-1-
L.Cの中心的な都市である、藍蒼市には、多国籍企業が数多く本部を置き、王国の官庁も
軒を連ねている。
その多くが街の東側に集中しており、まるで、ロックを大音量で流しているかのようなけんそうだ。しかし、その西側にある巨大な建造物をく
ぐると、まるで別世界のごとく、静かになる。これは、ビル街のすぐ西側を走る、複合鉄道路線を走行する列車の風により、音がかき消されてしまうためだ。
し
かし実際には、騒音の音波を、かき消すには列車の走行に伴う風だけでは不十分である。実は3Cコイルと呼ばれる、特殊な磁界により、特定の音の位相をずら
すコイルが、軌道に埋め込まれており、さらにこの複合鉄道路線の海側には、強化ガラスが埋め込まれ、発生した騒風音は、ビル街へと流れていく。
その後、
3Cコイルの磁界を通り抜け、位相がずれてビル街の騒音を打ち消しているのだ。
このような高水準の科学力の傍らで、高度な人力が使われている。一
般市民の結びつきは大変強く、ひとたびどこそこの家に泥棒が入ったとあらば、それはたちどころに警察に伝わるより前に、藍蒼全市民の知るところとなる。
そ
うなると泥棒に逃げ場はない。例えば、商店街に買い物に来ているおばちゃんとて、並の人間よりもはるかに高度な感覚を持っており、電文から、正確な犯人像
を結ぶことができるのだ。
そして、この街を東西に走る、八本の幅100kmの大通りのうち横4号線の先にあるのが、蒼天宮だ。
『Texture breaker setup complete. Any Target rock on,texture breaking start.…Please wait. Target break 1000.00%complete.
マスター、ウイルスの駆除が完了しました。しかし、ウイルスの駆除なら、アンチウイルスに任せておいてほしいもんですよ。』
「仕方がないじゃないですか。もともと、今現在、アンチウイルスソフトに対する、風当たりはかなり強くなっていますからね。160年前のあの事件のせいで。」
世界最大の電脳都市CCOL(Cyber City Of Lnaha)は現在、サーバーに常駐する、アンチウイルスソフトが存在しない。その理由の一つに、この話の160年前におこったある殺人事件がある。
ある日、若い女性の惨殺体が合計6体見つかった。警察は同じ日に発見され死亡推定時刻も同じことから何か関連性があると踏み、捜査を進めた。彼女たちには接点は何もなかった。しかし、一つだけ共通点があった。
そ
れはいずれも同じメーカーの同じアンチウイルスソフトを導入していたということである。このことに関心をもった、一人の捜査員が、単身、3Cに調査を依
頼、。これがLLCの会議の議題となり、マクロファージを使用した調査の結果、被害者のアンチウイルスソフトは、サイバーネットにおいて、凶暴化し人を襲
いかねないことが判明。
しかし、アンチウイルスソフトを罰する法律がないため、制作会社を罰したうえ、電脳世界に関係する唯一の法律の電脳法が改正され、対象となるソフトはサイバーキーパーに削除された。
しかし、アンチウイルスソフトが人を殺したという事実は、世界中を震撼させた。アンチウイルスソフトと制作会社が同じである、CoilOSに乗り換えるものも増えた。
そして今、蒼天宮のサーバに侵入したウイルスを不知火が駆除したのだった。
いきなり遥夢が立ち上がる。
『どちらに?』
「アクセスポイントです。」
『そういえば、明日ですね。マスターへの特殊就労証明が支給されるのは。』
通
貨や、金銭といった概念が消失した現在でも人々が働き続ける理由が、この就労証明の獲得である。一か月で効力の消失する、この就労証明というものがなけれ
ば、人々は、物品を購入することができない。しかし、貨幣交換と違うのは、その購入量に関係なく、その月の間ならば、いくらでも、好きなだけ買い物ができ
るというものである。
しかし、この就労証明、貰えるのは就職2ヵ月後以降。また、その後2年は、就労していなければ、今まで獲得したものも無効になる。これに関連し、各国において、法整備が進められ、NEETにとって、大変厳しい世になってきた。
そして、王国主師は、それぞれ副業を持つため、通常の、王族労証のほか、公官労証や、一般労証が支給されるはずなのだが、これをまとめて特別証明と呼んでいるのだ。
藍蒼縦1号横4号交差点4号アクセスポイント
『Ck01-867登録コードおよび侵入パスワード認証完了。ようこそ陛下、CCLへ』
CCL正式名称Cyber City of Lunahaは藍蒼を模して造られた巨大な電脳都市である。一から十まで藍蒼そっくりなので、藍蒼の地図を持っているものならば、困らない仕様になっている。
そのころ
藍蒼コイルハウス
「法定乗り入れ航空会社?」
「そう。神宮総合国際空港法という法律では、各国はフラッグシップキャリアとなる、航空会社2社の路線竣工が認可されている。つか強制されている。」
「それ、国際法?」
混神と涼子が、炬燵でみかんを食べながら、くつろいでいる。
「まあね。」
「でも確かビーナの話だと日本はJATだけだよね。」
「ああ。でもな現状だと、発着枠は、まだ998%あいてるんだよ。」
混神の何気ない発言に対し、涼子が驚くべき数字を返した。
「え…現行の、貨物十二万、旅客千五百万でまだそれだけ?」
「まあ、亜空間に作られた空港であることからもわかるとおり、大容量の発着枠が設けられているうえにおととしの秋から、増設工事がおこなわれていて、このままだと、収容率が0.002%になる。今の便数でだ。」
混神の言葉に絶句する涼子。そこに一人の女性がやってきた。
「彼女が誰かわかるか?」
ちらりとその女性を見て混神は、涼子にそう尋ねた。
「んーん?だれ?リンにそっくりだけど。」
確かに、彼女は、リンとは髪の色が違うぐらいでそれ以外は本当にそっくりだった。
「BA、ブリタニカエアライナ全権特使ビーナ・コンコルド・ブリタニカと申します。」
「で?うけてくれるんかね。」
「そのことに関してですが、どうしても当社でなければだめなんですか?」
「だってギャラクシアライセンス持ってんのBAとJATだけだもあの国。」
ギャ
ラクシアライセンスとは、神宮総合国際空港に乗り入れ絵う際に必要になる権限をさす。このライセンスを有するにはその国における神宮総合国際の出張所的な
役割を持つ空港2つ、日本でいえば、長京国際とニューヒースローがそれにあたるが、この2つの空港に路線を持っていること、国内線での運航数が一週間に
150便を超えること、神宮総合まで単独無補給で到達できる能力を持つ機体を2000機以上保有することが条件となる。
「…………わかりました。当社は、今回の委細の決定権を、3C御山社長に委託します。」
混神がむせる。
「また仕事が増えた。」
「まあまあ。」
「では私はこれで。」
そう言って、ビーナが部屋を出るために立とうとしたときだった。
「ところでさ、お前、今から1週間ぐらい休みとれる?」
混神が、いきなり、ビーナにそう尋ねたのだ。
「はい。社長が、いくらでも何度でも取っていいとおっしゃっていましたので。」
「じゃ十日取って。」
どういうことなのかと首をかしげる涼子とビーナ。そこへ、
「ヤミくーん、準備できたよ~。」
「あれ?凛が何できてるの?仕事じゃ?」
「ああ。有給」
『AP-SORA0104-04からのアクセスを承認。一名の転送を開始します。』
そのアナウンスの後、空中に現れた円陣から、遥夢が落ちてくる。
「もちっとましな登場の仕方ないんかいな。」
「いてて。あの…後、綾女と、菫と、龍騎も来ますけど。」
『AP-SORAAYN-P01からのアクセス承認。三名の転送を開始します。なお対象ポイントから、一部区間を除き、外部私用回線を使用していますので、転送に多少に時間がかかりますのでご了承ください。』
またアナウンスが流れる。
「あ、主上、そこにいると危な…いのに。」
いうのが遅かった。新たに現れた円陣から、ロングヘアの女性が遥夢の上に落ちてきたのだ。
「う…う?う~綾女、太りましたね?フォアグラは太りますよ。…。」
遥夢に悪気はない。しかし、確実に綾女の心を傷つけたのだ。が、反論はできない。太っているのはわかっていたのだ。
「…ん?ああ。でも、ビジュアル的には何も変化はないですよ。というよりここがふくよかになったみたいですね。」
そう言って、自分の胸を指す遥夢。こういったことには全く頓着しないので、たまにデリカシーにかける言動をするのだ。
『受信メールサーバ巡回結果…現在5,693件のメッセージが存在します。なお、フィルターにより5400件が削除、280件がウォールリストに登録、11件が保留となります。』
「リア、受信したメールの中に犬塚から来たモノはあるか?」
『受信したメール2県とも、犬塚信乃様からのものです。』
そんなこんなのごったごたを交えつつ、なんと、簡単にいえば学校一クラス分ぐらいの団体さんが、海辺のホテルにチェックイン。ワンフロア占拠した。
-2-
遥夢たちが、海辺のホテルを占拠したとき、大阪のLSN関西統括営業所に、4人の女性がいた。
「…ヤミは、かなり乱暴だと思う。」
「せやな。せっかくの休みをつぶされたよ。でも、それに文句を言いまへんウチたちも相当変わりものかもしれへんな。」
「もう新大阪に行かねば、間に合わないと思うが?」
香月が、つぶやく。
「…塔潤と、太飛が、長京で待っている。」
癒雨の言葉で、四人が、大阪を立った。
本
州にある、JR3社が合併し発足したのち、赤字の続く北海道、四国のJRを吸収、JR九州と業務提携をなし、新しいJRグループとなった。そのJRグルー
プの大幹線の一大ターミナルとなっている、長京駅は乗り入れる、会社ごとに、階層が分かれている。香月たちがついたのは2階、新幹線ホームである。
「えっと。たしか、こっちに。」
「どこに行く。」
一行の後ろから、男の声がかかる。
振り向くと、仏頂面の男と背の高い、痩せた男が立っていた。
「ヤミが新幹線到着から30分あとというわけだ。」
「…ごめん。それにしても…冬樹変。」
仏頂面をしている方が、都加賀見翔太。混神からは、塚さんと呼ばれることが多い。背の高いほうは宮川冬樹。混神からは普通に下の名前で呼ばれる。
癒雨が変というのは、冬樹の格好だ。
とはいえ、もう、時間がない。
「急ぐぞ。」
16:32発、特別特急ルナハ5268号、リンクリス88号車内。
こ
の二つの列車名は一つの列車を指している。特別特急本線を走る列車の総称である、ルナハはご存知と思うが、では、リンクリスはというと、100本しかない
鉄道中最高のサービスと居住環境を持ちながら20000人以上の人数が一度に乗車する、一等編成を指す名である。なお、リンクリス100号は、ルナハ
8888号となる。
「なつかしいな。あのときの馬鹿騒ぎのメンバーが一堂に会することになるわけか。」
「行き先はどこ何?」
「…麒冥」
癒雨の言葉で静まる一同
「…どこだそこ?」
「…皐蒼国皐有県の県都。」
そうして、国際星間高速鉄道のたびは終わりを告げ、6人は、フローラル王国にある、フローレンス記念国際空港に着いた。はっきり言えば、長京国際空港から、直行便で来れば良かったのだが、実は、時間的にこの方法が最も早いのだ。
神応航空2631便皐蒼明国際空港行き
片道10時間の道のりである。
海
の上に作られた、皐蒼明国際空港(こうそうめいー)は空港快速と玉路臨空連絡特急線という鉄道で結ばれているが、今回は、接続の関係で後者を使用する。乗
車駅から、二駅目で、皐蒼麒高速新幹線に乗り換える。そのまま、山艦島という駅で、冥山高架鉄道(実質、神応鉄道菜杯線)で、言伝海岸に降り立つ。そんな
行程を経て、遥夢たちの待つホテルに到着した。
-3-
「なんで、あの3人がそろうかなぁ?」
「む~?」
涼子の愚痴にたいし、クッキーを咥えた混神が反応する。
「あの3人がまとまると、普通科だけが住み心地がよくなったんだよね」
「…一応、サーバーを管理する者としては、近場がきれいになってくれて故障率が減ってくれたのはうれしいから、住み心地がよくしてくれたやつに感謝したいな。」
「…あんたらだけどね。」
あきれたように涼子が言う。
「…そりゃ、暇だったからさ。」
「その後で、サーバー掌握した後当時のPTAがもう再起不能なくらいに叩きのめしちゃったしねぇ。」
「やられるほど柔な輩しかいないPTAと、PTA幹部会がいかんのじゃ。」
混
神と涼子の言うPTAを叩きのめしたというのは、遥夢たちが、高校1年のとき、あまりに暇なため、生徒会が、大量のお手玉を購入。秋のクラスマッチに大騒
ぎで、雪だまの代わりにお手玉を使った、雪合戦を開催。これが、PTAの耳に入り、会長不信任案が出たものの、それを聞いた、混神が、PTA役員の恥ずか
しい情報を、全校に暴露。そして、それが元で、全校が一致団結して、総合生徒会長不信任PTA案の撤回と、全PTA役員の交代を生徒総会にて決議、同窓会
の決議も通過。結果、PTAの学校に対する影響力は低下し、遥夢の支配がいっそう強まっていった。
翌年の体育祭では、最後の最後に全校で鬼ごっこを行ったほどである。
「一
つ、人の世にうまれ、二つ、二つ名得し後に、三つ、皆に認められ、四つ、万の武具へ通ず。五つ、いつも変わらぬ力のために、六つ、むつまじき仲を保ち、七
つ、七度の争いが後、八つ、八千代の別れを悲しまん。九つ、この世を守り、十で、永久の近いとなす。…昔はよくいったっけ。」
「ルーラに時を、スオウに守りを、ウェンドンに商いを、そして、都に王と、国宰を置く、これをもち、世界を支配せん体制整いて、鍵となる、創造主の命により、発動せり。…なんてな。」
そのとき、ドアをたたく音がした。促すと。リンが、入ってきた。
「マスター、涼子様、皆様、海のほうに行かれました。」
「そうか。じゃあ。うちらもいくぞ」
更衣室で着替え、海岸に繰り出した、一同。
ここで、主な、登場人物の水着を見ていこう。
まずは、野郎。正規は、泳げないくせして、ビキニタイプの水着である。色は、黒。まあ、さしてこのタイプのうちでは恥ずかしくない部類なのだろう。
混神は真っ白なスタンダードなトランクスタイプだ。しかし、疑問に思うのが、なぜ、ここまで、役職を示す色を前面に押し出す必要があるのかということである。
一番無難なのが、宗介や、翔太がはいているやつであろう。今時の流行に乗ったデザインである。冬樹はやせ形であるが、ガリガリというわけではなく、ある程度の筋肉がついている。そのため、黒のスポーツタイプの水着である。
次
に女性陣。遥夢は、かなり際どく、体のラインに沿った、競泳水着である。これも役職を示す色を前面に押し出し、体の側面の白いラインを除けば光の当たり具
合で青にも黒にも見える色であるリンも、競泳水着だが、こちらは、いくらか実用的に作られているようでかなり、水の抵抗を減らすとともに、ある程度、体の
凹凸を減らすような設計となっている。涼子は、サラシをイメージした、何とも言葉にしがたいデザインのビキニ水着である。
後は、誠に勝手ながら、省略する。
海岸ではしゃぐものたちを尻目に、日よけ傘のしたで、リンがなにやら打ち込んでいる。
「……データコード照合確認対象データの展開を命ずる。」
リンがかけるゴーグルになにやら、大量の数字が出る。
「…………閉じなさい。…ここまで深刻とは。主上に進言する必要があるでしょうか?」
「何を進言するのですか?」
「……日本連邦首都を王国の直轄となさるべきと考えます。」
「地球の環境破壊比率ですか?」
「地殻都市計画も進んでおらず、長京近辺の都市規模がどんどん肥大しています。緑化も進みません。」
「わかりました一年間だけ直轄とします。強制的な緑化と環境保管を進めなさい。」
「かしこまりました。」
麒冥の昼は過ぎていく。