藍蒼パステルヒルズ
創造界最大の総合展示場である。ここを7日間全フロア貸し切りで行われるワンジャンル同人即売会の初日に遥夢達は参加していた。
「すごーい。東京國彩展示場何個分だろう。」
「さーねー。」
ゆっくり言っても大丈夫という混神の言葉は、とある一角には当てはまらなかった。
既にコスプレが解禁され遥夢達も思い思いのキャラクターにコスプレしている。お気に入りのキャラクターにコスプレする混神と涼子。自分の外見に合わせたコ
スプレをするリン。自分のと同じ職業であるキャラになりきる摂津姉妹。そして遥夢は金髪に紫色の上着をまとっていた。正規は正壬状態となり原作上では遥夢
が分するキャラクターの従者であるキャラクターのコスプレをしている。
レイたちは、混神から、外見や立ち位置なんかで適当にコスプレ衣装を渡されて、軽い台本なんかも渡されていた。
ここまで書くと、多分このイベントが何のイベントなのかは一部の人にはもうぴんと来てしまうと思うが、あえてここは想定している正式名を略して合同祭と便
宜上呼称する。
「何度見ても可愛いなあ。」
『お写真良いですかー?』
『ポーズお願いしまーす。』
いろんなコスプレが集まり至るところでシャッターが光る。すぐに遥夢達の周りにもカメラマンが集まってくる。
「全く。よくもまあ飽きもせずにゴロゴロと集まれるわね。」
口調まで変化して自分が分したキャラになりきる主師達。
涼子は自分が人妻であることを巧く利用している。リンは自分の髪の色と髪型を利用し、真朱彌は自分の職業を利用している。自分が男性であることを逆手に
とってアレンジしたコスプレをする人物も居り珍しさも有り人気だ。
主師は大体の変換時間が3秒から5秒ぐらいであることがわかり、こまめにイベントのカタログを見ては、着替えている。
「お、ジョッキとな。」
「買ってあげよっか。」
「まじで?」
「その代わり、といっちゃ何だけど。」
涼子が笑う。
「劉印の白観レプリカセット買ってくれない?私の証明ランクじゃ購入できないの。」
「いいよ。」
涼子が満面の笑顔で混神が見ていたジョッキの中から混神がほしがりそうな物を購入する。
「え、この劉工房出張所ってサークルもしかして。」
「へえ、魔導界の名工が作る様々な刀剣類のレプリカの販売か。面白そうやな。私もついてってええか?」
頷く夫婦漫才。
「「「おおー。」」あれ劉老師が居ない。」
「去年度末に先代が引退してしまいまして。当代の劉工房当主の劉桜蘭です。」
「女性の刀鍛冶か。かっこいい。」
新世代の刀鍛冶の誕生に感激する3人であったが当初の目的はしっかり覚えていた。
「すいません。白観レプリカセット下さい。」
「少々お待ち下さい。…はい。白観レプリカセットです。刀剣所持許可証を拝見します。…実は大きな声では言えませんが、これは涼子さんならここに必ず来る
から必ずお渡ししろと父から。じゃなかった先代から言われていた特別な白観レプリカセットなんです。えっと、35サフィル42クルスです。」
通路に出た3人。涼子が何気なしに買ったばかりの「白観レプリカセット」の箱を小さく空けて中身を確認し慌てて閉じて周りを見回す。
「どした?」
「何も入ってへんかったんか?」
首を振る涼子。
「ほ、ほほほほ、本物だ。こ、ここ、これ、し、しししし、真…剣だよ。」
「まあ、小さく空けてみただけでおまえのレベルなら判るだろうなあ。」
「そう言う問題や無いと思うんやけどなぁ。」
刃の無い平たい鉄の棒であるはずの白観レプリカセットの箱に入っていたのは長短2本の日本刀。それも真剣である。一体先代劉老師は何の意図でこれを涼子に
託したのか訊く気は当の涼子にもまして混神なんてそんな事考えもしなかった。
「真剣のレプリカセットですか。涼子は劉老師のお得意様ですからね。特別に真剣を作っていたとしても何ら疑問はないですねえ。」
「あの、リュウ老師って?」
レイが問う。
「ああ。劉老師は三元界、創造界、魔導界、精霊界の刀鍛冶職人の中で最高の腕を持つ一族に代々受け継がれている称号です。去年度までは劉楼明が名乗ってい
ましたが、今年度からはその娘の桜蘭氏が名乗っているようですね。クオリティも美しさも先代を超えているとか。」
「あれ、馬魅ちゃんと羽魅ちゃん。こんなところで何してるの。」
「レイの修行のお供だよぅ。」
現れたのは馬魅と羽魅先生の母親の、尾束雪子さん。15歳で羽魅先生をうんで、子育てしながら現役で大学に合格して医師免許まで現役で取った凄い人だ。そ
れで今はこの世界の医学技術を学ぶために留学をしている。
「お母さんは何してるの。」
「何かテレビのニュースでやってたから来てみたの。この世界って凄いのね。きちんと働いていたりきちんと授業を受けてさえ居れば欲しい物が買えるのね。」
私たちが遥夢さんの方を見るリートさんとリールさんは元々この世界の人だから馴れてるらしく気になった物や欲しい物はどんどん購入していく。
「ん?…就労証明のことですか?3元界のほぼ全ての地域では「働かざるも食うべからず」の原則に則り購買行為には政府から就学者、就労者にのみ発行される
就労証明が必要です。基本的に就学者の購買行為は生活に必要な衣食住に関わる物品や、その学生が専攻する分野における必需品は無料で最高品質の物が提供さ
れています。が、お菓子や、専攻外の物に関しては料金が発生します。まあ、就労証明は発行日から1ヶ月間は、何でもかんでも買い放題ですから。あ、でも就
労証明にもランクがあって、買える商品の質が変わってくるんです。まあ、大体の人はあんまり気にしませんけどね。」
「劉老師の剣は、薄くて切れ味が鋭く落ちにくくて、それでいて非常にしなやかで丈夫な上に気を込めやすいのが特徴で、3元界の剣豪や剣聖と呼ばれる人たち
は、劉老師の剣を大事に持っているんだよ。涼子が普段持っているその仕込み杖だって劉老師が親子二代の技術を集めて、作り上げた物で、値段をつけるとした
ら30億サフィル相当になるだろうって劉老師本人が言うほど良いできみたいよ。」
いきなり話題を戻されても反応に困る。
「あははは。で、その30億サフィルって円に直すといくらなんですか?」
「「4980兆円!」瑞穂の国家予算の約50年分だね。」
「国家予算の50年分!?その剣が?」
「ちょっとした事情があって、玉蒼藍と紅赤華という二つの剣を蒼紫皇という一本の剣にたたき直したんだけどそれはいくらかかったっけ。」
混神さんが遥夢さんに問う。
「3兆5600億サフィルかかりました。どちらも超高純度の玉鋼と香鋼と時空晶の合金だったので、融解に必要なエネルギーと材料費を考えるとかなり破格の
値段だと思います。」
「当時の相場だと本来はいくらかかったと思う?」
「2桁違うと思います。おそらく293兆サフィル相当。現相場で換算すると、2536京サフィル相当でしょうね。円相場に直すと…4兆2097億6千万年
分の瑞穂の国家予算に相当します。1サフィル166万円の変動無し永久固定レートですから。」
途方もない金額に私たちは腰を抜かした。
実際には詳細な金額も聞いたのだが完全に環境依存文字としか言いようが無い文字が存在するため省略する。実際の金額は
420,976,000,000,000,000,000,000,000円相当らしい。
「ところで混神、今回の戦利品はどれくらいになった?」
「平均的蜜柑箱400箱分。うち同人50箱。」
「「…重いだろそれ。」」
「姉御はどれくらいになりました?」
「俺の話を偶には聞け。」
そもそも正規は話を始めてすら居ない。それに本人も気づいたのだろう。苦笑いをしている。さて、今回の統一世界観の交差、何となくL.C側のデフォルトナ
レーションの分量が少ないと感じている方も居るかと思う。今回の交差はやっぱり側から見たL.C側の住人というテーマで行っているため自然とやっぱり側の
レイの語りが多くなってしまうことをここで断っておく。
ここまで読んでこれが一体何をベースに書かれているか解る人も居るかと思う。特に「白観」「長短2本の日本刀」「金髪で紫の上着で従者つき」という特徴を
持つキャラクターが出てきて、○○祭という名のイベントが行われるというと、もうぴんと来る人も多かろう。隠すつもりは無いが、あまり現実の名前を出して
もこの時代まで続いているという保証は無いわけであって。今回の話で描写しているイベントは、上海アリス幻樂団制作の弾幕STG「東方Project」シ
リーズに関する同人即売会である。東方Project
の同人即売会で現在最も有名と思われるのが、東京国際展示場で行われる「博麗神社例大祭」と、インテックス大阪で行われる、東方紅楼夢であろう。ところで
合同祭と呼称している以上もう、何処と何処の合
同の祭なのかは詳しい人はぴんと来るであろうし話の本筋から大きく外れているので無理矢理話を元に戻す。
平均的蜜柑箱はよく年末にスーパーに行くと。蜜柑M玉やらL玉やらが何十個も入って1980円やら2980円やらで山積みになっている段ボール箱のことで
ある。引っ越しや仕送りの際に重宝されるこの箱だが、同人即売会でも重宝する。まして、これが、亜空間倉庫を自由に操る蒼藍族なら、その中に蜜柑箱が何千
個も山積みになっていてもふしぎではない。
それにしても平積みか立て積みかは判らないが同人誌を目一杯に詰め込んだ蜜柑箱50箱とは一体この自他共に認める世界一偉い馬鹿はいくら同人誌を買い込ん
だのだろうか?
「200万サフィル?!同人誌だけでか?いや、新刊だけってのは判るけどよ。グッズは?」
「4800万。」
「合計五千万も使ったのかよ。」
「いやここではそんなんざらだぜ。現金で払う方が馬鹿ださ。」
確かに周りを見回してみても、所属を示す物。つまりは身分証を伏せた形でICカードリーダーにかざしている姿が至る所で見受けられる。
「就労証明の読み取り装置は後援のLSNからの無償貸与だからサークル側も楽になったよね。」
「金銭譲受に関するトラブルが減って、ほんと商売しやすくなったよ。」
「其処しみじみとお茶会しない。」
正規が突っ込む。
「そういや今日6時から居酒屋で打ち上げに参加するんだけどみんな来るよね。13人追加可能かって聞いたらOKきたからみんなの参加前提ですぞ。」
相変わらずこういうことに関して予定を強引にねじ込むのが巧い混神である。
「イベント終了の合図と共に手分けして今回の打ち上げに出るサークルさんの撤収を手伝います。」
「組み分けは既に済んでいますし、先方との話もつけてあります。一回事前説明もしましたよね。」
何と遥夢さんとリンさんも共犯だったようだ。
「「…言われてみれば。」」
どうやら私たちの世界に来る前直前の話らしい。私たちは片付け終わった道具類をサークルの人の車へ運ぶ作業を手伝うことになった。まあ、みんな馬魅の怪力
とバランス感覚には驚いていた。片手で5つ積み上げた中身満載の段ボールをまるで発泡スチロールを持ち上げるかのようにひょいと持ち上げもう片方も同じよ
うにして数十m離れた駐車場に足取り軽く危なげなく運ぶというのを何十往復もこなした。それでも荷物が多い。というのも遥夢さんと混神さん、リンさん、涼
子さんの4人は自分の会社の後片付けにかり出され、その荷物もあったためだ。まあ2つの会社からは臨時のアルバイト代と、もみくちゃにされてかわいがられ
るというおまけがあった。
全ての荷物が片付け終わり私たちが関わったサークルさんの撤収が終わっても、まだまだ、開催時とそんなに様子は変わりなかった。それほどまでにたくさんの
サークルが居たのだ。
「このホールのこのフロアだけで5万サークル居るからなあ。」
「全体だとどれくらいですか?」
「多分京は超えんじゃねーかな。」
混神さんの回答に私たちは度肝を抜かれた。
「お疲れ。そろそろみんな移動するみたいだから君たちも移動しよう。」
混神さんがここに来て真っ先に向かったサークルの主催者の男性が声をかけてきた。それをきっかけに私たちは移動を始める。
藍蒼市内のとある居酒屋
「「お疲れ様でしたー。」」
サークル参加、一般参加、立場は違えど一つのイベントを共に楽しんだ上での打ち上げは格別である。
それぞれに頼んだ飲み物で乾杯。つまみもいろいろ。さらに、普段は男だけという集まりに突如飛び込んだ女性陣うち2人は人妻といえど全員が20代以下の外
見である。話は自然と盛り上がる。
楽しい時間はあっとゆう間に過ぎお開きとなる。
「「またお会いしましょうね。」」
またいつか会えるといいな。でも世界が違うから。
「レイさんたちが就職する頃には、きっと自由に行き来できますよ。」
このあと、昨日入ったあの巨大風呂で呑み直しと、混神さんが言い出し、それに遥夢さんと真朱彌さんが乗っかり、二次会状態になった。
翌朝
「頭いたー!」
お酒を飲んだわけでもないのに頭ががんがんする。
「寝不足だな。」「ねぶそくやねー。」
正規さんと混神さんのステレオテナーボイス。お陰でちょっと落ち着いた。
私たちは朝風呂に入っていた。考えることは皆同じなようだ。
ボチャン!
何かがお湯の中に落ちる。
「うりゃ。」
「ひぁ。……な、なに?」
うなじに何かとっても冷たい物が当てられる。
「蒼天江の上流域のわき水を崑崙山の氷室で浄化処理した後精霊界の雪山できんきんに冷やした水で作ったサイダーと原水。おいしいよ。」
「今日は行かないんですか?」
「今日以降は自由参加。」
そう言ってお湯に深々とつかる混神。
「せっかくだし玉京行ってみるかい?」
正規がこういうことを言うのは非常に珍しい。
「ここよりも魔導界の方が、覚醒に必要な霊素なんかは濃いだろ。それに、解析技術も向こうの方が高いし、近くにブガルもある。今ならブガル皇室が来訪中ら
しいからおまえの一言で協力してもらえるはずだ。」
「…そう、ですね。せっかくですし、言ってみましょうか。」
どうやら遥夢さん、入浴時は厳守じゃない限りは、素っ裸ではいるようで、立ち上がりかけで、お湯にぷかぷか浮いていた混神さんに濡れたバスタオルを投げつ
けられていた。
「同性が多いとはいえ少なからず異性も居るんじゃ。いくらきにせんちゅうても限度がある。せめてレイさんたちと一緒の時ぐらい水着着ろ。ただしビキニの方
なその方が正規が喜ぶ。」
「おい、でたらめを…言う…な…。」
「「結局尻すぼみで喜ぶんじゃんか。」」
「ほんとに遥夢さんのことが好きなんやね。あーあ。私にもええ人みつからんかなあ。」
真朱彌さんがぼやく。
「姉御の場合必ず番犬が四六時中くっついてるから難しいかと。」
そう言って混神さんの視線が涼子さんに向かう。
「それに結婚の挨拶とかその他諸々の手続きするにしても摂津博士もそうですが、国王の重臣というだけで相手が怖じ気づいちゃうので残念ながら。」
「真顔で否定せんでもええやないか。それとも何や?私に彼氏作って欲しくないんか?」
「姉御もミラの姉御も一人の女性ですから、恋人を作って子供を産むって言うごくごく一般的な幸せを望まれるでしょう。でも絶対そこの番犬のせいでかなり後
になります。まあ、番犬が許す相手なら、人格も、能力も、知識も、容姿も、本当に申し分ない素晴らしい人物になると思いますよ。」
「姉御の趣味と研究内容を理解してくれるないし理解できる男って今のところ混神以外に、敏明とか墨さんとか10人くらいしか見たことない。」
つまりすごい女性なんだ。
「よし墨さんの話題も出たこと出し行きますか。」
大体物事の提案は遥夢さんか混神さん。計画を詰めるのは正規さんが仕切り実際の行動は混神さんが仕切っているようだ。
藍蒼から、玉京を経由し精霊界に。
界外公務省の建物に入り秋子達の部局に向かう一行。
『だーかーらー。後でするって言ってるだろ。』
『後でするなら今やれ。』
「ことわる。」
「こ・と・わ・る。じゃねー。」
ゴッ!
いやーなおとがする。
「お、おお、おおお。こ、腰が。」「う゛、う゛う゛う゛う゛、う゛う゛、」
急ぎではないが飛び入りの仕事を後回しにして食事に行こうとした秋子に仕事を終えてから行けという辰也。
辰也の言葉を無視していこうとした秋子に辰也が豪快なジャーマンスープレックスを仕掛けた。のは良いのだが、馴れないことをする物ではなく、彼は腰を痛め
たようだ。
「「相変わらず仲むつまじく馬鹿やってるなあ。」」
「「夫婦漫才やってる奴らに言われたくないわ。」」
「飯まだなら一緒にいかねえか?」
「姉御も一緒かい?」
「ああ。」
辰也も真朱彌や、彌蘭陀のことを姉御と呼ぶ。感染源は混神であるが。
「大丈夫ですか?」
私は、腰を押さえて立ち上がる、男性と頭を押さえうずくまる女性に声をかける。女性の方はどことなくボーイッシュな印象を受けるが、間違いなく胸の盛り上
がりなど女性だ。
「あ、ああ。ありがとう。腰いてえ。」
「ほい。」
混神さんが、涼子さんに170cmくらいのマネキンを投げる。
「な、何?」
「おまえ、よくうちにかけるやん。お手本見せたり。」
「後悔しても知らないよ。マネキン相手だから最大出力でやるし。」
何故マネキン相手だと手加減無しなのかはおいておいて、涼子が、マネキンを使い見事なジャーマンスープレックスをみせる。
相変わらずこういった一連の流れを作り出すのが巧い夫婦である
食堂で昼食を終えた一行は、秋子と辰也を玉京に連行することにした。もとい、連行を言い出したのはいつもの通り夫婦漫才だ。
まあ決まった者はしょうが無いという事で玉京に向かうことを承諾した秋子と辰也を加えた一行は精霊界と魔導界を繋ぐ浮き船に乗り込んだ。
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