この話は第二話の最後にちらりとお見せしたことに続くものです。

大学で2年の夏、おれたち5人はある、手紙に導かれ、世界最大の計画都市を訪れた。
アリスよりも巨大なビルが林立する地区があると思えば、まるで、異世界に迷い込んだかのように静かな、寺社の立ち並ぶ地区がある。そして、ひときわ異彩を放つのが、街を南北に貫く巨大な構造物だ。
お
れたちの借りた、タクシーの運転手の話によると、なんでも、鉄道路線の複合体らしい。また、おれたちが乗るタクシーを運営する会社を含む、この街の交通
と、流通、物流、金融、経済はほとんどがある、たった一つの巨大企業の子会社という話だ。そして、おれが運転手に、例の手紙の最後に書かれた住所を告げる
と、運転手は腰を抜かした。
その住所に到着した今度はおれたちが驚いた。巨大な森林の中にそびえたつ3本の岩山のような外壁に青白く光る幾何学模様が刻まれた巨大な三つのビルがあったのだ。
「この手紙をいただいたのですが。」
そう言って、受付の女性に手紙を渡す。ラフな格好のおれたちが浮いて見えるかのように緊張した、張り詰めて空気が立ち込める。まるで、戦場に放り込まれたかのようだ。息がつまりそうな、気持ちの中、2分ほど待ったところ、
「申し訳、ございません。会長は、現在、3C本社社長室にいらっしゃいます。3C本社は、お客様から見て右手に見えますビルでございます。大変お手数ではございますが、火急の用件のようでございます。お急ぎください。」
確かに火急の用件だった。『二十歳の誕生日が来たら急いでこの手紙の最後に記す住所に来てください。さもないと、あなたの命にかかわります。』そう例の手紙に記されていた。
俺は、7月の20日の生まれだ。そして今日は現地時間で7月の20日。アリス時間で7月22日だ。
3C
本社のロビーでは、担当者が来るまで、2分待てと言われた。おれたちは、最初に入ったLSNの本部ビルとは、打って変わった、まるで童心に帰り、おもちゃ
箱の中に詰まっていそうな、軽くて楽しそうな雰囲気の中で生き返るかのようだった。しかし、待っている2分の間にLSNのロビーよりも張り詰めた、とても
刺すような雰囲気に変わっていくのがわかった。その空気が最高に張り詰めたと感じた瞬間、おれたちの後ろから、声がした。驚き、振り向くと、右目と左目
で、瞳の色が違う、いわゆる、オッドアイの女性がいた。
「マスターがお待ちです。それから、あまり緊張したままですとエレベーターの中で、ショック死しかねませんのでお気を付けください。」
その女性の精いっぱいのジョークであり、おれたちの雰囲気を心配してくれているのだと知り、この雰囲気の中で、できる限りリラックスした。すると、いきなりあの楽しい雰囲気が戻ってきた。心なしか女性の顔も先ほどより、優しげに見える。
エ
レベータに乗り込み最上階まで向かううち女性は、名前こそ明かさなかったものの、自分が何者か、これからおれが何をされるのか、一定、どんな話があるのか
などをかいつまんで、わかりやすく、そして、とても詳しく教えてくれた。おかげで、心の準備ができた。そうそう。この女性が誰かを知りたい人がいた
ら、…L.Cという物語にたくさん登場しているらしいから、読んでみるといい。
いよいよ、社長室についた。
「マスター、志賀寺様御一行様がご到着なさいました。お通ししてもよろしいでしょうか。」
すると、昔聴いた、あの声がした。部屋の中に通された時、俺は軽いめまいを覚えた。玖美も同じようだった。
「何年ぶりだっけ。あの時の血まみれのガキンチョが、いまじゃ、アリス藩長だもんな。時間は長いようで短い。さて、すでに何があるかはリンから聞いているな。」
俺
がうなずくとその男もうなずいた。すると、いきなり、こめかみのあたりに痛みが生じ、目の前が暗くなった。と思いきや、いきなり明るくなり、また元に戻っ
た。首を振ると、目の前に蒸しタオルを差し出す、猫耳の少女がいた。ありがたくそれを受け取る。まるで、一週間たまった疲れが一気に抜けるかのような気持
ちよさだ。
「どうだ?リンの血漿と、ピュアの涙で蒸された蒸しタオルは。まるで、温泉につかってるみたいっしょ。…さてと、口頭でも説明すべきだな。」
そういうと男はあの女性に向かって手を動かした。女性は、礼をすると、話し出した。
「今から21年前、甲府で開催された国際ワイン博に、出席した主上を狙い、呪のこめられた銃弾が撃ち込まれました。
しかしその銃弾は、ある結界によって軌道が曲げられ、近くの森に落とされるはずでした。
ですが、思いのほか速度が速く、結界が間に合わなかったこと、込められた呪が以外と弱かったことから、当局は、弾丸自体を破壊することにしました。
でも。破壊された弾丸に込められた呪いが、ちょうど近くに通りかかった民間人に降りかかっていしまいます。王国奇滅院はこの呪を早急に解くべきものと判断し、その民間人の呪いを解こうとしました。
しかしすでにその呪いは彼の子供に移り、発効してしまったのです。しかも、この呪は発行した場合、20年たたないと消すことができないものなのです。
で、その呪いを受けた民間人の子供があなただというわけです。」
おれは何も言えなかった。
「ところでその時その本来狙われた人はどこにいたんですか?」
「周辺20mは関係者以外立ち入り禁止の貴賓室です。ですから、もともと、そこに民間人が通りかかることなどないはずなんです。」
そう言われればそうだ。つまり悪いのは、そこを不用心に通りかかったおれの親ということだ。なんという間抜けな話だ。
「で、もう一つ。あるんだ。」
男が。…いや。もうここで名前を明かしてしまおう。14年前瀕死の怪我を負ったおれを助けてくれた命の恩人。御山混神氏がそういう。そして、3年前、玖美の父親を、いきなり大使にしていった遥夢さんが、これまたいきなり、
「数馬君、もしよければ、大学卒業後、LTRのアリス支社の支社長になってほしいのですが。」
といってきた。おれの方としてはそのとき、就活をしなくて済むという思いから快諾した。
「重苦しい話はおしまいにして、ようこそLLC藍蒼総合本部へ。」
「藍蒼がつくということは、他にも本部があるんですか?」
「ええ。こことは違う世界になるんですが、玉京にLLC総合統括本部というものがあります。」
いあみちりかいできん。…頭がこんがらかって噛んでしまった。
「LSNに入った時息がつまりそうだったでしょ?」
いや、俺としてはここにきてあの女性に声をかけらた時の方が。
「初めて、リンにあった人は皆そう言います。でも、LLCは三つの顔を持っているんです。それが社の精神とかねあい、それぞれ独特の雰囲気を醸し出しているんです。」
どんな雰囲気なのかがものすごい気になる。
「LSN
は社員がすべて系列企業の社長ということもあり、大変、厳格で緊張した張り詰めた空気を持ちます。それが、超過密な交通ダイヤや、ネットワークの保全につ
ながる、ちょうどいい緊張感を生み出すもととなっています。それとは打って変わっているのが、3Cです。もともと保育園児でも、お年寄りでも使いこなせる
サービスを合言葉にしているそうで、そのためには柔軟な発想が大事なんだそうです。それに起因して、この会社は、とっても楽しげなおもちゃ箱と異名をとる
ほど軽やかな雰囲気に仕上がっています。」
恐る恐る混神さんを見ると…寝てるよ。どこでも寝れるという人というのは本当らしい。
「それか
ら、LWTCですが、代表である、社長が、大変優しくまた、混神があこがれるほどの画力を持っています。これが、社の雰囲気にも影響しているんですね。た
くさんの人間がいるにもかかわらず、大変静かで、それでいて、そこにいると、とても安らぎを覚えることができる。そんな雰囲気なんですよ。」
「数馬君、それだけで話がわかるんだ。」
一応。予習したから。
「彼曰く、人の幸せは、その人がそう感じることができた時と言います。では、世界中の人々が探す、万人が共有できる幸せとは一体何なのでしょうか。」
海よりも深い青の瞳に見つめられ、おれは何も言えなかった。
「そんなものはありもしないのにねぇ。どうせ、どっかの国のお偉方が、愚民を支配するために創り上げた幻想さ。」
いつ起きた!そんな気持ちにさせる不意打ちを食らわされる。しかし考えれば、混神さんの言う通りかもしれないし、そうじゃない気もする。
それから3年。今、俺はアリス一高いビルの最上階にある部屋から、アリス市内を眺めている。支社長になって一年がたった。おととしから就活の心配もなく、友人らが、職安と各企業の間を講義の合間に足しげく往復する様を、のんびりと眺めていた。
「ねぇ、数君、どっかいいとこ知らない?」
玖美も就活に困っているらしい。
「どこも内定くれなくてさ。」
おまえはいったいどこを希望してるんだ。全く。
「…秘書。」
そういえば、確かあのあと…。思い当たる節があり、フォルダをあさると、すぐに目当てのものが見つかった。それを玖美に渡す。
「五十嵐久美をLTR次期アリス支社長秘書として、正式に内定する。LLC主席経営会議長。……本当に?」
俺は困ってるやつをからかって、喜ぶようなおこちゃまじゃない。こういう時になったら渡すよう、あの銀髪の女性に言われたのだ。
「これで、また、数君と一緒にいられるわけか。」
「何何?……何だって~。LTRつったら、めちゃくちゃ難しいんだぞ。」
高校時代からの友人である、ソウマが、久美から、例の紙を奪い、驚いている。
結局、その後普通にキャンパスライフを送っていったおれたち。しかし、就職が内定した者たちで行った、卒業旅行でそれは起こったのだった。
続く
本日のキーワードは、真面目じゃなくでもどでかい棚ぼたでした。