いつもの言葉 長期お泊り


「ねえ、数君、いきなりなんだけど、今日から二カ月ほど泊めてくれないかな?」
帰りの電車の中で、玖美が尋ねると、
「誰の部屋に?」
と数馬が尋ねる。予想以上の反応に少し考えたのち、
「できたら、和君の部屋に。」
というと、
「まあ、今うちに誰もいないから決定権はうちにあるし、おまえ関係の事はおれの独断でも構わないけどね。いいよ。」
「ありがとう。きょう。」
理由を言おうとした矢先、数馬がそれをとめた。
「待て、あえて、何も聞かない。それが今回の条件だ。それから、その代りだが、明日から、うちにいる間だけ、ポニーテールにしてくれ。」
「数くんのポニーテール好きも相変わらずだね。いいよ。それくらい。」
「わかった。それから、料理はおれが一切を執り行う。いいな?」
「私の料理は凶器だよ。」
「それから、おれの机の一番右の百科事典は絶対に開くな。開いたら、たとえ、お前でも…殺ス。」
最後をものすごく低い声で言う数馬。
「…う、うん。」

その日の午後6時
「初めてだよね。新しい、数くんの家に入るのって。」
「先に飯食うか、それとも、フロか、風呂の場合は、熱めか、温めか。」
「お好きなように。」
「なら、先に風呂にする。先にお前が入れ。その間に飯を作っておく。とりあえず、ある程度の温度までは沸かしてあるから。」
そういうと、台所に入る数馬。もともと、入浴時間の短い玖美が、風呂からあがると、数馬が、ものすごい速度で、料理を作っていた。
「ずいぶん多いんだね。」
「ああ。明日の朝飯も同時に作ってるからな。」
数馬の言葉に疑問を覚える玖美。
「なんで。」
「朝は眠いから。眠れるだけ寝る。だから朝飯を朝作らず今作る。それだけだ。それから。爆発卵作っとけ。冷めても起爆するやつ。あの馬鹿どもにトラップし かける。」
L.Cを読んだ方ならわかると思うが、向こうにもこの爆発卵は登場している。ただし、「例の爆弾」という名前で。何章かは忘れたが、とにかく涼子の作る上 で最も混神が評価した料理である。また、実際に、この爆発卵は存在する。詳しくは、探偵ナイトスクープをご覧あれ。
「卵一パックは使うかもよ。」
「構わぬ。卵料理だけは苦手なのでな、必ず3パックは用意してある。」
「あのさ。」
「その話し方はやめろいまだに昔のおまえとつながらずに困っている。おれもこの一人称をやめるから。」
「……わかったよ。だがな。お前の一人称はそのままでいいと思う。その大きさとルックスで『僕』なんて言われた日にゃ背筋が凍りついちまう。」
「わかった。」
「ところでよ、おまえさ、クラスの女子から、かなりの人気だってこと自覚してるか?」
「いや。そうなのか?」
いきなり問われ戸惑う数馬。
「ああ。実際。私と仲のいい二人も陰ではお前のこと狙っているのだから。」
「いっそのこと4人でつるまないか。」
いきなりの提案で返す数馬だが。
「それもいいな。しかし一人は男女だぞ。」
「…何だ、それ。」
「ま、あした紹介する。」

翌日教室にて。
「あーおもてー。」
かばんを下ろしながらそう言う数馬。
「お~いつれてきたぞ。」
「くか~。」
もう寝ている。
「起きろ~。…おきねぇ。」
『大海嘯発生。リンクグラスの使用を中止しなさい。』
黒板にそんな表示が出る。それとともに数馬が飛び起きる。
「すまん玖美。ちとでてくる。」
そう言って、数馬は部屋を出て行った。

戻ってきた数馬に紹介を済ませる玖美。
「そういえば、数馬君てどれだけ頭いいのかな?」
「しらない。」
玖美曰くの男女が問うが数馬は流す。
そして下校時、並んで歩く4人。
数馬と玖美は自分たちの家の前で、ほかの二人と別れる。
だがその前にある程度広めの道を渡らねばならない。とはいえ、二人の家の前にある道と大して変わらないのだが。
その道を渡ろうとしたとき、数馬が3人を制した。
「なんかやな予感がす…。」
数馬の言葉はまるで戦闘機が風を切るかのような音にさえぎられた。
音の方向をみると何やら白いものが下りてくる。それは地面に着いたと思った瞬間猛烈な土煙を巻き上げ迫ってきた。
彼らはただ見ているしかできなかった。猛烈な土煙を上げながら道路を破壊しつつ移動するそれが彼らの前に止まり土煙が収まるまで。
「ふう。…34分と12秒。も少し加速してもいいかもしれないですね。」
そう言って破壊されたアスファルトの中に一人の女性が立っていた。
「…えーと、志賀寺数馬君ですよね。混神から話は聞いています。それから、五十嵐玖美さん。あなたのお父さんは本当に優秀ですよ。助かっています。」
「あの誰なんですか?」
女性が数馬と、玖美に話しかける。玖美が質問すると。女性はしまったという顔をした。
「えっと、まぁ、いいですよね。蒼藍王国国王、ハルナ・リールシェル・ランゲルハンスです。今日はちょっとリュイに伝えたいことと、玖美さん、あなたの お父様に渡すものがあるんです。」
「でも。」
「今日は確か一時帰宅の日だと聞いたんですが。」
ハルナと名乗ったその女性の言葉に反論しようとする玖美。
「今、母が家にいなくて、彼の家に泊めてもらっていて。」
「ですが、あなたのお父様はそのことはご存知ですよね。」
「え?あ、はい。」
「なら大丈夫です。本日、お父様がいらした後、30分ほどお邪魔します。」
そう言って、女性はある程度助走し飛び立った。
「面白そうだな。私も行って構わないか?」
「構わないが。大してもてなしはできない。おれは片付けなきゃいけない報告書が山ほどある。」

「こんばんは。」
「どうしたんだかしこまって。」
「オジサンが、絶対に会えないと言っていた人に今日おれたち会いました。」
「…そうか。」
「それでこれから来るそうです。」
「どこに?」
「「ここに。」」
『ポーン!』
ドアチャイムが来客を知らせる。
数馬が応対し、居間に連れてきた。
しかし現れたのは昼間彼らが出会った女性ではなく、漆黒の襟付きマントをまとった男だった。
「またやってらっしゃるのですか?」
五十嵐がそういうと、男はマントの留め金をとった。その瞬間に一気に男であるという認識が崩れた。そこにいたのは紛れもないあの女性だった。
「エヴィレスト・ケイズ・シオ・ケイスケ・イグレシオノス、あなたを在ラルト大使に任じます。」
「「…え?」」
「いやはや、昨日の朝議で決定したばかりでしたから。」
ハルナと名乗った例の女性の言葉に全員が疑問を浮かべる。
「えっと、なあ、父さん、今あの人が言ったのって。」
「任命の詔だ。」
「そうじゃないその前に行ったの。」
五十嵐の言葉に反論する玖美。
「私の本名だ。玖美、お前もある。」
「なんていうの?」
「エヴィレスト・ミール・ゼ……。」
そこで詰まった五十嵐に代わりハルナが口を開いた。
「エヴィレスタ・メイル・ゼルメルト・クミ・イグレシオンですよ。もともとはあなたは内祭の家系なのですから、記憶は保たねば。」
「ないさい?」
「教皇に次ぐ権威をもつミッドガルド教の位階です。本来なら、あなたは次代の内祭でした。
ですがあなたのお父様が、突如、その地位を弟に譲り今の仕事に就いたので…。しまいには起こりますよ?」
きっかり30分後
「ではお邪魔しました。あ!おいしいお茶とお菓子でした。ご馳走様です。それから、まことに勝手なことですが、パスはあなたが高校を出るまでは継続しま す。あなたの学校の裏でなにやら不穏な雲行きを見ましたので。」
そういうと、遥夢は、突風とともに飛び去った。
「なんともわからなかったな。」
「…なんちゅう容赦ない視線。」
「どうした数馬。」
玖美がたずねると、
「あの人の俺に対する視線気づいたか?」
「いや。」
「あんな厳しい目線を俺は知らない。ベグレウト(一馬の学校の数学の教師)でさえ、あれに比べれば幼稚園児のにらみだ。」
数馬の言葉に、五十嵐が、
「そりゃ、全知全能の神だからね。創世記にある創造主の姉妹の妹らしい。」
「創世記?創造主?」
「『そ の者共、漆黒の闇の中に在りて、優しき水の光放ち向かい合う。姉の腹よりいでし蒼き珠、徐々に肥大しその者共包まん。その珠、前の世の卵なり。前の者、己 の放ちし熱き波動にて、世を暖め照らす太陽を作る。後の者、その鋭き雷と凍て付く水が波動にて、陸を砕き海を作り、砕きし土を盛り上げ山を作る。
両者、ともに世界を作った後、前の者は3、後の者は2の子を設け、眠りにつく。
5つの子生まれしとき、世界はすでに神であふれる。
その者共、後によみがえりて、腐りし、神の世を消し去り新たに人の世を創らん。
しかし、いずれも悲惨ないさかいにより滅ぼさざるを得ず、今より2つ前の世界にて、世界を滅ぼしかねないいさかいを払拭することに成功するも、世界が耐え ることができない状態になり、新たに同じ世界を作るも、それを消す。そしてこの世界を創造せり。
今、そのもの、自らを創造主と名乗り、自らの一族を神族と称する。』という話があるのさ。神族は蒼藍王族の本当の名称さ。」
「…どっかでおんなじ視線を受けた気が。」

十一年前 10月某日 15時 天気は土砂降りの雨
長京市第一都心(旧長野県長野市)の路地裏。
「かずくんごめんね。わたしのせいで、しんじゃいそうなことになって。」
「かまわない。これは俺の不注意だ。誰のせいでもない。おれじしんのせきにんだ。おまえがなやむことじゃない。」
「でも、わたしが、かずくんを守るって約束したのに。」
道の真ん中に6歳ぐらいの少年が、横たわる。頭の下にはすでに血の池ができている。
その傍らには同じ年頃らしい少女が涙を目にためながらひざまずいている。
「大人3人を敵に回して、辛くも勝利。しかし、自らも負傷。瀕死か。まったく馬鹿なことをする。」
そういって、コートを羽織った、一人の男が、少年を見下ろして立っている。
「少年、無理はいいが、うちのような約束はいただけない。将来苦労するのは、君なのだから。志賀寺数馬君。」
「だ…誰だ、貴様。」
数馬がそういうと、男はめがねを光らせて言う。
「御山混神。覚えておくと便利な男だ。ここであったのも何かの縁だ。治してやろう。」
「ほんと?本当にかずくんをなおしてくれるの?おじさん!」
「おりょ。見た目20代で小父さんか。まあ子供は無垢だし仕方ねえか。…ああ。治しちゃる。ばっちりな。でも、おっちゃんに会ったことは他の人に話すな よ。お嬢ちゃん。…じゃあ少しはなれてな。」
御山はそういうと、数馬の顔をわしづかみにした。血の池が徐々に小さくなっていく。なぜかパリッと服が乾いたところで御山は手を離した。
「……痛くない。」
驚きから、数馬が、呆けていると、眼鏡を外した、御山の顔がいきなり視界に飛び込んだ。
「おまえが成人(20)したとき、お前にあることを教えに行く。それまで、穏便にすごせよ。」
とても鋭い視線を数馬に突きつけ、その場を去っていく。
そのあと、数馬の嘘により、ヒステリーを起こした、玖美の母親により、五十嵐家引越し決行と相成ったのだった。

「そうだ、えらい昔に会ったあの人と同じ視線だ。」
数馬は一人で納得する。
「誰と会ったんだ?」
「確か御山混…。」
「だめ~。」
そういって、玖美が数馬の口をふさぐ。その場にいた全員が何事かと考えている。
「誰にも言うなっていわれたはずだ。」
「御山混神と言おうとしたのか?」
五十嵐の問いに数馬はうなずく。
「それが事実とすると君これからどえらい人生を歩むことになる。」
「「どういういみ?」」
「君が二十歳になったときにわかる。」

6年後
LSN-LTRアリス支社
支社長室
「失礼いたします。支社長、本部より、会長がお越しです。お通ししてよろしいでしょうか」
「よし。通せ。」

本日のキーワードは、出会いはどこでつながっているかわからない。でした。
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