L.C第29章 ~といえるもの
藍蒼市港湾区 藍蒼宇宙港
「待たせたな。」
混神が正規に声をかける。
「おせーぞ…。おいやめたほうがいいぞ。死人が出る。」
正規が混神の顔を見てこういうと。
「仕方ねーだろ。眼鏡壊れちまったんだから。」
混神は、目つきがあまりにもきつすぎるということで、メガネをかけている。
が、今はその伊達メガネをかけておらず、素の視線が、もろにそこに居る、遥夢
と、正規に突き刺さっているわけだ。
ルーラ行き高速客船ホール
「みんなげっんっきかな~?」
鼻歌交じりで遥夢が浮かれている。
「神政大臣以外はデータでしか知らないんだがどんな人物なんだ?」
混神が涼子に問う。
「そ
の顔でこっち向かないで。…。まあ、混神はラウス達と入れ替わりで戻ってきたんだもんね。
まあ、アクアは、ラウスより礼儀正しいかな。いや。うーんと。リ
ンとラウスを足して二で割った感じ?で、ラオスは、ラウスの男版。
まあ兄弟だから当たり前か。アースは、リンのすぐ下に位置する炎神だから、かなり熱いら
しいよ。
でも普段はそれほどでもないんだって。で、アクアのこととなると熱いんだって。」
涼子の説明を聞いても納得できない様子の混神。
「ルーラに着いたら、州庁に行く前に、ONCに行きますので。」
遥夢の言葉に正規が疑問を覚えた様子で質問すると、
「オーラルネットワークセンターの頭文字でONCだよ。サイバーネットの普及率は国内第二位だからな。都見飛州は。」
その時アナウンスが入る。
『本日は、藍蒼発、ルーラ行き高速客船アルカディアに、御搭乗くださいまして、誠にありがとうございます。
当船は間もなく、国境を通過いたします。これに
伴い再度旅券の確認を行わせて頂きます。
お手元にパスポートをご用意の上お待ちください。」
もちろん5人には関係ない。
ルーラ国際宇宙港に到着し、ルーラONCに入った一同。
州全体が飛び地という位置関係からか、辺境といわれることの多い、このルーラにあるとは思えないほ
どの規模に驚く涼子と正規。
「あ
れが、アニマルリフレッシュカウンター。
さまざまな動物に関するトラブルを、専門のスタッフが解決してくれる。
で、真ん中が、ワールドトレード
カウンター。最後に一番右が、ニューススピーダー。最新のニュースが十分おきに更新される。
これが1階の主な設備。これはどこのONCでも一緒。でも二階
以上が違う。それからこのONCは別名OACCともいわれるんだ。」
「OACC?」
「オーラルアニマルコミュニケーションセンター。あのカウンターが主な理由。」
二人の会話には、耳を貸さずに、下にあるロビーを、見つめる遥夢。
「遅いですねえ。」
「主上、誠に申し上げにくいのですが、神政大臣と都見飛州州首がアナフィラキシーで入院したとか。」
リンが苦笑した感じの口調で遥夢に話しかける。
「タコですか?」
「はい。」
そこまで話すと遥夢が考え込む。
「ですが、彼女たちは、そう簡単にはタコを食べないはずです。彼女たちにとってはかなりの毒にあたりますから。」
「盛られたと考えるのが普通でしょうね。」
リンの言葉に、正規が首をかしげる。
「で、どこに入院してるんですか?」
「ここの…1767万230階です。」
州庁より、巨大なビルである、ONCであるが、その3分の2は動物が関係した、疾患などに対応するための病院である。
ラウスの横たわる部屋とガラスで隔てられた部屋に通された遥夢たち。
ラウスは、人工呼吸器をつけられたうえに、体のあらゆる位置に、ケーブルがつながれている。
リンが遥夢に耳打ちをする。
「……ベストロイドトキシンが、効かない!?」
ベストロイドトキシンとは、ベストイラーニャと呼ばれる、後天性疾患を引き起こす病原体を、ある条件下で培養した時に得られる、有用毒である。
有用毒とはボトックス治療における、ボツリヌストキシン(ボツリヌス毒素)など、体に何らかの有益な効果を与える毒のことである。
この有用毒である、ベストロイドトキシンには、閉傷、殺菌、破毒効果がある。
「はい。」
遥夢の言葉にリンが答える。
「そういえばあの薬飲んでるか?ラウさんは。」
「…はい。」
「なら仕方がない。」
その言葉に遥夢が反応し、混神に食いつく。
「仕方がないってどういう意味ですか。」
「言
葉どおりです。
リンの血はベストロイドトキシンを含むすべての毒物を分解してしまう酵素を含んでいますし、おまけに、リンの髪の毛にはベストロイドトキシ
ンそのものに結合し、無効化してしまう成分が含まれています。
彼女がベストロイドトキシンを服用しても効果が得られないのはそういうことなんです。
それ
と、あの薬はベストロイドトキシンを服用した後だと、先ほど申し上げた成分が、発行する前に、逆に、分解されるので効果がありません。」
「マスターの補足として、進言いたしますが、もう一度ベストロイドトキシンを投与してください。大丈夫です。今回は効きます。」
その言葉に、遥夢がうなずき腕を動かすと、ラウスの肘のあたりに差し込まれた、管を、黒い液体が流れていく。ふと、正規が、混神に、こう尋ねた。
「リンは何でいつもベストロイドトキシンが、効かないんだ?」
「それに関しては別室で。」
混神がそう言って、二人は別の部屋に移動する。興味を持った涼子がついてくる。
「リンにベストロイドトキシンをはじめとするあらゆる毒物が効かないのはその血に秘密がある。
リンは、本来、全知全能の女神と成りうるべき存在だ。だが、なぜなれなかったか。
それを説明する前に、リンが本来どういう存在なのかを教えなければならな
い。
リ
ンはその昔ある人物とともに、すべての世界のもととなる世界空間、天神界を創り上げた。
このとき、主上が共に創造を行っている。このときのリンは姉だ。
で、主上が妹。
そして、世界を創り終えると、二人は眠りについた。そしてある時、リンだけが目覚め、時の天主との間に二人の子をもうけた。
そのうち、一人は
私だ。」
最後の混神の言葉に驚く二人。
「つ、つつつ、つまり、おまえは、世界を創った者の子供で、俺は?」
「その後、リンはまた
眠りについた。自分にそっくりな女を仕立てて。その女は、幼かった私と兄に、自分が母親だと刷り込ませた。
だがもともと、母の血が薄い兄と違い、私は、そ
の女には絶対に懐かなかった。その後二人が目覚め、おまえとともに私の妹として生まれてきた時は嬉しかった。真の母に会えたのだから。」
「でもその時に、神仙大戦が勃発してリンは、戦とは関係のない大工の神のもとに預けられたんだ。で私やアルとであった。」
混神の言葉を涼子が補足する。
「なるほど。で?」
「つまり、リンの血は、生命そのものであるというわけだ。リンにはあらゆる薬も毒も病原体も聞かない。
体内を流れる生命の純度があまりにも高すぎるせい
だ。あの薬の50%はリンの血でできている。だから赤い。」
あの薬というのは、リンの髪と、爪と、コイルシスターズ全員の血と、涙と、汗と、唾液と、遥夢の血を混ぜ世界樹の、
樹液と蒼天江の水を混ぜた液に混ぜて
1000年間発酵させたものを粉末化して固めたものである。
「なるほどな。」
「マスター、神政相の容体が急変しました。」
「りん、冷静に来るのだけはやめて。」
「悪化?それとも快方?」
「私には判断いたしかねます。」
そう言って、リンが部屋を出ていく。そのあと3人が部屋に戻ると、意識がない状態だったのが、大変な勢いで暴れている。
「……これは何の効果でも無いぞ。リア、ディメンションチェンジャーの検索してくれ。」
その言葉に対して返された結果を見ていた混神は、顔を曇らせる。
「あらら。これはやばいな。内部エネルギー均衡が崩れてきているぞ。」
「…つまり、体内のエネルギー均衡が崩れてきてるから、苦しくて暴れてるの?」
「まあね。でも、本人にはきついけど、快方なんだよ。」
「?」
「低い値で安定していたものが、突如として、元値に戻ろうとするから、均衡が崩れるんだ。
まあ意識が戻ったみたいだからあと二時間もすれば回復するよ。
ん?」
混神がなにやら操作を行いふっと笑みをこぼす。
「明日、二階のあの場所でもう一度待ち合わせだ。」
翌日9時
L-ONC二階、観光ラウンジ
「昨日は…。」
ラウスが、遥夢の前で頭を下げる。遥夢はため息をつき混神と涼子は下を見て話している。
さ
てこのルーラには、現在の高度情報化社会にはどうしても欠かせない官庁が存在する。
ほとんどの国家に存在するため、総じて、時空管制関係官庁と呼ばれ、王
国の場合は、時空管制省、略して、時管省という。
この時管省は国家官庁の中で唯一、このマーライヤーナ州に存在している。
他の官庁は、藍蒼州に集中してい
るが首都惑星たる、ルネスティアラにあるのは、宮内省と、国交総省、神政省そして、司法省だけだ。
保安省はカルティナに存在している。(もう一つあるが、
思い出せない。)
とあるビルの前にやってきた一同。そこには、
『蒼藍星間連邦王国 北官庁 時空管制省 本庁 マーライヤーナ州州庁』
と書かれている。
マー
ライヤーナ州庁の上に時管省がある。その、時管省の電脳空間管理局電脳空間保安部特務電脳空間保全保安課、
簡単にいえばサイバーキーパーを監督する部署の
中にある、サイバーキーパーの中でも高位に位置する者たちが集まる部署である。
その課長席の前にリンと混神と涼子がいた。他の者は州庁である。
「最近見ないと思ったら、ここだったか。審。」
「は
い。大学出た後はしばらく大学院にいたんですが、藩長にここに入らないかといわれて入った次の年に、
オーラルキーパーの下に州が新設されて、おれも昇格し
て、この課に配属になって、で81年前に課長になりました。
それ以来、昇進を断り続けているんです。この課のどことなくまとまりのある、こう、和気あいあ
いとした雰囲気が好きですから、皆も好きなんだと思います。
それにおれが配属されてから、今までにこの課を出て行ったのは出世欲の塊のような、男が一人で
すね。今は、局長クラスだと思いますね。」
「その男の名は?」
審の言葉にリンが反応する。
「サ…サ…サイバル・エイドラ…何だったかな?」
「サイヴェル・フェスデゥラ・レイバルスですか?」
「そうです。」
「その男なら、局次長への陰湿ないやがらせが原因で、ものすごい辺境の星の事務所に左遷されました。
70年前に。さらに15年前にはそれよりも小さいとこ
ろに左遷です。」
それを聞いた、審が大笑いし、さらに課内の全員が大笑いする。
「本題に入る。もう、凛自体のデータ強度が危なくなってきているからな、もう、人化するしか方法が残されていないんだ。」
「人化?まさか、独立駆動体なしでの現実化を行うというわけか?でも、あれは…。」
今まで、人化に成功したのは前界における、コイルシスターズのみである。
「このデータプレートを入れて、外部コネクションケーブルをつないどけ。」
そう言って、混神が、自分のV.C.Pを机に置くとリンや涼子、それに、ちょうど入ってきた、遥夢や正規も自分の端末を置く。
「どういうことですか?」
「人化するとき、ものすごいCPU負荷がかかるうえにGPU負荷もすごいからな。何台ものV.C.Pを連結して運用する必要があるわけだ。」
「覚悟はできていますか?」
「覚悟?」
リンの言葉に疑問を持つ審。
「いちばん深い位置にある、臓器から、つまり、循環器系、泌尿器系、生殖系、消化器系、免疫系、脳神経系が構築されて、血管網が構築され、
骨格、筋肉、皮
膚と髪の毛、最後に服が構築されるというわけ。」
「つまり一番グロテスクなところからというわけですか。」
そう言ってる間にすでに皮膚までの構築が完了していたがそれ以降が一向に進まない。
「完成形であるこの状態を表示しておいて、構築をするというわけ。」
混神がそう説明する。するといきなり服の構築が始まる。
凛の構築が終わると彼女は静かに目をあけた。そして、主人である、審に対し深々と会釈した。
翌年
「結婚式?」
「誰が?」
「…西北さまです。」
審は西北審(いりきたしん)という。前年に、元A.Iの、凛と付き合い始め、この日から数えて、2日後の午後に結婚式を行うということらしい。
というわけで、2日後の13:40
『新郎の上司である、御山様、お願いいたします。』
視界のその言葉にむせる混神と涼子。
『御山様、御山リン様?』
この呼びかけにもう、盛大にむせる混神。
まあ、話の本筋からそれるのでね。cyber.net第3サーバーでその詳細を。
10
年後、コイルハウスを、凛が尋ねた。その後ろには一人の女の子がいた。それを見た混神が、ピュアみたいだと言った。
ピュアは、リンの姉だが、かなり人見知
りする性格のようで、姉妹の中でも、妹である、リンにしか心を開いていない。
しかも外出するときは必ずリンの後ろにしがみついて、絶対に前には出ない。つ
まり今のような感じになるのだ。
「凛坊、この子誰?」
「あれ言ってなかった?9年前に結婚したって。これは娘。今4歳」
その言葉にしばしその場で固まる混神と涼子。
「あ、あれ?ちょっと待ってね。……ああっ。アドレス違ってる。」
「なら仕方ないか。お嬢さん、名前は?」
混神は子供が嫌いだが、扱いには慣れている。というのも、遥夢の子供を扱っていたから。
「あ…あ…。」
「純。ヤミが、私の名前から妹さんの名前付けたんだから、私もっていうことでね、直訳すると純粋になるんだよね?」
「誰のこと?」
凛のことばに後ろに控える、リンに尋ねる混神。
「ピュア・キャトリウス・ピューマリオン。ピュアは純粋と訳せるのでは?」
とリンが返すと、やっと、合点がいった様子で、
「あ~。…でもよ、この名前付けたからこの子がこうなったとは言わんでくれ。うちらの責任じゃないからさ。」
「わかってるよ。」
「よし。ほな上がってくれ。大したもてなしもできんが。」
「おk。」