L.C第28章 海水浴
「海
だ~。」
蒼藍王国藍蒼市の南、ポルトマーレ海岸藍蒼南海水浴場。
いつもの5人+春本姉妹の7人で来ている。
「しかし、ハルボンが来るなんて珍しいじゃん。」
「た、たまたまだ。」
「それにしても、リンと正規おせーな。」
「ん、正規ならさっきからそこで赤くなってるよ。」
「んじゃあ、あとはリンか。」
「わ、私なら、さっきからここにいます…あち!」
混
神が振り向くと、ほほを赤らめた無表情のリンがいた。
ただし身につけているのは、濃緑の地に山吹色のラインが入った、ビキニスタイルの水着であり、腰には
黄緑の地にハイビスカスの模様が描かれたパレオをつけている。
そばを通る男性が皆一度は振り返るような整ったボディラインと、もともと大きい胸をさらに強
調しかねない格好である。
だがリンが気にしているのは視線ではなく、
「マスター、パレオのまま海に入るのは勘弁してください。」
そう海に入った後、足に貼り付くパレオであった。
「わかった海に入らなくていいから涼子と遊んでろ。それから、少し浮いててかまわない。」
「かしこまりました。」
リンが水に浸かるのを嫌がる理由の一つは身につけているものが体に貼り付くからと、もう一つ、もともと体温が高く、一度冷えると上げるのに時間がかかると
いうことがある。
さ
て、ここで、一つ何か言われる前に説明しておきたい。
遥夢たちが利き腕と逆の手首につけている、このV.C.Pはかなりの精密機器である。
そのため塩分水
分にとても弱いはずである。だが彼女たちは、修理やハードの更新以外では外さない。
なぜか。まず各パーツが大変湿気や塩分に強い構造になっていることがあ
げられる。
データプレートは極薄のフィルムであり、また、他の基盤との接続には水や塩に強い金属生命体が使用されている。
CPUや、GPU,RAMなどの
ほかのパーツもほかのパーツとの接続部以外はすべて防水加工が施されこれと一体化する形で金属生命体が接続部位に塗られている。
金属生命体は自分がいる場
所の形状を記憶しそこに適合する形のパーツが来たときのみ活動を開始、完全に隙間を埋めて湿気や塩分が入らないようにしてしまう。
またそれらのパーツを納
めるケースにもしっかりと接着がなされ、水が入らないようになっている。
でここで問題になってくるのが、CPUやGPUなどの過熱パーツの冷却であるが、
これにはちょっとした水冷式に似た方式を使う。
V.C.Pに使われるのは大体が発熱量の少ないパーツではあるがそれでも若干の熱は持つ。
そこでユーザの手
首の動脈と静脈にそれぞれ管を通し使用者の血液内に熱を逃がす。
まあ生体認証などの関係から、もともと使用者の血液を必要としている機械ではあるが、ここ
まで来るとね。まあその関係でめったに外せないわけなんですね。
「わ~い。」
はしゃいでいるのはいいが涼子が持って木刀は中に日本刀が仕込まれている。だからほっとけば錆びる。名刀なのに。
「ギャー…グァヴァ…混神…s¥助けろwsdf5g6ふじこlp;@。」
「ヴぇ~~?その状況は並の男から見たら、ものすごいうらやましい状況だよ?美人で巨乳の女に抱きしめられてしかも密着してるんだから、胸が。」
「ぞ・・ぎょうゆう。ガハ…そうゆう問題じゃない。」
まあ、混神は用意がいいのか、それともズボラなのか、ゴムボートを持ち出し二人を引き揚げた。
「ゲホ…ヴァーひどい目にあった。」
「ヴミー。あぢー。」
そう言いながら、涼子の膝に頭を乗せて伸びる混神。リンは、二人をボートに乗せている。むひょうじょうで。
「そういえばまだフェナスティアラに行ったことないんだっけ、遥夢は。なぜだ?」
「あ、あんな虫だらけの星に僕が行けるとでも?」
泣きそうな顔で正規を見る遥夢。
「昔あの星の木の下で寝てたら、カブトムシやら、カナブンやらが落ちてきて昏睡状態になったからな。」
「それは言わない約束ですぅ。」
泣きながら、混神に抗議する遥夢。そしてその遥夢を見てうろたえる正樹と、ノホーンとする混神。その時海岸で騒ぎ声が上がる。
「…またこの季節ですね。大騒ぎの海水浴。」
「どこの学校だっけ?」
「どこでもかまいません。許可でてませんもん。」
そんなことはお構いなしに、大騒ぎをする中学生たち。だがいきなりある地点より先へ進めなくなった。
そして騒ぎは徐々にそのことに関係していく。結局はこ
れ、リンの結界であった。
「許可なしにああいったことをやるから生徒からの信頼失うんですよ。」
けっきょくは事後承諾で騒ぎは終結した。それから1時間後。海の家にて。
「…む~。」
混神がある1点を見てうなる。
「どうかなさいましたか?」
リンが問うと、
「む~。いやな。見覚えのある顔でな。」
「凛じゃないんですか?」
「リンはここにいるぞ?」
遥夢の言葉に正規が返す。
「いえ。そうじゃなくて。磯崎凛ですよ。」
「ああ。リン坊か。」
涼子は一応混神とは幼稚園の年代から付き合いのある幼馴染であるが、彼にはもう一人幼馴染がいる。
だが彼が涼子と結婚したのを機にもう一つ家を建てたのを境に付き合いが少なくなってきている。
そのおさ馴染みというのが磯崎凛というわけである。
「マスターとは一体。」
「幼馴染でお前の名前の由来。」
ほんの少しだけ口をあけた状態で混神を見つめるリン。
「…リン坊?」
混神がいきなり大声で叫ぶ。そして大慌てで、涼子がドつくがすでに遅く、凛が彼らに気付き、固まっていた。
三十分後休憩時間になった様子の凛が彼らの席にやってきた。
「ひさしぶりだねぇ。」
「だな~。」
「あれぇ、ヤミ君、浮気はだめだよぅ。」
それを聞いてラムネを飲んでいた混神がせき込む。
「…浮気じゃない。19番目の妹。」
「冗談だよぅ。お隣同士だから知ってるもん。冗談だよう。」
さらにリン以外がせき込む。
「えぁ?」
涼子が問うと、
「あのねぇ、これは、親せきの手伝いなの。で、今は、ヤミ君ちの隣に住んでるんだよぅ。」
「なーるって、エェ!まじかい。きづかなんだ。」
「まあね。でさ、よく、君んちに、なんか沈んだ感じの人よく来るけど何なの?」
確かに混神の家には沈んだ顔の人々がよく訪ねてくる。
さて質問された混神だが、だんまりを決め込んでいる。と思いきやいきなり涼子が混神に抱きついた。
よく見ると混神の体が小刻みに震えている。
「なあ、リン坊、放送器具貸してくれ。」
「私の権限じゃあ貸せないんだ。ごめんねぇ。」
そう、凛が言うと涼子が、
「ならこの海水浴場にいる人たちに何らかの障害を負わせてもいいっていうわけね。」
という。遥夢たちは事の重大性を悟ったようだ。
さらに涼子はこう続ける。
「混神が震えていて、僕がこうして抱きついているという事はかなり強い何かが近くにいる。
もしくは彼が視認したということなの。それで、…たぶん…。逃げ
たほうがいいよ。」
この言葉の最後の部分に疑問を感じた凛が、問い返そうとするが、いきなり遥夢が放送を行い、砂浜はパニックに。結局波にのまれた凛は、そのまま安全なとこ
ろまで運ばれてしまった。
「混神、LTRから上りの通常編成が1本軌道をはずれたとの連絡が入りました。」
遥夢が悲鳴に近い声を上げる。というのもこの通常編成(通常編成は、ルナハ線、通常編成の略称)にはこのとき20000人近い人数の乗客がいたためだ。
「だから震えてたの?」
「たぶんね。」
「…見えました。軌道面からの離脱度1.48°、現在速度145Gm/m(ギガメートル)(=24,166,666km/h)、あと600.70秒で
海面
に衝突します。」
「約10分か。APSとHAPSは?」
「機能停止、MPも姿勢制御程度しか機能しないそうです。」
すでに混神は震えるのをやめ、リンからの報告を受けつつ考えている。
「離脱原因はわかるか?」
混神がリンに問う。
「わかりません。」
「そうか。まあとにかくあと9分半のうちにとにかく港湾線に入れて後は機関車で牽引すればいいから、港湾線に入れる手はずを考えなくちゃな。」
港
湾線は、藍蒼の北辺と港湾地区を通り、大陸の曲がり目(ベイリア大陸は南緯60°のあたりで90度折れ曲がっている。)まで伸びる路線である。
この路線は
神宮総合駅を発着する路線の中でも電圧が最も低い部類に入る。
特別特急線は、世界中探してもほかにない高電圧のため、港湾線に入ると、浮上しかできない。
そのため前2重連、後3重連の機関車(高速性の追求のため車両が軽くなっており、前から引くだけだとスピードが出すぎてしまう。
その
ためにブレーキ用に後
ろにもつける。)でないと動かせない。
「重力制御と空間歪曲が必要ですね。」
その時混神に電話がかかる。
「しもしもしもし?」
『バカやってる場合か。助けてくれ。』
電話の主が大声で怒鳴る。その向こうではパニックが起きているようだがのんきにお茶をすする音も聞こえる。
「…報酬は?」
『…だ~…神楽のポニーテール。」
「おけ~。で、敏明どした?」
電話をかけてきたのは、混神の友人で今は神社の神主をしている、神島敏明である。
『俺たちが乗ってる列車がなんかおかしいんだ。』
「いま何に乗ってる?」
『ルナハだ。ルナハ4523号。』
「リン、軌道をはずれたのは?」
「LSN.LTR特別特急ルナハ線、一般編成、上り4523号神宮総合止まりです。」
「よし。おい敏明、おまえ国際鉄道車両運転資格持ってるよな。お前が運転しろ。うちが指示する。」
この言葉を聞いた敏明は驚いたが混神が指示をするというのでうなずいた。
「さて、港湾線に入れる準備だな。」
しかしリンがこう訂正する。
「港湾新線です。電圧が合ってますから、南藍蒼駅で港湾線に入れればいいんです。」
そして、
「どうする?」
のんきに、ラムネのビンを片手に、涼子に尋ねる混神。
「うーん。空間を捻じ曲げるなら…。」
そういう涼子を見つめていた混神だがいきなり、
「おい。それ貸せ。」
そういうと涼子が持っていた木の棒、もとい、仕込杖をリンの視線の先へ向けて思いきり投擲する。
「なにするの!」
抗議する涼子だが、
「リン、構築開始。」
と、無視されてしまった。
一同がリンに注目していると、銀色のリンの髪の色が真ん中だけ金色になっていく。
そして次の瞬間、海に灰色の支柱がそびえ、その上を同じく灰色の橋げたが
砂浜をまたいで道路と高架線の向こうへ続く。
「涼子の刀を基体として構築したんだ。」
『おい、いきなり安定したぞ?』
敏明である。
「臨時の軌道を構築した。そのままブレーキをゆっくりと掛け続けていてくれ。…いや。A.Iは機能しているか?」
混神が尋ねると、
『いや、機能していないみたいだ。』
「そうか。ブレーキは?」
『一応効く。』
その答えに、
「なら大気圏に差し掛かったら、合図するから加速してくれ。それで高度が5000を切ったら急減しろ。」
『わかった。いま、ケーブルをつなぐから、そっちで詳しく調べてくれ。』
そして、敏明からデータが送られてきた瞬間だった。
「敏明、MEBを起動しろ。」
『M…何だ?』
混神がどなり、敏明は困る。
「Manual Emergency Brakeだよ。このままじゃ港湾新線はおろか、港湾線にすら入線できない。A.Iが完全に死んでる。」
その言葉にその場の空気が凍り付く。
「くそ。どうすれば…。」
正規、なぜおまえが悔しがる?
「ルナハ、コンピュータ。…ねえ、混神、確か、コイルシスターズの中にルナハのコンピュータに生身でアクセスできる娘がいたよね?」
その涼子の言葉にはじかれたような反応を見せる混神。
「おお~。ないすあいでぃあ~。それなら、コニロム・ルナハ、レイス・オン!」
すると混神の影から一人の女性が飛び出す。
「ロム、敏明のサポートを頼む。」
「かしこまりました。」
そう言ってロムが消える。
敏明は彼女のことは知っているため、よこした理由もわかったようで何も言ってこない。
「大気圏まであと10秒。8,7,6,5秒前3,2,1今です。」
「聞こえたな。」
『あ…あ…。』
「当該編成、大気圏に無事、突入しました。間もなく実設軌道に乗ります。…入りました。
ブレーキシステム良好。南藍蒼海水浴場前駅に、停車するように連絡
しました。」
その言葉の後、港湾新線に入っていく、一般編成の姿を見ることができた。
LTR藍蒼港湾線、藍蒼港湾新線 南藍蒼海水浴場駅7番線
乗客たちに、胴上げされている敏明にいつもの服に着替えた、遥夢たちが近づく。
「よくやったな。」
「おめでとうございます。」
遥夢と、正規がねぎらいの言葉をかけるが、混神とリンは高さは違えど同じ一点をにらんでいる。
「来た。」
そう混神が言う。全員がその方向に視線を向けるが何もない。
「何も来てないじゃないか。」
「ロム、もう少し頼む。もうポイントは切り替わってるはずだから、南藍蒼の港湾線ホームには惰性で入れ。」
乗客の一人が抗議するが混神は無視する。
敏明と神楽以外の乗客が乗り込み、出発した列車を見送り、駅の改札口から出てきた、一同をラムネのビンをもった凛が、笑顔で迎える。
今夜はバーベキューで大騒ぎだ。
「それにしてもとんだ海水浴だったな。」