L.C第37章 失い得る物

今回はかなり短いです。 本編内短編としてお楽しみください。


藍蒼市の住宅 街の一角にある公園で、
「また噂を真に受けおる馬鹿が、いおってからに。」
「何でこんなに強いんだ。」
「リンの兄なら強くて当たり前だお?」
「おぼえとけよ~。」
そう言って少年たちは逃げていく。
「覚えてられるかな。…おりょ!お~い仲間忘れてどうすんの!」

『ねぇ、本当の強さってなんなのかな。』
世界が変わる前、時の迷宮の先にある目覚めの岬で私は涼子にそう問われた。
その時答えに詰まった。
『自分がそう感じたものが強さなんじゃないのか?』
正規が遥夢の横で寝転びながら混沌の海から昇る朝日のごとき世界の卵を見詰めつつそういった。
そのあと、我々四人は今度はリンを交えて、この光景を見ようといってあの卵の中に入った。そして今。

「ねえ、強くなったら何か失うの?」
「一部の感覚かな。」
ここは蒼天宮の第一外周高速エレベータの車内。
「どういうこと?」
「強さが増すたびに色、音、光を失う。」
「よくわからない。」
「昨日リンが信号に気づかずに道路を渡ろうとしただろ?」
「うん。移動帯が動いてなくて気づいたみたいだけど。」
そのうちにエレベータが目的の階に着く。
「あのときすでに彼女は光も色も失っていた。」
「それにしても、ミッドガルドシステムが本来はリンを機体としたシステムだったなんて初めて聞いたよ。」
「仕方がないさ。初期登録時のDNAパターンがリンのものだったからな」
ミッドガルドシステムとは、世界全体を管理するためのシステムであり、
リンか、遥夢の脳を生体コンピュータとして、システムの中枢となる、コンピュータと 接続し、リンや、遥夢の力を最大限に引き出すシステムである。
「ついた。どうだ~?」
「最終脊髄接続に必ずエラーが出ています。」
「接続位置は?」
「第三頸椎と、第二胸椎、それから、第二腰椎の下の椎間板です。」
「第二胸椎の…。」
「結構手間取ってるみたいね。」
ガラスの向こうに腕を広げた形で浮かぶリンがいる。ガラスの手前の機器の前では、白衣の男と混神が話し合っている。
扉の横の壁に寄り掛かる女性に涼子が話しかける。
「ええ。」
その時、部屋一面に真青な光があふれる。
「どうしたの?」
「対象接続完了。ミッドガルドシステム全機能解放確認です。」
男がそういうと混神がマイクをつかみ、リンに向かい、
「世界再編開始。」
とだけ言った。

リンと遥夢が生み出した最初の世界、天神界
そこの宮殿の最奥に銀色の紙の女性が幼い少年を膝に乗せ、穏やかな笑顔で話していた。
「コエル。あなたに重大な仕事を与えます。最後の世界を作る手助けをお願いします。」
「さいごのせかい?」
「ええ。ある時代で、私と、妹のルナハは、世界を支配する仕組みを作ります。それと私が本当につながったとき、あなたにある言葉を言ってもらいたいので す。」
「あることば?どのようなことばですか?かあさま。」
「世界再編開始と。」
「わかりました。」
コエルと呼ばれた少年がそういうと、
女性がおもむろにコエルを膝から降ろし、
「それではまた会う時までしばしの別れです。数年後にあなたの妹としてルナハが目覚めます。」
「かあさまいかないで。」
「頼みますよ。…マスターコイル!」
『…しぇ、混神。どうしたの、ねぇ混神!」
「え?」
「あ、気づいた。ねえ、リンの様子が変だよ。」
涼子がそういった後いきなり真っ白な光に包まれ何も見えなくなった。
きがつくと、くすんだ薄い緑の壁が立つ不思議な場所だった。
「時の迷宮…ですね。」
「夜明けの街に早く行きたいですねぇ。」
「ついたお?」
混神の言葉に一堂盛大にずっこける。
この夜明けの街はそれまでにあった世界のことが球体となっていくつも浮かんでいる。
また、時の迷宮からしか入れず、目覚めの岬へしか出ることのできない街 でもある。
遥 夢、正規、混神、涼子、リン、ラファエルの6人は、街の大通りを過ぎ、目覚めの岬に出た。
頓控を解除した、コイルシスターズやそれぞれのA.Iも含め、総 勢70人近い団体がそれぞれ好きな所に立ったり、座ったりして、日の出を待つ。
新たな世界をそのうちに持つ太陽が昇るのを。
そのうち、海が徐々に明るい青に染まりだし、水平線から、金色の光が漏れだす。
「きれい。」
思わずリンがつぶやく。
「あのときは4人だったが、こういう団体でみるというのもなかなかおつなもんだな。」
正規が言うと、
「そうやね。…ところで、リン、お前感覚もどったんか?」
「はい。」
「そうか。」
「どうだい?みんな。きれいでしょ?」
涼子が周りの者に問うと。
「「「はい。」」」
「「とってもきれいです。…もし差し支えなければ、これからもよろしくお願いします。」」
「「もちろん。」」
6人がこたえたうえで混神が、
「さて。いくとしますか。」
「「「「リ・アイナ・リオンベルナン。」」」」
の言葉を合図に、A.IはV.C.Pの中に入り全員が、がけから飛び降り、太陽に向かって飛び去った。
新たな世界の始まりである。