ジーッ。
「主上、何してんですか。リンも。」
何故か鉄道模型のジオラマが縦横無尽に走る庭を望むとある日本家屋の縁側に立つ混神と部屋をのぞく涼子。
その部屋で寝る少女の顔をのぞき込む遥夢とリン。一体何がしたいのか。
「先行くね。」
聞き覚えのあるけどそう頻繁には聞かない声が聞こえる。あ、もうあさなんだ。
そう思って私が目を開けると目の前に女性の顔があった。
「あ、起きましたか。お久しぶりです。レイさん。」
そりゃ大声を出すよ。出す前に口ふさがれたけど。
「ん!ふふははん。(あ、遥夢さん?)」
レイが多少落ち着き遥夢を認識したのに合わせて口をふさいでいた手をどける遥夢。
「おはようございます。」
「今何時?」
「6時15分ですね。」
少しの沈黙の後再び枕にだいぶするレイ。
「まあ、寝ててもいいですけど…。」
大きく息を吸い込む遥夢。
その間に防音結界を張るリン。
「王名を持って命ずる。総員直ちに起床し、階級の高き者より総括総督長の前に横一列に整列せよ。」
家が揺れるほどの大音量に私たち9人は慌てて飛び起きる。
「「そ、総帥…じゃなかった陛下。」」
「一体何や。」
「全く。今日は平日ですよ。まあそれはおいておいて、早く起きないと、遊ぶ時間が無いですよ。
特にリトエルスとリールフェルトは、早く朝ご飯を食べてしまいなさい。6時45分から真朱彌さんが特別講義をするそうです。」
げんなりするリトエルスとは対照的にわくわくとした表情で、落ち着かなくなるリールフェルト。
「遥夢さん。一体何やっとる…なあ、何でこの子こんなにワクテカしとるん?」
「真朱彌さんが特別講義すると言ったら。」
いったいいつここに来たのかと聞いたら、6時と即答されてしまった。
哲夫達はどうなったのかと聞いたら、せっかくだからと、遥夢さんたちの国に送ってしまったそうな。
「フェル・ザインディア・ガウザーミッドガルド・ランバ・テイハ・サーナ・エイハルベリア?(ミッドガルドシステムの暫定監視のために
3年間の任務期間延長をお願いできますか?)」
「え?」
「ソーレン・ノイア。サイトウ・アリーバ・タナカ・エル・スィーア・エイボル・フェリア。メリオス・ダイン・ケイシャンガ・ナイファン・セン
ボーラ。
(即答を求めるわけでは有りません。答えが決まったら斉藤か田中に言って下さい。無理だとしてもこの世界に残るかを選択できますが。)
まあ、僕としては、この任務が終わったら、この世界に2人の戸籍を作って貰って、2人のうちどちらかに駐界大使になって欲しいなあと思っていますが。
それともレイさん、大使をやってみませんか?駐界大使として、瑞穂の代表で、蒼藍王国に。
いずれにしても7年後、レイさんたちが大学を出てからの話になりますね。
そういえば、藍蒼大がリトエルスとリールフェルトを、界外戦闘学の名誉教授に任命すると言ってました。
全くあの代表教授会の呆け老人どもは一体なにを考えてるんでしょうか。2人とも教授認定の基準をクリアしてるとはいえ16ですよ。
それなのに自分たちよりも年上相手に特に相手が軍人ならいいですがただのずぶの学生相手に、抗議をしろというのがどだい無理な話でしょうに。
戻ったら、一発全員締め落としてやりましょうか。」
悪態をつくときはやたらよくしたが回るのは蒼藍王族の血なのだろうか。額に手を当て呆れる正規と混神。苦笑いする涼子と真朱彌を除き、あっけにとられる一
同。リンはというと、お茶をすすっていた。
「あ、あの。」
「ん?」
あっけにとられている者の中でいち早く回復したレイが遥夢に声をかける。
「教授認定の基準てなんですか?」
「項目がやたら多すぎて、不知火に照合させただけなので、知りません。」
「大体項目多けりゃいいってもんじゃねえってのあの禿爺ども。」
「一応、僕たち5人は全学群全学区全学部の教授認定を受けていますから、教えられますがいかがですか?」
遥夢さんのこの言葉に真っ先に反応したのが姉。
「すいません。ご教授願いたいのですが。」
姉の専攻分野があまりにコアなため、帝都大の教授陣でさえ応えられる人がいなかった。鈴ヶ森学園の経営陣=瑞穂元老院は、姉の専攻分野が、将来の瑞穂発展
につながる分野であると位置づけ、
学習院大学、帝都大学、鈴ヶ森学園大学に姉の専攻分野を教える学科を新設し姉の入学を待つ用意を整えたが、異界の知識によって、分野理解が瑞穂最高学府の
教授陣を超えてしまった。
いまや、姉の質問に答えられるのはかろうじて、リートさんとリールさんだけだ。
姉が目を輝かせ、遥夢さんの講義を聴く。
「条約違反になりますかね?」
「否。既に、基礎を手に入れてるから応用を教えても問題ないよ。でも、時空変換システムについては教えるなよ。
「大丈夫ですよ。時空変換システムを詳細に説明できるのはリンだけです。」
「ならいいんだけど。にしてもすげーなーこれ。…レイ…さんだっけ?あのさ、こいつどこに売ってるか知ってる?」
混神さんが指したのはM247系1000番台の模型。
「え?」
「いいよね。この顔。可愛いよ。ところでこいつの実車はどこ走ってるの?」
「東京から神戸だって。」
「…え。まるっきりNE251じゃん。」
混神が言うNE251とは日本連邦の鉄道会社JRが所有運行する中で、最大勢力を誇る汎用型鉄道車両の形式である。
番台によって、区分され、0〜5000番台が、通勤車用。6000〜9000が中、長距離用普通電車用。10000〜13000番台が急行以上の速達種別
用として区別されている。
顔は、225系から、貫通扉を取っ払って、E233系と混ぜ合わせた感じと言えば想像しやすいと思う。
「これが、NE251。お近づきの印に全番台をフル編成で4編成ずつあげる。」
「あのさあ、この子の家東京じゃん。大阪でこれ貰ったとして、どう持って帰るのさ。最大6両ならともかく最低4両、最大15両だよ。しかも基本10両固定
なんて。混神馬鹿じゃないの?」
涼子が突っ込む。
「もーまんたい。ここで渡すのは一番編成美が美しい、13000番台15両編成だ。」
「だーから、15両もHOゲージをどこにしまうのって訊いてるの。」
「これ。」
混神が出したのは、段ボール。
「で?…拡張空間箱ね。」
「何ですか?それ。」
見た目はただの段ボールだけど。
「いくかね。」
そう言って、混神が立ち上がると、そのまま、縁側から転げ落ちる。
「おおー。おもしろ。」
そう言って起き上がるが、いいのだろうか。スーツを汚して、どう洗うのかと小一時間。
「いや、面白いのとか言う以前におまえ痛くないのか?」
「おおー。無意識に重力制御を掛けてまうんか。こら、おもろいな。」
真朱彌さんと言っただろうか。関西弁の、女性が混神さんと同じことをして笑う。
「お姉、なにやっとるんや。」
そうは言う物の、結局主師のうちやっていないのは正規と涼子という展開となり混神と真朱彌は感性が似ているのかどうか解らないが、縁側でケタケタと笑い転
げている。
「なーにやってんだか。」
「どーざーえーもーんー。ポーンーバーシーいーくーよー。」
「ポーンーバーシー。」
「「うっさい!黙れ!馬鹿。」」
5.1chサラウンドで同行女性陣に突っ込まれる混神。
「ぼかあしあわせだなあ。」
「姉御、姉御は、混神にどんなイメージ描いてるんですか?」
「んー?そうやねえ。見ていて飽きない弟分というイメージやな。」
何故、こんなに個性的な人たちが、国の長なんだろう
「まさきさん、みてください。」
「ちょ。まて、おま、それ。」
「僕この本気にいりました。」
「買うのか。」
買うんだ。買うと言っても、それ、男性向けの年齢制限の付いたCG集だよ。遥夢さん。
「この絵がら好きです。」
「いや、だから、それ…もう俺は何も言わない。」
「いいんじゃないかな、主上が好みなら。」
混神が苦笑いしながら、大判やきをほうばる。
「…これ。」
路地にあるPCパーツショップの店頭でリンが手に取ったのは、
「コンデンサの詰め合わせ…。んなもん買ってどないすんのよ。」
「お釜。」
となりの店では遥夢がお釜を見つめる。
「だからこいつじゃねーけど、それ買っておまえはどうする気だ。」
「レイもコンデンサが気になるんか?」
「サードマシンの、マザボのコンデンサが妊娠しちゃってさ。」
「「ブフォッ。」」
マザボのコンデンサが妊娠したというのは単に、電解コンデンサが膨らんだ状態を指す。らしい。
「おいでくださーい。」
メイド服を着た女性が、ビラを配って歩いている。
「行ってみるか」
何故か知らんが4組に分かれて、メイド喫茶に行くことになった。
「「お帰りなさいませご主人様。」」
「むー。何か違うんだよね。」
「本職になれるとねー。」
うなる混神と苦笑いで同意する涼子。
「なーんかな違うんだよねー。」
「一挙手一投足からして本職とは違いますね。」
リンさんたち落ち着いてるなー。
「お嬢様達、ご注文をどうぞ。」
「え、あ、その。まだ。」
「大体その歩き方からして…くどくどくどくどくどくどくど。」
遥夢さんたちは何万人ものメイドを仕えさせている。と聴いた。だから厳しいのだろう。
それにしても、ここまで、サブカルチャーのメイドカフェの店員の挙動にけちをつけている人はいないだろうなぁ。
「本当のメイドさんて、もっとしゃきっとしてるのかなぁ。」
「オタク向けのメイドさんなんだから持っときゃぴきゃぴでいいと思うんだけどな。」
「ですよね。あちらのお嬢様と、ご主人様が、厳しく私たちの動きを…。」
「いたー!お嬢様、笹ヶ島哲夫が逃亡したとの連絡が。」
店に駆け込んできたのはスーツにベレー帽をかぶった女性。
「なーるーたーき!ちょうどいいところに来ました。リョウナ達はいますか?
「下で待機させております。」
鳴滝さんと呼ばれた女性、そういえば、パーティーで会ってた。
「呼びなさい。全く。ここの店は教育がなっていません。メイドとしてではなく奉仕者としての所作を教え込みなさい。」
「あ、鳴滝さん。」
鳴滝さんが店の奥に入っていって数分後。
「店主の了解を取って参りました」
こわい。その後のメイド喫茶は阿鼻叫喚だった。特にメイドさんが。
「あの。」
「ああ。彼女は鳴滝。宮内省給仕庁の長官兼蒼天宮給仕局の局長兼統括給仕兼国王専属給仕。簡単に言えば、本職のメイドさんで国家公務員で一番えらいメイド
さん。です。」
「その右隣の淡い赤色の服がリョウナ。給仕局副局長。左隣がメイナ。一般給仕統括責任者。簡潔に言うと、リョウナが2番目、メイナが3番目にえらいメイド
さん。」
本職のメイドさんの中でも一番偉い人が直々に指導してくれるんだ、そりゃ厳しいのもうなずける。
「「そういえば、遥夢お嬢様、局長からの報告はお聞きになりましたか?」」
「ん?ああ。笹ヶ島云々ですね。まああれは奇滅師に任せておきましょう。」
奇滅師は日本で言う陰陽師や砲術坊主などに相当する国家公務員。
「君、新しいメイドさん?」
「お嬢様、よろしいのですか?北浜を放り出しておいて。」
「どうにかなるでしょう。何でもかんでもどうにかする天才もいますから。」
そう言って、混神を見る遥夢。鳴滝はため息をつくと、接客に戻る。
本職のメイドさん3人は大人気で有ったが、遥夢達の退店時に一緒に退店したため、客からは惜しむ声が上がる。
表通りに出るときに鳴滝達と別れた遥夢達。
「すごかったなぁ。たった1時間で、入ったときとは動きのメリハリとか言葉遣いとかがもうまるっきりかわってもうて、私、本当のお嬢様になったみたいやっ
たわ。」
よく言うよ。本当のお嬢様のくせに。そういえばあの店、数ヶ月後に、本当のメイドの所作が味わえるメイドカフェというキャッチコピーで、近畿一帯のメイド
カフェの頂点に立ったらしい。
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