L.C第47章 永遠の20歳の大騒ぎ。

鳴島綾香9月1日8時の日記より引用
9月1日
今日、いよいよ新しくなった失変カフェの開店日です、なじみのお客さんばかりでなく新しいお客さんも取り込めれば嬉しいです。

第2634万367次無年時第4539億3689万35期9月1日10時
失変カフェ店内
「綾香くん!」
「は、はい!…なんだ。マスターか。」
「なんだ。ますたーか。じゃないよ、全く。店の前のでっかい蓑虫どうにかしてくれないか。」
店のカウンターに突っ伏して寝ていた綾香に店主である光一が、大声で呼びかける。
「蓑虫なんていませんよ。」
「あれ。ホントだ。それよりも、開店時刻をもうすぎてるんだ。さっさと、テーブルの椅子をおろしたまえ。」
「こんばんわ~。」
余りに不釣り合いな挨拶と共に6人の男女が入ってきた。
「どうも、蓑虫。もとい、ぶら下がり寝袋の中身です。」
「マスター、コーヒーくださいな。」
眼鏡の男と、白人とおぼしき女性が、光一に頭を下げ、他の者も頭を下げる。
「……はあ。」
光一がコーヒーを入れ、女性に出す。
「ありがとうございます。」
10分ほど雑談が続く。
「…そうですか。あのでっかい蓑虫はcoilさんだったんですか。」
「虫は余り好きじゃないんですけどね。」
男性陣は、カウンターの奥の方で、女性陣は、店の入り口の方で話している。
『チーチー』
「かわいー。なんて名前ですか?」
コーヒーを頼んだ女性の頭の上に現れたネズミにネズミ好きの綾香が反応する。
「あー闇皇(あんのう)です。」
「あれ死んじゃったもんね。」
涼子がそう言うと、遥夢の顔に悲しげな表情が浮かぶ。
「闇皇は最高の式神でした。強く、気高く。あれほどまでに美しい精霊を見たことはありません。それが、一度死に、戻ってきたときには、このように姿を変える…。綾香さん?」
ネズミから、犬に姿を変えた闇皇を見た綾香は、その犬の形がツボに入ったのか、暫し、闇皇を見つめ、じっとしている。
「………………………………………使えるかな?…混神、貴方のS3-B34-16サーバにあるデータの中に闇皇の種族の召喚コードのデータがあると思うのですが。」
「昨日整理しましたから、別のとこにあると思いますよ。もちろん探しますが。………S4-B100-50サーバに移動してました。…target Send for Lnaha'sV.C.P…あい送りましたよ。」
そのとき、もう一組お客が入ってきた。
「お久しぶりです。」
前章で登場頂いた、高峰ミツアキ氏とその次女、ミヨ嬢である。
「わー。犬だ。ここのペットですか?」
「これの式神。」
「あーやーかくーん?」
「はいぃぃ。」
怒気をを含んだ、声が、綾香に投げかけられる。
「そんなところでおしゃべりしてないで、おしぼりを配りたまえ。それとも、何かね。…。」(この後、青少年の精神衛生教育上非常によろしくない言葉が発せられましたので省略します。)
「いや~~。」
ザシュッ
ドスッ
何やら、すごい音が店内に響く
「はあっ、はあっ、はあっ。マスター、いい加減に。」
「もう聞こえてないよ。ったく。これだから、人間は。まだ短命種じゃないだけ益しか」
「い や。聞こえてますよ。毎度毎度刺されっぱなしも癪ですからね。遥夢さんに頼んで、私の体に刺さったように見せかけて、血糊を突いた瞬間に異空間に入るとい う小芝居を。綾香くんを殺人犯にするわけにも行かないのでね。でも、この騒動でテーブルに置いといた、砂糖の小鉢が割れてしまいました。」
そう言って、さりげなく、綾香の胸を触り、裏拳を食らう光一であった。

「う~~~~。」
「綾香くん、お客さんが居るんだから、仕事しなさい。」
一番奥のテーブル席で、うなる綾香を見て、呆れたように光一が声をかける。
「闇皇系統の式神は、主人と認識したものでも、力量と器が、自らがつかうるに値すると認識して、更に名前にこだわる種族ですからね~。闇皇、諭してきなさい。」
「遅れたのです。陛下、ごめんなさいなのです。」
少女が飛び込んできた。白で統一された振り袖にノースリーブの裾の短い和服、光沢のある深い緑のスパッツ。背格好は、13,4歳程度と思われる。
『諷、頭が弱いフリはもう良い。主上をお守りするのが主の役目だぞ。』
「師匠…畏まりました。では改めまして、陛下、遅ればせながら、如月諷、まかり越しましてございます。」
涼子と、混神の大笑いだけが響く。
「諷だっけ?良い。そのギャップ実に良い。」
「はあ。」
そのとき綾香が、
「よし。決めた。」
そう言って立ち上がろうとした瞬間、いきなり、黒い影が、彼女と光一を覆った。そして、二人は見えなくなった。
「そこの五人と、男は出ろ。」
くぐもった声で男が、高峰と遥夢たちに命令する。そのままミヨを人質に立てこもった。
近所からの通報で警察が到着したのは、それから5分経つか経たぬかだった。
「常磐県警常陸署の斑気と言います。」
「警部か。なかなか本腰を入れてるみたいだな。」
「そうではないんですよ。常陸署の管轄内で、今まで立て籠もりが起きたことが少ないので。」
それを聞いてあからさまに呆れた表情をする混神。然し、着々と、捜査は進んでいるようである。日本の警察が優秀であるという噂はどうやら真実のようだ。
「警部、県警から、専門家が。」
「………仕方ないのかな?」
そう言って、混神が光一に何かを問うと、承認の声がどこからか反ってきた。
「常磐県警本部の荒川です。」
「警部~、大変です、警察庁の方が。」
「これ以上来ても仕事は無……今なんて言った。」
斑気が、問うと、その警官は、
「警察庁の長官と名乗る方が。」
「は?」
「あ……あ~~~~。王警長。」
「え?」
混神が指をさした先には、眼鏡をかけた奥に鋭い眼光を持つ、切れ者の顔の端整な顔立ちの青年と、それをそのまま年を重ねたような男だった。
「なんで?」
「主上。お久しぶりです。本属警察機構首脳会談のためにこちらに来ていたところ、主上がいらっしゃるとおっしゃっておられた店で、立て籠もり事件と聞いてとんで参りました。」
「えっと。おたくさんらは?」
「蒼藍星間連邦王国南官庁保安省警察庁長官ショーリア・フォル・ダイオニアヌルスと申します。それから、こちらは、蒼藍星間連邦王国主師の方々です。手前から、第三代国王ハルナ・リールシェル・ランゲルハンス陛下。」
「王警長!我々の紹介よりも人質の身柄を保護する方が先です。」
遥夢の怒声が飛ぶ。
「いまだ。かかれ~。」
混神の声に合わせて、店の中から、ゴーンというすごい音が響く。
「「……。」」
暫し無言がその場を支配したが、ミヨが飛び出してきたのを見て、警官隊が突入した。

「ひどい目に遭いましたね。」
「何があったのか。さっぱり。」
「やっぱり一番堅い鍋でも無理か。」
「マスターの変態が役に立ちましたね。人体の急所を知り尽くしてますものね。」
「人聞きの悪いことを言うんじゃないよ綾香くん。」
「でもー、マスターが役に立ったのは事実ですからー。」
綾香が笑いながら言うのと、混神が吹き出すのとで、場の空気が一気に和み始めた。
「でも、料理用の鍋の中で一番堅い鍋で叩いたので当分は、綾香くんのお得意料理を造る姿をお見せできないことに。」
パーティーはどんどん盛り上がっていった。
然し、その間に光一が何度綾香に刺され、治療の度に断末魔の悲鳴を上げたかはもう数えるきすら起きない。