L.C第25章 青大央喧騒記

断わっておくが、この話に出てくる国立高校は現 在のものではなく遥永元年、すなわち、青歴元年当時のものである。

5月12日
国立藍蒼学院青玉大門中央高等学校
いつからこの名前が付いていたのかはわからない。ただ言えることは青玉、大門中央と言う地区が実際にこの高校がある場所に存在していたということだ。…た だ何で国立高校なのかは本当に謎である。
1-B
なんとまあ普通科の一学年が14クラスあるマンモス校なわけであるな。この学校は。
「は〜る〜にゃ〜ん。」
真っ先に反応したのは混神だ。彼は朝と昼と放課後を覗いて、サーバー室にいる。
「いちち。いきなり変な呼びかたすなよ。本人気付いてにゃーぞ。」
「へ?気づいてない?は〜るにゃ〜ん。」
「…ありゃダイブしてるわ。」
「ダイブ?」
「精神だけをネットワークに送り込むアクセス方法さね。今のとこ使えるのはうちと涼子とリンと、主上と相補だけさね。」
いまいちわかっていない様子の少何か用?b .女である。
まあ主上や相補と言ってそれが誰なのかを理解できるのはクラスメイトである1-Bの生徒と隣のC組の春本姉妹と2-Kの綾小路綾女ぐらいである。
「ハルボンとこ行って来る。」
「ハルボン?」
「春本。春に本だからハルボン。」
「で、何しに行くの?」
「貸してるゲームを返してもらいにね。」
「でも彼女実業学科じゃなかった?」
「あれ聞いてねーのか?あいつ先週から普通科でしかもC組に編入したって。」
1-C
「おいハルボン、虹色ガム返せ。」
「それをここで言ったらおしまいなんじゃ。」
「いいじゃにゃーの今ここにいる女子で意味理解してるのあんたぐらいだお。」
そう言って混神がずかずかと教室に入っていく。
「涼子さま。」
涼子の背後から声が掛かる。
「ああ、リン…先生。」
「いつものようにリンで構いません。」
「…何か用?」
「主上が招集をかけました。」
「何かあったの?」
「さぁ。とにかく本部棟に行きましょう。」
「ちょっと待ってね。」
涼子はそういうと、木刀を片手に教室に入っていき十数秒後、混神を連れて出てきた。

その週の土曜日
校内のカップルの間で話題の待ち合わせ場所である、藍蒼ミッドナイトステーションのグリーンオブジェの前で、涼子がしきりに腕時計を見ながらあたりを見回 していた。
その姿は普段の涼子からは、考えられなかった。淡い緑色のノースリーブ、タートルネックの服を着てジーンズをはいている。
「遅いぞ。何してたの?」
「…着る服に迷ってて。」
「で、いつものスーツ?」
「まあ無難な線で行くことに。」
混神が来て来たのは緑のネクタイのスーツだった。
「じゃ、いこっか。」
そんな二人の様子を、物陰から見つめる二つの影があった。
「部長まずいっすよ。見つかったら、廃部ものですよ。」
「なぜだ。」
「『新聞部は生徒の恋愛を監視しているストーカーのような部活だ』って言われて。」
「その辺に抜かりはないのだ。ヌハハハハハハハハハハ。」
「どんなふうに?」
「だからこうしてばれないように物陰から。」
「なんで?堂々と観光客を装えば怪しまれないのに。」
「それもそうだ。」
そしてまた高笑いをするが、
「涼子、やっぱり新聞部の生徒会管理早めに取り掛かろう?」
「だめだね。そんなことしたら、風紀の馬鹿どもが嬉々として名乗りを上げかねないよ。」
「…そやね。んじゃあ…これでいいかな。…新聞部のサーバー領域を抹消。IDも消去したし、明後日にはサーバー室名義で本部会議に廃部申請を提出する。」
「そんなことは置いといて、早く行こう。」
藍蒼ミッドナイトステーションエントランス
「すごーい。」
「……帰りに菓子屋によってこう。」
「?どゆこと?」
「エクレア。」
「了解。」

翌週、混神は風紀委員に追い回されていた。
「もう頭来た。学院総合サーバー室長の権限を行使し、対象2名の当学院卒業または、退学までの当学院内に存在するすべての端末からの電脳空間へのアクセス の一切を禁止。
また明日より風紀委員会に対しても、一定期間の適用と処す。ただいまよりの執行。」
「何を言っているのだね君は。君には学校裁判で裁かれるべき罪が大量にあるのだぞ。」
「学校裁判で裁かれるのはあなた方です。」
くるりと後ろを向き大声で追いかけてくる風紀委員に対し、刑罰を宣言するも軽く流された混神。だがその風紀委員の後ろから聞こえた声に顔をにやけさせる。
「なに?」
「学校側からの正当なる要請による授業免除、および本業による臨時の公欠。
これがあなた方が言う罪の大方の理由です。…王国政府藍蒼学院高等部総合生徒会 専属職員の権により、ここに居る風紀委員二名の今学期の成績を全教科を原級にとどめる。」
「…リンそれはひどいんじゃ。」
「主上からの緊急の通達です。国家正官準士の配属任命に長相がいないのでは。」
「わーったよ。」

現代
「無言魔法と有言魔法があるのは何故だ?」
「必要とされる魔力の量が全く違うわけさね。」
「…?」
「無言魔法のほうが必要とする魔力が多く、また膨大な量の精神力を消費するわけな。それに呪文に影響されないから相手が反対呪文を構築することを防げるの さ。
ま、ほかにもいろいろ理由があって、無言魔法は別名神級魔法とも呼ばれている。」
正規の質問に混神が答える。
「しんきゅう?」
「高等魔法よりも高等技術を要する魔法だな。」
「なるほどな。じゃあ有言魔法は?」
「初歩魔法。」
「…おれたちは?」
「神級魔法。」
「それにしても懐かしいな。うちらと同い年ぐらいの正官がたくさん入ってきたからねあの年は。」

遥永5年
遥夢たち21歳大学2年
蒼天宮国官登用試験結果
正官
正準士
第1級―20名―定員
第2級―40名―定員
第3級―12名
準準士
第1級―4名
第2級―26名
第3級―15名

準官
正準士
第1階80名
第2階120名
第3階115名
準準士
第1階1200名
第2階1250名
第3階1400名
以上4132名 内大学校在学者563名

「以上の563名中主上らと同じ年齢が500名です。」
古代中国の科挙に似ているこの国官登用試験。受験者に与えられるその精神的苦痛は計り知れず、毎回合格者でも発狂する者がいる。
「で、今回は何人が逝った?」
「422名でございます。」
「今年の試験官はほんとに厳しいらしいからな。」
…現代
「ありましたねぇ。そんなことが。」
「でその時の官は今どれくらい残ってる?」
「…正官100名、準官4100名です。」
「…逝ったやつも回復したのか。」
「残念ながら32名は回復の見込みなく官位を返上、州官となりまして…。」
「都見飛州に押し付けたか。」
「申し訳ございません。都見南州に。」
混神やリンが言っている、この言葉は王国の州を示すもので、藍蒼州が都州、トリネリア州が都見西州、ウェンドン州が都見北州、カルティナ州が都見東州、 スオウ州が都見南州、最後にマーライヤーナ州が都見飛州となる。
「そういや都州と都見飛州以外は今…」
「はい。州首がおりません。」
「どうする気だ?」
正規の質問に淡々とした感じでこたえるリン。
「来春の総合人事にて。」
「そうか。」
「さてと。暇だから呑みに行くか。」
「どこに?」
「おみゃーの実家。」
「…ぼくも行ったほうが?」
「当然。」