やっぱりこれがしっくり来る 第7話

私たちが大阪に来た理由。それは敦雅の血筋による物らしい。
大阪は西の鎮守府と言われているの。
大阪環状線と、地下鉄御堂筋線で、近畿地方にある、京都や、熊野、四天王寺や奈良と言った強大な霊場から清らかな気を集め、濃縮している。
そして、その気を東に送っている。東へ送られる気は大阪駅から東海道線を介して、名古屋で中央本線に入る。
中央本線の中程にあるのが、諏訪湖。
瑞穂の持つ気の中で最も清らかな気の貯まっている地の一つであるこの諏訪湖で、大阪から来た気はいっそうその浄化の力を強める。
さらに、諏訪湖に足る少し手前の塩尻で、北から来る2つの鎮守の気と合流する。長野の善光寺と松本の松本城。
二つの霊場は、信州というこの辺り一帯の名前が通ずるものの名にふさわしい、瑞穂で最も清く穏やかで強い気を発している。これらは篠ノ井線で、塩尻へ運ば れる。
塩尻で出会った3つの気は諏訪湖で一つとなる。
その昔、長野の霊場、善光寺の目の前、川中島で激闘を繰り広げたと言われ、今もなお、若い男性のあこがれを集める武将の一人。
山梨に本拠を構えたと言われる、武田信玄のお膝元を通り、その猛々しく勇ましいながらも、穏やかに美しく優雅で、強く清らかな気はいよいよ帝都東京に入 る。
新宿を過ぎ、山手線の内側に入った気はそのまま丸の内へ。
陛下の名の下に帝都を清め、そこから関東、果ては瑞穂を清め高める気の流れが形成されているの。
敦雅の血筋は代々、この集められた気を東へ送り出す、ポンプである、大阪駅近辺の霊的な加護を行う、巫女の血筋。
敦雅は歴代の巫女を含め、一族の代々の女性の中で、最も力があるらしい。
敦雅はその血筋の本家跡取りの娘らしいの。つまり、跡取り問題の相談に乗って欲しいという事だろう。
「ちがうんや。分家に馬鹿がおってな、それの制裁に力を貸して欲しいんや。」
思ったよりも軽い内容だった。
「レーイー。MPDSの使用許可降りたよ―。」
そもそも対大型兵器用防衛兵器であるMPDSを、人間に対して使用するのはいささか抵抗があるが。まあ、我慢しよう。
「ここや。」
敦雅が指した家。というよりもお屋敷だった。何十年か後、敦雅はこの家に住むことになるのだ。
まあそんな事おいておいて、とにかくでかい。門をくぐると、広がっていたのは自然を利用した鉄道模型のジオラマ。よく見ると奥の方には見覚えのあるものが ある。
波形の大屋根。大阪駅だ。
そして敦雅はドヤ顔、姉はもうジオラマをじっくり見たくてうずうずしている。私は庭の池に興味津々で、ある地点で一行は停まってしまった。
「なんで外にあるんだ?」
「実際の気象状況で、動かすことで、実際に霊脈、地脈が、どのように交通機関に影響を及ぼすのかを見ているのだよ。さて、敦雅。よう来たな。」
「じっちゃん!いきなり哲雄が暴れてるじゃ焦るや無いか。」
敦雅の祖父の案内で広間に通された一行。
しかし、リートさんとリールさんは、縁側から空を見つめて動こうとしない。
「どうしたの?」
「この星では星間船は実用化されていますか?」
「まあ、月とか火星とかに行く分には。」
私の応えに少し険しさを増す2人の顔
「それで、この国からは出ていますか?」
「羽田発オリンポス行きとか、羽田発静の海宇宙港行きとかはあるよ。
でも、オリンポス行きはドイツのフランクフルト国際空港経由だし、静の海行きはヒースロー経由とシャルル・ド・ゴール経由がある。
瑞穂上空は、星間船航行制限領域になっていて、瑞穂の各空港から、直接宇宙に出ることは禁止されてるんだ。」
「なら良いのですが。」
「どうしたの?」
「…いえ。いずれお話しします。」
「今話した方がいいよ。」
話を濁そうとしたリールさんに対して、話すよう促すリートさん。
「解った。皆さんお聞き下さい。
現在、我々の世界の戦艦が瑞穂上空三万六千kmの静止軌道にいます。連絡を入れましたが何の応答もありません。
目視による計測ではおそらく、我々が所属する国家の旗艦専用級の戦艦である確率が高いです。」
「目的は?」
「不明です。通常、全ての世界には、特殊な情報処理システムが張り巡らされています。
我々の種族はそこからある程度自由に様々な情報を引き出せるのですが、この世界にはそれがないんです。」
「どうしてか知りたいかい。」
聞き覚えのある声。しかしいるはずのない声に全員が庭を見る。そこには斉藤さんがいた。
「この世界にはあのシステムはないよ。世界の中心となるこの星がシステムの受け入れを拒否したから。」
「前にも聞きましたが、斉藤さんは何者なんですか?」
「ぼきは、君たちと同じ種族同じ組織のものさ。階級は違うけどね。」
「もしかして田中さんも?」
私の問に頷く斉藤さん。
「本当はもっと後に明かすつもりだったんだよ。でも、陛下に提出した報告書から陛下が何か胸騒ぎを覚えたみたいだねぇ。」
斉藤さんが言う陛下とはあのパーティで会ったとても綺麗な女性のことだろう。
よく見れば、斉藤さん、雰囲気だけじゃなくて実際に浮いている。
「陛下は、各世界の中心惑星が持つ、システム受け入れの是非を決める権限を抹消した。だからあれがいる。」
そう言って、さっきリートさんたちが見つめていたあたりの空を見上げる斉藤さん。
一体何があるんだろう。

斉藤さんも混じって、帝都から来た私たちをもてなしてくれる敦雅のおじいちゃん。
「本題に入ろう。哲雄が暴れているのはおまえにも話したが、それによって、庭の要石が砕けてしまった。それも十個全て。」
「なんやと?」
「このままでは三百年ほど前の大震災の再来となろう。」
三百年前の大震災。
それは、皇紀2655年1月に起きた、阪神地域をおそった大震災だった。
この震災は、瑞穂の耐震技術の高さと、結束の固さ、秩序や治安を優先する市民の意識を世界に広く知らしめた。
また、その16年後に東北をおそった、さらに大規模な地震では、その復興の早さから、極東の奇跡とまで言われ、
現在、太平洋沿岸部の東北、東海道、山陽、鹿児島本線沿線は、高層ビルが建ち並ぶ一大都市が築かれている。
「要石を直す方法はないんか。」
「無い。」
「とは言えないなあ。」
敦雅のおじいさんの言葉につなげるように言う斉藤さん。
「要石の一つはありますか?」
斉藤さんの問に怪しみながらもかけらを持ってくる敦雅のおじいさん。
「これを真ん中に置く。」
それは、丸い、SF映画に出てくるような機械だった。
「@^\'#%#&#&#%$$%#。」
いきなりなにを言い出したのかと思えば、リートさんたちの世界の言葉だ。
斉藤さんの言葉に驚きを示すリールさんとリートさんだったが、頷いた後、いつの間にかつなぎ目無く復元された、要石を持って、庭に出る。
「何をしようというのだ。」
「我々の世界には創造主伝説が存在し、実際に創造主が存在します。
そして、創造主は、全ての世界にある情報処理システムのネットワークを張り巡らし、全ての世界の情勢を常に把握監視しています。
あの機械はそのネットワークの世界ごとの基幹となる端末の卵です。」
そう言って、要石から手を放す。落ちると思い駆け出す、敦雅のおじいさん。
でも、石はいっこうに落ちない。ふわふわと、リートさんとリールさんの胸の高さで浮いている。
2人はまたあの言語をしゃべっている。途中北欧神話に登場するものが、聞こえたが、何なんだろう。
「端末を展開してもいなくならないなんて。」
「……レイ君。一つ聞かせてくれないか?」
いつになく深刻な顔をした斉藤さんが私に声をかける。
「君は、確か、この国の軍隊とともにこの国の情報インフラを整備したんだよね。」
「はい。」
「そのときに管理システムとソフトを組んだのは君だね?」
私が頷くと、
「そのソフトを渡してくれたまえ。彼女たちに。」
突然の発言に驚いていると、
「早くしたまえ。早くしないと、この世界が消滅する。」
「どうしてですか?」
「本来、彼女たちが要石に埋め込み展開したシステムは、その世界の状態を安定させ、
創造主の持つ、膨大な+のエネルギーを各世界に送り込むために開発されたものさ。
今まで彼女たちの国は、各世界の状態を見るため、各世界に猶予を与えていた。
でも先のパーティーで、君たちに会った彼女たちの国の王は、
この世界の中枢となるこの惑星の中でも非常に重要であり、中心となるこの国の元首と出会い、彼から情報を得た。
この世界が、非常に不安定であり、早急に手を打たねばならないと。
だからあのシステムに関する猶予を撤回し、強制的にシステムの中にこの世界を組み込むことにした。」
「解りました。」

「ねえ敦雅。テツオさんてどんな人?」
「一言で言うと久留里線や。」
「「え。」」
首をかしげる私たち。
「ネットスラングで言う池沼という奴の一人だろう。」
「どうして久留里線がその池沼というのになるんですか?」
「久留里線はファンの間ではぱー線とよばれている。くるりからくるくるパーになって、パー線だ。
くるくるパーは馬鹿を指す言葉だったりもする。」
「某巨大掲示板群では、普通の、周りが節度ある対応をしてきたおかげで、社会に適応した障害者とは別に、
障害者と言うだけで何でも許されると思ってる増長した者を嫌うの。
そのうち知的障害者でそう言う増長した人たちのことをチショウと略して呼んで、
さらにそこに当て字をし訓読みをして蔑称であると解らなくしているの。
それが池沼。」
一生懸命社会になじもうとがんばっている障害者の方達をさげすんだりする気持ちは毛頭無い。でも、障害者だから、何をしても許されると考えているあほども は大嫌いだ。
「テツオが、来たという事はあのあほどもが来てるんやな?」
敦雅が苦々しげにつぶやいた。
「ああ。安心せい。おまえに継がせるものは既に確保されている。増えはすれど、減りはせん。」
「あんな、自己中に鐚一文たりともやったらあかんでおじい。」
そんな会話を楽しんでいたら、いきなり、リートさんとリールさんの表情がかなり険しくなった。
「きた。」
リートさんの言葉に合わせて空気の流れが一瞬にして変わる。まるで、この屋敷の塀に沿って外の大気と切り離すかのような結界が張られたかのように。
「やあ。さっきは何も言わずに消えてしまって申し訳ないね。田中に頼んで、この国の天皇陛下を迎えに行って貰ってたんだ。それよりも、凄い物をつけた奴が この屋敷の前をうろうろしてたよ。」
「しばらくは、大阪にとどまることになると思うよ。鈴ヶ森学園の大阪校に協力を依頼したけど、君たちのことだ。高校レベルの教育はもう終えているんだった ね。
それに、一応全ての科目で優秀な成績を修めている、先生もいるからね、なにも心配することはない。むしろ、僕と斉藤は、2人の高級士官のことを心配してる んだ。」
田中さんの言葉で私は、斉藤さんが、リートさんリールさんと同じ世界の人なんだとやっと理解した。
田中さん、何故か、今回は、東京府指定の大容量ゴミ袋40L版をかぶっている。
「こいつは、正装時は、必ず20L型の、黒いゴミ袋と、有る芸人のゴムマスクをかぶるんだが…今日はどうした?」
「こっちには売ってなかった。で、これを買ったんだ。」
そう言って、田中さんが取り出したのは、大仏のゴムマスクシルバー。
これには、緊迫した空気が一瞬にして緩む。特にリートさんは緊張の糸がほぐれたのか腰を抜かしたようにへたり込む。
のはいいの。そのまま、リートさん、池に落っこちちゃった。

つづく。