やっぱりこれがしっくり来る

第4話

「すごいなぁ。やっぱり帝都に来て正解やったわ。」
「え?」
突拍子もなく敦雅が言った言葉に私は思わず問い返した。
「あんなとこなかなかはいれへんもん。」
「はぁ。」
「私な…なぁ、レイ、私の話聞いてくれへんか?」
敦雅が、何となくくらい顔をしている。
「私な、前の学校でこんなになかようしてくれる友達いなかったんや。
もちろん一緒に話したり遊ぶ程度の友達はおったで。せやけど、私から声をかけなきゃ話すこともなかった。それが本当に友達といえるのかわからへんけどな。
私が帝都に引っ越すと決まったときも悲しそうにはしとった。でもそれだけや。見送りに行くゆうてこんかった。
私な、こっちに来ても、そんな友達しかできへんと違うやろかって心配やったんや。」
そういう敦雅の目にはうっすらと涙がにじんでいた。
「でも、そんな事無かった。レイや馬魅が興味本位やのうて、友達として話しかけてきてくれたと解ったとき本当にうれしかった。」
私も同じ経験をしているから、そういう人間のにおいは解る。そして彼らが何を求め、何を欲しているのかという事も。
私と彼らがお互いに埋め合えば±0になり、そこから新たな人間関係の輪が構築できると私は考えたのだ。
ところで、我が瑞穂は帝政をしく国家であるが、臣民と言われる国民の権利は一切制限されない。
ただし高句麗や、中華民国からの移民には厳しい制限が課せられる。
また、由緒正しい神社や、名刹の流れをくむ寺社以外の仏教、神道系の宗教、十字教や、回教系の宗教は一切禁止されており、そのほかの宗教も信仰には厳しい制限が課せられている。
これは現在までに高句麗系や中華系の民族による凶悪犯罪の多発や、両国の身の程を知らない挑発、新興宗教による臣民の心のよりどころである天皇陛下の侮辱や、カルト教団による凶悪犯罪などが原因だ。
以前ここに書いたファミレス強盗も、どうやら高句麗移民の仕業らしい。今、高句麗に対する風当たりは非常に強い。なぜなら、恩を仇で返す民族性が浮き彫りになったからだ。
厳しい制限があるとはいえ中華民国や、清とは昔も今もとても良好な関係が築かれている。これは、在位40年を超える現天皇信仁陛下の努力のおかげである。
少し昔のことだが、尖閣諸島に中華民国が食指を伸ばしたことがあったが、瑞穂海軍の新型兵器の格好の試験対象となった。
さらに竹島に高句麗が海上警察を置きコンクリートで、高句麗旗をつくったこともあった。
しばらく静観していた政府だったが臣民の漁業に甚大なる影響が出ると解ったとたん、親高句麗派の議員の対話政策は一蹴され陛下の一声で、一刻の後に奪い返したという。
それだけ、瑞穂の愛国心は強い。先の大国アメリカの調査団の報告書によると、瑞穂を敵に回せば、5時間もしないうちに世界は荒廃するであろう。そう書かれていたらしい。
『まもなく2番線に玉川経由急行梶ヶ谷行きが到着します。危険ですので、点線より線路側に出ないようお願いいたします。』
「じゃあ、また明日。」
「あ、あの…レイ。」
「ん?なに?」
敦雅が、何となくもじもじしている。
「明日、レイのうち行ってもかまへんか?」
「なーに、かしこまってるの。もちろん歓迎よ。」
なんなのかと思えば、そんな事だったのか。

翌日
「おい。なんか警察きてっぞ。」
「泥棒だっけ?」
「ぼ、僕に聴くなよ。」
ここは、統間兄さんのクラス。
「で、誰がやられたんだ?」
「ちょうど一年生の移動教室だったらしくって。」
『おい。すっげーなあれ。』
『ロールスロイスだろ?どんな人が乗ってるんだろう?』
まさか乗っているのが、この国の最高元首とは気づかないだろう。
理事長室
「へ、陛下が何故。」
たとえ、全校13000人の頂点に立つ理事長でさえ、最高元首の天皇陛下の御前では、どもってしまうのも仕方が無かろう。
「元老会議を超える機関をつくるために、その三人に協力してほしいと思いましてね。」
「元老院を超える機関ですか。」
いきなりこんな事を言われても困るだろう。まあ、この後眠くなるような話なので、そこら辺も含めて話を要約すると、
私たち3人が、陛下の招集で平日でも学校に来られなくとも、怒らずに見守ってほしいという事だった。理事長は、私たちの成績を知っていたので、快諾してくれた。
「では。案内していただけますか?この学校を。」
「はい。」
私たち3人と陛下が理事長室を出ると、新聞部が待ち構えていた。
「取材禁止だぞ?」
「え〜。」
偶然というか、どうやら、弁慶のごとく理事長室の前で野次馬をブロックしていたお姉ちゃんに、言われてぶーたれる新聞部。
「そうそう。取材禁止。隠し撮りなんかして、新聞なんか出してみなさい。サーバー領域削除して、新聞部廃部にするからね。」
「あ〜それから、シャッターセンサー校内にばら撒いたから、一枚でもシャッター切ったら、現行予算85%カットするからな。注意するんやで〜。」
「とりあえず、私の部屋に行け。そこで、今後の視察計画を立てる。早く行け。」
羽魅先生の指示で、私たちは、先生が使っている研究室に向かった。
「た、畳?」
陛下が驚くのも無理はないだろう。
瑞穂の学校はだいたいが、リノリウムというのだろうか?無機質な樹脂状のモノがしかれた床が廊下、個室問わず存在している。
でも、ここは、羽魅先生専用の部屋。羽魅先生が自由に使えるので部屋に畳が敷かれているのだ。
「ん?招待状?」
「どうした。」
私の足下に落ちていた一枚の招待状。それが後におもしろい出会いをもたらした。
「ああ。それか。おまえにやる。」
「え?」
「良いからもらっておけ。」
目が笑っていない。
私はその招待状を半ば脅された感覚を持ちながらもらうことにした。
「さてと。おまえたちにやる物がある。付いてこい。」
「いよいよですね。」
「はい。かれこれ十年です。」
陛下と羽魅先生が話している。いったい何を話しているのかは解らない。研究室の奥にある、本で閉ざされた扉の奥、長い階段を下りた先にそれはあった。
「以前、中華民国が、ロシアと結託して、我が瑞穂の領土を脅かしたことがありました。我々瑞穂軍は、機械の力によって、これを退けることに成功しましたが、まだ、虎視眈々と、民国は我が領土を狙っています。」
「その脅威から我が国土を守るために開発が続けられたのが、高機動性汎用型歩兵行動強化システム、MPDSだ。」
MPDSというのはMizuho Phantom Defense Systemの略だ。私も、名前だけは聞いたことがある。脳の演算能力が高い者が有する、高濃度の霊力でもって、駆動する機械の鎧だ。
限界まで軽量化され、限界まで、高機能化されている。その昔、この事業をとある女政治家が無駄だと言ったそうだ。だが、陛下の勅令でこの事業は、進められた。
その女政治家は、その後も様々な功績を残している。
関係無い話は置いておいて、
MPDSは高度脳演算補助システム(BPS Brain Processing Support)と呼ばれる、高性能低発熱の大型オクタルコアプロセッサを十六個並列で接続したユニットを四つ直列で接続したモジュールをさらに四つ乗せた、
つまりオクタルコアのCPUが千二十四個あるハイパーマルチプロセッサシステムを積んでいる。
そのほかに、自機の周りに存在するエネルギーを操縦者の生命活動に必要なエネルギーに変換したり、自機の稼働エネルギー源とする機能も備わっている。
「このMPDSは第五世代。
十年前から陛下と私と、ごくごく一部の陛下の腹心の技術者陣だけで開発を続けてきた、瑞穂の奥の手だ。テストは私が行った。第1から第四世代は私が使って、そして、スクラップにしてきた。
第五世代の設計図は、リウロが持っている。リウロは、この世界では解凍不可能な拡張子の圧縮ファイルを作成する機能があると聞いてな。
リトエルスに頼んだんだ。一晩。いや五分だけで良いから、リウロを貸してほしいって。驚いたよ。リウロは、本当に電脳空間ならどこへでも行けるのだから。
リウロにこの第五世代の設計図と概念図をその拡張子で圧縮してくれって、頼んだよ。」
「そういえば、私が、見ていないところで、ちくちく何やっていたんだ?」
『本国より、技術開示許可、並びに技術流用許可が出ましたので、P.G.Wから流用できる箇所をこちらの技術で可能な範囲で書き込ませていただきました。』
「P.G.W?」
「人型汎用万能戦闘兵器、Person type General-purpose all-around battle Weaponの事です。」
「…じゃあ、リウロ、見せてくれ。レイ、私の指示通りに部品を組み込めるか?」
先生の問いに、私はしばし固まった後、頷いた。
変更はBPSを除く可動部全体に及び、私の機体は一つ世代が引き上げられた。

「う゛ぁ〜つかれた〜。」
「えらいことになってもうたなぁ。まさか陛下とレイが知り合いやったなんてなぁ。」
帰り道というよりは帰りの駅のホーム。崎原家と尾束家は、学校から2駅程度の距離だから、自転車でも良いんだけど、姉の事やら諸々で、電車で通っている。
毎月たった5日のバイトで、月給は十五万程度。
全うに働いてる人に申し訳ないって商店街のバイトさんに言えば国を守るために頭を最大限使ってるんだから安いくらいだと思うって言われてその店のご主人に(その店は魚屋)おっきな真鯛をたくさんもらって、帰るのに難儀したこともある。
そして、そのバイトの関係で陛下にお会いした。
まあそれはおいておいて。
「ねぇ、敦雅、これどうしようか?」
「これ?ああ。先生にもらった先生宛の招待状やね。レイの家で開けてみようやないの。ほらはよ行こう。電車も来たし。」
「あ、うん。」
敦雅にせかされ電車に乗った私たち。私の部屋に六人もの人間が入るとちとせまいな。
「ほら。レイ、例の招待状とやらを開けないか?」
「あ、うん。」
招待状と草書体で書かれた封筒を開ける。
中から出てきた薄い便せんに包まれた厚い何か。
便せんには次のように書かれていた。
『拝啓 瑞穂皇国天皇顧問教育担当 尾束羽魅様
平素よりのご活躍誠にお疲れ様です。詳しくは内包の招待状に記載いたしましたが、このたび、とある祝賀パーティーを開催いたします。
お忙しい中とは存じますが、どうぞ、ご姉妹、ご友人にお声をかけて頂きお越し下さい。当日、貴国渋谷駅に特別列車を用意しております。
では、後日
敬具
ブガル皇国全界首脳連絡協議会』
「ブガル皇国なんてあったっけ?」
「無かったと思うけど。」
「お姉ちゃんこれ開けてなかったんだ。」
馬魅が、つぶやく。
「内包って書いてあるっちゅうことは、この便せんの中身は招待状かいな。」
「みたいだね。」
いざ出してみると、結構難解だった。
内容は次の通り。
『 招待状

拝啓 招待客様各位
平素より、当ブガル皇国の技術並びに、概念にご賛同いただき誠にありがとうございます。
このたびすべての先進界が魔導界蒼玉宗国が定める、発展指数において先進国並びに先進界であることを示す、指数80を突破したことを記念して、ささやかではありますが、
先進界総発展指数80突破祝賀パーティーを挙行いたします。
つきましては、この招待状をお送りさせていただいた方を招待させていただきます。一親等まででしたらお連れしてかまいませんので、是非ご家族でお越し下さい。
敬具

追伸 なお、本招待状をお持ちでないお客様は、たとえ、招待客ご本人であるとの確認が取れましてもご入場をお断りさせていただきます。

魔導界ブガル皇国全界首脳連絡協議会』
「それで、招待状に書かれた名前は…羽魅先生と馬魅、お姉ちゃんに私にリートさんと、リールさん。敦雅と…。」
「どした?」
私の唇が止まり声が途絶える。
「…へ、陛下。」
直後私の家は大きな声で揺れた。
「お、お姉ちゃんには私から渡しとくよ。」

「でもな、こんなにパソコンのパーツが散乱しとったら、売った方が。」
「売ってもたいした金にならないから。箱も保証書もないし。」
「じゃあ、適当に組んで、私にくれへん?言い値で買うから。」
言い値で買うなら…
「1.5万!」
「え?」
「一万五千。」
ほしいゲームがあったからね。
「ほしいパーツ選んで。CPUはそこだし、SDDだったらそこら辺に固まってるし。」
「な、何や。これ別れとるんか?」
「一応パーツごとにね。世代ごとにそうになってるから、高性能なのがほしかったら上の方のを選ぶと良いよ。」
「ねぇ、レイ〜私にもつくって〜。」
これは馬魅。
「いいけどって、馬魅、先月進学祝いでリテール品のみで組んだばかりじゃない。」
「えへへぇ、いとこの小学生に本体落とされて壊れちゃって。」
「持ってきてるの?」
「今持ってくるぅ。」
馬魅はおっとりしていて、とろそうに見えるがその実かなりすばしっこく、4トントラックのタイヤは6本まとめて片手で普通の民家の屋根まで投げあげられるほどの怪力の持ち主だ。私も一回シメオとされたことがある。
「おちないようにねぇ。」
「お姉ちゃんは?」
「私か?そうだなあ、こんだけ余ってるなら、おまえの新たな任務の前祝いもかねて、食事に連れて行ってやるとして、簡単に組んでもらおうかな。」
姉から金や見返りをえようだなんて腐っても居ない。
「そういえば、敦雅、―って、持ってる?」
「ああ。もっとーよ。でも、やらへんようになってもうたからなぁ。中古屋にうろおもっとるんよ。」
「ちょうだい。最高性能で組んであげるから。」
「え?…あ、ああ。ええけど。代金はどないするん?」
「いらない。それもらえるんならいらない。」
姉曰くこんな貴積極的な私は自作にはまりだしたとき以来らしい。
そのあと、私が、くみ上げたパソコンを馬魅が一台自分の部屋に持って行きもう一台は、大きな箱に入れて手近なコンビニで宅配便に出した。

つづく
けど、第五話じゃないよ

第五話はこちら
つづく