いつもの言葉 はじめまして。

ラルト王国 アリス
この街の住宅街のとある家の前に一台のトラックが到着した。
「ここが新しいうちか。」
トラックの荷台から飛び降りた16,7の少年がそうつぶやく。
「かずにー、母さん達から、の伝言でね、電車が遅れてるからご近所の人に挨拶しといてだって。
だから、私はあっちのほうにあいさつするから、かずにーはこっちのほうお願いね。」
かずにーこと、志賀寺数馬は、この日幼いころから慣れ親しんだ、長京市甲府区から、父親の転勤でこのラルト王国の首都アリスに越してきたのだった。
「やっぱ、お隣さんから行くのはセオリーだよな。」
ここまで乗せてきてくれた引っ越し業者の従業員たちに、お礼を言い、自分の部屋の位置と、自分の部屋には荷物を置いておくだけで良いということを伝えると、隣の家の前に来た。
「五十嵐…ということはこの家の人も日系なのかな。」
そんなことを呟きながらインターホンを押す数馬。少しして若い女性の声がして家の中から、数馬と同じぐらいの年齢と思しき少女が現れた。
「どちらさま?」
少女が問う。
「あ…あの。お…じゃなかった僕、今日隣に越してきた志賀寺といいます。これから、何かとご迷惑をおかけすることもあると思いますがよろしくお願いします。」
そういう数馬を、ジーと見つめていた少女はいまだに疑問の色を隠さない。
「もしかして…数君?」
「…え?ああ。下の名前ですか?数馬です。」
「どういう字?」
「数字の数に馬です。」
そう数馬が言うと門の向こうにいた少女はいきなり、門を開けて数馬に抱きついた。
「やっぱり和君だ~!」
何が起きているのか分からずに呆ける数馬。
「私だよ。玖美だよ。覚えてない?」
数馬の脳裏に自分の肩の上に乗って大騒ぎをする女の子の姿が浮かぶ。
幼馴染の五十嵐玖美である。
だが自分は五十嵐玖美という目の前の少女とどうしても結びつかない。
「本当にあの玖美なら、お前しか知らないおれの秘密があるはずだ。」
「それ。」
「え?」
「かけて無いのに眼鏡を直す癖、昔から治ってないみたいだね。」
「あ…。」

翌日、片付けもそこそこにして、いつも読んでいる、連続小説の新刊を買いに、街の本屋にやってきた数馬。
あと1冊しかない。あわてて手を伸ばした。しかし、手が届いた瞬間、もう一つの手が重なる。
「「あ!」」
数馬ともう一人二十歳ぐらいの女性が同時に声を上げる。
「す、すいません。」
「あなたも、これ好きなんですか?」
「は、はい。で、でもどうぞ。」
数馬が、そういうと女性は。
「あ、ありがとうございます。あ、じゃあ、住所教えてください。知り合いに頼んで送ってもらいます。」
その言葉にキョトンとする数馬。
そして、住所を教えると家に帰ってきた。
何気なしに部屋でパソコンをいじっていると、玄関のチャイムが聞こえる。
モニタを見ると、帽子をかぶった男がいる。胸には、Lの文字。扉を開けると、「お届ものです」と言って、数馬に段ボールを渡して去って行ってしまった。
受け取った箱を部屋に持ち帰り、伝票を見ると、見事な筆記体で、Salma=Leicherのもじ。
数馬が買おうとしていた小説の作者である。そして、箱を開けると、拙い日本語で、書かれた手紙が1通と、見事な字で書かれた日本語の手紙が2通あった。
手紙の差出人は、作者と、もう二人である。作者からの手紙は、今まで、ファンレターの返事でもらっていたので、あまり驚かなかったが、もう二通のほうは驚いた。一通は世界的な歌手から、もう一通はこの国の王からだった。
そしてその手紙が付いていた、箱を開けると、作者直筆のサインが入った、あの本があった。
「…。」
「あ、いた。母さん、アイラスの友達のところで1か月ぐらい騒いでくるって。でね、これから、来ないかって言うから父さんと言ってくる。」
二時間後、玄関のチャイムが鳴ったため、出ると玖美がいた。
「あれ、沙希ちゃんと、おじさんとおばさんは?」
「おやじと沙希はたぶん一週間。おふくろは一か月は帰って来ない。」
「…あ、そうだ。今日お父さんが帰ってきたの。でね、良かったらと思ってきたんだけど。和君来て。」

五十嵐家
「久しぶりだな。」
「あ…どうも。」
久しぶりに会う玖美の父親に少しビビる数馬。
「最後に有ったのは小学校の時だったな。」
「はい。あの…。」
「ん?」
「お仕事は何を?」
やっとそれだけ言うと、
「そういえば言ってなかったな。蒼藍星間連邦王国第一等ラルト王国駐在書記官さ。簡単に言うと私は日本人でも無ければ、この国の人間でも無い。蒼藍王国の国民さ。」
「…あ、そうだ。おじ…さん。」
「ははは。おじさんで構わない。」
「この手紙なんですが。」
「……これをどこで?」
「昼間、中央通りの文芸堂の五階に、本を買いに行った時に、ある女性と手が重なって、で、その本を譲ったら、彼女が知り合いに頼んで送ってくださるとおっしゃるもんですから、住所を教えたら、その手紙ともう一通、これが入った宅急便が。」
「……君はすごい人から手紙をもらったな。」
五十嵐の言葉に数馬は笑いながら、
「ですよね。不知火からだなんて驚きました。」
「そうじゃない。不知火と言う存在は、その裏にいる者の一面にすぎない。彼女はおそらく君とは絶対に会えない。この手紙を書いたのは私の最も上に位置する上司。蒼藍王国国王だ。」
それを聞いた数馬の顔が笑いのまま固定される。
「父さん、悪い冗談はやめなよ。和君固まっちゃったよ。」
「いや冗談ではない。その証拠がこの紙だ。」
たしなめるように言う娘に対し、五十嵐は真面目な顔で言う。
「便箋がどうかしたの?」
「玖美、おまえはふちどりされた便箋を見たことがあるか?後付けではなく、最初から、しかも5色で。」
「ないけど。」
「では説明しよう。母さんも知っておくといいことだから来なさい。」
そういうと五十嵐がその手紙を机の上に置く。
確かにその紙には黒、赤、緑、水色でふちどりがなされていた。
「この色にはそれぞれ意味がある。黒は見る位置によっては青にも見えるだろ?」
「ええ。」「うん。」
「こ れは蒼藍色といって、王を表す色だ。そしてその反対側にある赤。これは緋紅と言い国王を補佐する国王の配偶者たる相補を表す。そしてこの赤から見て左に位 置する、緑は凛緑。日本の総理大臣に当たる長相を、表す。その反対にある水色は長相の義姉。空官長を示す、清水(せいす)という。」
「もう一色は?」
「深白。長相の兄、大宰を表す。」
「何でこれが大変なの?」
「これは王国政府上層部の正式な書簡にしか使用されない。」
「なぜですか?」
「これを受け取り、最後まで読んだものはそれがいかなる内容であれ、送った者との間に、パスが形成されてしまう。」
「パス?」
五十嵐の説明に和真はこんがらがりそうになりながらも付いてきた。
「簡 単に言うと呪いかな。でも、これは世界中に形成されているんだよ。だから怖がることはない。でも君のは完全に正式な手続きを経て送られている。これは10 京年に1度あるかないかだ。この場合、途方もなく強力な連絡が形成されてしまう。もしそれが困るなら、あと2週間は我慢してくれ、このパスをずたずたにす る薬をもらってくるよ。」
「もしかして魔女の薬とか言わないでよ。」
「言わない。だが飲むのをためらう色をしてるのは確かだ。私も昔死にかけた時に、長相にのまされたが、禍々しいにもほどがあるほどの赤だった。」
「…ま、まあせっかくですから頂きましょう。」
「この手紙は小さく折りたたんで、携帯電話や、WPCにつけられるようにしておくといいぞ。」
五十嵐はそういうと自分のカバンから紺色のお守り袋を取り出しその中に例の手紙を折りたたんで入れた。
「これで良し。これは途方もなく強力なお守りとなる。君と深いかかわりをもつもの。君の家族や玖美に、沙耶も。私を除く君と深いかかわりをもつものが守られる。」

翌日、引っ越し早々学校に行く羽目になった。
まあ、まだ1学期の真っただ中(7月)なのだから仕方ない。ちなみに、彼には3者面談が免除された。
学校で、玖美と隣り合わせになった。
「案内してあげるよ。ついてきて。」
「いや、俺は探検するのが好きなんだが。」
「そう言って数君、小学校で迷ったんだから。」
ずいぶん痛いところを突かれた。
「わかったよ。じゃ、たのむかな。」
「玖美、彼氏?よう少年。憎いね。玖美を狙ってる男はわんさか居るけどここまで普通に玖美が話しているのは君だけだよ。」
「へぇ。まあ確かに昔からのこいつを知る者としては、可愛いことは認めるが。」
いきなり女子に囲まれる羽目になり当惑する羽目に陥る数馬であった。

…本日のキーワードは、本屋と引っ越しに出会いあり。でした。
続く…のか?この話は終わるが物語は、続く

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