L.C-S 第44章 神子と正壬と後一人
やっぱりこれがしっくり来る 第16話

「あー。うー。…あー誰だ?」
「「正規が壊れた。」」
「違う違う。ふと思いついたことについて考えてたんだよ。主師の女性。ああ、神子とか正壬も含めるけど、その中で一番ゴスロリに合うのって誰だろうって さ。」
唐突に何を思いついているのかと思うが、混神の場合神子になるとどうでも良いような人の話を聞かなくなる以外はかなりまともになる。どれくらいまともかと いうと、彌蘭陀や真朱彌と同レベル。つまり、主師の常識陣に入る。ので男性が正規しか居なくなると正規がぼける。ただ、相変わらず大呆けは神子だ。
「でもほんとに誰だろうなあ。」
「黒の場合は、主上、正壬、うち、涼子、ミラの姉御だし、白の場合は、リンか。」
「私の髪水色だよ。」
涼子の言葉で今思い出しましたという顔をする、神子。
「あのー、そんなに悩むなら来てみれば良いんじゃないんですか?」
こう言うのは、夏海。
「「え。」」
どうやら着るという発想がなかった様子の一行。
「多分、遥夢か正壬か神子だと思う。前髪の形の関係でさ。」
「でもそれだと、黒ですよ。白となるとおそらく、リンじゃないでしょうか?」
雲海の畔のテラスに移動してお茶会を続ける一同。
お茶会を続けつつ、いつの間にかものは試しとでも考えたのだろうか、黒ゴスロリに身を包んだ遥夢が、左手をレイの頭にかざす。
「能力の上昇率はレイさんよりも敦雅さんの方が良いんですよ。でも、上昇可能な能力値の上限が、敦雅さんの720倍以上有るんです。それと、強制的な引き 上げに対する耐性やら、能力使用に関する並列高速演算性能等の差も敦雅さんがまだ目を覚まさない理由なんでしょう。脳に流れ込んだ大量の情報を処理するた めに、意識や、運動、感覚などと言った、ソフトウェアに相当するものを強制的にシャットダウンし、その分解放された演算領域を割り振る。それでも足りない 場合、生命維持に必要な神経系を除く神経系にまで演算を割り振る。敦雅さんは今そんな状態なんだと思います。脳に直接、星守、国守の巫女の力の使い方と意 味、意義、そして、異形とは何かを書き込みました。今レイさんには先日の行の儀で書き込めなかった情報を、意識を保った状態で処理できるレベルにまで、細 分化して送り込んでいます。ただ、この方法は、敦雅さんには使えません。敦雅さんの脳が、意識を保った状態で、処理できるレベルにまで細分化しようとする と、復元が不可能になってしまうのです。そうなると、敦雅さんには、2日前と同じ方法を使わなければなりません。今、リンがそのため大規模データを生成し ています。レイさんにも明日、大規模データを送り込みます。」
「リンは、今自分の脳と敦雅さんの脳を接続して、敦雅さんの演算を補助してるはずだよ。そうじゃないと、終わらないから。」
「あの星の星守の家系はみなこの国で修行をしていたんですが、千年に一人ですから残しても仕方ないと感じたんでしょうね。」
遠い目をしてつぶやく遥夢。
「何だろうな、遥夢と言い、神子と言い、どうでも良いやという顔をすること多いよな。」
「「そう?」」
女性陣から一斉に聞き返され焦る正規。
「辰也に聞いてきた。涼子だって。」
「どっちの色で?」
「黒。」
「…きてみれ。」
この一言で正規とリン以外の主師がゴスロリになった。
「確かに似合うね。」
「てかさ、結局思ったんだけど、主師の女性陣てゴスロリ似合う体格と顔つきだよね。」
「まあね。」
そう言うと、虚空に空けた穴から何や黒い塊を取り出すと、レイに軽く投げつける神子。
塊が当たった瞬間レイの服がゴスロリになる。それを見届けると同じ事を3回夏海と馬魅と羽魅に行う神子。
「姉御はどの子が子のみですか?」
「私はなあ、黒やったら神子ちゃんかなぁ。白やったら…正規さん、ちょっと正壬ちゃんになって白ゴス着てもろうてもええか?」
遥夢と真朱彌には逆らえない正規。遥夢を見るとわくわくした顔で、正規を見ていた。
ため息をつき、真朱彌の言うとおりにする正規。すると、正壬に飛びつき腕を組む遥夢。
「何をなさっておられるのですか?」
「うりゃ。」
基本リンは、神子が投げたものは、石や刃物など危険なもの以外はよけようとしない。
「白ゴス…ですか。」
「さっきから神子は何投げてるんですか。」
「強制繊維元素構造変換用コア。」
要は、当たった居ての服の繊維の種類や色を強制的に変化させ、服の形まで強制的に変化させる小さい小さい装置の塊である。
「黒は主上と、姉御達がうち。うちと涼子は主上。リンと夏美君馬魅君、羽魅君は、レイ君。で、辰也が涼子。今回涼子は白しか用意してないけどね。で、白 は、主上と姉御達が正壬。うちとリンは涼子。後はみんなミラの姉御をあげてる。で、辰也に聞いたんだけど、リンだって。てか、ミラの姉御はわかるが、正 壬。おまえは赤面してどうする。主上が気に入った以上これからどんどん着る羽目になるぞ。」
「お嬢様、おやつをお持ちしました。」
そう言って鳴滝が数名のメイドを従えテラスに入ってくる。
「な・ん・で、かき氷なのよ。ここ雲海上よ。標高6万超えてんのよ。いくら暖房術有るからっていっても、どうがんばっても、良いとこ20℃じゃないの。そ んな陽気でかき氷食えって言うの?それよりも何よその容器は。どう見ても軽くリッター超えるわよね。そんなに食べたら3日は頭痛で動けないし5日はお腹下 すわ。」
「おかわりー。」
「ちょっと遥夢、聞いてるの?…このこはだいじょうぶか。」
あきれ果てる正壬を尻目に唇を青く染めブルーハワイをたっぷりかけたかき氷を容器に顔を突っ込むようにして食べる遥夢。
その横では半分を平らげて頭を抱えてうずくまるリンが居た。
「「かーわーいいー。」」
神子と、涼子、真朱彌が一斉にうずくまるリンを見て言う。
「ねえ、これ2kg有るんだけど、なんでこの子5杯も平らげてるの?」
「たこ焼き1t平らげるし能力属性もあるからなあ。」
「あのさあ、敦雅嬢はどうなってるの?」
「さ、先ほど、第1次の大容量データ処理が終わり、クーリング中です。つ〜っ。」
頭を押さえいすに座り直しながら正壬の問に答えるリン。
「もう、無理。」
そう言ってスプーンを置くレイ。
「ははは。敦雅君が目を覚ましたら、彼女にもこれ当てるかな。その前に一泳ぎさせないとね。」
「レイさんは、星守の巫女として十分すぎる素質と資格と力を手に入れましたからね。覚醒の感覚やそこに至る手続きもしっかり覚えたようですね。敦雅さん も、あと少しです。おそらく2時間ほど雲海に入っていれば、国守の巫女として申し分ない存在でしょう。今日はゆっくりとお休み下さい。」
私は思った。遥夢さんたちは、私たちが住む世界では絶対に出来ないけれど、私たちの住む世界に必要な存在を生み出すことが出来る。そして、その核となり得 たのが私たちだった。私たちが踏まなければならないけど単独では出来ない行程を手伝うために遥夢さんたちは来たのだと。
敦雅のおばあちゃんは、田中さんや斉藤さんが、遥夢さんの臣下だという事を最初から見抜いていた。後で何故わかったのか聞いてみようと思う。
もう少しでこの世界とはお別れだけど、また来てみたい。最後の記念にもう一度雲海で游いでおこう。

『まもなく終点神宮総合です。お乗り換えのご案内です…。』
玉京から、電車に乗って私たちは藍蒼に戻ってきた。
「お帰り。ちょうど昨日で、尾束雪子氏の留学予定期間が終わったんだが、これからどうするつもりだい?遥夢君。」
出迎えてくれたのは、遥夢さんの父上。
「…同行願います。正壬、神子、涼子ついてきなさい。リンと真朱彌さんは、レイさんたちを彌蘭陀さんは敦雅さんを第三特区へ。父さん。ご覧の通り、敦雅さ んを最低1月は休ませなければなりません。その間に行う覚醒に関する手続きを手伝って下さい。ガルドの展開も順調ですが、少し妊婦の干渉が多すぎます。で すので晶を連れて行きます。リン、蒼天宮につき次第綾女と晶を呼び出して下さい。」
どう歩いたのだろうか、私たちの降り立った神宮総合駅が有る神宮山が霞んで見える位置に居た。遥夢さんの周りに開いた状態の半透明の撒き物がいくつも浮か んでいる。そのうちのいくつかは形を変えながら、リンさんの元へ飛んでいく。
「了解致しました。」
「行きましょう。」
遥夢達が向かったのは旧国会議事堂の地下。国会が腐敗しきりそれを憂い、呆れた遥夢がリンに命じ廃止を行った国会が開かれていた、無駄な装飾を一切省き審 議以外の意図での使用を拒否するかのような実に合理的な建物は今、王立図書館の本館となっている。地下から入れる亜空間に広がる書庫には創造界が始まって から現在に至るまで、古今東西様々な体裁、言語、内容の書籍、文献が保管されていた。そしてさらに奥。蒼藍王族のみが入ることを許される領域には、創造界 のアカシックレコードにアクセスし、創造界などの三元界を含めたありとあらゆる世界の全ての情報を紹介するための設備があった。
が、今回はというか今後も省く。
省いた上で、藍蒼の南にある、巨大な医療都市。藍蒼第三特区
藍蒼は都市の権限は項に匹敵する。だが、皆便宜上藍蒼『市』と呼ぶ。
その南にあるのが、藍蒼第三特区。藍蒼大の医学郡とその付属病院からなる巨大な医療都市である。区内の8割を病院が締めている。入院患者のみならず見舞客 や外来患者、職員が快適に過ごせるように作られており、病院の中なのにショッピングモールもある。全ての施設、階層は、アンビュランスライナーと呼ばれ る輸送設備によって繋がれ、入院患者の搬送や、救急救命患者の搬入。入院患者の病棟変更、医療物資の移動やカルテの輸送なども自動化されている。
アンビュランスライナーは、色によって用途が分けられており、赤が救急。白が、患者の院内搬送。青が、医療物資の輸送。水色がカルテの輸送。ピンクが、見 舞客の輸送、黒が霊安室直行便となっている。
「すまんなあ。私のせいで、戻るのがおくれてもうて。」
「仕方ないよ。それに敦雅を残して戻るなんて私たちはしないよ。それ以前に遥夢さんたちが、私たちの世界に行く暇がなさそうだし。」
遥夢さんたちの慌ただしい動きは今後こちらの世界の時間で1年はつづくと言われた。というわけで、話が分離してもしばらく次の交差まで、こっちの世界での 話になる。
「そうか。1年は帰れへんのか。」
「その関係で、時間の整合性がどうのこうので、帰ったときには最低半年、最大1年の時間経過を許容して欲しいって、何だっけな時空管理庁だっけ?」
「時空管制省です。界間時差の整合性を取るためこちらで1年経過したら流石に出発の翌日の到着というわけには行きません。本来ならば、もっと早くお送りし たいのですが、ご容赦願います。幸い現在の藍蒼は4月。地官庁経由で教育庁に問い合わせた結果、青大央にて留学扱いでの受け入れが決定しました。ちょう ど、統合生徒会長の選出が候補者0という事で難航しているので、留学であっても現役の生徒会長は有りがたいと言うことで向こうからラブコールが来ました よ。さあ、これが統合生徒会長の制服です。これが、統合生徒会会計局の局長服。これが、書記局のもの。で、レイさんにはこちら。」
遥夢さんが渡してきたのは、腕と右襟に太い黄色の線が入った、淡い青のブレザー一式だった。
「青大央統合生徒会は、藍蒼市内にある全ての高校の生徒の頂点に立つ。生半可な能力じゃあつとまらん。特に電脳局は、電脳親和性が高くないと、全く盛って つとまらない。故に、電脳局が全員不在なんて年度も有り、その年度の生徒はこう言っては何だけど、少しできが悪い。まあ、んなこたあおいといて、統合生徒 会は会長以下、会計局、書記局、電脳局、施設局、学部生徒会管理局、委員会管理局が有り、各委員会は委員会管理局に属している。そして各委員長は委員会管 理局長が任命する。あと、統合生徒会長は警備委員長を兼任する。簡単に言えば、学内警察と検察と学内裁判所だね。警備委員会は、実動班警備隊、警邏隊、検 察隊。精査班警邏隊、検察隊。判確班裁定隊の3班6部隊に分かれている。警備委員会は統合生徒会にしか存在しない。あと、図書委員会は電脳局に属してるか らね。図書委員長だけはレイ君が任命するんだ。」
神子さんの話に私たちは固まる。そして数分は経過しただろう。
「勅命として、辞令を申し渡す。崎原夏海、右を、国立藍蒼学院付属青玉大門中央高等学校統合生徒会会長に任ずる。崎原レイ、右を同副会長及び電脳局長に任 ずる。尾束馬魅、右を同施設局長に任ずる。サルバリエヌール・リールフェルト・リヌフォルト・リールシェル・フェリアバルドノル・グロニモヌート、右を同 会計局長に任ずると共に警備委員会実動班長に任ずる。」
遥夢さんの言葉を聞いて私たちは驚いた。
普通、いきなりこういうことを言うのもどうかと思う。
「じゃ。」
「おまえらには何言っても無駄なんだよな。こういうことに関しては。だから俺は何も言わん。」

「おーい。敏明ー、凛坊ー。迎えに来たよ。」
「まてまてまてまて。狩衣着てバイクに乗るな。」
「だめかな。」
ため息をつきながらへたり込む敏明。
「どうもー。」
「こらー。束帯着て、大型二輪乗る馬鹿がどこに居る!」
「ここに居る。」
「そういえばこいつにこれ言ってもダメだった。って、女?」
神子を見て驚く敏明。
「説明は後行くよ。」
ヘルメットを放り投げ、乗るよう促す神子と涼子
「で、連れてきたと。」
「これが一番能力値が安定するからねー。さて、凛坊と敏明に…。」
「まて。その前になんで女なのか説明してくれ。」
敏明が神子に頼み込む。
「まあ、原因はそれが、うちや正壬を含めた主師女性陣で、一番ゴスロリ似合うのって誰なんだろうって宣いやがったのが一番の原因だなあ。その後、リアにス キャンさせたら、神子体の方が混神体よりも能力値が高い値で安定してることがわかったからねえ。慣らしも含めて今後は神子で行ってみようかなあって。まあ 混神体の方が都合が良い場合は混神体になるけど。基本は神子体だなあ。一応戸籍上は混神なんだけど名前はコエル・コルシェリアじゃなくてコエル・ミルネス タ・コーウェリアになるよ。性別は戸籍上は男性だけど、基本性別は女性だから。まあ、うん。ややっこしいったらありゃしない。それでもうちはこれで行く。 宗介とか全美から見たら、有るときはちゃんと両親が居るけどまたある時はというかほとんどは、母親2人という感じだね。生物学上はうちは今完全に女性なん だから。」
「それっていうな。」
「聞こえてたか。」
「普通に聞こえるように言ったんでしょ。」
涼子の言葉に頷く遥夢と凛。
「後よう。なんでそいつらここに居るんだ?」
「俺の方を向いて言うな。俺だってなんで残されているのかしらねえんだから。」
これは秋子。
「まー、せっかくだから、あーしゃん専用の特注の描画道具一式注文しようと思って。」
「ぜってーうそだ。」
「うん。実際はこの人の服をリサイズして、あーしゃんに着させるのが目的。」
あっさり認めたよこの女。
「で、さっきからおまえは何をやってるんだ?」
「エーススタイルの確認。最近やたら落ちるらしいから。」
「神鉄の導入してる、交通管理システム。現行は蒼冥管区、璃深管区、双画管区、麒冥管区、牧丘管区、富士吉管区と4方面はバージョン9。葉山は事情があっ て中心部はバージョン8で、周辺部が9。第三統括本部はバージョン7。で、このうちバージョン9がやたら落ちる。考えられる原因として同一サーバに入って いるもう1種類の運行管理システムのスタイルトランスとの相性が、9になってから悪くなっているのではないかと言われている。だから、スタイルトランス を。ああそうそう。スタイルトランスは試験導入なんよ。で、スタイルトランスを抜いて様子を見て、場合によってはパッチを当てることも予定されてる。それ から、場合によっては宇治原を隣接する牧丘管区に組み込もうという話も出てる。宇治原地域は第三の中心よりも牧丘の方が近いからねー。そうすると、スタイ ルトランスを抜くことが出来るけど、車両を変更しなければならない場合もあるし、何より駅構造が大きく変わってしまう。でも神鉄の運行の核であるエースス タイルのためには致し方ないことなんだよね。」
神子の話を少し捕捉すると、スタイルトランスでは、駅、バス停、トラックヤード、空港、港湾を一つの構造物として管理することが出来るが、エーススタイル ではそれぞれが個別に管理されている。その代わりきめ細かいダイヤグラムがくめるのがエーススタイルの特徴なのだ。
宇治原地区は川塚宇治原と大竹宇治原、長野宇治原の3つの地域に別れ、このうち最も西にある川塚宇治原が最も発展している。
「…いくかね。」
「何処へだ。」
「華劇団。と思ったけど辞めた。もーいいや。総員第0種狩猟体勢。」

「ここが、電脳空間?」
「レイ君達には、ソラ君達の装備を元に武器と防具が構築されてるからね。それから、今回は統一ギルドからの緊急クエストがあって、どうしても入らなきゃな らなかったんだけど。」
もう入ってしまったんだから仕方ないという顔の主師陣と辰也と秋子。未だに状況がつかめてない様子の、敏明とレイたち。ぼーっとしている凛。
「で、何を狩るんだ?」
「海竜、白海龍、冥海龍、大海竜とその亜種、魚龍種4種の計9種9頭。」
「前回の大規模海嘯の関係か。」
「だろうね。」
武器の手入れをしつつ正壬の姿に変わる正規。
「神子の声のトーンなんか低い気がしますが。」
「姉御に怒られた日はいつもこうだよ。朝とさっきとそれに今も怒られてるから。」
真朱彌に怒られ涙目の神子。
「…。」
「あー。使い物にならないな。今まで気張ってたんだなあ。」
「神子は私が見てるから、みんな行って。」
しかし誰も動こうとしない。
「太刀双剣と、槌って、もんの凄い戦力なんだよ。特に2人のコンビは、巨竜狩猟にはなくてはならないものだから。」
「強く言いすぎたんやろうか?」
「一言で言えば、姉御に怒られたからですね。この子は小さい頃から、母親に叱られ慣れしてるので、たいていの注意は受け入れつつ、けろっとしてます。で も、しかる人が問題で、姉御と、ミラの姉御に怒られるとこうなっちゃうんですよね。こうなるともうどうしようもないです。」
涼子の言葉の後、全員に対し耳をふさぐようジェスチャーをする神子。
「…このやろー。」
思いっきり叫んだ後すっきりしたという顔をして装備を変更する神子。
「雷と水耐性の強い装備。」
「マスター、よろしいでしょうか?」
リンさんにそっくりだけどリンさんとは違う人がそこに居た。
「どうした?リアン。」
「奇滅院、時管省、3Cから、緊急ログアウト命令が発令されました。レイ様と敦雅様以外は出ていただく方が。」
「命令の詳細な原因を聞かせて欲しいねえ。」
全員が頷く。
「先の大海嘯の影響か、わかりかねますが、各フィールドの各エリアの中央部に広いエリアの場合は中央と数カ所に、入り組んだエリアの場合は数カ所に、白 い、人間の子供らしき物がたっているという事です。統一ギルドは実装した覚えもなく、また普段扱ったことの無いデータだといっており3Cの調査結果も同様 でした。おそらくは、今回の緊急クエストは、この、謎の人間の子供らしき物体に関係があるものと思われます。」
「わかった。本当はおまえが抜けると大幅な戦力ダウンだが、調査を願う。」
「ねえ、神子、その調査役、私にやらせて。」
少し考えるそぶりを見せて許可する神子さん。
「推測ではあるものの、意見を述べさせて貰うならば、おそらく人間の子供らしき物体は霊体がデータの形で実体化したものだろう。非常に強い霊体。まあ、涼 子クラスなら何とかなると思う…が、本体がどこに居るかわからなければどうにもならない。あいつのことだから、特定のデータだけを選別して広範囲に攻撃す ることが出来るはずだけど。あいつにこれ渡しとくべきだっただろうか?」
そう言って神子さんが、私たちに見せてくれたのはまるで氷のように透き通った太刀だった。
「劉老師が崑崙山と神宮山の氷鋼の中でも最高品質のものだけを選び抜いて魂鉄につかい、玉鋼と、アグリフェライト合金でコーティングした一言で言えば、暖 かい氷で出来た太刀だ。」
神子さんと涼子さんは同じ部類の人なんだと思う。だからあそこまで息が合うんだなあ。
「いま、主上と、涼子、リンが持っている刀は、玉京の刀工達が考え得る、全ての素材を持ちうる全ての技術を使い、絶妙なバランスで混ぜ合わせ、まさに神業 と言える絶妙なタイミングで冷却し、鍛え、打ち上げた、最高の一品で、メンテナンスは、劉老師にしか出来ない。」
『神子、急いで討伐を開始しして。黒竜プログラムと霊の本体が同化してる。あ、あの人間の子供みたいなの本当に人間の子供の霊だった。』
「なんで黒竜プログラムに…あそっか。海竜プログラムは黒竜プログラムのデータベースを一部参照してるから切り離すには参照を停止しなきゃならんのか」
よーく考えたら今男一人しか居ないじゃん。
「どうするんだい御山君?」
「…創造主が産みたる唯一の裁きと定めを司りたる神の力を持ちし我が名もとに、今ここに宣す。我の眼前に在りし、白き人が子の形を成して世に害をなさんと たくらむものを常闇の間へと落とし、永久に飢えたる異形の犬にその体を食われる定めを課すと。我,コーウェリアの名においてこの宣を発動せり。…温いな。 創造主が二の御子たる判定者たりし我が名をもってここに宣し発動競り。の方が良いな。」
「それが御子の答え?」
答える代わりに、雷光をまとい、太刀を地面に突き立てる神子。
「神子の主要能力対応五行は木金水ですよ。混神の時は、火金でしたが。」

「疲れたー。」
私たちの世界では、まだ、ゲーム機の中での出来事だったモンスターハンティング。この世界では、電脳空間と現実空間が絶妙にリンクし、実際にプレイヤー本 人がハンターになってプレイが出来るようになっていた。
鉄道が空を飛び、私たちの概念とは船の概念が全く異なるこの世界は非常に科学技術が進んでいるようだ。
「そういえば、ここ虫が居ない。」
そう。この世界に来て軽く感じていた違和感。私たちの世界では、街中にも普通に居た昆虫が、この都市には一匹も居ないのだ。
「遥夢のためだよ。この子は、どうしても通常時はいかなる大きさの節足動物に対しても恐怖反応を示してしまうの。鳴き声だけでもダメ。だから、この星と ルーラには節足動物は一切居ない。」
正壬さんが説明してくれる。かつては、この星にも普通に虫が居た。でも、過去のトラウマから、総合的節足動物恐怖性拒絶症って言う病気に遥夢さんがなって 以来、急速にこの星から節足動物が減っていき、ついにはゼロになったんだって。
「さてといよいよ始まるな。」
そう。私たちの留学生活が明日から始まる。

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