文字通りの百薬なんちゃら

この話は第1部のみ-S第1セクション2部以降は第2セクションとリンクします。
ページタイトルが話の名前です。右上のでかい文字は章題です。
この話は各話本編(-S)の各章の半分から3分の2ぐらいの量になる予定です

「おい、みろよ。」
「すげー。」
そんな声が聞こえる。それらの声は、一人の女性に向けられた物だった。
「なんなんや。今日の試験結果は。これが未来のこの国の医療を担う者達の成績なんか。…。」
ぶつぶつと、愚痴を吐きながら、白衣のポケットに手を突っ込んで歩いている女性。
どうやら機嫌が悪いらしく、かなり大股で歩いている。
ここは宇宙空間の中心にある星間国家の首都にある巨大大学の医学部のキャンパスである。
彼女はその医学部の学生…といっても通用するほどの美貌だがこう見えて、医学部内のとある学科の教授の長である。
歩くたびにその細く長い足を周りに見せつけ体はしっかりと無駄なく締まっている。
女性ならば誰もが憧れるその体と、長く伸びた髪。美人という言葉がぴったりと当てはまるその姿に彼女の歩く側に居る者は皆口々に、感嘆の言葉をあげる。
「お帰りなさい。」
「ああ。ミラ。どうやった?」
「今回は収穫は皆無どす。」
「こっちもさっぱりや。あいつらは講義の時間中なにをやっとるんや。」
自分の研究室に入る女性。部屋の中にいたのは彼女の妹である。この姉妹は、大学内では美人教授姉妹。付属の病院でも、美人女医姉妹として有名だった。
『摂津教授はいらっしゃいますか?』
どうやら来客のようだ。
「久しぶりやな。リオナ。ん?そっちのハンサムさんは旦那か?」
「はい。あ、ミラ先生お久しぶりです。」
訪ねてきたのは、姉のほうの元教え子。現在はとある国の国家元首を務めている。
「えっと…。」
『あーねーごー。いらっしゃいますか?』
「おるでー。あとなあ、懐かしい子もおるで。」
姉御と呼ばれたのは姉のほう。まあ、妹のほうも姉御と呼ばれているが。
さて、そろそろ彼女たちを紹介しよう。
まず姉のほうの名は真朱彌。妹のほうの名は彌蘭陀。
姉は教授職の傍ら、一国の最高組織に属している。妹は姉を補佐する仕事をしている。
ここまで来るともうどこの誰のことなのかもう判っただろう。
そういうことでもう良いだろう。
「飲みます?」
「…つまみは?」
「じゃん。」
そう言いながら混神が取り出したのは、なにやら緑の物が透けて見える、ナイロン袋だった。
「なんどすか?」
「鬼無胡瓜ww。」
「草を生やすな草を。…やたらでっかいキュウリやな。」
「今日送られてきたばかりの朝取りものです。」
そう言って、ケタケタ笑う混神。
「鬼無胡瓜は鬼の血を吸って、育ったキュウリの子孫といわれる、鬼無村の固有種且つ特産品ですよ教授。」
リオナが、巨大なキュウリの説明をする。そもそも、最低でも1mは超えるであろう巨大なキュウリをどうやって育てているのか気になるところである。
「大きなものは大味とはよく言いますが鬼無胡瓜はみずみずしく歯ごたえも十分で、甘みが強く、なおかつ、塩分濃度が高い土壌を好む品種です。
ですから、程よい塩気を持ち丸かじりに最適のキュウリなんです。」
「…なにもつけないほうがええのか。」
「教授、何かつけるなら、アイラス胡瓜も食べてみてください。」
いつの間にか、混神は、一升瓶1ダースとナイロン袋3袋と涼子を残して消えていた。
リオナがとりだした麻袋には30cmほどのキュウリがごろごろとはいっていた。
「なあ、涼子さん。」
「混神なら臨時講義に行って、2時間は戻りませんよ。混神は定義学の教授ですから。
それよりも姉御は熱燗ですか?ミラの姉御とリオナやリオルものみますよね。」
「そのままのほうがええな。今は暑いし。」
「わかりました。じゃあ、冷やしますね。」
「おねえ、私この大きい胡瓜食べてみたいんやけどええかな?」
彌蘭陀が、巨大なキュウリを取り出して言う。
「ええけど、あら…。」
「袋の中は、遥夢が、蒼天江の上流域にある網につなげてありますから、洗わなくてもいいですし、きんっきんに冷えてておいしいですよ。」
涼子の言う通り、だった。
彌蘭陀がかじりつく。
「……おねえ。この胡瓜今まで食べたことないほどうまいわ。」
「そか。ほな私も一本もらおうかな……。なあ、涼子さん、これって。」
「ああ。雲落ですか?」
「一本330万する超高級酒やないか。」
驚く真朱彌を見ながら、首をかしげる涼子。
「確かに2000サフィルしましたけどそんなに高いものでしょうか?」
この国の物価は日本の1万分の1程度である。
しかし世界的な通貨価値が高いため、この国の疑似通貨に対する為替レートは一律166万に設定されている。
単純計算すれば、この酒一本の価格は涼子のセリフから判断すると真朱彌のいった値段の1000倍近くに跳ね上がるが、この国内での通貨価値は、
1サフィル=1円相当なため2000円相当にしかならないのだ。
真朱彌は祖母が住む連邦すなわち地球のある日本連邦帝国の通貨円を基にしている。
対する涼子は職場であり故郷である、この蒼藍星間連邦王国の通貨サフィル・クルスを基にしている。
「え?」
「え?」
二人とも首をかしげる。
「…この値札。ああそういえば、この蔵この国やったな。」
「だから332万は最低でもしてしまうんやな。」
「え?え?どういうことですか?」
リオナとリオルは首をかしげている。
「ええか?蒼藍王国の通貨はサフィルや。
この通貨は世界共通で為替レート固定166万が設定されとる。
国内におけるサフィルの価値は連邦でいう円の価値と同等でな王国内でのみ1=1(いちいち)交換が可能なんや。
つまり1円で1サフィルに交換してくれるのや。
それは置いておいてな。基本1=1交換を行っている関係でな、王国から連邦への輸出は、基本1000分の1に値下げされるんや。
でも、さっきも言ったが為替レートがある。
その固定レートをそのままかけられるから一本2000サフィルが2*166万になって、輸入時最低価格が332万になるんや。
王国政府はキリ良いのを好むからこの酒にもそれが適用されて、業者によっては330万か340万のどちらかになる。330万が多いけどな。」
「そうだったのですね。」
「でもほんとに飲んでええんやろか?」
「混神言ってましたよ。
『初めて姉御に送った酒がこれだから、これは姉御に贈る。
うちが何も言わなくてもとにかく姉御とミラの姉御には飲んでもらって。』って。」
涼子の言葉に姉妹は苦笑する。
「ほな。雲落一杯貰おうかな。」
「あ、私も呑みたい。」
「どうぞどうぞ。気負いすぎてあと3ダース買っちゃったんでじゃんじゃん呑んで下さい」
これにはずっこけるしかない一同。まあ、真朱彌だけはこの事態になれていた。
混神は、羽目を外しても大体が、真朱彌と彌蘭陀がゆっくり消費して1週間で消費できる量の物か、かなり実用的な物を送ることが多い。
だが、涼子はかなり、こういう贈り物に関しては奇抜かつ非実用的な物か、混神の贈り物をかなり量を増やして送ることが多い。
そのため、対応に困るのだ。
贈り物に関して言えば、混神が突っ込みと真朱彌は評している。
「流石に混神さんも突っ込めへんかったんやな。」
「つっこんでたらどうなってたんやろうか。」
「4ダースやのうて1.5ダースになってたやろな。混神さんよりも涼子さんの方が私に懐いてる状態やから。」
「なつくて、犬猫やないんやから。」
確かに懐くという言い方は犬猫などの動物に使う言い方だろう。
「リオナ達はどないや?アイルーンは、首長国連邦制やろ。」
「その相談に来たんです。」
「え。あ、すまんなぁ。多分、私じゃリオナの悩みには答えられへん。リオナはアイルーンの代表王やろ。
そうなると遥夢さんはこの国の王やし世界で一番長い在位期間やしな。せやから、遥夢さんに相談した方がええんとちゃうか。」
「そうですね。そうしてみます。あ、胡瓜おいておきますね。」
リオナはそう言って席を立つ。
「涼子さん、これええか?」
そう言って、涼子に酒を見せる真朱彌。
「姉御に贈ったんですからもう姉御の物ですからご自由にどうぞ。」
「そうか。じゃあ、リオナ、リオル、一本ずつもってき。」
「え、あ、あの。」
戸惑うリオナ達に笑いながら酒を渡す真朱彌と巨大胡瓜にかじりつく彌蘭陀にとっくりを出し自分はお茶を飲む涼子。
のんびりとした昼下がりである。

つづく。