L.C第十三章 性同一


彼は部屋の隅で怯えていた。部屋の真ん中には無残な姿で横たわるケモノのミミを持つ少女が倒れていた。幼馴染であった二人は、今日も家のそばの神社の境内 で遊んでいた。
「た、卓哉、に、にげて。」
少女がそういうが彼は足がすくんでしまい逃げることができない。
彼が怯えているのはその視線の先に少女に致命傷を負わせたものがいるためだ。それが犬や狐ならまだ御神体として納得できたかもしれない。
だがそれは人間だった。しかし人間にしては姿勢が変である。あえて言えばカマドウマのような人間と言う感じだ。
「見たからには、生かしてはおかぬぞ。」
「我が見ている前で、左様な事を言うからにはこの者には、汝に対する罪でもあると言うのか。」
扉が開くと男が立っていた。
その男は真っ白な襟付きの長いマントを着ていたため、あまり顔は良く見えない。だが、つりあがった大きい目に、標準ではあるが、シャープな印象を与える輪 郭。
だが、顔の内側にカールした、髪のせいで女のようにも見える。声が低いため、男に思ったのかもしれない。しかし真相は神のみぞしるである。
「貴様、何者じゃ。」
「…ス。」
「なに?」
「聞こえないのであればもう一度言おう。我はルナハ・リールシェル・ランゲルハンスという名だ。」
その中性的な声は卓哉の目の前にいるものを後退らせた。
「何だと?まさか、そんなはずはない。お前がここに。」
そういってその人物は男に襲い掛かった。だがその攻撃は、マントを止めているバックルを破壊しただけだった。
そして外れ落ちたマントから現われたのは、膝まで伸びた、長いポニーテールと出るところは出、凹むところは凹んだ、魅力的な女性であった。
「彼の者を喰おうとでも言うのか?そんな貧弱な、口で。」
「あなたは?」
だがその言葉に女性は反応せず、腕を大きくしならせ、何かをその何者かに投げつけたため、その人間の隣にいた少女が、建物の外に弾き飛ばされた。
しかし、何かに阻まれ縁側に落ちる。
「千尋、千尋?」
「待てと言った筈だ。この者を滅したら直にでも蘇生してやる。」
そういうとその女性は、荘厳なデザインの、剣を床に突き立てた。すると、巨大な音と共に黒い光が床から立ち上がり、部屋の周囲から、中央へ窄まっていき、 人肉が焼けるような臭いがした。
「致命傷の割りには、まだ息がありますね。」
「どういうことですか?」
「心臓と、動脈が切り離されてしまっているんです。でも、もう血管は繋がりかけているんで
す。」
すると女性は、千尋の胸に手をかざした。
「これで治りました。」
「有難う御座います。で、あなたは?」
「あれ?言ってませんでしたっけ?ならもう一度。…どうも、ハルナ・リールシェル・ランゲルハンスです。」
「あの、教科書に出てた?」
「ああ、世界地理の教科書に載ってるとか言ってましたっけ。…いつか来て下さいね藍蒼に。」

無年時3540万0021期1月1日9時ジャスト
『不知火、コイル&リグゥのOS談話+リン酸パレット〜。謹賀新年クイズスペシャル〜』
『さて悲しいことに今年の元日が金曜日になっておりこの番組が始まりました。せっかく寝だめしとこうと思ったのに。』
『そんな事言ってると早死にしますよマスター。
…ええとこの番組はLSNグループ、3C、LWTC、藍蒼大学、国際観光協会、青玉大門中央高等学校図書委員会特別書庫管理班、他30社のスポンサー で、FIB、藍蒼国際放送よりお送りします。
本番である、クイズショーはCM明けです。』
CMあけ。
『謹賀新年クイズスペシャルと題しまして、お送りしていますがここからが本番です。ここからは、ゲストの方をお迎えしてMCチームを含めた、5組でクイズ に答えていただきます。司会進行は私コイルと、リンの二人です』
『それでは解答陣の紹介です。まずカメラから向かって右から不知火、王相補ペア。
続いて、巫剣空官長、閃河LWTC社長ペア。真ん中にサイバーアイドルの中の人、パルス、リュイペア。
その左に、世界一陽気な王、フィリップ、フローレンス、ローレンス王国国王。最後に来栖日本連邦首相、マクリオ、アイルーン大統領ペアです。』
『さてルールは、単純明快。これから出す問題に対し正確に答えて下さい。一切のおまけ判定はありませんのであしからず。』
その後、休憩を挟みつつ延々十二時間続き最終的にパルスとリュイのペアが優勝したのであった。

同年四月十八日
「姐さ〜ん。」
遥夢の執務室に一人の少女が駆け込んできて遥夢に飛びついた。
「正規夢?」
彼女は遥夢の娘であるが…。
「携帯壊された〜。」
「機種なんでしたっけ?」
「15BLG3のはず。ティオルが好いな。」
「混神が丁度TX902T53CA注文して来ましたので貴女もそれでいいですか?」
遥夢がそう聞くと、
「それどこ?」
「CASIOですね。」
「…そっか。じゃあそれで。」
「今の間は、何か気にはなりますがあえて言及は避けます。で色は?とは言え、赤、白、黒、緑の4色ですが。」
「ん〜と、白。」
「分かりました。…注文です。TX902T53CAのKing NavyとKnight Whiteを。前者が2、後者が3です。以上。」
どうやら事は一段落したようだ。
「姐さん、やばい事になっちまった」
「正夢規!夏休みまで帰ってこないって言ったじゃないですか。」
「それどころじゃねえ。PTAの会長とか言う婆が『保護者の方と話がしたい。』と言ってきやがった。」
「その人が今日尋ねてくると?」
「ああ。」
「なら今つなげます。」
遥夢はそう言うと机に埋め込まれたキーボードで何かを打ち込んだ。
「これでOK。」
それから十分後の蒼天宮玄関。
「保護者の方は?」
一組の中年の女性が入ってきた。
「いらっしゃいませ。お嬢様は現在どうしても外せない用事が御座いますので5分少々お待ち下さい。」
「この方が保護者。」
「いえ、母の世話係で。」
「遅れまして申し訳ありません。」
大急ぎで、応接室に入ってきたその人物を見てその女性たちは固まった。男とも女とも分からない中世的な声だが、どうやら男のようだ。
「紹介します。母です。」
そういわれるとその人物はマントを脱いだ。すると長い髪が現れた。
「御屋乃遥夢です。」
「…嘘はやめて頂きたいものです。」
「嘘をついて如何するんですか。くだらない話を聞くだけなのに。今早めに記者会見切り上げてきたんですよ?」
「…御屋乃さんは何かの社長なんですか?」
「母はこの国の国王です。」
「それこそ突飛な嘘と言うもの。」
そのとき書類の入ったダンボールを抱えた混神が入ってきた。
「主上!そんなぶっ細工なおばさん、相手にする暇あったら、緊急の仕事を御願いします。」
「んま〜!」
顔を真っ赤にしておばさんたちが怒る。それを見た混神は大慌てで駆け出していく。
「それじゃここら辺で失礼します。」
「まだ話は。」
「言ったはずです。話の内容が余りにも世俗的であった場合、公務に戻らせていただくと。」
そんなことは書いてないと思うかもしれませんがこれは行間でのやり取りと言うことで。
「そんな…。」
「御用がお済でしたら、お引き取り下さい。」
その一言で結局追い出された厚化粧の中年女性二人組みであった

「それにしても何でにらまれたんですか?あんなことまで言われそうになるなんて。」
「姐さん。俺、青大央に転入したいよ。」
「あのね、せっかく特例でスオウの高校に入学許可したんですから、せめて3月までしっかり通いなさい。」
「おお!珍しく主上が母親らしいことを言った。」
「こここ、混神!」
「も〜鶏じゃねんだし、親子したら、頼みますよん。」
そういって混神が出て行く。
「で、直ったんですか?オカマ属性は。」
「まあ。さすがにこれだけの人間に気持ち悪いと言われれば。」
「それなら良いですが。」
「姐さんだって、男に化けるじゃん。」
「あれは必要に迫られてのことです。」
遥夢の場合は化けているのではなく、男そのものだと混神はいう。もともと遥夢はバス音域からソプラノ音域まで、地声でカバーすることができる。つまり裏声 がないというわけだ。
そのためよく声帯を傷める。また声紋模写もお手の物だ。
「翼を打たれても痛くはありませんが失速しますから気をつけてくださいね。」
「いきなりなんだよ。」
「貴方も当国の王族ですから飛ぶ機会があるはずです。…のまえにいじめを受けたならしっかりとそれを宣言しなさい。こちらとしても対処ができません。
僕には何も隠し事はできないのですから。ね?」
「いや。…もしそうなったらどうすれば良い?例えば『こんなことになっても生きていて楽しいのか』と言う感じにいわれたとしたら?」
「『なら君はどうなんだ?君がこんなことになったらどうだい?もし良ければその状態にしてあげよう』と言えばいいんです。…そこにいるんですよね、混 神?」
「事情は聞かせていただきました。リン全体に通達。殿下の言葉を引き金に、第9種戦闘体系以降。」
「…素人相手に第9種は。せめてもう9段階下げて…。そうですよね国内ですから、王族包容法に抵触しますよね。」
王族包容法は、王族の目印や居住、定義などを定めた王族拘束法と対を成す存在である。別名、王族擁護法。またこの二つを総称し、王室法(日本における、皇 室典範)という。
後日きれた正規夢が学校を破壊したのは別の話。