L.C第四章正神と補神
紺暦49年7月31日
―あいつらが王宮で伸びているころ、俺はこの兵庫の田舎に来ていた。
まあ、何しに来たのかと言えば、失業して、傷心の帰郷ってところだ。
俺は14までをこの村で過ごした(現在6522歳)。日本人なら誰でも懐かしさを覚える。そんな山に囲まれた農村だ。長京では、味わえない、人間本来の安
らぎがありそうだ。
とは言えこの村に来るには長京から一度、地方都市になったかつての首都、東京に出て、そこから東海道山陽新幹線で明石まで行き、
明石から「中国連絡鉄道」と言う愛称を持つローカル線(この路線、一本逃すと、一時間待たされる)に乗って、40分トコトコとゆられて、やっとこさこの村
の隣町に着く。
そこから路線バスで二十分この村に二つしかないバス停の一つに着く。長京から、凡そ5時間の長旅だ。
昔はそれくらいの時間で東京から博多までの最短時間だというのだから、快適になったものだ。とは言え五時間乗ってもどこにも着かないものがこの時代にも在
る。
LTRセルファ・ヴァリス・ルナハというものだ。これを呼んでいる人たちの時代では、銀河鉄道とかが近いかな。
…?え?俺か?俺は俊明、神島俊明。「かみしまとしあき」と読みたくなるとおもうが読みは「かしまとしあき」だから注意してくれ。
俺はバス停の前に立っていた。昨日、電話をしたら、親はというと「明日からアイラスにバカンスに行く」という。
いい年こいてようやるよ。
ならどうすればいいと訊いたら宮間の家に頼んであるから心配するなときた。宮間の家は、俺んちの本家のことで、今は御袋の弟、つまり俺の叔父さんが当主
だ。
―そんなこんなだから誰か迎えに来てくれたのかとおもっていたら、いざ降りてみれば誰も居やしないので途方に暮れていたという訳だ。
「―久しいのう。」
ずいぶんと尊大な話し方の声が聞こえる。振り向くと、麦藁帽子をかぶった白いキャミソール姿の少女が居た。向こうは俺を知っているようだが、俺の記憶には
先方には悪いが、こんな美少女の友達は居ない!
「あのー、すいませんがどちら様で?」
質問するが彼女は答えない。ただ俯き加減な上に、深めに麦藁帽子をかぶっているため、その顔を見ることはできないが、小さいその口が笑っているように見え
た。
一陣の風が吹き、俺が再度目を開けた時彼女は消えていた。夢かとおもったが足元に彼女がかぶっていた、麦藁帽子が落ちていた。明日交番探して落とし物とし
て届けよう。
宮間家玄関
「こんにちわー。」
俺が声をかけると奥から口ひげを蓄えた男性が出てきた。
「叔父さん、いきなり聞くけど…まあ良いや。」
「おう入れや。」
今に通され、お茶を出され少し戸惑い気味のところに、おじさんが向かい側にどっかりと腰を下ろした。
「ところで何で帰ってきたのか教えてくれへんか?」
「いいですよ。…。」
俺が話そうとすると、おじさんは、それを制してきた。
「まて士が帰ってきた。」
「つかさ?男?」
「莫迦言うな。娘だ娘。」
そこに件の士君が入ってきた。
「ただいま〜。」
「おう、おかえり。今日から俊も暮らすで、宜しゅうな。」
「よろしくおねがいします。」
あまりにしっかりと頭を下げらたせいなのか、わからないが、士君が震える。
「…部屋でレポートまとめてるわ。」
そういって士君が駆け出していく。
「今の何?」
「従妹。お前の。」
俺にあんな可愛い従兄弟いたっけ?
あきれた声を出すおれであった。
翌日
俺はバスの通る道を歩いていた。あの麦わら帽子を持って。
あの女性は誰だったんだろうかそう考えながら。ふと立ち止まると、そこには、林の奥に伸びる、一本の石段があった。俺はその先に何かを感じた。
石段を上り詰めると神社だった。そういやあいつらに尽いて正規の故郷に行った時もこんなのが在ったけな。
神社の本殿に昨日の女性が座っていた。
「あの〜。」
「!おう、としか。」
「昨日これ落としましたよね?」
見たところ20歳前後と言ったところか。さらさらの黒髪が艶やかだ
「…のう、とし。」
「一つ訊きますけど、なぜ俺の事知ってるんです?」
悲しそうな顔をする女性。
「6500年もたてばそのようなものじゃな」。
「え?」
「これならわかるかの。」
彼女はそういうと、ポンッ!と何かがはじけるような音がして彼女の頭にとんがった獣の耳が現れた。
「分からん。」
「はあ。即答するな。まあ、それがぬしのよいところなのじゃろうて。神楽じゃ、神楽。」
俺の中にほのかな少年時代の記憶がよみがえる。
そういや神楽って名前の子が居たような。
「あ!」
「やっと思い出しおったんか。」
「うん。かぐらか!でもさ、神楽って柴犬だったんだ。」
俊明が感心した様子で聞く。
ビタン!
神楽が倒れる。
「いちち。確かに犬ころも神格化されておるが、それはその里の人間が勝手にやったものであろう。わしは玉京にいってあの方に認めてもらった、正真正銘
本物の神じゃぞ。狐じゃ、お稲荷様じゃぞ。」
「玉京?あの方?…玉京で皆が名で呼ばないのなん…!ああ遥夢か。」
顔をさすりながら起き上がり話す、神楽の言葉に返す俊明。だが神楽は驚いた様子で俊明を見つめる。
―そのころ蒼天宮では
「補神と正神?なんだそりゃ。」
「ん、字のとおりの意味ですが。説明は混神に訊くといいですね。」
「…うち?まあいいけんさ。まず○○の神とか、○○神、また主上が玉京で認可したものを正神。
それと限りなく良い相性を持ち共に居れば互いの能力を増幅しあい、さらに正神の能力をその値の20倍に増幅する力。それを持つものが、補神と呼ばれてい
る。
補神自体も玉京で認可されたものしかなれないけどね。
補神が男、正神が女の場合が殆どで、…まあまれに逆もあらな。
…例えば〜主上も相補も正神だけど、相補は主上の補神でも在るわけだし、涼子は、うちの補神だけど正神だし。コイルシスターズもそうだからね。」
「なるほど。ところでそうなると璃茶は?居るのか、補神は。」
「璃茶自身だね。極々稀に居るのよ。正神と補神を一人でやっちゃうのが。」
正規の質問を遥夢が流し、混神が振られ戸惑う。
「なぜ神楽は、バス停に居たんだ?」
「主を迎えに来たのじゃ。」
「迎え?」
『俊明、…遅かったみたいですね。…だから言ったによ。昨日連絡しとけば良かったのにって。…仕方ないじゃないですか。
…えっと聖 神楽と神島俊明両名にはまずお祝いを申し上げます。
神楽は補神を得た事。俊明は、伴侶を得た事ですね。補神、正神については、そちらにリンがいきますから訊いてください。
…あ〜としあき、ひとことな、リンに詰め寄れ。あいつニャお前がそうしないとデータを提供するなと伝えてある。なぁんてなうそうそ。何も言わなくでも教え
るように言ってあるから。それじゃ』
「…つまりおれを婿とするために、迎えに?」
「そうじゃ。わしも想わんかった。まさか人間の小僧に惚れる等。主がこの村を去る僅か1月まえに告白した。そのときのぬしの笑顔は忘れられぬ。」
思い出した。何で男が男に好きだというのか分からなかったという記憶がある。
「待たんか、この変態狐。」
「おう。でおったな。」
士ちゃんだ。なぜか巫女服を着てお札を持っている。
「勝負をしろ。そしてお前が負けたら、俊兄から手を引け。」
「望むところじゃ。」
そして俺の目の前で巫女と自称神の狐との戦いが始まった。…何故か士ちゃんの御札が神楽のそばで爆発する。神楽は狐火で応戦する。勝負は一瞬で決まった。
何かが空から落ちてきて、二人の間に深い穴を作ったのだ。
「なんだ?」
黒焦げになって木の根元で伸びている士ちゃんを横目に、俺と神楽は穴を覗いた。穴の縁も中も、まるで何か高温のもので溶かされたようになっている。
『マスター、穴の底から高周波数。』
そのとき穴の中で何か白いものが見えた気がした。
『マスター穴の底で空気の高温度差があります。危険ですから退避して下さい。』
おれのA.Iの言葉に従い後ずさりしたその直後、何か白い塊が穴から飛び出したそばに居たら間違いなく死んでいた。
「なんだ?」
「翼塊じゃ。何かがあの翼の間に居る。」
神楽がそういった直後その白い塊がゆっくりと俺の前に下りてきて地面に着いた後ゆっくりと翼が開いた。中から出てきたのは全体的に灰色の服を着た銀色の長
髪の人間で白いベレー帽をかぶっていた。
「マスターより命を受け参りました。」
「…!リンか。」
「はい。マスターの命により、正神、及び補神に関しての事項の説明に上がりました。…現在3C、LSN、LWTC、空官庁、連同、蒼天宮の各データ
ベースより関連データをダウンロード中です。
…ダウンロードコンプリート。(以下省略。)」
「で神楽は正神だろ。補神は?」
「俊明様です。」
「なるほど。」
「まて、まて、まてまてまてまて〜い。」
「なんじゃもう回復したのか。」「焼滅潜行の直撃を受けた人間にしてはえらく回復が早いですね。…神性もありませんし、単に打たれづよいだけでしょう
か?」
「わたしだって俊ちゃんのこと好きなんやぞ。」
「それがどうしたわしは6500年またされたのじゃぞ。その間に俊に似合うように女を磨いたのじゃ。」
「わたしかて6500年待ったわ。」
「お主のは自業自得じゃろうて。」
「!…。」
やっぱり神楽は強い。ところでリンさんがさっきから神楽のとこを見つめている。
「なんじゃ?
「主上からの贈り物です。」
「な。」「え?」「は?」
リンさんの言葉はなんともまあ突拍子のないものであった。
「要らないのですか?」
「頂きましょう。」
あまりに突拍子が無いので昔のことを思い出すきっかけになってしまった。
「だな。しかしあれは痛かった。士ちゃん手当たり次第に何でもかんでも投げてきてとどめにかぼちゃを食らって気絶したんだっけ。
気がついたら、蒼天江の辺でリンさんが膝枕しながら俺の顔覗き込んでて、そしたら顔にビッチョッチョのタオルかけられてびっくりして飛び起きたらあいつ
が大笑いしてた。
それが出会いだ。」
そういってるうちにリンさんが神楽の胸に光の玉を埋め込んだ。
「これでよし。」
はは。
そんなこんなでただいま平日は藍蒼、休日は村で過ごす日々だ。時々神楽を藍蒼に呼ぶ事もあるがな。それじゃあな。
次回は…なんだろうね。
