通達。時空管制省より許可が下りたため、ただいまより時空変換行程に移行します。各部当直乗員を除き、自室にて待機して下さい。』
リンクスの声が管内に響き渡る。
「いよいよ始まったんだな。」
「座標点は、キグナスの東ですね。」
『空間遷移行程が完了しました。当直乗員は、艦内各システムの起動状況を60%まで引き上げる処理を行って下さい。ビーコンにて捕捉の座標位置にて、カル
ラと交代します。』
数分後、カルラと座標位置を交換したという連絡が入った。
その頃、遥夢の部屋である艦長室で正規と遥夢が、宴会を始めていた。
遥夢は、斉藤からの報告書を見ながら、酒を呑んでいる。
「おい、目が笑ってないぞ。」
正規の指摘通り、口は笑っているが目は笑っていないというなかなかに怖い表情の遥夢。
勅命を受け2人でがんばる少女に向けて、通信回線を開く。
「そうですか。そちらにそんな愚か者がいましたか。国守の巫女と星守の巫女を守るというあなた方に下した勅命を果たせますね。
…解りました。勅命を申し渡す。しかとおぼえ、一言一句違わずリールフェルトに伝えよ。
セーランガイル・ササガシマテツオ・エル・バイサイル。ヴェイルP.G.Wセンディオール。
あなたがリールフェルトに伝えるまでは回線は開いておきます。」
「相変わらずりりしいなあ。ところでどういう意味だ?その勅命。」
「笹ヶ島哲夫を殲滅せよ。たたきのめせ。P.G.Wでもって成敗せよ。です。」
「意外に言葉は軽く、意味は重いな。」
正規が、ワインをあおる。
そんなとき、ドアが開き、真朱彌が入ってきた。
「どうなさいました?」
「ミラに追い出されてもうた。」
「主上呑んでますかー。有り。姉御がいる。」
2人の宴会はその後ぞろぞろと集まり主師勢揃いの宴会となった。
それを苦笑いで迎える遥夢。
と、不知火が、映像回線を開く。
そこには、あのパーティで出会った少女達がいた。
「リトエルス、リールフェルト!」
遥夢が少女達に声をかけ、混神がふざけて出した、いつもの制限解除標識をひったくり自分の前に置く。
「お?おーおおー。」
混神が部屋の奥で、涼子と大騒ぎしているのを横目に見て、少女達が固まっているのを見また苦笑いをする遥夢。
『2人とも制限解除命令が出てるぞ。』
確か夏海と言っただろうか。やたら混神と鉄道の話題で盛り上がっていた少女が大きな声で固まっている少女達を動かす。
「突然現れてごめんなさいね。レイさん。さてと。ツェイロス・キーケイライア・ヴェリオス。スィーア?」
『『ス、スィーア!』』
反応に笑う遥夢。
「遥夢陛下。あ。長相。」
「四月一日!」
入ってきたのはリンの秘書もとい副長相の四月一日であった。
「そういえばさ、四月一日の本名って何だっけ?」
「赤城浅葱。」
混神が応えると四月一日の顔が赤くなる。
「太宰。その呼び方は。」
「あ、そっちじゃない?四月一日八月一日の方?」
「あ。四月一日八月一日か。」
あからさまに白々しい。
「赤城浅葱と変わらないじゃねーか。」
正規がそうつぶやき、側に居た遥夢とリンが苦笑いを浮かべる。
遥夢が開いたままにした映像回線から、赤とんぼが流れてくる。
「艦内標準時と3分ほどの誤差ですね。リンクス、惑星代表国家首都標準時に合わせなさい。それと全乗員のA.Iに対し時差修正情報を転送しなさい。」
遥夢の目の前には艦内標準時とされる時間と、惑星代表国家首都標準時と表記された時間が映し出されていた。
『ただいま艦内の全メインフレーム管轄時計の補正を行いました。ただいまより5分後に、全乗員の保有端末の補正を行います。』
五分後
「リトエルス、リールフェルト17時10分に転送を命じる。転送先はリンクリス!」
混神が転送を命じた。
混神と涼子、リンが去り、遥夢と、正規、摂津姉妹は無言で酒を呑み,立ち尽くす四月一日に対し、
「呑め。」
と、正規が出したのは、よく相撲の横綱昇進会見などで見かける、巨大な杯だった。
出した理由は単に、四月一日が酒を呑んでいるところを見たことがないという物だった。
「ゆっくりでいいからお飲みなさい。」
遥夢に促され、なみなみと注がれた酒をあおる四月一日。
「うぎゅー。」
酔いつぶれてしまった。
「…あ。こいつに何か食わせてからの方が良かったかな?」
「これ雲落の中で最も強い酒ですからねー。酒に弱い四月一日には少しきついと思いますよ。」
「え?四月一日って酒に弱いのか?」
驚いた正規がコップを倒す。幸い中になにも入っていなかった。
「見せつけてくれるなあ。なあ。八月一日ちゃんもそう思うやろ?」
「う゛ー。」
真朱彌の処置のおかげで、話せるくらいに持ち直した四月一日。
それを見てケタケタと笑う遥夢達であった。
次章は、やっぱり統一世界観との交差です。-Sナンバリングが付いていますが特別編としてもカウントします。
それからやっぱりこれがしっくり来る側としてもカウントします。
Next Chapter