「宮廷ホームは原宿じゃん。何で渋谷ってかいてあったのかな?」
「ダイヤのせいだよ。山手線は超過密運転で、宮廷ホームへの入線も出線もしにくくなってきてるからな。」
「それじゃあ、東京駅とか、じゃダメなの?。」
「東京は、もう余裕がない。」
馬魅と姉の会話はかみ合ってるように見えてお互いの言葉に込めた意味はお互いに届いていないのがその実情だ。
「お姉ちゃん。大宮までここからどのくらい?」
「電車1本。30分くらいだ。」
「特別列車も、陛下も大宮にいるってさ。」
「…ホーム移動だ。」
姉の先導で、私たちは、東海東北縦貫線に乗った。
渋谷を出て、およそ30分。私たちは大宮駅の在来線のホームにいた。
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ。」
どんな経路をたどるのかを訪ねても、応えてはくれない。だが、南へ行き途中で西へ向かうという事、途中で乗り換えをするという事は教えてくれた。
「…まさか新宿で中央線にでも入るのか?」
「そうお考え下さい。」
客室乗務員が、笑顔で応える。
「初めまして。崎原さんと、尾束さんですね。…あなたは確か空軍大将の。」
「は、はい。首都防衛総司令尾束義則であります。」
尾束さんかちかちだよ。
列車はスピードを上げていく。併走していた新幹線の高架が徐々に離れていく。
車内の表示は時速120km/hを示していた。
池袋を過ぎたあたりで、スピードが下がってきた。ゆっくりと新宿駅のホームに滑り込んだ列車は、そのまま、信号待ちをした後、姉の予想通り、中央本線に入った。
三鷹、立川、八王子、高尾と、特快や、特急が停車するはずの駅も徐行はするものの通過し、八王子ジャンクションが見えてすぐ、長いトンネル、あの渋滞の名所小仏トンネルに入った。
窓の外が暗闇に閉ざされる。
まるで異世界へつづいてるかのような、そんな感覚すら覚える雰囲気だった。
5分ぐらいの時がたった。
トンネルが作り上げる暗闇が途切れ、外の光が、差し込み窓の外が白で染まる。
外からの光に目が慣れて、徐々に外の景色が見え始めた。
「…何これ。」
誰もが、言葉を失っていた。
あの車輪と二本のレールが奏でる独特の音は消え去り、二本のレールすら消えていた。
それだけでなく高さ200mは有ろうかという高層ビルがまるで新宿の都心のように建ち並んでいた。
「まさか。」
リートさんが、何かを始めた。
「長京市ですか?」
リートさんの問いに乗務員は笑顔で頷く。
ふと、列車の速度表示を見ると180km/hの表示。
「え?中央本線は、確か130kmが最高じゃ」
「いえ。180kmです。この路線は新塩線といって、塩尻と新宿を結ぶ路線です。」
「それじゃあ中央本線じゃない。」
確かに姉の言うとおりだ。中央本線は新宿から塩尻を経由して、名古屋へ向かう鉄道幹線。私たちはそこを走っている特別列車に乗っているのだから間違いない。
「かつての中央本線はその運行形態によって、東から、新塩線、辰野線、飯田線、長名本線に再編成されました。私は大宮からそのまま、碓氷峠を通って、長京へ時空変換する物と思っていました。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。ここは瑞穂じゃないのか?」
羽魅先生の問いにリートさんはうなずき、
「日本連邦帝国中都長京市第二都心だと思われます。」
といった。日本?そういえば、そんな言葉をどこかで聞いたことがある。
「パスポートはお持ちですね?」
「え?あ。はい。」
「では、次の停車駅である、塩尻で、信号の関係で15分の停車を行うそうですのでその間に日本連邦への極短期入国手続きを済ませていただきます。」
列車は徐々に速度を緩めている。
「ねえ、リートさん、ここら辺の路線の最高速度は?」
「えっと…あ。これだ。えー。新塩線の新宿甲府間が180km/h、甲府塩尻間が160km/h。辰野線が80km/h。
長名本線の長京明科間が270km/h、明科松本間が260km/h、松本塩尻間が200km/h。
塩尻木曽福島間が230km/h、木曽福島中津川間が200km/h、中津川高蔵寺間が220km/h、高蔵寺金山総合間が250km/hです。
金山総合名古屋間は東海道本線ですから統一270km/hです。
参考までに信越本線は、高崎豊野間が320km/h豊野新井間が250km/h、新井直江津間が285km/hです。」
リートさんも、リールさんもさも当然という顔をしているが、少しだけ鉄道に詳しい物は疑問を抱いていた。
「あれ?新幹線って、200km/h以上じゃないの?」
「え?1000km/hが最低ラインですよ。」
私たちは言葉を失った。車内の表示は100km/hをきった。窓の外にホームが広がる。瑞穂での鉄道の要衝の一つ。塩尻駅だ。
「ソラ、ここのネット検出できた?」
『検出、アクセスは完了しました。しかし、通信方式の関係上車外での使用は大変難しいと思われます。また、ネットワークの速度を十分に引き出せない可能性も。』
「速度は?」
『実効速度432.5679Gbpsです。このネットワークの本来の実効速度は不明です。』
ソラの言葉を継いだのはリールさんだった。
「理論値100Zbps。平均実効速度739.82Ebpsです。連邦のネットワーク…。」
「どったの?」
「ロムニス。」
リールさんがうっすらと涙を浮かべて窓の外を眺めている。
「リート。ロムニスが居るよ。」
「なに?まさか。」
リートさんが窓に駆け寄ってリールさんの指し示す方向を見上げる。
「ロムニスって?」
「サンメナ・ロウファナ・ロムニス。あの戦艦の名前です。」
まるで私たちが乗るこの列車を見守るかのごとく飛んでいたその戦艦は列車が松本を過ぎて、次第に山の中へ入ると、いつの間にか居なくなっていた。

山を抜けて、一つ目の大きな駅を抜けてさらに数分がたって、2つめの川を渡る。姉の話だと、そろそろ、長野駅らしいが。
「乗務員の話だと長京言う駅で乗り換えらしいなぁ。」
「長京は、あの駅ですよ。」
どうやら、この世界では、長野駅のことを長京駅と言うらしい。
ホームに滑り込んだ列車から降りた私たちは、この世界の、高度な科学技術に言葉を失った。
「「大変申し訳ありませんが、我々はここまでしかご案内できません。ここからは、こちらの世界の鉄道会社の方にご案内いただきます。
リトエルス様の携帯端末を、改札にかざしていただければ皆様が通れるように手配しておりますので。
改札外では、LTR中央改札へ向かっていただき、そこの職員とほぼ同じですが、制服のラインの色が、青ではなく赤の1組の男女を探して、招待状を提示下さい。」」
その言葉に送られるように私たちはホームの階段を上り、改札口を出て構内の表示に従って、別の改札口に向かう。
そこには今までの路線を保有している企業の制服とは違って、緑地に青いラインが入った制服を着た人たちが居た。
その中で、まるで、その改札機を封鎖するかのようにラインが赤の一組の男女が居た。
「あの。」
「はい?…リトエルス少将様ご一行ですね。」
「小…将?私は、中佐だよね。」
リートさんの問いかけに頷くリールさん。
「ではこちらへどうぞ。あ。その前に今後の予定をお伝えします。この後神宮総合駅で、別の招待客の方の特別列車に連結します。」
会場の改札は、全く別経路になりますので、たとえ連結していても一度も会うことなく、ということもあり得ますので。」

[ここから神宮総合までの経路などはL.C本編で散々描写していますので省略します。また、神宮総合以降はL.C側で描写します。]


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