「二人ともおっきー!」
アスカが大声を上げる。それが、壁に反響し、しばらく余韻が残った。
蒼天宮の巨大な浴場。しかし、そこには、今、遥夢たち女性陣5人しかいない。男性陣は、オブウェルスの部屋で、酒を飲み交わしている。
リンの無表情に若干赤みが差したように見える。しかし、直ぐにそれは消える。
ミヨは、悲しげな表情である。
「気にしない方が良いよ。これは血だから。」
「え?」
「蒼藍王族の女性は、大概、スタイルが良いからね。性格はまちまち。…遥夢が一番ましかも。」
涼子が、くつろぎながら話す。
「遥夢とリンはね、世界の全ての要素を無意識に一定に保っているから、常人には考えられない量のエネルギーを動いていなくても消費するの。でも、食欲は人並みだから、相対的にエネルギーが不足するの。だから、どんなエネルギーも自分のものとする能力を持ってるってわけ。」
そういって、一枚のグラスをミヨに渡し、
「これをかけて、遥夢を見て。」
と言う。言われたとおりにミヨがすると、窓の下の壁により係なら目を閉じて、湯に津から、遥夢の背中から、白い翼が、天高く広がっている様子が見えた。その流れで、リンを見ても全く同じだった。
「それは、エーテルラインプロジェクターって言うソフトが組み込まれた、PCグラスなの。エーテルラインは気龍行軍って言われて、これが乱れているところは必ず霊が居るの。」
涼子の説明に驚きながら、窓から見える、藍蒼の風景を見下ろしていたときだった。
「涼子さん、エーテルラインが乱れると、紅くなるんですか?」
「どうなの?遥夢。」
「エーテルラインは、太霊玉葉の作り出す清き気の流れ。それが乱れている場合には、警告系の色になります。赤や、黄色の。」
遥夢の答えに、ミヨは、
「じゃあ、あれ、乱れてるんですね?」
「ん~?ああ。あの程度。奇滅院に任せておけばいいんですよ。もう向かってるでしょう。」
そういいながら、息をつく遥夢に、呆けるミヨ。
アスカは、じっとリンを見つめている。と言うのも、涼子がミヨにリンクグラスを渡したときから、薄目の状態で、まるで着彩された彫像のように身動き一つしないからだ。
「あ、リンに触らない方が良いですよ。自分の高発熱能力と特殊冷房術で、この湯の温度調節してますから。」
肩に向かって伸びていた、アスカの手が止まる。
『臨
時ニュースをお伝えします。昨年より続いていた、LSN-LTR社の高速鉄道路線特別特急本線の一部区間の移設が完了し、本日同区間内に設置された、皐蒼
国の皐蒼都蒼明区にあります、皐蒼明国際空港に隣接する新駅において、記念式典が催されました。同区を中心に同国内で、着々と勢力を拡大し続ける、神応鉄
道の…。』
「また、駅造ったの?」
「一等編成は、止まりませんよ。駅間があまりにも短すぎますから。」
そこに、裸足で、メイドがひとり駆け込んできて、湯船の前に平伏し、
「陛下、教皇猊下ご到着なさいましてございます。」
「分りました。して、どこに?」
「雲海を望むベランダに。」
遥夢が出て行った後、涼子は、
「あまりリンのそばにいると、のぼせますよ。」
と言って出て行った。
「出る?」
「でも、リンさんが。」
「言い忘れてたけど、リンなら、混神があがるまで、平気で入ってるから気にしないで良いよ。」
さらりとすごいことを言って戻っていった涼子であった。
その頃、正規たちはと言うと。
「お、俺もう無理。飲めない。」
「少し浮いてりゃ大丈夫。ん?こりゃ、大吟醸の網走繋ですな。」
「またか。おまえ、少しは手加減しろよ。」
ベルフェストがぼやくと、
「爺や総始には悪いけん、日本酒は負ける気がせんね。ビールは、アサヒとサッポロしか飲んだことないけんな。」
「そういえば、前、フラって帰ってきたときに結構戦闘機やらが飛んでたがあれは?」
オブウェルスが混神に問う。
「いつだよ。総始が帰ってきたなんて今回初めて聞いてのことだかんな。」
「今から、1500億年ぐらい前かな?」
そこに遥夢たちがやってきた。
「あ、涼子、わりぃけん、りんにあがるよう言っといてくれ。うち、向こうで入ってきたから。」
「はいはい。」
涼子が出て行く。
「総始が遭遇したのは、多国間長期戦闘停戦調停介入軍事行動で、王国軍が20%ほど派遣されたときのだな。」
「多国間長期戦闘停戦調停介入軍事行動?何ですかそれ。」
「ここに長年ある一方の理不尽な理由で戦闘を繰り返す2国があったとする。攻撃を最初に仕掛けられた側が、ある、国際機関に要請を行い、その要請が、蒼藍王国に届く…。」
簡潔に言えば、蒼藍王国にのみ認められた軍事特権である。物語上関係ないので省くが。詳しい設定がある。しかし、需要等もあるので、知りたい方は、掲示板に書込み頂きたい。
「なんぞ昼間から、酒なぞ呑みおって。」
「なんね。なんかようね。親父さぁ、滅多に帰ってこないんだから、もちっと、くつろごうや。」
部屋に入ってきたのは、混神の父親の宏美である。
「それもそうか。それはそうと、エデンにまた新たな階層が見つかったぞ。」
「エデンてなんですか?」
「エデンはのう、私が生まれた新バグロム帝国の帝都エルミスの事じゃ。」
「紀元前12年に今の皇太后殿下によって、帝政が倒れて以来、砂漠の真ん中にあったこの街からは人がいなくなり、今や廃墟と化しており、今なお、当時より知られていない、高度な文明を感じさせる、遺跡となっているのさ。」
この説明にミツアキが食いついた。
翌日、遥夢、正規、ミツアキ、アスカの四人は、先に藍蒼があるベイリア大陸の東端に位置する、アルトマリア島へ向かった。混神、涼子、リン、ミヨの四人は、ミヨの買物を済ませるために前日向かった店へと、入っていった。
「昨
日は大変申し訳ございませんでした。お客さまのご期待に添えなかったお詫びに代えられるものではございませんが、ご注文頂きました、パーツより、ワンラン
ク上のスペックのパーツとさせて頂きました上で、今回の就労証明の領収は、1/4とさせて頂きます。(ただにしたら、どうしようもないから。)」
アグルの言葉に、混神がこける。
「まさか、ここまでやるとは。あ~じゃあ、この住所に発送を願いします。」
「畏まりました。運送諸掛かりは全て弊社負担とさせて頂きます。」
買物が終了し、藍蒼中央駅最上階ホーム
丁度発車間際の一般編成に乗ることが出来た。
それから、二時間後、アルトマリア港
「あれ?案内父さん?判夢さんじゃないの?」
「発掘の手が離せないらしい。」
玄蔵の案内で船とヘリを乗り継いで、デザータニア大陸のほぼ中央に来た一行。そこにあったのは、作りかけなのか、崩れかけなのか分らない、巨大なドームだった。その基部に申し訳程度についている、扉をくぐった一行は息を呑んだ。
中世ヨーロッパのような古代中国のような不思議な感じの廃墟が広がっていたのだ。
「これは?」
「世界最古の遺跡、エデンです。まだ15%しか発掘が進んでいないんです。」
大騒ぎを始めかねないほどに、テンションが高いミツアキを見て、混神は適当に引いている。
そのまま歩き、地下へと入っていく。石でくまれた、トンネルを進むと、広大な、地下の広場に到着した。
その頃地上では、ドームの上にリンと混神と涼子の三人がいた。
「サテライトか。アレは、アトミカルブラスター衛星だな。」
のんびりと、空を見上げる三人だが、かなり慌てた様子でリンがドームを駆け下りていく。そして、砂漠をかけるリンを狙うかのごとく空からビームが降り注ぐ。
「ありゃリンの怒りが頂点に達したとしても致し方ないな。」
その後、爆発音と共に、地上と、高空で、何かが飛散した。
エデン地下第10階層
「本当は、1300年前の春までは。あなたたちが降り立ったポルトマーレ地区も、廃墟だったんです。」
「それをもっと早く知りたかった。」
「ですが、かこの悲しき記憶を忘れんがために、整備の際住民の方の許可を得て、一部を廃墟のまま、残しているんです。人気のないベネツィアって感じです。建物も所々崩れて、水路は埋まってしまっている箇所もありました。いかにも廃墟という感じです。」
それを聞いた、ミツアキの顔にりりしさが宿る。
「つかさあ、涼子って、並の男より、りりしいんだよなあ。」
「お迎えにあがりました。」
メイドが遥夢に声をかける。
「どうかしたんですか?」
「今から、ホバーと船と列車を乗り継いでいたのでは間に合いません。ですから、ここから一番近い都市から、地下にもぐって、政専列を使います。」
「せいせんれつ?」
ミツアキの問いに答えた、遥夢の言葉にミヨが問い直す。
「政府専用列車の略です。」
ポルトマーレ市歴史保存地区
こ
の名前は聞こえは良いが、要は廃墟である。埃の降り積もった室内や、崩れ落ちた家の瓦礫で、埋まった水路。さらには、街を行き交う、ネズミや、狐の数々。
第2代国王が即位し、この街が打ち棄てられ暦が何度変わったのだろう。悠久の時が、その悲しさを訪れたものに問いかけている。保存地区の中心にある、広場
にある、女神像の周りは、まるで別世界のように整っていた。それは女神の祝福なのか。
中世ヨーロッパの町並みを持ち、石畳の映える広場で、一行は昼食をとることにした。
「あの像、どことなく、遥夢さんに似てますね。」
全員の視線が遥夢と、像の間を行き来する。一人を除いて。
「このクレープおいしー。」
場違いなほどにテンションが高いのはアスカだ。好物のクレープを食べ、幸せそうな表情である。
もう一人、幸せそうな人物がいた。リンである。彼女も好物のエクレアを頬張っている。二人のクレープとエクレアは、とある、パティシエが腕によりをかけて作り上げた、その道の者に言わせれば、芸術的な一品らしい。
「…あ、そう言えば、明日香が来てたんでした。」
「私?」
遥夢の言葉にアスカが反応する。
「ミッドガルド教教皇明日香猊下さね。」
「その通りです。姉様、会談の予定をお忘れにならないでください。…この像、姉様そっくりです。」
明日香から見ても、姉と、あの像は同じに見えるらしい。
「あれって…ん?この世を作りし女神が2柱の一だと。」
「確かに最初は、僕とリンしかいませんでしたが、今の世界はリンが造ったものですよ。」
「それにしてもアスカと同じ名前の王族が居るなんて。」
「出来た。でさ、主上、…主上?」
外洋の方を凝視する遥夢。それに正規たちが続く。
「混神、BSは?」
「出来たから声かけたんでしょうに。あい、主上のエクスポーショナルマイクと、オーラルマリオネッター。」
パソコンのキーボードのキーを縦横3つ程度つなげた大きさのチップを遥夢に渡す混神。
ミツアキたちは、正規に促されて、女神像の裏に隠れたが、ミツキとミヨは、興味をそそられたのか、顔を出していた。
「ハルナ・リールシェル・ランゲルハンス・フォン・シラヌイ・エル・フージョニアーナ。」
そう言った、遥夢の目の色が、リンと同じになり、更にいつの間にか一枚の布が、彼女の口を隠していた。
「エヴァンス・リラ・ダウリオーヌ。オーラルマリオネッター、インストール。」
「あれって一体。」
「A.Fっていって、A.Iと一体化して、A.Iの能力と、そのユーザーの能力を最大限に引き出す技で、今んとこ、これやって、疲れないのはあいつとリンぐらいかな。」
そう言う正規の顔には、苦笑が浮かぶ。
「俺は、あいつに何もしてやれないからな。付き合ったりするなら、自分のことはそっちのけで、守ってくれるような奴を選んだ方が幸せかもしれないぞ」
苦笑したまま、ミヨにそう言うと、混神に呼ばれて、結界の外に出て行った。
「リン・コンコルド・リンクリス・ラファエル・エデニスタ・ラビヌス・リア・リクヌア・コンコルド・エル・フージョニアーナ。」
リンの場合はほとんど変わらない。
「私も出来ますか。何か、とっても、こう、オタクとしての血が騒ぐんです。」
ミヨが、涼子に言うと
「良いかもしれないけど、あの技は、素体にもそれ相応の能力が求められる上に、素体…OKだね。」
そう言って、一枚のチップをミヨに渡す涼子。
「遥夢さんとか、リンさんのように言えばいいんですね。」
ミヨの問いにうなずく涼子。
「えっと、あの苗字は?」
首を横に振る涼子
「ミヨ・ライミア・エル・フージョニアーナ。…あ、高校の制服だ。なつかしぃ。」
『耳塞いで、目瞑って伏せろ。』
混神の言葉が響く。その言葉に従った直後、高くとも低くともつかぬ何とも言えない音と、閃光が、世界を覆ったかのように見えた。
「うーまだ目が痛い。」
「二人とも、目開けてたの?リンの整流砲は反射光が途方もないから、目瞑れって混神が言ったのに。」
ミ
ヨと、ミツキが未だ目をこする。どうやら、遥夢とリンが放った整流砲の光が建物の壁に反射して目に入ったらしい。整流砲の反射光は、運が良くても、10分
間太陽を直視した状態と同じ状態に陥ると言われるが、今回は、複合結界により、幾ばくか光が弱められたようだ。更に、ミヨの場合はA.Fを行っていたた
め、ミツキより症状は軽いようだ。
カルティナ州空官庁神政省
ミッドガルド教総本山のカルティナ大聖堂の直ぐそばにある。
「大聖堂ってあれですか?」
ミヨが問うが、
「でもあれどう見てもキリスト教じゃないの?」
とミツキ。
「ミッドガルド教総本山はあれ。」
そう言って、正面に見えてきた巨大な超高層ビルを指す、明日香。実は、ミッドガルド教の教会はだいたいが、このような高層ビルであることが多いのだが、これはミッドガルドシステムの運用と相性が良いという理由から、こうなっているのだ。
「最後に、サプライズとは。かなり楽しい旅行になったな。」
教会の見学を終え、法王庁の明日香の居室に招かれた一行。
「あ~あ。もう一週間たっちゃうんだ。」
「まあ、また何時かこれるわよ。」
その後、瑠美乃駅から、家路についたミツアキたち。アスカと、ミヨは、仲良くベットで寝入ってしまった。
「また、これで明後日から、忙しくなるんだな。」
「私は結構暇なんだけどね。」
「そう言えば、お土産だって。」
そう言ってミツキが机の上に置いたのは、在りし日のポルトマーレとエデンの姿が映し出される、ホログラムだった。ミツアキの顔に興味の色が浮かぶ。
列車は、漆黒の闇を切り裂き彼らを家へと誘い、心地よい鉄道独特の調べが、心地よい眠りへと誘う。
最高の料理と、珍しい、列車内の大浴場。三つ星ホテルよりもすごいサービスにミツアキたちは、このたびを夢に見るのであった。
『失変カフェリニューアルのお知らせ。』
そんな広告が、ミツアキと混神宛に届いた。
そして次章で、また大騒ぎ。