L.C第32章 憂鬱な電脳世界

この世界には、 民を統べる、王たるものが、3人いるといわれている。
一人は西の古国、フローレンス王国王女フローラ。
二人目は、中央より西に位置する強国ラルト王国国王リュイ。
そして、三人目が、中央の巨大国家蒼藍星間連邦王国国主国王遥夢である。
この三人は同盟関係にあり、どれか一つの国で問題が起これば、即座に残りの国が、応援に駆け付けるのだ。

蒼藍王国首都
蒼天宮
「支配という言葉が嫌いだから統治者と名乗っていますが、実質的には、どちらも同じ意味なんですよね。」
遥夢がぼやく。
「…主上を統治者、リンを支配者と考えると分かりやすいけどな。」
混神の言葉に、遥夢の後ろの本棚で、本を漁っていたリンが、鮮やかな銀色のポニーテールを揺らしながら、振り向く。
「…一応裁き担当ですからね。」
混神と向かい合い、あごに手を当て考え込んでいるのは、将棋の次の手を考える正規である。
だが実際に彼の相手をしているのは、剣の手入れに余念がない涼子である。
「そういえば、さっき、フローレンスから、国際平定要請が届きました。なんでも、隣国の首相からの依頼だそうですが、フローレンスは自衛用程度の兵力しか ありませんので。」
混神の言葉を聞いた一同が、各々部屋を飛び出す。
蒼藍王国には、その強大な軍事力のために自国の軍事力では、対処できない問題の解決を頼み込む国家が多く使者を使わす。
今回のように、王国の同盟国に依頼するということも珍しくない。
フローレンス王国王宮
父親である国王が、執政として長女を立て、その130年後に原因不明の死を遂げた。そして、長女は、王位継承戴冠を拒否。王女のままで政治を執ると宣言し た。
そ の後、蒼藍王国で女性ながらも、宇宙の30%近い領域を有する、巨大な空間を統治するという、重大な仕事を受け持つ国王とそっくりということから信仰が生 まれ、
先代の国王の悲願だった、属国カルバスからの、発展の象徴、特別特急線を誘致、建設することに成功しただけでなく、同盟関係を結んだ。
「いまは、亜空間航路の設定をしています。これが終われば、王国から10秒もしないうちにここに来られるはずです。」
遥夢がベッドに横たわるフローレンスに話しかけている。
「すいません。本来なら、私が時期にお迎えしなければならないところを。…コホッ…まさか、瘴気に中てられて、肝臓をやられてしまうとは。」
「ちゃんと説明してくださいましたか?当国が国際平定を行う場合は、その国の独立権の一切を剥奪し、半属国化すると。」
「ウ…ゴホッ…ゴボッ」
いきなりフローレンスが血を吐く。
「大丈夫ですか?」
「薬飲んでるんだけど、一向に良くなりませんわ。」
「…ローラ、何か能力はありますか?」
遥夢が問うと、
「何かなくてはいけませんか?」
「いえ、今から渡す薬は大体の症状に効きますが、服用者の能力を著しく低下させてしまいますので。」
「……確か、先見の能があるとばあやが。」
「未来予知ですか。…この薬は服用後、30分は、いかなる能力も0に近くなります。また、この薬は体内の瘴気を浄化しません。
吐血原因を浄化するだけで す。服用から15分後にある物質を注射します。」
遥夢がそういうって真っ赤な例の薬をフローレンスに渡す。
彼女はあまりに禍々しい色に少しばかり戸惑っていたが、意を決して薬を飲み込んだ。
「まるで血の塊を薬の形にしたみたいでしたわ。」
フローレンスがそう言うと遥夢が笑いながら、
「だって半分はリンの血でできてますから。」
というので、フローレンスはかなり引いた。
だが、胸のあたりにあった、違和感は一気に消えた。
「来たよ~。遥夢~私も連れてってよ~。ここにくるのに、かなり迷っちゃったじゃん。」
「…アリスパレスから電車と徒歩だけでこれますよね。」
「新市街の離宮には確かに徒歩でこれますが、この旧市街の王宮には、乗合馬車でないと、1時間はかかりますわ。
遥夢は、そもそも飛べますし歩速も相当あり ますから。」
そういうフローレンスの視界に、真っ黒などろどろした液体が詰まった、注射器が入った。
「な…何ですか?それ」
「何って、瘴気を浄化する物質ですが?」
遥夢は淡々とした顔で言う。
「へ?」
「ベストロイドトキシンです。」
「…って、トキシンと言ったら毒のことじゃないですか」
ときしん。…変換したら、時神だって。…どうでもいいや。
さて、遥夢の言葉に驚き暴れる、フローレンスであったがリュイに抑え込まれ、あっけなく注射されてしまった。
その後一気に回復し、病床の王女に変わり政治を取っているという体裁(実際には、牛耳っている。)のアウギュレス公爵が入ってきた時、
王女はもう正装を 整え、いまにも部屋を出ようとしているところで、公爵は驚いたが、王女を止めようとした。
だが、三段跳びの要領で、彼の頭の上を遥夢と、リュイが王女を抱えてとび越えた。
もちろんこの時、王女の足が、侯爵の男として大事なところと、頭を勢いよく蹴り飛ばしてしまったのは言うまでもない。
そして、遥夢を追いかけてやってきたFIBによって大音量の演説が、全世界に放送された。
この時、王女は、侯爵を公的地位より更迭。さらには、さまざまな 特権を剥奪すると発表した。
その時王宮の上空に真っ黒な穴が開き、大艦隊が現れた。そしてそのまま、空を埋め尽くしていく。
小さくても全長300m。大きい物では全長10kmに及ぶ戦艦が空を埋め尽くす。その外装は赤緑一色に塗られていた。
最後に現れたのは、遠くから見れば青、近くで見れば黒という何ともいい難い色で塗られた、今までのどの艦よりも大きな戦艦だった。
「ローラ、紛争地域はどこですか?」
「紛争なんて起きていません。」
フローレンスの言葉にキョトンとする遥夢。その時、笑い声が上がる。
「素晴らしい。これだけの装備があれば、この国など簡単にのっとり、世界を征服することなどたやすいわ。」
そういったのは、貴族の一人だった。
彼は銃を構え、空に浮かぶ遥夢に向かて発砲した。
だが、その攻撃は遥夢の笑いとともに一蹴された。飛び道具よりも近接戦闘を好む遥夢は、一気に急降下。
袖 の中に入っていた、剣を取り出し、射程圏内に入りざま、投げた。投げられた剣は、男の足と足の間の地面に突き刺さった。
その攻撃の直後に彼が見たのはブーツの裏だった。
遥夢が男を蹴り倒しその頭に手に持った銃を突きつけたのだ。
「…貴様、死にたいか。」
遥夢の表情は険しい。
「な。何をする。私は。」
男はそこまで言い手言葉をとぎれさせた。
遥夢の目の色が反転しだしたからだ。
「旧第4人格から旧第6人格に移行している。危険だ。」
混神の声にフローラが振り向く。
「あれは、リール以外は、疑似艦隊だ。こういうこともあるかと思って、緊急投入した。」
「…え?」
「あれ指向性の爆弾だから。総員、参列者を避難させろ。」
混神が総指示を出し、どこに潜んでいたのか大量の兵士が現れ、その場にいた貴族や庶民を避難させ、
残ったのは、遥夢に銃を突き付けられた男といつもの5人 と、フローレンスだけだった。
直後、例の爆弾が一斉に落下、王宮の中庭は、煙で覆われた。

私(小枝)が今の持ち主のところに来てから、もう2カ月がたった。
本当に感謝しなきゃいけない人物がたくさんいる。
私に価値を見出し、中古品コーナーに何年も置いてくださった、パソコン専門店の方々。
その店で私を見つけ、購入してくれ、今の持ち主へつながる道をつけてくださった、春本姉妹。
そして、前の持ち主との思い出を残してくれた、今の私の使えるべき相手、御山混神。
私は生れてから、20回持ち主が変わった。
でも、私を愛してくれたのは、そのうち3人今の持ち主と、その前の持ち主と、最初の持ち主。
最初の持ち主は、もう名前を思い出せない。
でも、今の持ち主と同じように、コンピューターにとても詳しく、二人の思い出を絶対に消せないように設定した。
でも、さすがにアカウント固定はできなかったようだ。
前の持ち主の名前は、博之という。世に言うオタクといわれる人だ。
でも実際は、そう言われて、差別の対象にされる、とても優しく、ピュアな人だった。
彼は、ハードのことには詳しかったが、ソフトの事となるととても疎かった。
でも、その前の持ち主に与えられた、ひどい記憶は彼のできる範囲で消してくれた。
そして今の持ち主のところで調整を受けていた時のことだった。
「どうだ?具合のおかしい部位はないか?」
そう問われたのでないと答えた。彼は、私の設定画面を少しいじって、席を外した。
そのあと、銀色の女性が入ってきた。彼女の名前はリンというらしい。
彼女はそのパソコンに搭載されたOSに組み込まれた、あるソフトを起動し私の記憶媒体に記録された、すべての情報を呼び出した。
人間に例えると、脳の、海馬という部分の情報を見られている感じだと思う。
彼女は表示された情報をスクロール機能を使い見ていたがあるところでふとその手をとめた。
そしてそのまま、その画面を開いたまま部屋を出て行ってしまった。私もカメラを通して、見てみた。
するとそこに表示されていたのは、博之さんが消せなかった、彼の前の持ち主が私に書き込んだデータだった。
「2つ前の持ち主が書き込んだ情報の中に違法データだって?」
私に問いかけていると認識するまでに少しかかった。
御山さん(下の名前は呼びにくい。)は例の画面を見ていたが、いきなり、別のソフトを起動すると、何かの文字列を打ち込んでいった。
最後に彼がキーボードのエンターキーを2回たたくと私の頭の中からも、そして例の画面からも、あの忌々しい思い出はきれいさっぱり消えてなくなった。
私が何をしたのかと問うと
「時空管制省と玉京の時空管理省に提出するから、パーソナルサーバに全部移動した。」
と言われた。
いきなり電源が落ちた。

また電源が入った。
目の前に鼻筋の通った、きれいな女性がいた。
「千雨のところ…覚えてる?」
その女性が私に問いかけた。
「私は、癒雨…晴宮癒雨。今回は…ヤミ君からの伝言を伝える。私は伝令者だから。」
御山さんはどこにいるのかと訊くと、これから行くところと答えられた。
彼に与えられた、GPSソフトを呼び出し、目的地を見てみると、春本という名の家族が住むマンションの一角らしい。
「御苦労。」
そんな言葉とともに主に迎えられる。

いろいろあって帰ってきた。
またぼちぼち、近況報告をしていこうと思う。
博之さんとの思い出もつづっていかないと。
坂西博之さんのご冥福をお祈りしております。