L.C 第43章 地味だからこそ

「初夏だ!5月だ!来たよ。くるから。ポニテの季節だー。」
「相変わらず、この時期になるとテンション高いよね。ところでさ…」
そこで、涼子の言葉が切れる。混神に電話が掛かってきたのだ。
「つー訳でぇ、後よろしくね~。」
そういって出かけようとする、混神の肩をつかむ涼子。
「ちょっと待って。約束覚えてる?」
「今日1日、一緒にいるって奴だろ。それに関係してくるから、物置行ってくるんだよ。」
十分後、なにやら紐状の物を持って戻ってきた混神。
「何それ。」
「なにってロープ。」
そう言うと、自分と涼子を背中合わせにして、腰にロープを結ぶ混神。
「これで良し。…つうのは冗談。今日あれだもんな。予約してあるとこがあるから行くぜよ。」
そう言って、ロープを塵にして、立ち上がると、車の鍵と携帯電話をポケットに入れると、涼子に向かって、手を差し出す。それから、2時間ほどして、長京の とある高級宝石店。
「まさか予約してあるとはいえ、調整に2時間近く掛かるなんて。」
「それだけ、長く使える物を造ってくれているのさ。」
その後涼子は黙っていたが、
「だけどねぇ。ゆびわなら分かるけど、これ、ネックレスよ?」
返答に困っている様子である。
「で、どこに行くの?」
「旧都庁。」
「……どれくらい?」
「んー。下とんで2時間。人間用高速通路つかって、30分。」
「車は、駐車場において?」
「持ってく。」
進んでますなあ。国外から、様々な能力を持つ種族が集まる蒼藍王国で開発された、人型生命体高速移動専用通路、通称HM.HW(ヒューマノイドハイウェ イ)が、長京市内にも敷設されてから、すでに6万年。生活の一部になっていた。
長京駅インラインスポット
インラインスポットは、高速道路で言うインターチェンジである。
「……両方通行止めか。」
「両方って?」
インラインスポットにある掲示板で通行状況を確認していた混神が、ベンチで待つ涼子に話す。
「中央・長野及び南上信越ラインと北上信越・北陸・関越ラインさ。しかたない。大幅な時間短縮だけど構わないよな。」
そう言って、P-V.C.P(ポータブルバーチャルサイバープロジェクター)を取り出した混神。
「何するの?」
「歩くの。」
そう言って歩き出した混神。慌ててついて行く涼子だが、どうも変である。駅の改札を抜けたのは良いが、そのまま歩けば出口についてしまうのだ。
「あい。JR新宿駅到着。」
「…何したの?」
「JRが提供する、高速転送システムさ。改札を通るだけで、目的の駅につける。」
「あそ。」
そのまま、ビジネスマンで賑わう通りを抜け、旧都庁に着く。今は、JR本州の本社が自社ビルとして保有しており、独特の造形は、そのままだが、素材は最 新の物である。
最 上階は、展望台として、解放されており、回収され、新宿で最も高いビルとなった今、埋め立て地に復活した、新秋葉原や、その昔、コミケが行われていた という、有明埋め立て地、お台場の旧フジテレビ、東京タワーや、旧皇居、さらには、東京駅まで、一望することが出来る。
ビルの中に入るために道路を渡ろうとしたとき、
「ん。」
行き成り、混神が、涼子に一冊の本を渡す。
「表紙に書かれた文を朗読してみな。」
「え…?あ。世界を生みしリンクリスの子たる、悪魔を彼の者の名においてここに呼び出さん。…え?ヒャ!」
「さすがに涼子クラスになると、一発で召喚しちまうか。」
驚きつつもついてくる涼子を見て、つぶやく混神。
「まだ続きがあるべ。」
「へ?あ~。して、召喚せり者を、我が守護と為す。…あの光だけ?」
「そう思っときゃいいさ。」
その後、開放されている展望レストランで食事をとり、ホテルに一泊した二人。
翌日、買物があると言って、新秋葉原にやってきた二人。中央通りに交差する道の1本を歩いていた。
「何買うの?」
「昨日発売のゲーム。」
奥さんの目の前でこういう事が言えるのはきっと奥さん側にもオタク傾向があるからに違いない。それか、とても理解があるからに違いないはずである。
「それじゃあさ、僕にも熱感知センサーか、モーションセンサーかって。」
気の抜けた返事の混神にくっつく涼子だが、その勢いで、混神がよろけた。そのまま、すれ違いかけた、通行人にぶつかってしまう.
「…む~。」
ぶつかり二言三言交わし去っていく女子高生を見つめてうなる混神。
「どったの?そんなに、あの子のポニーテールが気になる?」
「それもあるけん、どっかで見たことがある顔だ…なって…。ああ。そう言うことか。」
そう言って、その女子高生を追いかけ始めた混神。
それについて行く涼子。
それから数分後、メイド喫茶に入った3人
「…それで、何で私の名前を知っているんですか?」
「そりゃ、ミツアキさんが自慢してたからねぇ。」
「はあ。父が。」
呆れる女子高生。そこに涼子が割り込む
「ねぇねぇ、混神、例のゲームだけどさ、何で、自然三区で買わないの?」
明らかに呆れた顔を見せる混神。
「連邦文化庁が新秋葉原での先行発売をめいじたらしいのよ。国交総省は無関心を決め込んだしな。」
「仕方ないんじゃない?3CとかLWTCならともかく。…もしかしてそのメーカーって。」
「ライムソフトのスプライトハートですか?」
うなずく混神。
「ラ イムソフトは、王国の大手ギャルゲー会社だろ。詰まり、本来は、本社の近くの第41区で発売…『王国国交総省,ライムソフト社新作ゲームの発売を今 後1ヶ月間王国藍蒼市41区内に限定。国際法に違反した決定を下した、日本連邦文化庁を処罰。』だって。で、ミヨさんは何をしに来たの?」
「いつもの散歩です。でも、あのゲームがこれから1ヶ月はこっちで買えないなんて。楽しみにしてたんですよ。」
しかし混神は、質問を聞いてるのか分からないような感じでお茶をすすると、
「すいませんねぇ、店員さん。このお茶、何かぬるい上に薄いんですけど。」
と言って、
「嘆かわしい。これが王国のメイド喫茶だったら、客の好みを瞬時に見分ける術を身に着けているはずなのだが。」
「それは、法律のお陰でしょ。女性給仕総合公務員化法の。メイド喫茶の店員だって公務員なんだから」
驚いた様子で二人を見つめるミヨ
「あ。主上からメールだ。」
「何だって?」
「『ど うせ混神のことですから、新作ゲーム発売の翌日に買いに行くスタンスは変えていないと思います。ですが、今回の決定で予定が大幅に狂ってしまったと思われ ます。お詫びと言っても替えられるとは思いませんが、先週、LSNにライムソフトより、製品評価版として、製品版のデータが届きましたので、データブレー ドに封入し二枚お送りします。 遥夢』……まあ、とりあえず、一個具現化」
現れたデータブレードをミヨの前に置き、
「すでに買ったとしても、これは、ゲームシステム最大手と関係の深い巨大企業に送られ、そこのトップが検査をしたわけで、製品とは違うCGや選択肢がいく つも入ってるわけさ。こちらの不注意でぶつかってしまったお詫びさ。」
「はあ。」
そのとき混神の携帯に電話が掛かる。電話に出つつ、ポケットから、電子ペーパーとスタイラスペンを取り出すと次の文を書いた。『受信したものには再来年発 売のエクストラパッケージだって。』
「…お茶…来ない。熱いお茶~~~。」
何故そこまでしてメイド喫茶で緑茶を飲む必要が分からないもののミヨを唖然とさせる混神。
「気にしないでね。この人,世界一外国のお偉いさんに有名なオタクだから。」
「はあ。あの、あ…あの、もしかして、光一さんですか?」
ミヨは混神に対して訪ねる。
「為して?」
「いえ。父が、光一さんはポニーテールの女性といつも一緒にいるといっていたので。」
「ああ綾香さんね。うちはcoilって名乗ってる。」
少しぽかんとした後、赤くなるミヨ。
「まあまあ、間違えるのなんて誰だってあるさね。リン呼んどけば良かったかね~?
さあ。でも、呼んどけば間違えられなかったかもしれないのは確かだよね。
「あの~御願いがあるんです。ここでお会いしたのも何かの縁だと思いますし。」
ミヨの言葉を無視して、話し続ける二人。しかし、混神が紙になにやら文字を書いて、涼子にどつかれている。
「仕方ねーだろ。日本語かけんのかて。おめさが呼んでくれたからなんだからな。」
「あの…私の高校で、先生の間でのいじめがひどくて。」
しかし、混神はどこかに電話をかけながら、何かを書き続けている。
「私のクラスの担任はいい人なんですけど。それが一部の先生には気にくわないらしくて。」
そこまで、ミヨが言ったとき混神が手を出してきた。
「え?」
「その先生の写真貸して。」
そう言われて、ミヨが、鞄から、携帯電話を取りだし、混神に渡すと、彼は、ミヨの携帯電話に何やらケーブルをつなぎ、文の書込まれた紙を、重ねた。数分経ち、ケーブルを外した、携帯電話がミヨの元に戻ってきた。
「はい。このカプセル薬を彼女に渡してください」
混神が紙を丸めて、封入したカプセル薬をミヨに渡す。
「何が書いてあるんですか?」
「セル・ベグリフォネルス・サナドリアーナ・ソーライオード・リンクリス。ベグレンド・ハンブロング・サイフェリオヌレス・ハイヴォヌールス・リンクリス。
エル・タカミネ・アスカ・ザイヴォミルポルニグス・アビロス・セニス・ライフォネロス、フェリオレイド・カイルンセィーア・ボリオネルフォーリオール・ゴルフォンボノロス・オンドロス。
イオヌス・ゴルスドロイオノリア・ゴーザレスレイリアーナ・サレズ・ジェノズ・ゴーザンレイリオ。
…訳せば、(上の文と下の文で同意となるように改行しています上がアルティニアーナです。)
『創造主リンクリスの名において命ず。判定者として、我が母、リンクリスの名において命ずる。
彼の名に基づき、今後、高峰飛鳥に対し、悪しき意思持ちて近づきし者はそのものの持つ良心により、この世の何物にも代え難き苦しみを負い、
彼の者(高峰飛鳥)にとって、最も忌まわしき結果を悪意によりもたらさんと目論む者には、死、もしくはそれに準ずる苦しみを与えん。』
となる。
しかし、これは、最終手段に過ぎない。
本来は、主上が書いた勅書と、長相の命状が有れば良いんだ。で今、二人に御願いして、それを書いてもらってる。二人とも、丁度良い暇つぶしだって喜んでた。」
混神が一息ついて
「…つかさ、悩み無いでしょ。」
と問う。
「え?」
「そりゃ、お姉さんが大変だってのは分かるけど、それ以外に悩み無いんじゃない?」
混神の言葉に固まるミヨ
「気にしないでね。混神はメイド喫茶ていうのが余り好きじゃないの。」
「どうしてですか?」
「デフォで緑茶が出ない。メイドの言動が逐一うざい。少し、王国に行った方が良い。」
要は機嫌が悪いのをミヨに当たっているのだ。
「そんなんなら、王国系のメイド喫茶行く?」
「あるんかい。」
「有るよ。練馬に。」
涼子がそういうとミヨは驚いた様子で、
「私練馬に住んでるんです。」
「ホー。奈良、そこでお開きにすれば、高峰嬢も楽かもしれんね。うちとしても勝手知ったる何とやらだから気も楽だし。」

練馬
「「お帰りなさいませ。お席へご案内します故、少々お待ちください。」」
出迎えのメイドが笑顔でお辞儀をする。
席に通され、
「本日もお疲れ様でございます。本日、旦那様方の担当をさせて頂くーと申します。」
そういって、メイドがお辞儀をする。
「ご注文がおきまりになりましたら、お手元のベルを鳴らしてください。直ぐにお伺いします。」
「そういうのは、蒼天宮で散々やられてきたからいいさね。それよか熱いお茶ちょんだい。」
「……も、申し訳ございませんでした。直ちにお持ちいたします。」
メイドがかけていくのを見て、安堵の表情を見せる混神。
「やっぱり良いねえ。王国型は。」
注文尾下を人と瓜平らげて、一息ついていたときだった。突如彼らのテーブルを、たくさんのメイドが取り囲む。
「太宰、至急、蒼天宮にお越し願います。遥夢御嬢様より緊急の招集です。……高峰様もどうぞお越しください。」
唖然とする、店員や、他の客をよそに、草天球付きのメイドが3人の周りを幾重にも取り囲み連れて行く。

結局春休みだったから良かったものの、覇月のおもちゃにされ、それが遥夢に見つかり、ミヨが解放されたのは6日後だった。
それから、しばらく、身近な女性である姉にすらおびえていたと言うことだが、そのことが原因で、遥夢が母親に渾身の正拳突きを繰り出したことは言うまでもない。
しかし、覇月は、その数時間後には遥夢にちょっかいを出して、バルにはがされている。
ミヨはと言えば、今は担任であり良き理解者である、姉と父親と時々、失変カフェに顔を出している様子である。
最も彼女が、綾香の体型に少なからず憧れを抱いたことは秘密だ。