第18章 由香の大騒ぎ


「おいニート。」
そういいながら入ってきたのは混神の従妹の由香である。
「誰がニートじゃ。こう見えて仕事中じゃ。」
「マスター今までのOSのコードリスト持って来ました。」
そういってリンが入ってくる。
「何やってるの?」
「ラフ。」
そう混神が言うとそばで座ってリン、涼子と書類を眺めていた、ラファエルが立ち上がり、床の肩を押して部屋の外に連れていった。
「お年玉〜。」
「…明日また来い。じいちゃん家行くから。」
「ほんと?」
「うん。」

翌日
「ちーす。」
「でっかくなったな。」
「かわらぬ。で、どこだ?おかしくなった端末は。」
「これだ。」
「ノートけ?」
「ああ。」
「リア、どう見る?」
『サーバーを見ないことには何にも言えませんので。』
玄関に突っ立って話す混神と章。
『…指定端末のシステムにアクセスした結果を表示します。』
「なんだ単にOSの保障期間が切れただけじゃん。」
「なんだ。どこのOSだそんなソニータイマーみたいなのは。」
「アンさんらがいつもつかっとるやつじゃ。にしてもえらい古い物しっとるな正規。で、自動更新は?」
「つかってない。」
「なに騒いでる。」
一人の初老の男性が歩いてきた。
「おう。良いとこに来ましたな。お土産を。リン!」
その声の後に玄関に入ってきたリンは箱を2つ抱えておりさらに2回目は3つ運んできた。
「瑠美乃の地酒です。一升瓶が十本で一箱。それが5個ですので合計90キロです。それから最高級藍蒼蛸を使った、酢蛸です。…もっていけますか?」
箱を持っていこうにも重くて悪戦苦闘する章
「どうやって持ってきた?」
「どうもこうも、五箱重ねてですが。」
驚いている章のためにも説明しよう。リンは最大で590tの物を一度に運ぶことができる。これは第16章で紹介した遥夢の飛行の原理の応用である。

「いきなり、聞くが、なんで涼子の意識はあんなに深く入っちまったんだ?」
「うちに聞くな。リン!」
「はい。では、こちらをご覧ください。」
リンがそういって、窓のほうにいくつかのデータを表示する。
「サイバーネットは大海嘯以来一年ごとに空間が、更新されるようになりました。
これは、ウイルスに犯された部分を破壊し、修復するよりも、一時的に修復しデータを全体で上書きしたほうが全体的にもサーバー負担が少ないと言う関係な んです。
そのため現在の階層よりも深い位置になってしまったと言うわけなんですね。
1900年前と言えば空間のバージョンが4.50以前のため私とリア、ラファエルの3人しか今の空間から進めないので、捜索が遅れてしまったんです。
そしてその空間のことをファーストエリアと言います。」
「今は?」
「12.0.98.46だねぇ。」
「違います。1298.689.00.645.652です。」
「えらい桁違うじゃねえか。」
リンが行ったほうが正しいのである。
そのとき急激に空が暗くなる。
『長京付近において大量のウイルスの具現化が確認されています。第二次大海嘯の可能性が考えられます。』
「電脳空間じゃないのにか?」
『窓自体がリンクグラスなんでしょう。』
リンクグラスとは現実空間に電脳空間を重ねて表示するリンクディメンションシステムの際に利用者がかけるめがねを模した機械のことである。
「だからか。被害を受けるサーバーは?」
「答えなくてもLLC関係の会社は直前に回線切断していますからわれわれを変に敵視しているサーバーとしかいえませんが。」
「…莫迦は人の話を聞かないからな。」
「『世界一えらい莫迦』の話は逆に聞けということだね。」
涼子がすっぱり言うが、混神は大笑いしている。
「一族の出世頭だな。」
「仕方なかろ。国王の従兄なんだから」
親戚の一人が混神に酔った勢いで話しかけた。
「ちゃっかりお年玉もらってやがら。」
「いいの。」
「あり?兄さんどこ行った?」
「なんかケーブル取りに行くとかどうとか。」
混神の疑問符に涼子がウーロン茶を飲みながら、答える。
「LANケーブルか?それならここにあるのに。」
そう言った時丁度戻ってきた章。
「こんなのでいいのか?」
「いわなかったっけ?V.C.Pはインターネットサーバーとしても機能すると。」
「つまりは?」
「そりゃ早いほうが越したことはないがね、今は使わんね。…出しとけ。今やったのはOSのネットワークへの適応率チェックじゃ」
そんなことをやりながらも新年会は進んでいった。

藍蒼市
この町のビル街は、さまざまな交通機関が入り乱れる機械のジャングルである。また世界で唯一、普通に人が生身で空を飛ぶ光景が見られる珍しい街だ。
そして今日もそんな人影の中に高速で飛び続ける人影が一つ。
藍蒼市第50番区LLC-3C本社最上階社長室
とはいえね〜3C自体が3Cグループっちゅう、企業体の頂点に位置する企業であるから、社長と言うよか会長というべきなんだけど、そこんところは何かこだ わりがあるみたい。
で、3Cグループは今や国際的にかなりの影響力を持つ大企業体となっている。
と言うのも3Cがなければ現在の蒼藍王国を頂点に、緩やかな連合を組んでおり、王国の法が全体の法となっているこの世界はなかったと言っても過言ではな い。
ところでこの世界は宇宙空間の中心にある王国から見て、西側は親王国派で王国の法が普通に浸透している。その証拠となるのがLSN・LTRの特別特急ルナ ハ線である。
このルナハ線は、LTRが展開する、特別特急線5路線のうちで唯一、三つの軌道を持つ。
西側諸国は3路線。東側諸国は同盟国のファニス王国までの路線と、属国のコイル空国にいたる路線の計2路線があるが、ルナハ線(通称、特別特急本線)は、 貨物線と、一等編成専用線と通常線の三種類の軌道がある。
これは王国の技術と秩序の拡大を期待する親王国派各国の国家的協力を得られたためである。
なぜ駅の造られなかった国までも、積極的に協力したのかと言うと、特別特急が敷設されると、その後から、ぞろぞろと、交通機関(特に鉄道)が発展していく ので、そのまわりから、文明が発展していく。
そのため、…もっと複雑な事情があるのだが、こんな風に覚えて下さい。
さて東側は王国にあまり好意を示さない。だが連同の言う事は聞く。だから連動をその配下に置く王国は、既に巨大な「世界」の名の下に緩やかでかつ強大な影 響力によって形作られた連邦体を統治しているのだ。
「社長。今月の総務一課の報告です。」
「知ってる。それにしても秘書課長とサーバー管理部長と総務部長と社長代理の兼任はつらくないか?」
「秘書課は暇ですし、サーバー管理部の仕事は殆どA.Iがやってしまいますし、総務にはユニークで優秀な社員がいますし、社長代理はそんなに出番がありま せんからね。…仕事がなくてつまりません。」
「…おいおい。」
確かにここまで仕事が欲しいと言う社員はいないだろう。だが、遥夢が通常の仕事を3時間で終わらせるのに対し、リンはその倍の仕事を2時間半で終わらせ る。
そして殆どの遊びや暇つぶしにはなっから見切りをつけているので、暇で仕方ないのだ。
「兄さん、ノート分解したままですよね?」
「え?」
「修復しておいて下さい。」
リンの口調が強くなる。
「あれぶっ壊れたから。」
「どこが?」
「HDDケーブルの一本が切れた。それとドライブケーブルとバッテリケーブル。」
何本ケーブルがあるのか。
「じゃあ、ケーブルがあればよろしいのですね。」
「どこ行くの?」
「歯肉です。」
歯肉とは42番区の語呂である。オタクの世界3大聖地であると共に高品質PCパーツのメッカであるのだ。これはすぐ向かいの地区にLLCの本社があるのも 関係している。
「ほなさ、デスクトップ用のケースとCPUを2つと、ジオラマケーブルとドライバー頼む。…ねじ回しのな。」
「そのドライバーなら上から2番目の引き出しに入っています。それから、CPUはどこ製のですか?」
「あ〜、IntelとLET。それから、ケースは拡張ベイがいっぱいあるやつな!」
「…じゃあ、…改めて行ってまいります。」
リンが出て行くと入れ替わりに一人の女子社員が入ってきた。秘書課の女子社員である。
「社長は彼女とかいますか?」
だが混神はそれを無視して、何か機械をいじっている
「社長?」
「…秘書課のリアンか。お前の面食いぶりは聞いてるぞ。後十分もすればリンが帰ってくる。…もうカップラーメン一個しか作れないな。」
「へ?」
「3分しかないっちゅうこと。」
毎度ながらわかりにくい
「時間切れです。」
「へ?」
「いつもの店に行ったら何でかご主人が買うつもりだった物を紙袋に入れて待ってまして。」
「うちがメールで送っといた。」
メモ渡す意味が無いでは無いか。
「…了解しました。1,024コア搭載CPUと4,096コア搭載1,024PBRAM内蔵型ハイパフォーマンスCPU、ケーブル類が4種類、それか ら、拡張ベイが多いケース、最後におまけのRAM。以上です。」
「こいつが行くと必ず愚痴の紙が入ってるが、お前が行くとおまけをくれんだな。」
「ほ〜んと。何で課長ばっかり。」
「後が怖いですから。」
そう言って、目が笑っていない笑みを見せるリン
「な?」「どういう意味?」
「あの店には当社の製品を真っ先に入荷させているんです。…は冗談で、実際にはあの人私のファンだそうでして。」
「…意外と身近にいるんやね。」
「社長、何で私はだめなんです?」
リアンと呼ばれた秘書が問う。
「まあその性格やからね。できた。」
いきなりパソコンの本体を叩きながら立ち上がった混神は、部屋の隅にある、棚を明け一台の大画面モニタを持ってくると、机の上においた。
「ほれ、これをサブに使いな。」
「いえ。」
「は?」
「メインマシンとして使用させていただきます。ところで買ってきたの全部入れたんですか?」
リンが問うと、
「ああ。でだ。また何か破壊してないだろうな。」
「もちろんです。コンコルドフォームでは飛びませんでしたから。」
「ほどほどにな〜。」
そういいながら混神が立ち上がる。
「どうかなさいましたか?」
「宮行。」
宮行、つまり蒼天「宮」に「行」くと言いたいのだね
「お供いたします。」
「わ、私も。」
「リンはともかくリアンはだいじょうかんね〜?」
「どういう意味ですか?」
だが二人は笑いながら(リンはいつもの無表情のように見えて結構笑っている。)部屋を出る。

次回は俊明が。