L.C 第42章 問答無用


久しぶりだな。覚えていてくれたらうれしい。岡山の山村のとある神社の神主になった、神島俊明だ。
心地よいそよ風が吹く、境内で、キャミソール姿の神楽と、本殿の縁側に座り、麦茶を飲んでいると、鋭い風切り音がする。どこからかは分からない。
慌てて、麦茶を飲み干すと、境内に立つ。
神楽が、横に並んだ瞬間、あたりが殺気に満ち石段の方向から何か空気の固まりがぶつかってきた。
そして、なにやら、人の形に景色がゆがんだ感じがするが気のせいであろう。
「とし坊、気づいたか?そこにあの方がいらっしゃるのに」
「あの方って。」
神楽にはそこに何かが居るのが見えているらしい。
「俊、おぬし、何かしでかしたか?」
『逃げるな。』
そんな声が響いて、周りの林の木々がざわめきたち、殺気に満ちた空気が消え去った。
「なんだったんだ?」
俺が小首をかしげると。
「分からぬ。しかし、おぬし、何ともないのか?あの方の殺気をもろに食らったであろう。
あれをもろに食らって、その様に何事もなかったかのように立っておれるのは何故じゃ?」
「そんなにすごいのか?」
そう訪ねると、
「普通は、あの濃さの殺気は並の人間は、重態になるか、運が悪ければ、爆散するはずなのじゃが。」
「そうかい。」
素っ気なく答えて本殿の縁側に横になる。
「ところでよぉ、神主がこんな格好で良いのか?」
「子供が欲しいのぅ」
「はい?」
いきなり関係ない話に持って行くのはやめてください神楽さん。
「おぬしとの子供が欲しいと言ったのじゃ。」
「何でそんな事になるんですか?神楽さん。」
「それはのう、近所の龍神に急かされての。」
竜に急かされて子作りを急ぐお稲荷さんもいかがなものかと思うが。
『招集断った理由が、子作りとは、おさかんだねえ。』
また、声が響く。
「だ、だれじゃ。」
『せっかく、フライター招集もかけといたのに。』
「ヤミか?」
「ここまで来て、おまえしか分からない単語を言うやつがほかにいるか?」
機嫌が悪そうな声だ。
「保護者気取りの婆が。猿はすっこんどりゃあいいものを。」
どうやら、母親がつけた、世話係が気に入らないらしい。
「猿が神に指図する。これほど滑稽なものはないやな。」
「だろうな。」
混神たちは、人間を毛嫌いしており、卑しい猿と言うことが多い。
「解雇してやったけどな。あ、で、本題な。明日、洞窟書庫に来い。以上。」
ホントに用件だけで問答無用なやつだ。
「のう俊明、洞窟書庫とは何じゃ?」
「ああ、洞窟書庫、つうのは…。」
洞窟書庫は混神が、異空間の洞窟を改造して作った、途方もなく巨大な書庫である。
混神は暇さえあれば、そこにいる事から、書庫の主とか神とか言われている。
元々青大央でも、図書館の主と言われて、一日をサーバー室か、図書館で過ごすくらいなのだったから、問題はないだろう。
そして、この書庫は世界中に存在する、すべての魔導書の原書が保管されているため、一部の存在しか侵入が許されず、コイルスサイバーと呼ばれる者たちによって管理されている。

御山家 通称、コイルハウスはLTRの長京車庫を縦に貫いている。その一番下の階にある、魔方陣が床に描かれた部屋にある、とあるドアを抜けると、洞窟書庫に着く。
俺たちがドアを開けると、球体状の本棚が移動していた。
「来たぞ。」
呆れた様子で言ってみると、
「そこら辺の椅子に座っててくれ。」
と言う返答が例の本棚の内側から帰ってきた。
壁ぎわにあった、椅子に座るとリンさんがお茶を出してくれた。最高級のダージリンティーらしい.
「リンさん、なにはいてるの。」
「ローラーブーツです。ただ今第3等戦闘配備中ですから。」
「そいつは、公道を滑走路として、射出する必要から、そうしているんだ。」
どうやら聞くところによると第5等戦闘配備(戦闘配備には零等から、20等があるらしい)以上は彼女の靴がローラーブーツに変わるらしい。
何冊かの本を机の上に置き、一冊の本を、空中に浮かし、手を使わずにページをめくる。
「神楽、おまえに一冊魔導書を渡せって主上が言うんでな、今、五冊に絞ったんだ。今、自動繰り越しに関する呪をかけてる途中だから待ってくれ。」
「一体どんな魔導書何じゃろうか。楽しみじゃのう俊明よ。」
「おいおい。ここにあるの、原書だって前言ってたじゃねぇか。」
俺がそういうと、
「大丈夫。神楽にしか使えないように、それに使用を強制された場合発動しないようにプロテクトをかけたから。」
こいつがかけたプロテクトなら、破られる心配はまずないと見て間違いないだろう。
「それから、それよりも強力に同じプロテクトをリンがかけるようにした。まあ、恐ろしいのは、こいつの脳の一部なのよ。ここにある、すべての魔導書と、国庫の蔵書のすべての内容と用法を記憶してるんだから。」
「ところで、さっきから、ぶつくさ聞こえるんだが?」
「リン、何詠唱しちょるか?」
「……(混神の言葉を無視して詠唱中)……ミッドガルドシステム起動を確認。対象へのプロテクト強化に関する、情報を収集中。」
リンが、作業をしている間、3人はいろいろと話していた。

大阪市、国立西都大学浪速キャンパス図書館
「お忙しいはずなのにすいません。」
一人の女性が、他の女性に頭を下げる。
彼女の名は、朱雀。もちろん、混神がCoilと名乗っているのと同じくネット上の偽名だ。
西都大学の医学部で、准教授として、薬の天才と呼ばれていたが、能力が開花することもなく、何故か、理由も分からずに解雇された。
それをブログで愚痴ったら、混神から話しを聞いた遥夢が、藍蒼大の教授として迎えるとメールをした。
「ヤミは強引だけど、遥夢は問答無用だね。」
「…私たちを引っ張り出すとは。着物を着てるから手伝いは大して出来ないと思いますけどね。」
時雨と香月が話している。朱雀の足下には、段ボールが置かれている。
翌日
藍蒼大藍蒼キャンパス理数学群 生物学区 人型医学部 薬事学科 研究棟
「あ、君、1109号研究室ってどこにあるん?」
「1109号は見ての通り、1階の端の方にあります。ここからこのまままっすぐいって…新しい教授ですか?」
「そう…みたいやね。昨日まで、西都大にいたんよ。」
朱雀は自らに与えられた研究室に向かっていたが、迷ってしまっていた。
「私のことは朱雀って呼んでくれんか。」
「そう言えば、西都大には、少量のサンプルから、短時間で、的確な薬品を生成する能力を持った准教授がいたけど、教授会に疎まれてクビになったって聞きましたけど。」
「他人事みたいに言ってくれるじゃないの」
「あれちがいましたか?」
ため息をつきながら、無言で、その学生の案内で研究室に向かう朱雀
「すいません。まさか、先生が、その人だったなんて。西都大から来たって聞いてまさかとは思ったけど。」
「ええんよ。何が専門家言わなかった私も悪いんやし。」
「あ、ここが1109号研究室です。
見た目は古いですが、この薬事学科では、最新最高の設備があり、この学科の研究者の、特にオーフェンキャンパスの教授陣にとってはあこがれの場所なんですよ。」
学生の説明もそこそこに聞きながら、新たな自らの居城を確かめるために、扉を開けた。
「なんや、これ、西都大とくらべものにならへんほど、充実しとるやないか。」
『そりゃそうですよ。LSNの物質研究所や、系列工場に、王国の国土交通総務省の協力があるんですから。』
「誰や?」
「昨年はお世話になりました。御山です。
国王よりの任命に関する書類をお持ちしました。
総計五六枚に及ぶ書類のうち一八枚にサインしていただいた上で、正式な当学教授として、お迎えできますので。」
「御山…coilはんか。これほんまにすごいですな。」
「…標準語で話しませんか?いまいち、方言に関しては鈍いもので。」
「はあ。」
どこにでも出っ張るのが混神というものなのかもしれない。とはいえ、いつもの五人の中で、もっとも朱雀と親交が深いのが、混神なのだから、ここに彼がよこされるのもうなずけるかもしれない。
「昔…まだ、私が大学のころでしたか。周りには、マナーを教えてくれるものがおりませんでしたから。
一応、常識的マナーは身につけていたつもりですが、やはり、人の上に立っているという奢りがあったのかもしれません。
今LLCを構成するLWTCの社長からも指摘されましたが、人に対する、いたわりや、感謝の心が足りないと言われましたから、改善に努めてきたつもりですが、どうも改善出来たという感じがないんですよね」

それから、一週間後
皐蒼国の中心部皐蒼国紅蒼都蒼明区は鉄道路線が発達し、首都の機能を立派に果たしている
『長 らくのご乗車お疲れ様でした。まもなく、終点蒼明です。蒼春線、神応新幹線、神蒼麒線、大学線、神応南北縦貫特急線、臨空快速線はお乗り換えです。車内に 落とし物お忘れ物ございませんようお気をつけください。本日は神応鉄道皐蒼麒高速新幹線みんめい一七号を御利用いただきありがとうございました。蒼明駅専 用ホーム24番線に到着します。お出口は左側です。』
アナウンスを聞きながら、通話スペースで、混神が電話をしている。
『蒼明線のダイヤの乱れに起因する、閉塞は、今後当分続くと思われます。管理局側では、臨時ダイヤを…』
「…あのさあ、長電て、京急も吸収してなかったっけ?」
『確かにそうですが?今はそれは関係ないのでは?』
混神がため息をついて、目の前に浮かぶ板状の画面に映る女性に向かい、こう告げた。
「京急が持つスキルを受け継いでるはずでしょうに。運転主任を3人ばかしかしてもらえ。」
その言葉の意味がいまいち理解できない様子である。
「臨時逝っとけダイヤ発動宣言。リンがそこにいたらそう言えば、うまいことやってくれる。運転主任到着までのつなぎだ。」
3CTCC
この企業は、膨大な量の運行本数を持つLSN運輸システムのうち鉄道を管理するためにLSNから、3Cが依頼されて設立された、鉄道管制専門企業である。
リンは、長京電鉄から、5名の男を連れて管制室に入った。すべて、長京電鉄の運転主任と言うことらしい。3名は、きんきゅうのダイヤ編成のため。2名は、今後の永続的な、過密ダイヤ編成のための筋師育成のために貸し出されたらしい。
「マスター、運転主任をお連れいたしました。それから、臨時ダイヤと、暫定ダイヤの編成が終了しています。来月には、完成ダイヤでの運行が可能になる見込みです。」
『相も変わらず、強引ちゅうか問答無用ちゅうか、まあ、先取りして、仕事をしてくれるのは嬉しいのだがな。それにしても、なあ、過密過ぎんか?』
混神の言葉にリンは、
「それから、このダイヤ改正に関連して、1000億編成の増備を行います。また、ルナハ線の編成改造を行い一等1000,一般800両体制に移行します。」
全くの無視である。

蒼明駅
「さてと、どこに行くんだっけ?」
そのときリアの声が響く
『実行プログラム用拡張子添付ファイルを受信しました。自己解凍ファイルですが、A.Iシステムアドミニストレート権限で、自己解凍を停止しています。』
「最大震度まで強制スキャンを強行」
『スキャン結果、販売版Coilosに対し、悪影響を及ぼす可能性のあるファイルを確認しました。』
「念のため、aisファイル及びaimファイルを集合後、拡張子lsnにて、フォルダ登録。」
『ais及びaimファイルを集合中。現在合計6538億分の6537億9998万3605本の集合が完了しています。.lsnフォルダ準備中…ais及びaimファイルバックアップ処理、87.326%終了。現在登録後の圧縮中。』
「すまない。終わった後疑似起動をして、削除しろ。」
処理の終了後。
『アップデートプログラムが完成しました。疑似起動を行います。』
「了解。」
『アップデートプログラム正常起動、完走を確認。AK(エイク)及びSAK(サク)を削除。BK(ベイク)およびEBK(エイビーク)をインストール。………マスター一つ質問を御願いします。』
「なだ?」
『BKとEBKの意味とは?』
「バーサークキットと、エクストラバーサークキット。」
『アタックキットの進化形と考えて良いのですか?』
「今のところ、おまえだけが使うことが出来る。」
混神の言葉を全く表情を変えずに聞くリア。
「試してみるか?」
その問いに少し考えたそぶりを見せてうなずくリア。
「トレーニングプログラム起動。」
『ネットワークカーネル修復システム起動、バーサークシステムオンライン。システムコード承認。バーサークキット、ラインコントローラー発動。』
それから10分後
『……SAKの60倍以上の破壊力。マスター、本当に私がこのような物を頂いてよろしいのですか?』
その質問に対し、呆れた表情で、
「あのなあ。お前、自分が、全ての人型プログラムの母体だって事を考えに入れて、言っているのか?あ。それと、EBKはBKの120倍だ。通常の人型プログラムに搭載された、戦闘プログラムの1500京倍の戦闘能力を持つ。」
と言う混神
『お取り込み中のところ失礼いたします。』
「兎?」
『お初にお目に掛かります。電雷ともうします。マスター朱雀より伝言をお預かりしております。』
『おそらく、60世紀ほど前に発売した、男性型A.Iのテクスチャ変更型かと。』

伝えられた伝言に、従い、ことがすすんでいった。