L.C 第44章 旧都
蒼藍王国藍蒼市第2特別区
「バル…何故この町を」
廃墟とを歩く一人の女性。広場で彼女は立ち止まりつぶやいていた。そこに彼女より、少し若いぐらいの女性がかけてきた。
「師匠、王国主師が王父の反対を押し切り、ポルトマーレ再開発を決定したそうです。」
師匠と呼ばれた女性が驚いた顔で呼びかけた女性を見つめる。
「ですが、往時の繁栄を取り戻すには、ゴンドリエーレやアクア・アルタに関する海流の調整、当時住んでいた人の子孫の捜索などで、最低でも2300年は掛かるそうです。」
「時間が掛かろうと構わない。この町にまた活気が戻るならば。」
「それと、この計画は、太宰の発案で、郊外に航宙船舶専門の宇宙港を町の中程に離宮を建設する計画だそうです。」
師匠と呼ばれた女性の名はトゥーラル。言わずとしれた大国、蒼藍王国の初代国王で今は太皇太后として悠々自適な日々を送っている。そして彼女に感覚を操る術を学ぶべくやってきたミリ。
「そうしたらまた、レイやリンバスと共に、笑いあえるな。」

『昔話をしよう。
…昔、ある国の将軍の娘が、当時の王の政治に疑問を持った。そこで、彼女の家に伝わる帝王学と戦闘技術を学び同志を集めて、王に反旗を翻した。あっけなくその王の政権は倒れ、彼女は、新たな王となった。
彼 女には、気兼ねなく何でも話せる友が二人いた。しかし、彼女達が建てた国は首都が決まっておらず、毎年、様々な町を転々としていた。ある年、西海岸遠征 時にとある港町に立ち寄ったとき3人は、その町の美しさに感動した。彼女達は、首都を固めることを朝議に起案。彼女達が思ったよりもあっさりと、承認さ れ、すばらしい都市となった。それが西暦30年だ。
彼女達には合い言葉があった。それは。『いつでも、何があろうとあの時は楽しかった。いまよりも。じゃなくて、あの時も楽しかったといえるように暮らそう』というものだった。
しかし、彼女達が情熱を傾けた都市は急速に寂れ、廃墟と化すこととなった。2565万年の間、栄華を極めた町は、彼女の息子が王になった際、町の南に新たに都をつくることとなった事によって、廃れてしまったのだ。彼女達は大いに嘆いた。そして、そのまま今に至るわけだ。
忘れられた都の話さ。』
幼いころ祖母から聞いた話を思い出していた混神
「……ポルトマーレ…か。」
蒼天宮 遥夢の自室
「四王朝?」
涼子が首をかしげる。
「始王朝、前王朝、中王朝、後王朝、終王朝の4つの王朝で、最も多くの王が居たのが後王朝だそうです。ですよね。リン。」
「はい。始王朝から、中王朝にかけてこのベイリア大陸は、現在狸天湖底に沈んだ都市を首都とする国が治めており、蒼藍王家は、この国に王家の末裔です。
後王朝時代は現在のデザータニア大陸から来た者たちにより治められていましたが終王朝が始まるきっかけとなったクーデターであっけなく終わりました。」
リンが、話し終え、遥夢が涼子に質問をする。
「混神が何故、ポルトマーレ再開発を提案したか分かりますか?」
「え。あ。それは、ほら、あいつおじんくさいからじゃない?」
さらりとひどいことを言う涼子。
「連邦の中で混神が好きな地域はどこですか?」
「えと。桂林とベネツィアとマーズ・アクア・アルタ。」
「2番目3番目から分るはずですよ。」
遥夢はそういっても涼子は分らない様子である。
遥夢の代わりにここに説明しよう。
マー ズ・アクア・アルタはテラフォーミングの際、過剰に発生してしまった水により、地球より少し陸の多い形になった火星に造られた水の都である。ここには、地 球温暖化によって、一度水没した、ベネツィアから、人々が移住し、マーズ・アクア・アルタと名付けた。その後、火星で異常気象のために水が不足したため、上昇した分(西暦1950年代基準)の海水を、火星に輸送したことによって海水面は低下し、ベネツィアに人々は戻った が、ベネツィアに観光客が集中するのを危惧した政府により、この都市にも大量の観光客が流れている。
「ふーん。で、混神はそのポルトマーレを再開発で復活させようとしてるんだ。」
「主上、コアの鍵貸せ。」
そういって、窓から混神がはいってくる。
「コア?ああ、偽体培養槽棟のことですか。いやです。」
「そっちじゃない。式守の方。」
その言葉に遥夢が首をかしげる。
「式守の里に行ってどうする気ですか?」
「式守人は陰に日向に歴代の王のそばにいた。そして、その記憶を代々記録として残している。つまり、姐さんの記憶が曖昧な部分を式守の記録で補おうというわけ。」
「………分りました。しかし、僕もついて行きます。」

「師匠、何か赤い服を着た防毒マスクをつけた人たちがいらっしゃいました。」
「は?」
ミリの言葉に疑問を投げ返すトゥーラル。そこに…マリオのヘイホーのような服装の人物が3人やってきた。
「……・。」
「式守人じゃない。どうしたの?」
5秒ほど沈黙した後、先頭の一人が
「先ほど、ご子息がいらっしゃいました。我々の記憶を、旧都復元に使いたいと。」
と話すと
「そうか。お前たちはどう思う?あの美しかったポルトマーレが今では廃墟だ。」
式守人はしばらく黙り、
「そのときそのときの王の意思が我が総意。先代が……。」
「そうではない。おまえたちの意見を聞きたいのだ。」
そのとき、たくさんの足音が聞こえてきた。
「なんだ?」
『1~154班はがれきの排除。155~632班は水路、及び崩落街路の探索。そのほかは、建造物修復に当たれ。』
声が響き渡り、黒スーツにサングラス、みな一様にヘッドセットをつけた集団が、街を縦横無尽に駆け回る。
「まさか、もう始めるというのか?」
「はい。混神率いる、コイルスのお陰で、各国に散らばった当時の住人の子孫の方々の説得に成功しまして。更に、当時のゴンドラ協会理事の方の協力もあり、予定より早く着工することが出来ました。」
「その声は、遥夢か。」
トゥーラルの言葉に声が肯定の意を示す。
陰から現れた遥夢。そして、式守人に顔を向け、
「式の者か、遠き里よりよくぞ参られた。汝らが口に合わぬやもしれぬが茶を共にせぬか。我が知らぬ事で、汝らが、答うること叶うものあらば、我にその知恵授け給え。」
「主上が我らのような汚れし卑しき者を誘われるとは。」
「なにを言うか。汝らの知恵有ればこそ。汝らの助けがあればこそ、初代が、今のこの王国の基礎を築けたのだ。今後、自らを卑しいと蔑むことは勅命として禁ずる。良いな。さあ。茶が冷める。飲もうではないか。」
そういう遥夢に押され、渋々席に着く、式守人。

蒼藍王国鉄道ポルトマーレ駅(旧北藍蒼駅)
混神の発議から、1300年。
一人の女性がこの地に降り立った。
「久しぶりだな~」
事は、彼女に一通の手紙が届いたことから始まる。
続く