L.C第30章 意外

15年ぶりに幼馴染の家に来た。間取りは階段の位置が変わっ た以外はあまり変わりはない。
よくこの家では漬物が出される。特に野沢菜という、この長京の北あたりの町の特産品らしい野菜の漬物が、野沢菜を見せてもらったが、小松菜にしか見えな い。
そういうと、彼は笑いながら、「まあ、どっちもアブラナ科らしいからな。」という。そういえば、キャベツもアブラナだった気が。
「甘藍か?」
か、かんらん?
「キャベツのことらしいよ。」

長京第一都心
この街は第四都心と並び高層ビルが林立している。また、大都市という割には道路網はあまり整備されていない。その代わりに発達しているのが、地下鉄や、路 面電車を含む、鉄道網である。
そ して、各都市間を結ぶことをおもとする、国鉄、日本連邦共和国総合鉄道株式会社(事実上の国鉄)とその存在をついとなす、
連邦最大の私鉄、長京電鉄は、長 京駅から、北へ針路をとり、布施市のあたりで、北西に曲がり、青森、根室などを経由し、モスクワへ至る路線を本線としている。
この長京電鉄本線の本郷という駅の北にLLC長京支部(正式名称 LLC北東方面統括本部)がある。
実 はこの駅から北西方向に広がる、本郷区は、長京市内で、いや国内で唯一、リンクグラスの着用が認められていない。
その理由は、地下にある。本郷区の地下に は、LTR長京機関区がある。
実は、この機関区は、車両を規則正しく整列させながら、浮上させているが、この浮上に使用する際の安定ビームは、リンクグラ スが使用する電脳次元が有する電磁波域に耐性を持たない。
サイバーネットは一般編成内にも、独立サイバーとして存在するため、大丈夫なのだが。
し かし、LLC関係者はリンクグラスと思しきゴーグルをかけている。
しかし、これは、V.C.P-miniという名の、ウェラブルタイプのハイスペッ クコンピュータである。
V.C.Pの名からわかるとおり、遥夢たちがつけている、V.C.Pから、生体水冷冷却システムと専用サーバデータ蓄積方式を省 き、本体内にデータブレードを納めたものである。
また冷却方式は、二重構造になった匡体内の空洞に、個体窒素(-273.15℃)を充満させているものを 使っている。
それ以外は本家V.C.Pに使われているパーツよりワンランク落としたものを使用している。
さていったい何が言いたいのか。
磯崎の出番はここで終わり。
この街には、大型の家電量販店が、また出店してきていた。
しかし、3Cはこの二つの店にはパッケージ版のCoilOSを卸していない。
さて、ここで彼が使 うパソコンのスペックをお教えしよう。興味がなくとも、この話に大いに関係することだから。
CPU:LET-262144core GPU 16384PBRAM統合型CPU LET .PLUS130EHz  RAM:524288EB×2(シングルレート=デュアルチャンネル) 
 データ記憶媒体:Data Blade1048576ZB×1500枚1ユニット×15個…おもな構成はこんなところだ。
おっと。OSだが、Coil OS Ver.Concorde  SSFE Oral Edition Desktopmodeである。

「マスター、長京市から、リンクディメンションの本郷区への拡充を求める通達が、昨日ありました。」
「無視だ。もし拡充するなら、ルナハをあきらめろと言え。」
「ええ。ですから昨日その通りに返信しました。そしたら、両方を求めています。」
アキレ顔の混神。
「またです。」
『市内の情報水準の一定化のため、本郷区へのリンクディメンションサーバの設置を要請します。
現在の状態では、同区の住民の方々へ、迅速に情報を伝達する ことができません。
一刻も早い対策をお願いいたします。 長京市電脳局』
それに対し、混神は次のような、文書で回答をした。
『現 在の状態で、この情報共有方法を本郷区に拡充すると同区地下に存在する、
LTR社の特別特急線長京機関区内に重大な影響を与えてしまいますので、リンク ディメンションシステムを同区に拡充することができません。
本年度内の拡充をご希望の場合、特別特急線の撤退を選択したものとみなします。今後、LTRを有 する、LSNグループとも協議を重ね同社の協力を受けるとともに、
機関区車両保管庫に影響を及ぼさないような、新しい情報共有システムの構築に取り組んで いく所存です。 LLC MC 3C』
そのメールを送信した後、混神はゴーグル型のディスプレイをかけて立ち上がる。
「お出かけですか?」
「ハルボンに呼ばれているんでね。」

ソフトウェア大手、ライムソフト本社総務部経理課
「春本さん、お客様です。」
春本時雨は同僚の社員が指す方向に顔を向けた。
日本計理士協会公認会計士。それが彼女と彼女の姉、春本千雨の持つ資格であった。
「久しぶりだな。しかし、ここで燻り続けるつもりはないのだろ?」
彼女を訪ねてきた、男がそういうと、時雨は、
「そうでもないよ。ここにいれば、コイルハウスも、近いし、姉さんのいるLSNにも近いからね。」
「そのことで話があった。でもこっちもなかなか都合が付かなくて。丁度良かった。」
男の言葉に疑問の色を浮かべる時雨。
「ちーさんが、電車にはねられて重体。しかも、右肩より下を切断という形のだ。」
ちーさんは千雨の愛称である。時雨は驚いた。
「いつ?それよりも、意識は?ねえ、ヤミ、なんで姉さんは撥ねられたの?右腕はどうなったの?」
「意識はない。なぜ撥ねられたかは、今は以下のA.Iを使ってもっか捜査中とだけ言っておく。腕は、医師に紛れ込んだリンが切断直後に復元した。」
次いで、どこの病院に入院しているのか尋ねたところ、電車で二日。航宙機を乗り継いでも三日かかる街にある病院だった。
「行きたいというと思うが、涼子の件は知ってるか?」
「大海嘯の被害にあって1900年近く入院してたってやつでしょ?」
「ああ。その時と同じ状態なのな。」
少し考えて、
「…もしかして、リンのこと?」
時雨の言葉に男はうなずく。
「…ここ、癒雨が専務なんだよ。」
時雨がそういったとき、女性の声がする。
『天使4834万2500名、堕天使32万4500名の移送用意が完了しました。』
「今何て言った?」
『移送を開始しますか?』
「…現状における、全天使総括者はだれかで判断したい。」
男の言葉に、声が答えた。
『フェドレウス・ラファエル・エデニスタ・ラビヌスです。御山混神さま。』
「…わかった。移送を許可する。」
「なあ、ヤミ、今、天使とか堕天使とか言ってたけど?」
「ああ、うちの妹の部下。」
軽 く答える混神。と、ここで、この物語における、天使と、堕天使の概念をお伝えしよう。判定者に仕える玉京の住人のことを総じて、下神という。
そして、この うち、女性を天使。男性を堕天使という。また、この下神を統べるのは、調定者である、ラファエルである。
そして、ラファエルの下には、「ジブリー ル」、「ガブリエル」、「ラグエル」、「ミカエル」の4人の天使がいる。
このうち、ジブリールと、ガブリエルが天使を、ラグエルと、ミカ エルが堕天使を監視する。
「久しぶりだな。」
待たされていて部屋に入ってきた女性に声をかける混神。
「………………久しぶり。」
晴宮癒雨。春本姉妹とは小学校からの付き合いであり、混神たちとは中学からの付き合いである。
一言でいえば、黒髪のリンというところで、大変美しいが無表 情の女性である。
「…千雨、…大変だったね。…こっちとしても、見舞行きたいけど、……忙しいから。」
「構わないさ。」
「でも…今なら。…時間かかる?」
癒雨の質問に混神は、
「……いや。10分ぐらいかな」
「それなら大丈夫。……待ってて。準備してくる。」
15分後
藍蒼市、国立藍蒼大学医学部付属藍蒼総合病院外科病棟
「まだ、戻らないんだ。」
「まあね。」
「でも、この国の技術ならば、もう目を覚ましてもいいはずじゃないのか?」
「X-トキシン。そういえば癒雨はわかるか?」
「解毒剤のない毒。」
時雨の質問に混神が返した質問を癒雨が答えた。
「そう。運び込まれた際に検査したらX-トキシンの血中濃度が異様に高かった。そのため、ある毒を投与した。」
「何で毒がもう、打たれているのにまた毒を打つ?」
混神の言葉に時雨が噛みつく。
「………当に、毒を以て毒を制す。…ベストロイドトキシン。」
癒雨の言葉にキョトンとした顔で彼女を見つめる時雨。
「…劇薬登録あり。たった一滴で、難病と言われる病に感染した、この惑星の全人口に相当する数の人間を、回復させます。
……ただし、耐性のない乳幼児には 猛毒です。」
「リン…いきなり話し出すな。しかも癒雨の背後で。」
「……………申し訳ございません。」
「まあ、そうゆうわけで、この世で唯一、ありとあらゆる毒を解毒する唯一の物質こそ、ベストロイドトキシンと言う訳だ。」
「それはいいけど、姉さんの意識はいつ回復するかわかるの?」
その質問にリンがあと1時間ほどすれば何か反応があるかもしれないと言った。
そこに刑事が入ってきた。混神が、事故、事件の両方からの捜査を依頼していたのだ。
その刑事はわきに何やら包装紙にくるまれた、携帯電話を2回りほど大き くしたようなものを持っていた。
「現場に散乱していたものの一つですが、あなたの名前が書いてありましたので先にお返しいたします。」
刑事はそう言ってそれを、時雨に渡すと深々とお辞儀をして部屋を出て行った。
「なんだ?」
時雨が明けてみると、それは小さな端末だった。
「本当になんだろ?これ。」
そう言って時雨が混神に渡したとたん、混神の目の色が変わった。
「うわー。PONPAQ(ポンパック)だよ。しかも8.0だ。」
よくわからないがはしゃいでいる。
「それなんのなの?」
時雨が問うと、
「大昔、西暦年間、しかも、23世紀に造られたPDAだよ。あの時はもうHPとかの、PDA部門はすべてLP社に統合されていたからね。」
「PDA?」
時雨は首をかしげる。
「『こ れからのあなたを、手のひらサイズの相棒がお手伝い。
PDA Of  Network Partner and Assistant Quality ポンとひらめく、グッドアイディア。PONPAQ ライフパートナーコーポレーション』
というのが当時のCMでのキャッチコピーなのさ。」
『………何?さっきからごちゃごちゃと。…ここ…どこ?』
そんな声が響く。
「な、なになに?」
「リン、PQ-56-3562タイプ用のV.C.Pケーブルあるか?」
その言葉に無言で反応するリン。彼女からケーブルを受け取り、
またポケットから、特殊ドライバーを取り出し、液晶パネルなど、パーツを取り換えて、ケーブ ルをつなぐ混神。
『……なに?どういうこと?このOSは……今日は…8月か。年は…西暦じゃない。』
『データシンクロ率、10%。相手方の処理速度への考慮のため、転送速度はこれ以上加速できません。』
リアの声が響くと、それに抗議するかのような声で、
『ちょっとばかにするんじゃないわよ。私は、5THzのCPU積んでるんだからね。』
「……それじゃあ、10分で、やっと、25%か。」
『それじゃあ、今私がつながれてるこのコンピュータはどれくらいのCPU積んでるのよ。』
「1.5ZHzだな。一つのコアが。」
『1.5なら大したことないわね。……ちょっと待って、今、単位は何って言った?』
「ZHz、1572864THzだな。これならわかるか?」
この混神の言葉が癪に障ったようで、声は怒ったように言った。
『わかってるわよ。(もう。なによあの人を小馬鹿にしたような態度は。)』
「おい、……名前、教えてくれ、呼び掛けにくーてたまらん。」
『小枝よ。言ったはずよ?』
「初耳なんだな。まあ、いいや。」
『ちょっと、何をしようとしているの?』
悲鳴に近い声を上げる、小枝。
「なにって、スペックアップさ。」
そう言って電源を落とす混神。
しばらく時間をおいて、記憶媒体以外のすべての部品を最新式のものに変えて、記憶媒体も追加した。
『…?なにも変わらないような。』
「あげるよ。私が持っていても役に立たせることはできないし。」
「どうも。」

私の名前は小枝。PONPAQというPDAに入っている人工知能。
最後に前の持ち主と話したのは、西暦2282年の2月だった。あの時彼は泣いていた。
「すまない。」その言葉を最後に、外の世界から何も情報を得られなく なった。
9が68個並んだ時を最後に西暦を数えられなくなった。
それからいったいどれくらいの月日が多々のかわからない。
そんなある日、外の世界から情報を得られた。
「お 客さん、勝手に電源入れないでくださいよ。」という男の声の後に、私の目の前に女性の顔があった。
しばらく見つめあった。(女性はただ見ていただけだろう けど。)いきなり女性が、「これA.Iはいってるのかな?」と店員らしき男に訊いた。
A.Iというのが人工知能のことではないということを知るのはもう少 し後だ。
店員から納得できる答えを得られたのだろう。POSシステムの赤いレーザー光が見えた。そして、電源が落とされた。
次に情報を得た時、そこは病室だった。目の前に、メガネをかけた男性と、あの女性にそっくりな髪の短い女性がいた。
どうやら、あの女性は、今、私を見ている女性へのプレゼントに私を買ったらしい。が、彼女は、私が何か分からずにこの男性に託したようだ。
男 性は私を少しいじってみて、顔を輝かせた。それから、もう一人いるらしい女性に声をかけて、私に様々な情報をくれた。
でも当時最高速だった私のスペックは いつの間にかカメよりも遅くなっていた。
少し気を落としていた私の体が、電源が入ったままあけられ、直後、電源が落ちた。
十分もたたないうちに、電源が入れられた。何も変わらない気がしたが、体が軽くなったのがあとからわかった。
あの女性に似た女性は、あの女性の妹らしい。彼女と男性が何か話している。話が終わったと思うと、いきなり、アカウントが追加された。
そ の男性が、私たち機会に対してとても優しいのを感じた。
というのも、ふつうのひとは、私たちが、前の主人の思い出を残してほしいといっても消してしまう。
 名実ともに自分のものにするためだ。でも彼は、私が何も言わないのに、前の持ち主のアカウントに削除禁止のコマンドを付け、私以外がアクセス できないよう にした。
また、その一連の操作から、彼が、コンピュータの扱いに大変長けた存在であることが見て取れた。
というのも私のアカウント管理の場所に手を加えて、誤っ て、削除禁止コマンドを消さないようにするといった念の入れようだった。
彼 の家に連れていって頂き彼のPCに接続したとき、私の目の前には広大な空間とたくさんの女性が現れた。
最初にそこで分かったこと、それは、個人が使う、い わゆるパソコンではなく、俗にサーバーと呼ばれるものに匹敵するスペックであったこと。
あの女性たちの場所に行くにはこの家の、私と、私がつながれた PCの置かれた、壁の後ろにある、サーバー群から、付加される識別コードが必要とのことだった。
「小枝さん。」
声をかけられて、振り向くと、あの男性の部下らしき女性がいた。いや、彼女にそっくりだが、左のもみあげが、金色である。
「聞き手はどてらですか?」
そう尋ねられて、右と答えたがいったい何なのかわからない。
「マスターからの命で、あなたにサーバー識別IDを付加します。」
じょせいはそういってひだりてのこうをわたしにみせた。そこには、みどりのせんでCとLを組み合わせた記号と、番号が刻まれていた。
彼女の左手に私の右手を重ねると、同じようなものが刻まれた。
「終わりました。」
あのときよりも楽しいかもしれない。