やっぱりこれがしっくり来る 第8話

気がつけば大阪3日目だ。お姉ちゃんは近畿圏の鉄道に乗りまくるし、リートさんは、おっ こったときに仲良くなったか知らないけど、池の魚といつまでも見つめ合ってるしで。
私もどこか行きたいと行ったら、成人してる4人に、ダメだと言われ渋々待機。
「せっかく大阪に来たんだよ。私だって、憧れの日本橋とか行きたいよー。」
「レイの気持ちもわかるが。」
そう言って、羽魅先生が話し出したのは、私の家系にまつわる話。
私の家系は、この星の守護巫女をはぐくむ家系で有り、今の守護巫女が私なのだと言われた。
守護巫女は西暦で1000年ごとに現れる。でも、前の守護巫女の登場から500年ほど、守護巫女が出なかった。
前の守護巫女の死後1600年の月日が経って、私が生まれた。私は、歴代の守護巫女の中で最も強い力を宿していた。
馬魅達の家系は守護巫女を守る軍巫女の家系で有り、馬魅もまた歴代の軍巫女の中で最強だった。
惑星の守護巫女とこの国の守護巫女の波動により、今大阪の気が乱れてしまっている。
そのため、異界から派遣された、守りの巫女と攻めの巫女の2人の気で沈めている。
という話をされた。護りの巫女がリールさん。攻めの巫女がリートさん。リートさんが常に私の側に居るのは、攻めの気で護りの気を中和するためらしい。
「リトエルスの言葉ではあと2時間もすれば、この街の気になじむからそしたらお詫びもかねて日本橋でおまえの欲しい物を好きなだけ買ってやると言っていた ぞ。」
もちろんそんな事で機嫌が悪いわけじゃない。さっき慌てて敦雅が戻ってきたの。下着が見えるほど服ぼろぼろにして。
「哲夫が生産者と一緒に居った。会長に戻ってこないよう伝えてんか。」
どうやら、哲夫親子に襲われたらしい。
『緊急通達が出た。MPDSをアップデートしたという事だ。君とリーフェルト嬢のバージョンではP.G.Wベースの比率が高くなっている。故に思う存分戦 うといい。
陛下も閣下達も、一言だけの伝言だが、皆内容は異口同音で同じような物だからまとめて言う。
『そんな卑怯者は、遠慮せずにやって、しまえ。』
それと、レイ君好きの閣下から伝言だ。『思いっきりやった後は一族郎党まとめて転送しれ。こっちでも思いっきりいてこましたる。』
がんばれ。』
いきなり聞こえてきた斉藤さんの声に私たちはびくっとしたがそれ以上に目が笑っていない満面の笑みを浮かべたリートさんの整った顔ははっきり言って、恐怖 でしかなかった。
そのときに聞こえてきた声で、リールさんの顔がこの笑顔のまま凍り付く。
『あなたを見守る者から報告を受けてあなたへの回線を開いています。
今、あなたたちの上空にいます。』
聞き覚えのある優しくもりりしい女性の声。
誰に言われること無くリートさんが敦雅が襲われたこと、大阪に来た経緯などを小声で報告する。
『…そうですか。そちらにそんな愚か者がいましたか。国守の巫女と星守の巫女を守るというあなた方に下した勅命を果たせますね。
…解りました。勅命を申し渡す。しかとおぼえ、一言一句違わずリールフェルトに伝えよ。
セーランガイル・ササガシマテツオ・エル・バイサイル。ヴェイルP.G.Wセンディオール。
あなたがリールフェルトに伝えるまでは回線は開いておきます。』
「リール。キーケイライア・バリオロイス。『セーランガイル・ササガシマテツオ・エル・バイサイル。ヴェイルP.G.Wセンディオール。』 A.Iアプリポート。レイさんもMPDSを準備して下さい。3人で、敦賀さんを襲った愚か者を懲らしめましょう」
「それはいいけどなんて言ったの?」
「リールに行った言葉ですか?『勅命が下った。『笹ヶ島哲夫を完膚無きまでにたたきのめし成敗せよ。必ずP.G.Wを使用すること』A.Iのアップデート もあるよ。』って言ったんです。」
後で聞いたら、かなり過激な内容だったから、言葉を濁したと言われた。

リートさんとリールさんのMPDSは数世代前のバージョンから瑞穂皇国軍兵器工廠開発班では無く、LWCTという一般企業が設計開発製造を行っているらし い。この会社は軍需産業なんだって。
[この話を始めたとき、L.C統一世界観との絡みはあまりないと書きましたが、そうすると、リールフェルトやリトエルスが使用する機器の説明などに無理が 出るため、未知の異世界の物として今後は、少しだけ登場します。]
私と、リートさん、リールさんが、MPDSをつけて、馬魅が生身で、敦雅の実家を飛び出すと数十m先の四つ角にいた。
「おまえが笹ヶ島哲夫か。」
「私の息子を呼び捨てにするなんて、あなた何者なの。」
「えっと。」
私が戸惑って停まるとリートさんたちが一歩前に出て停まる。そして、半透明のグラスウィンドウが展開する。
『リトエルス、リールフェルト…。』
グラスウィンドウに映し出された女性に見覚えがある。
女性が体の前に持ってきた白と黒で綺麗に塗り分けられた何かの標識。姉を除く全員が解らないでいた。
「2人とも制限解除命令が出てるぞ。」
後で姉に訊けば、この標識は鉄道において制限速度の制限が解除される地点にあるものらしい。
青と白で塗り分けられていた、2人のMPDSはそこに緑が混ざった。
『突然現れてごめんなさいね。レイさん。さてと。ツェイロス・キーケイライア・ヴェリオス。スィーア?』
「「ス。スィーア。」」
これは、2人曰く承諾を示す言葉らしい。
「敦雅、いやかも知れないけど、馬魅のそばまで来てもらえる?お姉ちゃん、敦雅をお願い。」
「わたしは餌か。」
敦雅の声が聞こえたのだろう。哲夫がこっちに向かって走ってくる。
ドガン。
としか聞こえない音があたりに響く。
「死んだの?」
「転送命令が来るまではいたぶります。今は、声も出せず自力で動けないほどの衝撃を受けただけです。」
リールさん、顔が笑ってない。
「もちろん、正気を保っていられるぎりぎりのレベルでいたぶります。その上で、外傷内傷合わせ細胞単位で損傷がないレベルまで回復させてから転送しま す。」
今度はリートさん。
二人とも笑顔でいたぶっている。怖い。
「さっきは一体なにが起きたんだ?」
「リールさんの掌底突きが見事にあれをのけぞらせてそこに正拳突きが入ってぶっ倒れたの。」
『♪~。』
なんだっけ?あの、名前忘れちゃったけど、夕焼け小焼けの赤とんぼで始まる歌が流れ出す。
歌が流れてから、5分ほどして、ふと2人が上を見上げて、顔をしかめる。
『リトエルス、リールフェルト17時10分に転送を命じる。転送先はリンクリス!』
今度は男の人の声がする。って17時10分って今じゃない。
うずくまる哲夫とそれに駆け寄る生産者を取り囲むようにシャボン玉のような光の膜が形成され、それが消えたときには、もそこには塵一つ無かった。

夕食は敦雅の実家に住んでいる敦賀の従兄弟家族と一緒にお鍋だった。
「やー。良かった良かった。」
「ようやったなあ敦雅。」
敦雅のおばあちゃんは今の敦雅の一族の本家の当主らしい。
だから、普段は家の奥の書斎で、所有する不動産の経理や、法規処理などを行っているためあまり出てこないらしい。
「あんたが星守の巫女の崎原の家の娘か?」
「は、はい。」
敦雅のおばあさんはとっても綺麗で、とっても穏やかな人だった。
「遠いところからわざわざ来て貰ったのにうちにとじこめてもうて、すまんなあ。
あんたの実力は私もしっかり見せてもうたからなぁ。これは、わたしの、気持ちや。」
そう言って、敦雅のおばあちゃんが私に渡してきた、封筒を受け取り、開けてみた。
「げ。こんなに?」
「ポン橋いくんやろ?あそこは何せよ金が要る。孫を助けてくれた礼や。足りなんだらまたゆうてな。」
封筒の中には20万円と500万の小切手が二枚入っていた。
「そっちのぴしっとした子達もや。大阪は何かと誘惑が多い街やからな。有るにこしたことはない。」
そのぴしっとした子達ことリールさんたちはというと、
「この天ぷらおいしい!」
「こっちの和え物もおいしいよ。ねえ、リール、後で作り方訊こう。」
おおさわぎだ。
今思えば、2人とも、この後に起きることを感じていたんだろうな。だから、それに対する不安を落ち着かせるためにこんな大騒ぎをしてたんだろう。
「レーイー。こんな物見つけたんやけど、いっしょにやらへんか?」
見つけたと言ってもトランプ。
「ふむ。まだそんな物があったんやなぁ。」
「何なんですか?」
「350年以上前のトランプや。1946年から48年ものだったはずや。」
敦雅のおばあちゃん曰く、このトランプは大東亜大戦直後の物という事だ。
「ババ抜きでええな。」
年が近い9人のババ抜き。
一人あたり5枚程度だからすぐに誰が婆を持っているか解ってしまう…ということにはならなかった。リートさん、リールさんから札を引く順になっている人は そのゲームが終わると、2人に降参する。
というのも、2人ともババを持っていたとき、ババを引かせるのがとても上手く、ババを引いても、顔色一つ変えないため、大体ババがどこにあるか解らなく なってしまうの。
「そこの…名前を訊いてへんかったな。そこのぴしっとした子達や。名前教えてくれへんか?」
「リトエルス・ラングロフォルト・アグリフニオリアートです。リトエルスとお呼び下さい。相性はリート、もしくはリトです。」
「サルバリエヌール・リールフェルト・リヌフォルト・リールシェル・フェリアバルドノル・グロニモ ヌートと申します。リールフェルトもしくはリールとお呼び下さい。」
確か、リールシェル・フェリアバルドノルという称号を貰ったとき、リールさん涙目だったな。
「リートはんにリールはんか。2人にお客さんや。ぱりっとしたスーツを着た田中と書いたゴミ袋をかぶってる人やそうやけど知り合いか?」
「「田中さんだ。」」

何度見てもとっても大きなお風呂である。
「ほんとに、自信なくすなぁ。」
敦雅がリートさんとリールさんの体を見てつぶやく。
「ほんとに、高校生?」
「高校生かつ軍人が3人だね。」
ジョークなんだけどジョークに聞こえないジョーク。
受け流してくれたみんなに感謝。
お風呂から出ると、その後はまさに修学旅行の様相を呈した。枕投げ有り、トランプ有り、恋バナ有り。
修学旅行の宿でやることのテンプレを一通りやった。
まあ、疲れて寝ちゃうって落ちもまんまなんだよね。
だから、これで次のお話

つづく。
え?向こうと一緒?訊いてないよ