「どうでしょう。今日僕の家で夕飯など。僕のおごりですので。」
[えっと私たち、赤崎だから。]
「ちょうど良いじゃ無いですか。僕の家は、発電所前にあるんです」
私たちが通学に使っている路線はその途中で、巨大な自然エネルギーを利用した発電所の前を通るのだがその発電所の前には結構発展した町が広がっている。
「そういえば、堂政の家はラーメン屋だったな。」
「そうです。いつもお世話になっている皆さんにごちそうをと思いまして。それに皆さんはあと2週間で留学を終えて祖国に帰られてしまわれるのでしょう?でしたら、ささやかながら。」
そう。あれから既に8ヶ月以上が経過し、来月からはまた鈴ヶ森に戻ることになっていた。
「何々。なんの相談ですか?」
「来月には皆さんお帰りなのでささやかながら我が家で食事会をと思いまして。」
「それなら我々綾小路学園高校生徒会と、青大央新生徒会、蘆高生徒会も参加させてください。」
ということで団体で入ったわけだけど思っていたより彼の家は大きかった。
「三ツ矢君、本日はお招きありがとう。」
「いえ。僕のわがままにつきあって頂けて嬉しいです。」
三ツ矢君のご両親が作るラーメンはとてもおいしかった。
「荷造りも終わったな。」
「もうすぐ業者が荷物取りに来てくれるんだっけ?どこ宛てなんだろう?」
[宛先は瑞穂なんだけど一度軍を経由するって言ってたよ。]
私たちは業者が来るのを待っていた。
[あの、この船はどこに向かっているんですか?]
「アリューシャン列島です。そこで、確か駆逐艦吹雪が待機していて、そこで乗り換えて頂いて、根室港に向かうらしいです。短い間でしたが楽しかったですよ。さあ、下艦準備をお願いします。あと10分ほどで、会合点なので。」
私たちは今、瑞穂への帰路についていた。あの国の軍艦で、瑞穂近海の太平洋まで送って貰い、そこから瑞穂の軍艦に乗り換えるという手はずだった。その送り役の軍艦に乗っていたのが、
「将陽さんも一緒に来てください。瑞穂に来たからには陛下にお会い頂かないと。陛下の機嫌が悪くなります。」
羽魅先生が頭を下げる。
「分かりました。」
会合点で待っていた駆逐艦吹雪に乗り換え私たちは根室へ向かう。
「これが初春の根室なんですね。」
雪が積もった根室の風景に感動している将陽さんとともに私たちは根室駅へ向かった。
「根室から、釧路へ行って、釧路から特急で札幌へ。札幌から新幹線で東京までって感じで。」
夏海の言ったルートをたどり一行は皇居に入った。
「お帰りなさい皆さん。」
[1年間留守にして申し訳ありませんでした。]
「1年?今はまだ1週間しか経ってないですよ。」
陛下がそうおっしゃる。侍従の方かが日付の表示されたデジタル時計を見せてくれた。そこには確かに1週間後の日付。私たちは混乱していたが、
「時管省相当がんばったんだ。後で閣下に報告しないと。」
将陽さんが笑っていた。
「とにかくお帰りなさい。」
陛下から他にもお言葉を頂いた上で皇居を辞した私たちは家に帰る前に大阪に向かうことになった。
「だからって何で今度は横須賀線なんだ?」
羽魅先生が問うてくるが、私も理由は知らない。だが陛下が、奈良をよろしくと言ったのはちょっと気になった。
横須賀海軍基地
瑞穂海軍の最大拠点であり、帝都防衛の要と目され、先の大戦では真っ先に空襲を受けたところである。
「いやー、この時代の巡洋艦は写真とか映像でしか見たことが無いので新鮮です。」
将陽さん陛下から、私たちの護衛と視察していく様に言われてしまったらしい。将陽さんを待つ様言われたのはそういうことか。
「こちらへ。」
通された先にいたのは海軍元帥高遠泉閣下。あの高遠元首相のひ孫に当たる方で、海軍の最高位にある海軍大臣を兼務している海洋防衛の最高責任者にして大和を旗艦とする瑞穂太平洋連合艦隊の司令長官である。
「空軍外部協力元帥ア原レイ以下3名出頭いたしました。」
「私が呼び出したわけでは無いのだが。そちらさんは?」
高遠閣下の視線が将陽さんに向かう。
「お初にお目にかかります閣下。小官は統一次元世界管理番号第01号創造界蒼藍星間連邦王国宙軍上将将陽香奈惠忠康と申します。」
「ア原大佐、この方を我が軍の階級に当てはめるならどの階級になる?」
「は。大将と元帥の間若干大将寄りの階級となるかと。」
「すいません話に加わってもよろしいですか?」
リートさんが私たちに声をかける。
「君は?」
「空軍外部協力元帥兼蒼藍星間連邦王国宙軍中将リトエルス・ラングロフォルト・ アグリフニオリアートと申します。対瑞穂皇国臨時使節を拝命しております。」
「そうか。で話はなんだね?」
使節拝命は初めて聞いた。
「将陽香奈惠忠康閣下でありますが、先日の軍報内の昇格通知にお名前が記されておりました。『指揮する艦隊の成果著しく、資格も十分のため本日付で、将長
に列し、いっそうの精進を期待する。』と。それと、将陽閣下の階級章、辞令をお預かりしております。高遠閣下、恐れ入りますが、辞令読み上げと。」
「階級章授与をすれば良いのだな。なるほど、彼女を帝都に連れてくれば陛下がここへよこされるという手はずだったのだな?あなた方の王も面白いことをお考えになる。」
リートさんが、封筒を高遠閣下に渡す。
「では読むぞ。『蒼藍星間連邦王国基軍近衛軍第三師団艦隊隷下第一特攻艦隊司令長官』ほう、あなたの肩書きは艦隊司令官なのか。おっと失礼。『第一特攻艦
隊司令長官宙軍上将将陽香奈惠忠康 貴官の功績と資格に鑑み本日をもって、将長に任じる。』え。っと、この後がぐちゃぐちゃで読めんのだが。」
高遠閣下が困り顔でリールさんに声をかけ紙を渡す。
「ありゃあ力尽きましたか。あの方は連邦語、じゃなかった。瑞穂語の表記が苦手ですから。できるだけがんばってきれいに書いて、他の仕事が来ちゃってタイムアップなんだろうなあって言うね。その後は階級章授与の旨と本日の瑞穂の元号での日付が記載されているはずです。」
「なるほど。『よって、ここに階級章を授与し、貴官のいっそうの奮起と努力を期待する。共治15年5月7日』ここは彼女の国の王の名で良いのか?」
「はい。それと瑞穂天皇陛下と閣下のお名前も。」
面倒くさそうな閣下。
「まーだ紙入っているからそれ読ませて貰う。『続いて統一次元世界管理番号第320号方面特務派遣士官兼対瑞穂皇国臨時使節リトエルス・ラングロフォル
ト・
アグリフニオリアート宙軍中将 貴官の功績と日頃の鍛錬の結果、資格に対し、昇格を持って応える。貴官を本日をもって大将に任じるとともに日付をさかの
ぼり新年度1日より対瑞穂皇国臨時使節の任を解き改めて、駐瑞蒼藍星間連邦王国大使に任じる。共治15年5月7日』以下略。」
あ、端折った。まあその後呆然としている二人に階級章が授与された。
「ア原、将長はどんな感じだ?」
「概念的には我が国の元帥と同じでしょう。ですが、階級上は元帥と大将の間元帥に限りなく近い階級と言った感じです。」
「そうか。実は諸君らに来て貰ったのは私もこれから大阪まで同行するので、顔を見ておきたかったからだ。それに挨拶もしておきたかったからな。では改め
て。既に顔見知りも居るが。申し遅れ申し訳ない。瑞穂皇国海軍大臣兼軍令部総長 太平洋連合艦隊司令長官高遠泉だ。ひいおじいさまの七光りと言われぬ様が
んばる所存である故よろしく頼む。」
そう言って思い切り頭を下げられた。
「総員高遠閣下に敬礼!」
将陽さんの号令で私と羽魅先生含めた5人が敬礼する私と羽魅先生が警察型。後の三人は艦内型と呼ばれるもの。まあ、後で聞いたら私と羽魅先生はしなくて良
かったんだって。高遠閣下も号令を聞いて慌てて顔を上げたら、5人が3種類の敬礼してるから笑いかけたっておっしゃってた。
「貴官の船はどこまでなら入れる?」
「東京湾内は入れますが、流石に横須賀軍港への入港は無理ですね。全長40km全幅4.1kmはあるので浦賀水道を支障する可能性大です。また、紀伊水道への侵入も船舶の量から考えても上空待機となるでしょう。」
「そんなに大きいのか。ん?上空待機?」
「はい。ツクヨミはスサノウ級航宙戦艦の三番艦ですので。」
なにやらひらめいた様子の高遠閣下。」
「敦雅嬢。確か梅田スカイガーデンは貴家の所有だったな。」
「そう、祖母より聞いておりますが。」
「将陽閣下、貴官のあーツクヨミ号だったか?は、梅田スカイガーデン展望台に降りるとして接舷可能か?」
なにやら良からぬ方向に話が進んでる。
「無理です。」
「そうか。可能ならば理由を聞かせてもらえるか?」
「梅田スカイガーデンの高さは地上680m対するツクヨミの艦底部から乗降口のある上甲板まではおよそ500m。周辺ビルの高さは200〜300m有りま
すし、梅田当たりは高層ビルの密集地帯です。先ほども申しましたとおり、ツクヨミは全幅4.1km有りますから無理です。それよりも近鉄に要請し、あべの
ハルカス2ndタワーに降りるほうが遥かに楽です。あちらは南西側へ艦尾を向ければ、周囲10km圏内に高さ100mを超える建物がありません。関空…あ
の、どうしてもツクヨミがよろしいのですね。」
将陽さんの問いに閣下が頷く。
「では一部民間航路を支障しますが、海軍航空隊徳島基地へ接舷させます。ツクヨミの上甲板なら、滑走路の代わりにも成りますので、臨時の誘導路を展開しま
す。確か海軍航空隊徳島基地には民間空港も併設されているはずですからこの空港を利用する各社への伝達と空港管制塔への伝達よろしくお願いします。艦長、
伊豆大島東10kmの洋上まで、海上最大船速。」
その後、呉での定期検査に向かうことになっていた、最上級重巡洋艦九頭竜に乗って私たちは伊豆大島東沖合10kmの洋上に向かった。
将陽さんの指示したポイントには確かに明らかに人工物と分かる島があった。
「司令。お待ちしておりました。」
「どこに居た?」
「いつでも司令をお迎えに行ける様銚子沖40kmの海上に待機しておりました。司令から入電があった時には南下を開始15分前に当地点に到着しました。」
徳島基地から車で大阪に入り、鶴見にある網干家本家に向かう。
「1週間見ない間にえらい大人びた顔になったな。といいたいところだが、本心ではあんた誰?という感じに代わってるって言う感じだな。」
舞子さんがわざわざ迎えてくれた。そのまま居間に通され舞子さんに、
「敦賀達が旅立った次の日に中国の海警船がまた領海侵犯をしてね。これに第12管区海上保安本部所属の巡視船たちかぜ、はまかぜと、海軍台湾鎮守府の警備
巡洋艦神田率いる第112沿岸警備水雷戦隊10隻が対応。中国側は自動航行装置の故障だって言ったんだけど中国側が、軽巡クラスの艦5隻と10数隻の駆逐
艦から成る艦隊で、その中の数隻が発砲。たちかぜが被弾したこともあって海軍側が大義名分得たりとばかりに応戦したのはいいのだけど。駆逐艦峰風と秋風が
被弾・戦闘不能に陥ったことから、台湾鎮守府の桃園率いる主力打撃艦隊が出撃してちょっとした開戦を行った末に、全艦拿捕の上で乗員もそのまま、拿捕した
艦から弾薬だけ抜いて、燃料用食などを補給して送り返してやったのが、一昨日なのよ。」
この時代、覇権主義いよいよ明らかにした中国と、どこも相手にしなくなった統一朝鮮はちょくちょく瑞穂領にちょっかいを出してきていた。
「さてと。レイちゃんやったな。明日南港に行きなさい。敦雅と後の3人は私と京都。閣下、孫の友人をよろしくお願いします。」
舞子さんが深々とお辞儀する。
翌日、私と高遠閣下は南港に泊まったままの大和に向かった。
「何これ。」
「こんなの報告受けてないぞ。」
大和はコンクリートの護岸で囲まれていた。
「補給を受けたのは良いのですが。」
そう言って近づいてきたのは大和艦長の確か、
「堂島大佐。」
「港湾局と市議会から出港禁止と言われた上になにやら業者がこういうことを。」
なんと言うことをしたのだ。
「いくら大阪が、自由な町だからと言っても限度がある!」
私は何かあったらかけろと言われていた舞子さんの携帯に電話をした。だが男性が出た。
『久しぶりですね元帥閣下。」
まさか居ると思わなかった人が居た。
『ここは網干家が所有しているので、網干家が否と言えばいくらでもこの護岸は破壊できます。』
[あの。]
『これは、大和に動いてほしくない統一朝鮮の影響と言われてる。その証拠に朝鮮系からの献金が目立っているというわけです。さて、どうしますか?網干家はこの護岸に対して一切の許可を出していないので無断と言うことになります。』
[斉藤さん?]
斉藤さんの口調はひどく真面目だ。そうしているうちに業者がやってきて大和の周りの護岸を破壊していった。
「高遠閣下、海軍は大阪市港湾局と同市議会、そして献金した企業を訴えることもできますし、権限を使ってつぶす事できますよ。」
だが、事は斉藤さんの言ったことを遥かに超えていた。海軍だけで無く瑞穂軍の象徴と言っても良い、象徴艦たる大和を動けなくしたその理由が、金くれた朝
鮮の要求に応えたということが、陛下の耳に入り国益を大きく損なったとして、陛下は激怒されたそうだ。陛下の命が下り、超大手ゼネコンが砕きに来た様だ。
私と閣下は網干邸にもう1泊したが、その夜のテレビでくだんの大阪市港湾局、市議会と、献金した朝鮮系の全員が外患誘致などで逮捕され極刑判決が下ったと
報道された。
「当たり前だ。」
高遠閣下はそう言うと、私と一人大阪に戻っていたリートさんに共一緒に寝ないかと誘ってきた。私たちは二つ返事でこれを受けた。
翌日京都に行っていた敦雅達から、舞鶴鎮守府が集めた、南瑞穂海での統一朝鮮のお馬鹿な作戦に関する話を延々と聞かされた。まあ大体は舞子さんだけど。
「陛下の言う奈良をよろしくって言うのは大和のことだったんだ。」
「君が、この国の軍元帥か。」
彫りの深い壮年の白人男性が立っていた。
「えーっと」
「海軍元帥高遠泉だ。この子達は軍籍はあるが、公職に就いているわけではないので。私が代わろう。」
「ドイツ帝国首相兼統合軍国家元帥エーリッヒ・ロンメルだ。皇帝陛下の名代できた。」
「えーっと、砂漠の狐と名高いかのハンス・ゲルトルート・ロンメル将軍の子孫の方ですか?」
ハンス・ゲルトルート・ロンメル将軍は第二次大戦時のドイツで、最強の機甲軍団を率いたと言われる将軍で、当時の全権首相兼ナチス党総統アインリッヒ・ヒトラーが、捕らえられた後、民主的な現在の瑞穂の様な国家を作り上げた。
「はい。彼から数えて六代目の直系子孫です。と。実は、今回は友邦である瑞穂に対して要請があってきたのだ。」
ロンメル閣下の来瑞から40年の月日が経ち、国会。
『第526代内閣総理大臣に臣民党ア原レイ君を指名します。』
1月前からの首班指名選挙の結果私は新しい総理大臣に選ばれた。姉とあの人との約束と姉のスパルタ指導の結果2つの世界3つの国家の最高学府から首席ない
し次席卒業という栄誉を与えられ、高校時代に内定していた会社に入るも勤続30年目に海軍大臣に歴任していた泉さんから秘書になって欲しいと頭を下げら
れ、その翌年政界入り。みごと見た目20程度中身還暦間近というちぐはぐな女性政治家の誕生である。
第526代内閣は私、崎原レイを主班とし副総理兼務の国土交通大臣に姉のア原夏海。海軍省、陸軍省、空軍省を統合した国軍省大臣に高遠泉。財務大臣に網干敦雅が就任した。
この新内閣は始動当初から大きな功績を数多く残し、かの国と同じく、緊急時以外の仕事がないという状態になっていたといわれている。でも実際はそんな実感なんて無く、ただ、この国をよくしたいという一心でやっていた。
それからさらに30年が経ったある日のこと。東京湾国際空港にユニオンジャックをあしらった尾翼を持つ機体が降り立った。
『英国女王エリザベス5世陛下に敬礼。』
軍儀仗隊の敬礼を受け、大英帝国国王エリザベス5世が瑞穂の地に降り立った。
「レーイ。元気だった?」
「12年ぶりか。久しぶりだね。」
「最後に直接会ったのはポーツマス国際観艦式だったよね。」
大学時代鈴ヶ森を視察されたエリザベス5世陛下の端末が壊れ迷われているところを私が助けたことがきっかけで、個人的な交友が生まれた。奇遇にも私と陛下は同じ年齢であった。
「明日、レイの家に遊び行くね。それと、この街を案内して欲しいな。」
世界に冠たる大英帝国の女王といえ、その中身は年相応の(この世界の人にとって2桁年齢は子供も同然)天真爛漫な少女だった。
その夜。
『以上のように、我が大英帝国と瑞穂皇国のきずなは大変深い物である上に、私と、瑞穂首相との盟約に従い、瑞穂元首信仁陛下との間に英国瑞穂友好相互安全保障同盟基本条約を締結するために参りました。』
家でニュースを見ながらコーヒーを飲んでいた私は記者会見するエリザベスの言葉に吹き出した。
「汚いなあ。ちゃんと掃除…ねえ、今なんて言った?友好相互安全保障同盟基本条約って言ったよね。」
姉が食いつく。友好相互安全保障同盟基本条約は両国の防衛戦力を高い方に強制的に合わせなくてはならないという条件がつく条約であり、比較的差違の無い国
家間同士で結ばれることが多い。だが、今回の英国瑞穂友好相互安全保障同盟基本条約では、瑞穂は、かの国からの支援の元伊勢級以上の3級は宇宙空間でも交
戦が可能である航宙戦艦であり、その他艦艇も航宙能力を有している。だが、英国の場合は、航空戦艦である、キングジョージ級が最新鋭であった。というより
航宙戦艦なんて瑞穂しか持っていない。
そのため、この、英国瑞穂友好相互安全保障同盟基本条約を締結するとなると、保有艦艇の8割以上に航宙能力をつける改造を施すか新造艦と置き換えなければ
ならない。欧亜大陸を挟んだ両岸に位置する島国である両国ということで、瑞穂の親英感情はかなり高く、本条約締結に際して先の条件に関しては瑞穂造船業界
がその能力を遺憾なく発揮してくれるだろう。
「ところで、レイと陛下との間の盟約って何?」
問題はこれだ。以前、エリザベスと遊んでいた時にあの人が訪ねてきた。あの人との間には『瑞穂に信仁と崎原レイ有る限り、我らは瑞穂の友となる二人が今の
地位にいる限り我らは瑞穂を支えよう。』という約束があった。信仁陛下が瑞穂の天皇陛下であり続け、私が、瑞穂の総理で有る限りかの国の新技術を瑞穂に無
条件で与えてくれる。というものだった。それを聞いたエリザベスが英国にも何か欲しいと言い出して、あの人が出した条件が私とエリザベスの個人的約束であ
る『君在る限り我も有る。君の危機は我の危機故に助けよう。』を実践して欲しいというものだった。ちなみにこの言葉は続きがある。「君在る限り我も有る。
君の危機は我の危機故に助けよう。汝らが友で有る限り我は汝らを助けよう。汝らが友で有る限り、汝らの危機を救おう。汝ら有る限り汝らが住む世界の発展を
約束しよう。という物である。
『レイ、このテレビ見てたらすぐにメール送りなさい。』
「送るんだ。」
姉が呆れ顔で私の手元の携帯端末を見る。
『かかる世界情勢の悪化と、我が国、そして瑞穂両国と深いきずなで結ばれているドイツ帝国の危機を鑑み、我が帝国国防部は本条約締結と同時に全世界に向
け、瑞穂に次ぐ本世界で二番目となる多次元世界間同時相互通称友好条約締結と、それに付随する技術導入により、新たに航宙戦艦を3隻海軍に導入し一番艦を
我が国における大西洋の鎮守たるスカパフロー基地に。二番艦を瑞穂海軍の太平洋ハワイ鎮守府。三番艦をインド連邦瑞穂海軍コーチン遣印基地にそれぞれ配備
するため、本日南大西洋トリスタン・ダ・クーニャ港を出港したことをお知らせします。』
テレビに映るエリザベスの言葉に私たちは改めて顔を見合わせた。
「航宙戦艦導入?感じとしてはどういうタイプなんだろう。」
[あ、エリザベスからメールだ。『(注:web翻訳を使用しています。文法に誤りがある可能性がありますが、筆者の英語力は皆無のため直しようがありませ
んご了承ください。)Who surprised surprise announcement? Ise-class or more and
the Nagato class less than the allowed to design buildings in the
conditions, Queen Elizabeth class Coleoptera battleship second ship
Queen Victoria and a third ship Queen Mary, my and the British Empire,
deep friendship of proof of the return home We hope to be a.
Elizabeth.(サプライズ発表驚いてくれた?伊勢クラス以上長門クラス未満を条件にして設計建造させた、クイーン・エリザベス級航宙戦艦二番艦ク
イーン・ヴィクトリアと三番艦クイーン・メアリーが、我が大英帝国と、帰国との深い友情の証となることを望みます。 エリザベス。)』はー?!あ、諸元添
付されてた。45口径38cm連装砲5基10門の他ブルーインパルスミサイルやら、なーんか戦艦と言うよりでっかい駆逐艦て感じかなあ。砲塔より雷装の方
が強力なんだよなあ。あ、えっと、お姉ちゃんにわかりやすく言うと電車を名乗ってるし、確かにモーターは強力なんだけど動力集中方式って感じかなあ。]
「余計わかりにくいぞ。電車と名乗るのに、気動車と名乗ってるって言った方が良いと思うが。あ、逆か。それと、さっきから高遠国軍相から電話が来ててな。」
「驚いたがありがたい申し出だな。それにしても、この名盤はなんと読めば良いんだ?ア、アソリタト。」
[エソーテス・センカウ・マナズ4452-36-5655-32223-399。チア・ドクン・カント・ツァイグン・キーク・エリザベス・クン・6ベン
ケ・エル・キーク・エレクトラ。フィア・セア・ディア=サンカ=タルカス。あの国の言語の古語をアルファベット表記にした物です。]
「それで、何と書いてあるのだ?」
ぽかーんとする泉さん。
[艦名と進空年が書いてありますね。それと最後にこれをあちらの英国に送ると書いてあるんです。]
「瑞穂語に直していってくれないか。」
[超弩級航宙戦艦クイーン・エリザベス級6番艦のクイーン・エレクトラ 無年時第4452-36-5655-32223-399期進空す。 これを大英星間帝国に贈る。ですね。これどうしたんですか?]
かの国の言葉を読め、通訳無しでこの形で会話できることからかの国の首相格の人物とは非常に密な連絡を取っていた。
「瑞穂海溝を調査中の白鷺級フリゲートが、深海珊瑚の枝に引っかかっていたのを持ってきたんだ。そういえば、約22kmに渡って、海溝の壁が不自然に曲線
的な盛り上がりを持って棚のような物を形成していたという報告があった。10年前の同座標の調査ではなかった物らしい。」
[じゃあ、ちょっと訊いてみますね。]
「どこにだ。」
この銘板はあの国言葉で記されている。しかも最後読まなかったがメーカー名が記されていた。あの人が経営する企業体に属する会社だ。ならば、
[お久しぶりです。一つ伺いたいのですが、SGKE-06RN-BBQE06に関して現状はご存じですか。]
あの国の首相格に電話をかけた。
[確認の上で折り返してくださるそうです。]
「総理、さっきのSGKE何たらは何だ?」
[あの国の古語で戦艦を意味する言葉がツァイグンです。アルファベット表記ですと、Soaigkunになります。あの国では戦艦は我が国のようにBBでは
無く、この古語から用いてSGと呼びます。また同じように、男女問わず王を表す単語がキークです。これの頭文字がKです。SGKE-06はクイーンエリザ
ベス級戦艦六番艦を意味します。RNはロイヤルネイビーのことでその後はSGKE06を我が国でも使う英語式に直した物です。これだけ伝えれば先方はク
イーンエレクトラ号のことだと分かってくれます。]
そこまで言ったら私宛てに電話がきた。
[行方不明ですか。あ、いや。実はその銘板が今手元にありまして。は?はい。国軍省大臣室です。市ヶ谷の。…今からいらっしゃるそうです。]
「誰がだ。」
電話が切れ、和泉さんが呆れ顔になった数分後、大臣室の電話が鳴る。
「何だ。うん。特徴を言え。うん。少し待て。レイ、さっきの電話の相手だが、銀髪、白眼の長身で髪をおまえのように束ねている無口な女性か?」
和泉さんの問いに私はうなずく。
「そうか。待たせた。私の。というよりは総理の客人のようだ大臣室にお通ししろ。…レイ。これからいらっしゃるのはどういう方なんだ。」
[あの国の首相に相当する王族の方でして、国王の従姉妹に当たる方です。]
「失礼します。リンクリスと申します。」
入ってきた女性はどこかつかみ所の無い感じがする。あの国の首相格。確か長相と言ったか。
「ようこそ瑞穂へ。」
「ちょうど大韓に用があったので。お問い合わせ頂いた、クイーンエリザベス級戦艦六番艦ですが、この世界の近くの次元境界面間空間で消息を絶っています。
何の通報も無く。おそらく英国…大英星間帝国女王エリザベス15世の、名により何らかの任務を行っているのでしょう。これがその銘板ですか。」
リンクリス女史は銘板を手に取るとそのまま動かなくなった。姉である前長相曰く、こうなったら手に持ってる物に関する情報をありとあらゆるアカシックレコードに接続して探査してる最中だからほっとけば良いよ。らしい。
「キーク。アンクス・エル・ヅァイグン・キーカ・エルカテロ・エル・マンベ・ゲル・ミズハカンカ。ダングンリ・ミズハカンカ・サンス・フィゾズィメイマルト・エル・カンカハクナ・ダンク・サラナンサタ・タンハサト・ウマラス。」
[そうなの?!]
リンクリス女史が電話をかけた相手はあの人だろう。それは置いておいて、私は彼女の言った内容に驚いた。
「レイ。訳してくれないか。」
「シャンス・マイト。そうですね。レイさんはアルティニアーナが分かるのでもう説明不要でしょう。閣下。貴軍フリゲートが観測した瑞穂海溝水深5600m
当たりにあった不自然な丸みを帯びた棚のような物は、おそらく、お問い合わせ頂きました艦だと思われます。同艦は沈んだわけでは無く何らかの作戦行動のた
め、同地点に居る物と推測されます。」
リンクリス女史の説明にぽかーんとする泉さん。
「あー。さっきの電話のあれ瑞穂語に直してくれないか?」
「スィーア。キークは王を意味し我が国の王リールシェル陛下への報告を開始するという宣言にもなっています。アンクスは、英国。エルは何々のを意味する接
続詞です。ヅァイグァンないしヅァイグンおよびツァイグンは戦艦を意味する言葉。繋げて英国の戦艦。キーカ・エルカテロはクイーン・エレクトラ号をさします。ミズハカンカ
は瑞穂海溝。フィゾズィメイマルトは5600mと言うことです。つまり『陛下、英国戦艦クイーン・エレクトラは現在瑞穂海溝にいるようです。瑞穂海溝水深
5600mの海溝壁の岩に擬態して、何らかの任務を遂行している模様であると報告いたします。』となります。…姉からメールです。『陛下の代わりに連絡す
る。クイーン・エレクトラは非常に馬鹿な状態にある。我が国と瑞穂、同界の英国との国交樹立に伴い、当界英国国王エリザベス15世は、貴界英国国王エリザ
ベス5世陛下との間に対等友好通商条約を締結の上で国交を結びたいと考えているらしい。同艦はエリザベス15世陛下の親書を携え、英国に向かおうとした
が、貴界と当界の間で公式な行き来があるのは瑞穂と我が国のみであるため、我が国と瑞穂経由で交渉の場を設けて貰うまでの間、瑞穂海溝の海溝壁に接舷艤装
していたのだが、ぎっちぎちに偽装したため、抜け出すことはおろか、通信すらできない状態になったらしい。ばかだねえ。』だそうです。」
呆れて声も出ない.
[どうするんですか?]
「そうよ。どうするの?」
「そうですね。せっかくですから出して頂きましょうかQECを。いかがですか陛下。」
声をかけた方向に視線を向けると、
[いつから居たの?!]
「彼女と一緒。」
丸の内にいるはずのエリザベスが居た。
[ほんと、どうするの?]
「我が国と友好を結ぶために遠路遙々次元境界面空間において遭難する危険を冒してまで来てくれたのだから可能な限りの手を尽くし助け出したいが、大きさと水深がネックだ。我が国には水深5600mで長時間、広範囲にわたり作業できる深海対応艇は1隻も無い。」
力強かったが最後は力なく尻すぼみがちである。
「スィーア。………は?!」
リンクリス女史が、私が知る限り、彼女から聞いたことの無いニュアンスの声を出す。
「ヤンクスカネラスク。ヤマト・エル・ルイハ。サンディアク。スィ、スィーア。」
「大和が、来るのですか?」
「どうした?大和なら横須賀に。ん?もしかして我が国のでは無いのか?レイ、訳してくれ。(←ヤンクスカネラスクの意味を忘れたので、文として意味が繋がらなくなってしまった。)」
泉さんが戸惑って声をかけてくる。
「何だ?いきなり暗くなったぞ。」
たしかにいきなりうすぐらくなった。
続く