L.C第40章 良き日の記憶(残り香)

そ れは、誰もが願う永遠の時。されど、時は止まらず、流れ続ける。無理に止めれば、世界の断りを崩す。
神を除いて。しかし、愚かなる、霊長類の一種は、自ら の時をいたずらに止めることを望んだ。そして、神さえも称賛したある技術を完成させた。
今日、それは「錬金術」と呼ばれる。あまりにも完成当時は高度過ぎたため成功し得ないとして、門戸を閉ざし、地下に潜りさらなる精錬を続けた。
そして、そ の完成形といえるものの一つが、今日、精密機械に使用される、金属生命体である。
金属生命体は、人工生命体の一種であり、塩分耐性、水分耐性、炎熱耐性、塩基・酸耐性、延性、弾性をもち、細胞内に金属分子を大量に含む単細胞生物の集合 体である。
傍目には、水銀のように見えるが、粘菌のように蠢いているのが視認できる。
そ のほかにもさまざまな完成形がある。
そのうち、最も世間一般に間違った形といえども認知されているのが、不老不死をもたらす、命の水を生み出す賢者の石だ が、
科学技術の発展とともに発達した、医療技術、P53をはじめとする、癌化抑制遺伝子、テロメラーゼ遺伝子を適宜活性化させるナノマシンの製造技術。
脳 細胞をはじめとする、神経細胞や、心筋細胞を強制的に再分裂させる技術など様々な人体関係の技術の発達により、不老不死とまではいかぬまでも、超不老長寿 には、至っている。
それでも、神にはかなわない。しかし王国や、蒼玉宗国からあぶれた者たちとの間に生まれた子供は、その種族でありながらも不老不死と なっている。

蒼天宮の地下にある、実験室
「オリョ?ウヘ~!」
混神の叫び声が、宮内に響き渡る、真っ先にリンが駆けつけた。そのあとに遥夢たちも。
「あ…あ…あれ。」
「M.Aが、鋼塊を齧っているのか?」
「略すな。ふつうにメタルアメーバって言った方がわかりやすいんだから。」
「つか、この形…」
混神がつぶやくのに合わせて、全員が、それを見る。
「初期形成時の胎児ですが。…何をしていたんですか?」
「人工塩基配列を利用した新世代、記憶媒体。」
遥夢の質問に対する混神の答えがいまいちわからない様子の正規と涼子。
「つまりは人工的に作り出した、DNAを利用したデータブレードの後継記憶媒体を開発していたんです。」
リンが説明しやっと納得したようだ。
「でもDNAってそんなに情報が入るのか?」
正規が問うと、
「一 般的に1gのDNAには約2.5ZBのデータが蓄積できるといわれています。
一般的なデータブレードユニットと同等の重さにした場合、約11.25ZBの データが蓄積できます。
現行では、データブレードは15枚一組のユニットが15個ですので、同様に換算した場合約168.75ZBのデータが蓄積されま す。
システムユニット全体では506.25ZBです。」
「今は?」
「現行のデータブレードは、一枚の重さが0.3g、ユニット単体で、4.5g、システムユニット全体で67.5gこれが平均3個入っていますので
202.5g容量は単体で最大930EBシステムユニット全体で最大204.3ZBです。」
リンがこう答える。
「将来的にはどうなりますか?」
「将 来的に考えて、DNA10gで1ユニット、これが25個ですから1システムユニットは625ZB、
大きさは飛躍的に小さくなりますから、同じスペースに倍 はいると仮定して、システム全体で3.66YBです。
なお、これは一般的なPC端末におけることであり、V.C.Pでしたら、1サーバあたりに 312.5YBですが、
一人当たり50の割り当てがありますから、一人で使える要領は、1万5625YBですね。」
「リールが本気出したら、どうなるのかねぇ?」
「「はい?」」
いきなり話の筋と違う質問をする混神。
「だから、リールが、本気で、戦ったら、どういうことになるのかねぇ。」
「それは。」
「都州該当面積に真の真空が発生。王国大五州該当面積より、一切の惑星、恒星、衛星、微惑星、星雲、塵が消滅します。」
「ですから、淡々と話されても。」
そこに混神が、
「じゃあ、いつもは実力の…?」
「10%以下ですね。」
「それであの戦績かよ。ありゃ、絶対に敵にできねぇな。」
「まあ、敵に回したとしても混神より怖いものはいませんからね。」
「マスターのおかげで一回世界が滅んでますからね。」
混神の言葉にあきれ顔で遥夢が答え、リンが続く。
「はに?」
「連鎖対消滅のおかげで、一回世界が滅んでるんです。」
「なんの?」
「高濃縮の生命のスープがあなたの脳漿によって薄められたことによる超高速拡散に起因する、
創造界を消滅させるほどの威力を持つ連鎖対消滅です!」
「…なあ、その、高濃縮の生命のスープって何だ。なんかうまそうな名前だな。」
正規が問うと、
「じゃあ、飲みますか?」
と遥夢が返す。正規がうなずくと、
「じゃあ、目を閉じて、少しだけ口を開けてください。」
という。混神は呆れた顔をして見守っている。
しかし、正規はいたって真面目に言われたことを忠実に実行している。
「いいですよ。」
蒼遥夢の声が聞こえ、最初に正規が見たものは、自分の口に、右手の人差し指を差し込む遥夢の姿だった。
「…ふぇ?」
「どうですか?」
「今のは?」
人差し指を引き抜き、それを自分でなめる遥夢。
「正規さんが生命のスープを飲みたいとおっしゃいましたのでそのご希望に沿って。」
「高濃縮の生命のスープは、つまりはリンと、主上の血液のことだ。」
さすがにこの言葉は答えたようで、顔色がみるみる蒼くなっていった。
「むちが。」

「ヴェ?」
「遥夢がさらわれた。」
「あ~。酔っ払ってたからな~。」
「なに?」
「あの人、コーラ飲むと酔っぱらうのよ。」
いきなり部屋に飛び込んできて、泣きつく正規に対しのんきに応対する混神。
「行くか?」
「どこへ?」
「とにかく行くか?」
「ああ。」
どこへ行くのかと思っていると、コンビニで何やら、ペットボトルに入ったものを10本ほど購入したあと、長京のとある廃教会に向かった。
「あの人、多分ろくに寝てないと思うんだ。なんせ、あの人、たったまんま寝れないタイプだから。無重力上でも。
だから、教会で、さらわれたのが女で、で、 それが美しいとなれば十字架に磔が定番だし、結局あの人寝れてないからかなり弱ってるだろうな。
なんせ、1時間でも時間通りに寝ないと朝議の真っ最中に幼 児化するぐらいだもん。」
そこまでいえば、もう正規には十分だった。
バン!
その廃教会の扉を勢い良くあける。
中には、案の定、十字架にはりつけにされた遥夢と、数人の男がいた。
うつろな状態で、何かを言うように口を動かす遥夢だが、正規にはわからない。
しかし、長い鞭やら、乗馬遥ぬ鞭やら、植物に鶴屋ら、ナイフやらを持って挑みかかる男たちを、とりあえずは自分に触れさせようとはしていない。
『今のうちに寝たら?…無理だね。あと12時間はとろーんとした感じの目だよ。』
『こんな、雑魚人間どもに手間取ってどうするおつもりですか?正規様。』
「「なんだ?」」
空間内に響く声に男たちは当惑する。
『今から始まるカウントが、0になったら十字架に向かえよ、はしってな。
お姫様が、お前のキス待ってるってな。…まあ、馬鹿なこと言う前に 180,179,17…』
カウントダウンが始まるとともに、3人の人影が出てきた。
「できるならこの手は使いたくないんだがね。もったいないし。いやはやここには華麗な光が似合うよ。
つーわけで「金粉散らし」で、そーれ。」
いきなり教会内にきらびやかな光が走る。
それに合わせたかのようにリンが男たちを制圧するとともに、涼子が、正規の一歩手前に陣取る。
カウントダウンが30を切ると涼子が歩きだす。
「…4,3,2,1スタート。」
混神の言葉に合わせ、正規が走り出す。
十字架の下にたどり着いたとき、わずかに残された縄の繊維が、遥夢の体重を支えきれなくなり、遥夢が正規に上に落ち てきた。
とっさにお姫様だっこをしようとした。しかし、遥夢が、正規に抱きつく形で、床に押し倒されてしまった。
「お、おい。遥夢?」
遥夢は動かない。
「……クゥ~。」
「目ぇあけたまんま寝てやがる。…そうだ。涼子、赤ワイン。」
「これ?」
目を開けたまま、少し、苦しげな寝息を立てる遥夢を見た混神、あのコンビニの袋から、ペットボトルを一本と紙コップを一個とりだすと、涼子から受け取っ た、赤ワインとペットボトルの中身を紙コップの中に注ぐ。
「リン、立たせてやれ。」
リンが正規を立たせ、正規に寄り掛かるようになっている遥夢にその中身を強引にのませた。
「…ウ…ェ…グェ…グァ…ガ…ガハッ…!な…何を飲ませたんで すか?ガハッ…。
「火龍水+赤ワイン。」
「…きょ…強たんしゃんしゅい…です…か。」
「なんだ?」
遥夢が、いすに横たわり目を開けたまま、眠る。
リンが、彼女の頭を膝に乗せ、何万倍にも希釈した彼女自身の血液と栄養液の混合液を、十数秒おきに目に垂ら している。
「火龍水。雲南省のごく一部でのみとれる、湧水で、めちゃめちゃ強い炭酸水のこと。
口に含んだ瞬間に強烈な刺激が舌面痛覚神経を刺激するため、ものすごい 目覚めになる。
ただし、遥夢には強力な睡眠誘発剤になる。」
「やれやれ。幸せって何なんでしょうか。」
ふと、疲れた感じの声がする。驚いた3人が、遥夢を見ると、目に光が戻っている。
「一概にこれとは言えませんね。その時が幸せとは思えれば幸せなんでしょう。
それが幸せといえば幸せなのでしょう。
この二つが合わさった時が本当に幸せと いうものに出会えた時なのかもしれませんな。」
混神がステンドグラスを見つめながら、言う。
「俺もそう思うな。ところで、あれはないよな。」
そう言って、正規が指示したのは、十字架にはりつけにされたキリストのもとにまいよる、4人の天使のオブジェクトだった。
「いくら、ありがたみを伝えるためとはいえ…」
そこまでいって、正規の言葉は途切れた飛び起きた遥夢によって、抱きかかえられ教会の外に運ばれたためだ。
「あそこで気付くべきだった。
あの馬鹿どもの血の臭いにテンシモドキが集まってきていたことに。」
そう言って、混神が、教会の上の方を見るのにつられて全員が見上げると、黄色がかかった、白い光の柱が天に向かって伸びている。
そして、その中を翼の生え た、5歳ぐらいの裸の子供がたくさん入っていく。
「なんだ?あれ。」
「テンシモドキ。ヨーロッパにおけるキューピッドにそっくりな形をした、人語を解し、また人語を話す肉食動物だな。」
そこまで、混神が言ったとき、教会の中から、男たちの悲鳴が上がる。
「助けてくれー。」
その叫びの合間に、骨を齧る、ゴリゴリという音や、じゅるじゅるという血をすする音が響く。あの男たちが、生きながらにして、テンシモドキに喰われている のだ。
「…いくら悪人とはいえ、目と鼻の先で喰われるのを見ているのは、まあ、気分のいい話じゃないわな。仕方がない。リン、何でもいいから助けてやれ。」
混神の命令に従いリンが中に入っていく。
次の瞬間ものすごい爆発音とともに教会の屋根が少しだけ浮き上がったそしてテンシモドキたちが逃げていく。
「なにがおきたんだ?」
「人 間は1秒以下ならば一億度以上の超高温に耐えることができるが、
テンシモドキたちはたとえ1000万分の1秒でも1000度以上の熱にさらされた場合、重 度のやけどを負って死に至ってしまうのさ。
で、さっき、リンが、1京℃ちゅう高温の空気を教会全体に放出したわけ。
で、それで喰いついていたやつらはもほ かのやつもやけどでばたんきゅう。」
「まあさ、遥夢にけががなくてよかったよね。」
「そうだな。それはそうと、さっきから、リンが一切左手を動かしてない気がするんだが。」
正規が言うと、涼子が、リンを見つめる。
「…何となく血色が悪い気がしないでもないけど。」
「今、リンの左肩より下は神経が機能していない。肩のところに受けた傷がもとでな。神経が元に戻るのにあとひと月はかかる。」
「でも、それで一体。どうやって。」
「まあ。な。」
そ の後、蒼天宮に戻った、一行。いきなり、リンの服を涼子が破る。
そしてあらわになったのは、ズタズタになった、各組織だった。
日本刀のような鋭利なもので はなく、使い古された、切れ味の悪い、包丁に切られたような深く、ひどい傷だった。
しかし、当人は痛みを感じていない。というのも、リンには温覚、冷覚、 痛覚が存在しない。
つまり、熱さも、冷たさも、痛みも感じない。ただ、不快かそうでないかである。ただ、兄である、混神の影響か(逆だと彼は言う)、極端 な風呂好きである。
[port01~914 error Rear Orar control system restart.]
遥夢の視界にこんなメッセージが出る。というのも、戦艦リールシェルの全ての機能は、遥夢のV.C.Pによって管理されているためだ。
[welcome to Coil OS ver.concorde 8th season fiathexe(567) edition oral edition master wizard mode]
「…混神このナンバリングどうにか…。」
「なりません。COCで、ナンバリングは開始時から一切の変更は認めないということですから。例外なく。」
COCは、Concord OS project Conferenceの略である。つまりは、Concord OSの内容を定める会議である。
「混神?さっきから何しているんですか?」
何やら、試験管をゆすったり、かばんの中をあさったりしている、混神を見て、遥夢が尋ねる。
しかし、混神は答えず、いきなり、採血用の注射器を取り出し、 遥夢に近づく。
「何のつもりですか?」
「レイスオン。」
混神の言葉に呼応したかのように、遥夢の体は机に押さえつけられ、左腕が、延ばされる。そして、注射器の針が差し込まれ、血液を抜き取っていく。
「…な…何がしたいんですか?」
「リンのキズを消すための薬を作ってる。あれは呪創だから。」
そう言いながら、抜き取った血をすでに何らかの薬品の入ったビーカーの中に入れ、そこに、刷毛を浸し、リンの傷に塗る。
傷がいえたリンその日の夜、中学、高校と同じクラスだった仲間内で(とはいえ、ほぼひとクラス分)ミニ同窓会が行われたのだった。