L.C第十二章 海溝地震


面白いことに涼子は苦手なものと好きなものが同一である。それは、混神だ。
通常は混神のことが大好きなのだが、キレた混神が一番苦手だ(ゴキブリも苦手なのだが、混神が擬人化して以来得意になった。そのときはやくざ風の男に擬人 化している。)。
と言うのも、混神は1年に1度必ず感覚が狂ってしまう事がある。どういうことかというと、触覚がおかしくなってしまうのだ。
具体的にいうと、太い物を細く、細い物を太く感じてしまうと言うこと。
さてそのことはおいといて、本来魔法と呼ばれるものは、無言で発動すれば楽なのだが、そんなことができるのは極々一部のものに限られる。
そこで一般の者の共通概念として生まれたのが、「魔法発動には呪文が必要である」と言うこと。だが遥夢たちは、魔法発動に呪文を必要としない。
もともと呪文は術者の体内に周囲の魔力を集束し、目的の属性に変性させ放つ際の集束から属性変更までに関わる変更術の発動を担っている。
だが遥夢たちは、自らの体内に既に高純度、高密度の魔力が存在し特殊な器官で、属性の変性を行うため、呪文を必要としない。
呪文を唱えるときはあるがこれは形だけのことで、実際には呪文の効果は皆無である。

無年時第4237万6500期3月10日
彼―寺島敏一が幼馴染の渚に自分の家で苦手な数学を教えてもらっていると、チャイムが鳴ったので出て行く(親は旅行中)と、
「寺島敏一さん、ご本人ですか?」
「はい。」
「国際小包です。サインを御願いします。」
「は?はあ。」
小包を受け取り部屋に戻る。
「なんだったの?」
「さあ。」
敏一が包みを開けると、そこにはおなじみの日本の郵便局のマークのほかに、大文字のJとFを背中合わせに描いたようなマークが、青緑のインクで描かれてい た。
そしてJugと描かれていた。敏一がそこに触れると「蒼藍星間連邦王国地官庁国土交通総務省郵政庁」の文字が現れた。
「はあ?」
二人が首をかしげていると、一通の手紙が目に入ったので開けてみると次のような文面だった。
“拝啓、寺島敏一様。本日お送りしました物に関係した物品で、郵送できない大きさの物が幾つか存在いたしますので、お受け取り頂きたく思います。
つきましては今週土曜日13:43までに長京市本郷区、LSN長京支社までお越し下しますようお願いいたします。 ―蒼藍星間連邦王国第35代長相常設秘 書官フェドレウス・リン・コンコルド”
その手紙を見た二人はお互いの顔を見つめた。とてもじゃないが信じられなかった。
「お偉いさんが何で一介の高校生の俺に手紙なんて。」
「その前になんで日本じゃないんだろう。」
「まあ良いや明日の…なあ、13時って何時?」
利一の言葉に、渚は呆れながら、
「午後1時のこと。明日の午後1時43分までに、そのLSN長京支社というとこまで来いということでしょ。」
「地図があった。」
だがそれは、長京駅から長京電鉄本線の桐原までの周辺地図であった。
「長京駅まで自分で来いと?」
「よし私も行く。」
だが既に敏一は路線検索をしている。敏一たちが住む北九州市から長京市へは高校生の二人の力ではどうがんばっても10時間かかる。
だが実は新幹線のチケットが小包に入っていたのだがせっかちな敏一は知らない。それを渚が伝えると、ならとまって行けといった。
それなら下着を取ってくると渚は言う。
翌日
長京駅コンコース
『リン・コンコルドです。』
「なんなんすか?」
『ただいまからLSN本社、3C本社と回ります。お手数ですがLUNAHA改札前でお待ちください。』

かなり端折るが、藍蒼市LSNグループ総合本社ビル最上階、会長室。
「御呼びだてして申し訳ありません。当国国主国王ハルナ・リーシェル・ランゲルハンスと申します。」
遥夢が珍しく真剣な顔をしている。そして彼女の後ろに控える、濃い緑色のネクタイをした男がリンに近づきこう言った。
「人格変換中。第4人格の可能性が高い。」
男が戻ると敏一はリンにこう尋ねた。
「人格変換とか、第4人格って何何すか?」
「それは俺が説明しよう。」
遥夢が口元を隠しうつむきながら部屋から駆け出していく。
「遥夢は元々7重人格なんだ。第1〜第4人格が遥夢、第5人格がリール、第6人格は不知火、第7人格がシェーディウ。そして一番能力が高いのが、第6人 格。
一番危険なのが第4人格。ちなみに第6人格はA.Iとして隔離されていて、発現したのは1回だけだ。」
「きけん?」
「ストレスを発散するためだけにある人格だな。」
「どういうことですか?」
正規の言葉に、なぎさが質問する。
「地震のようなものさ。海溝型地震のような。定期的にストレスを発散している。必ずきっかり4人の人間を殺害してね。」
「殺害?それじゃ、殺人罪が…。」
「適用されない。と言うより、彼女を含めた33人には殺人罪を適用、いや如何なる罪をも適用することはできない。玉京から、各国に通知が行っている。」
「玉京?」
渚が問う
「そう。本来遥夢がいるべき都市のことだよ。玉京は、…山の中の藍蒼だよ。玉京山脈という山脈に四方を囲まれている。神々の都市だよ。」
「神々?」
今度は敏一が尋ねる。
「遥夢の本名は?」
「ハ、ハルナ・リールシェル・ランゲルハンス。」
「そうほんらいはルナハ・リーシェル・ランゲルハンスと言う。ルナハは、女神。リールシェルは遥夢のファーストネーム。ランゲルハンスは、全知全能っ てわけ。」
正規の説明にポカーンとする、二人。そのとき西の方向から、爆発音が響く。その方向を見ると、煙が上がっている。
「確かあそこには左翼系の集団が居た筈だよ!」
「リア、爆発地点に何があったかを調べろ。」
『検索結果。左翼系企業、北葉産業のビル、45階建てです。…死者4名、重体29名、重傷者45名、軽傷者30名、行方不明者10名です。』
遥夢達はどちらかと言えば右翼系だ
「きっかり4人だな。」
「なぁ、遥夢はあそこにいると言うのか?」
「煙の上空を見ろ。あいつの紋章が出ている。」
確かにそこには縦に長いひし形と前方に何かを包み込むような形に湾曲した翼と球体の組み合わさったような、紋章があったがすぐに消え、猫の顔を模したかの ような紋章が現れた。
その直後其処にあった瓦礫を、空へ巻き上げるかのような爆風を伴う爆発が起こった。
「爆掃風の発動用の、紋章が前者で、安定用の紋章が後者。ところが本当のあいつの紋章は一言で言うなら翼だが、物凄い複雑なんだよ。
で簡略的に表したくて造ったのが、今の簡紋章なんだな。」
その瞬間、大きく揺れる藍蒼市。だが、古い藍蒼大陸に神宮山と藍蒼山という二つの神山のしっかりとした基礎地盤があるため。
また、王国の科学技術が実現した、地震の運動エネルギーを電気エネルギー、または、光エネルギーに変換し、蓄積若しくは放出する技術がある。
これを利用することによって、大気圏にかかる高さのLSN総合本社ビルでさえ、全く被害を受ける事無く普通に建っていられるのだ。
『速報です。先ほど12:45頃、遥月海溝を震源地とする地震が発生しました。震源地は藍蒼港の沖合い450km、深さ20kmの地点。地震の規模を示す マグニチュードは現在暫定値で9.8とされます。震度7が藍蒼市…。』
マグニチュード9クラスと言えば、今から凡そ40年ほど前に南米で起きた地震がそうである。だが藍蒼が遭う地震の規模としては小さいものだ。藍蒼を襲った 地震の中で最高の規模のものは、蒼藍暦4,590潤6,000京年(物語り当時は無年時4237万6500期)に発生したものでM12.3。この時藍蒼を 守るために展開されたシールドによって押し返された津波が、対岸の大陸にある都市を100mをゆうに超える巨大な津波が襲った話は有名である。

そして、無年時第4237万7002期
「もういんじゃないか?」
「まだです。」
何度も腹筋を繰り返す遥夢を心配している正規。
「ふう!こんなもんでしょ…!」
いつの間にか彼女の唇は正規によってふさがれていた。カウントのため、ディスプレイゴーグルをつけているのだが、その青いゴーグルの奥にきれい
に、彼女の漆黒の瞳が黒真珠の如く光り輝いていた。そしてその目は、いきなりのことに大きく見開かれ、瞳は小さくなる。
「む〜〜!」
暴れようとしているががんじがらめに抱きしめられているため暴れられない。
「ふはっ!いきなりなんですか?」
「いやなんとなく魅力的だったから。」
「理由になってません!…そだ正規さん、早く着替えて下さい。」
一瞬で服を着替え終わり、ストレートに下ろされていた髪を、即座に一つに纏め上げると、丁度正規の着替えも終わったところだった。
「遥夢、何をやる気なんだ?」
「旧式ネットワークの完全破壊と、それに伴うサイバーネット、一般インターネット、国家間ネットワークの再構築。このために混神は100年前から一般サイ バーネットの運用を停止しています。
今回は3Cグループ、LSNグループ、LWTCネットワークの全面協力です。」
「旧式ネットワークとは何だ。」
「光ファイバーによる惑星上通信網と人工衛星による惑星間通信網で構成されるネットワークのことです。
現行のシステムによって作成された情報は、旧式ネットワークを使用すると、修復不可になるほどずたずたに細分化されてしまうんです。昨年度までこの旧式 ネットワークにしか対応していないシステ
ムが在ったので、サーバーを落とせなかったのですが、昨日届いた情報から、このネットワークのすべての接続を破壊、中枢である、ラグトアのラグビス 社のサーバーをクラッキングしました。
そしてこのときから、我々は総力を上げて、旧式ネットワークの破壊を実行しなければならないのです。放って置けば
サイバーテロや、犯罪の温床となってしまいます。」
「現行ネットワークに対応していないシステムって?」
「HALUNAver. AQUA以前のCoilOSやWindows CONE以前のWindows、MacOS125以前のMacOSです。」
この時代、時空変換衛星と言う大型の人工衛星がいくつも打ち上げられ、惑星間情報網を構成している。
惑星上の情報網もわれわれの時代とは比べ物にならないほどの高速化を見せている。
これにより、いくつものコンピュータを一つのシステムとして認識することが可能になり、これがサイバーネットの構築を可能としているのであった。

「暇じゃ〜!」
自室でぼやく混神。
「じゃあどこかいく?」
「桂林。」
「却下。」
「玉京。」
「…OK。」
いささか間が気になるがこの際いいだろう。
―玉京
「キリア様、長い間貴方のお越しをお待ち申し上げておりました。リール様もようこそ御出で下さいました。」
一人の長いひげを蓄えた老人が、街の門をくぐった一行を出迎えた。
「ひさしぶりですな、劉・清麟老子。」
「劉…て、もしかして。」
「劉老子のお父上さね。そいで持って、主上の玉蒼藍を造った人間だ。」
「それ本当?」
「ああ志乃の時雨塚に玉鋼を焼き付けたのも彼だ。」
混神の言葉に一同は納得する。
「あのー、これ息子さんに敲いていただいたんですが。」
涼子が清正を青麟に渡す。
「…付いて来て下さい。」
劉について歩いていくと一軒の民家にたどり着いた。
「先行くな。」
そう言って去って行く遥夢たちを見送り、劉の家に入っていく涼子であった。